1-704 ユメのあたたかさ

私は一人。
たとえ周りにたくさんの人がいても、私を見てくれないのなら。
私は一人。




私は、世界に一人だけーーーー



「…い……る…おき……」
………ん……ぁ。
「起きろ、春」
あ…おはよう。清夜くん。
「よし、顔洗って朝飯食え。もう昼だけどな」
そう言って笑う彼。見ると、確かに日はもうすっかり高く昇っている。寝過ごしてしまったらしい。
「ま、昨日色々あったからな……っと悪い。もう時間だ」
「どこに行くの?」
「バイトだ。帰ってくるのは八時過ぎになるから、それまで悪いけど留守番頼む」
じゃあな、と言ってそのまま出かけてしまった清夜くん。
…とりあえず、顔を洗おう。



とてもおいしかった。彼は料理上手だと思う。
特にすることもないのでソファに座り、こうなった理由を考えてみる。
両親の突然の離婚。清夜くんとの出会い。そして、彼の告白。
私を支えてくれると言った。甘えてもいいと言ってくれた。
そんな言葉が嬉しくて、勢いだけでキスをしてしまった。あったかくて、幸せで、とてもとても満たされていた。
……でも。今は違う。
何故か、昨日感じた感覚は全て無い。代わりに感じているのは、不安。一人への、不安。

理解した途端、暗い気持ちが沸き上がってくる。潰されそうになる。
…大丈夫。もう一度寝て起きれば、また彼がそこに居てくれる。
そう、きっと……



暗い、暗い、世界。浮いているとも落ちているとも、なにもわからない。
わかるのは、私は一人だということ。
孤独。それは不安。
孤独。それは絶望。
孤独。それは地獄。
それらが満ちた世界で、わたしはーーー





「……っ!?」
あ……夢?
「よかった……」
本当に、よかった。夢でよか……た……
「清夜…くん…一人は……やだ…」
でも、もう一度あの夢を見たら、私は私でなくなってしまう。何故か、確信がある。
解決策は一つだけ。彼に、会いに行くこと。これも確信。
もう、私にとって、彼は必要不可欠な存在。
理屈なんかいらない。私は、清夜くんが好き。ただそれだけ。
だから、私は会いに行く。




なんとか彼のバイト先を調べてそのバイト先まで行く頃には、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。それに比例するように、私の不安も大きくなっていく。
焦る心と体を必死で押さえつけ、自動ドアをくぐる。
無機質な音をたててドアが開く。
そこにはーー

「いらっしゃいま……って春じゃねーか。なにしてんだ、こんな…」
彼の姿を見た途端、私は彼の胸に飛び込んでいた。この不安と絶望を、一刻も早く消したかったから。
「お、おい、いきなり……」
「いや……一人は、いや……一緒に……居て…」
そこから先は言葉にならなかった。ただ泣き崩れ、彼にしがみついていた。
「あー、えーっと、ちょっとここではなんか色々問題が……ああもう!仕方ねぇ!!店長!俺ちょっと休憩入ります!!」
私を軽々と持ち上げ、そのままどこかに走っていく。



ここは店の裏方。
「……なるほど。そういうことか」
少しだけ落ち着いたので、彼に事情を説明した。
夢のこと。孤独に潰されそうなったこと。清夜くんに会いたいと思ったこと。
「とりあえず、一人じゃないとお前が実感できりゃいいわけだな」
たぶん、そうだと思う。
「ったく、甘えん坊だな。でもまあ、昨日色々あったからしかたないか。とりあえずこれでどうだ?」
言うと同時に首と腰に腕を廻され、抱きしめられた。あったかい。
でも、まだ足りない。無言で首を振る。
「あー、じ、じゃあこれはどうだ?」
瞬間、唇が合わさる。あったくて、熱い。

でも、やっぱり足りない。また首を振る。
「い…まだ?…………んじゃあこれは!?」
また口づけ。でもそれだけでは終わらない。
何かが、入ってくる…?
「……ん………っ?」
これは……舌?
そう思ったとき、彼の舌が蠢き始めた。
「んっ……ぁ……や、ぁ」
じっとりと舌を絡まれ、口内を侵食される。火傷しそうなほど、熱い。でも、気持ち良い……
「ん……は…ぁ」
息が切れる。幸せすぎて、苦しい。
「ぷはぁ……これで…はぁ…どうだ?」
私の中で、何かがくすぶり始める。もっと、もっと欲しい。
「ま…だ……」
蚊の鳴くような声。もっと満たされたい。欲望が理性を押し退け、本能が叫びをあげる。
「……おいおい、この先はさすがに……」
「まだ……もっとぉ…!」
このままこの人と結ばれたい。一つになりたい。
今度は、こちらから舌を差し出す。
「ちょっ、これ以上は……俺の理性が…」
「いい。襲って」
体全体を密着させ、全身で彼の理性をそぎおとす。全てが、燃えるように熱い。
「ぁ……んぁ……」
「はぁ……ぁ…」
二人だけの息づかいが、この部屋の全ての音。
このまま、行けるとこまで行ってしまえと全身が主張している。

「いやぁ熱いねぇお二人さん」
突如、第三者の声。誰だろう?まあ関係ないが。
「せ、先輩!?」
どうやら清夜くんの先輩らしい。やはり関係はないが。
「おい春ストップ!ドクターストップ!!」
…どうして?
「いや、見られてるから!俺たち見られってから!」
「関係ない」
「…お、おい春?目が怖いぞ?」
「問題ない」
もはや理性は消えた。いや、むしろ理性と本能が協力体制に入った。誰も私を止められない。無論、私にも。
「あつっ、マジ火傷しそうだわ。あ、そうそう。休憩時間そろそろ終わりだから、ニャンニャンするならお早めに。そいじゃっ」
「ニャンニャンってなんだぁーー!?」
あれしかないでしょ、と心の中でツッコミ。
「はぁ……おい春。せめて家まで我慢」
「しない。できない。したくない」
「………」
絶句しているよう。やはり関係ない。それよりも早く続きを
「ていっ」
ドスッと首に衝撃。意識が……朦朧と……
「悪いな春。この続きは俺の家で。そんかわり朝まで相手してやるよ」

気がつくと、彼の背中にいた。やっぱりあたたかい。
「ん、目覚めたか。いやあお前が気絶したときはホントどうしようかと」
「……あなたが原因」
人の首に手刀たたき込んでおいて何を言うのだろう。
「やっぱ覚えてたか。ま、埋め合わせはちゃんとしてやっからそんなに怒んなって」
もちろんである。私は今も本能全開で、正直今すぐ始めたい気分である。
この気分、清夜くんにも味わってもらおう。
耳に狙いを定め、はむ。
「わひゃあ!!」
さらにはむはむ。
「ちょっ!春っ!?やめっ!?」
「家につくまでやめない。早く走って」
「ぐぐぐ……覚えてろよ!!この恨み、ベッドの上でひゃっ!?」
耳がお好きらしい。これなら主導権は私のものだ。
もちろんするのは初めてだけど、不思議と怖くはない。何故だろう、と考えるより先に、
「うおおぉぉりゃああぁぁぁ!!!」
清夜くんの一人長距離走が始まった。
2008年07月20日(日) 12:58:27 Modified by amae_girl




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