4-810 覚書外伝『S.W.E.E.T.』の恐怖 拷問変

 この世界には、二種類の人間しかいない。
それは性別などではなく、『甘える人間』と『甘えられる人間』だ。

俺は『S.W.E.E.T.』という謎の組織によって作られた人造人間である。

 ちょうど俺が完成する直前に一時的に洗脳が解けた博士が俺に
組織の野望を止めることを託し、博士の協力のもと俺は組織から脱走した。
その後、俺はたった一人で『S.W.E.E.T.』が送り出す戦士と戦った。
共に闘った仲間も連れ去られ、俺一人となっても俺は戦い続けた。
しかし、何度も引き分けが続き勝負が付くことはなかったが、
とうとうこの戦いに決着が付いてしまった。

俺の負けという形で
 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 俺が目を覚ましたのは石でできた冷たい床の上だった。
わずかな光の中、俺は意識をはっきりさせ、辺りを見回す。
鉄の檻 粗末なベッド 
どうやらここは牢屋のようだ。
と俺が確認していると、足音が響いてきた。
徐々に見えてくる俺の天敵。
ヤツのコードネームは『スカーレット・サン』
やや小さめな身長と体にフィットした真っ赤な
ボディスーツによって強調される豊かな胸と肉付きのいい脚。
顔はヘルメットに隠れているがそれでも十分魅力的な女性だ。
だが、油断がならない相手だということは俺はよく知っている。
「俺に何の用だ。」
「ついてこい。『レクイエム・スノー』。」
「俺をその名で呼ぶな!俺の名前は『スイートパニッシャー』ユキトだ!」
『スカーレット・サン』は鼻で笑いながら冷たい声で答える。
「はっ。そんなことはどうでもいい。私についてこい。」



 クソっ。どこが太陽だ。あいつのほうがよっぽど冷たいじゃないか。
洗脳でもするつもりなのか?
俺にはまだ利用価値があるということか。
どうせここで従わなければ、俺を殺すつもりなんだろう。
隙を見て逃げ出すのが一番得策だと判断した俺はヤツに付いて行くことにした。
「おとなしく付いて来てくれる様だな。」
そう言いながら、ヤツは牢屋のカギを外し、扉を開けた。
「博士やあいつはどうした?」
「拷問を受けてもらった後、また我が組織に仕えてもらっている。」
「なっ。クソっ。」
俺は苛立ちに任せ壁を殴った。
無機質な廊下に鈍い音が響く。
「人の心配をする前に自分のことを心配したらどうだ。
お前にもこれからその拷問を受けでもらうんだからな。」
心の底から愉快そうにヤツは俺の耳元で呟く。
「それが目的か。」
「おおっと。くだらないおしゃべりをしているうちに着いたようだ。」
人の神経を逆撫でするように、ヤツはわざとらしく話を逸らす。
ヤツによって開かれた扉の先には文字通り別世界が広がっていた。

 ファンシーな飾り付け 部屋の中に転がる大量のヌイグルミ
 俺が見たこのアジトの雰囲気に全く似つかわしくない光景が
そこには存在していた。
「なななななな、なんなんだ!この部屋は!」
そう叫びながら、思わず俺は部屋の中に入った。
質問に答えたのは俺の背後から聞こえる声だけで美少女と一発でわかるような
今まで聞いたことのない可愛く、澄んだ女の子の声だった。
「私の部屋だよ。ゆーくん。」

 ゆーくん?いや、それはどうでもいい。
この声の主は誰だ?
あらかじめ、誰かが待ち伏せをしていたのか?
俺が疑念を晴らすための思案を巡らせ、すかさず振り返ると
ヘルメットを脱いだ我が宿敵が俺の懐に飛び込んでくる。
 一瞬の判断が遅れてしまったために避けきれず、敵の侵入を許してしまった。
その瞬間、ヤツの長く艶やかな黒髪から香る太陽のような暖かな匂いが
俺の鼻孔をくすぐる。
「やっと、ゆーくんといちゃいちゃできるね。」

驚きを伴いつつ、ヤツを見下ろすと
 そこには吸い込まれそうな大きな瞳をキラキラさせながら上目遣いにして
俺を見つめる美少女がいた。
それも悔しいが思わず見惚れてしまうほどの、だ。
「なにしやがるッ!?」
「えへへ。ゆーくん、あったかい。」
俺の胸に頬ずりしながら締まりのない顔になっていく『スカーレット・サン』
 理解できない。これが組織の拷問なのか?
胸の下のほうで、なんか柔らかいものがどんどん密着して来るし、
「ど、どうゆうことか説明してくれ。これは拷問なんだよな?」
「そうだよ。これは拷問だよ。」
幸せそうに頬ずりをしながらヤツは詳しい事情を俺に説明してくれた。
「えとね。ゆーくんは『S.W.E.E.T.』の最大の計画の要でね。 
その計画において、私のパートナーとして作られたんだよ。
でも、ゆーくんが脱走しちゃったから、みんなで頑張ってようやく昨日、
ゆーくんを捕まえたんだよ。」
「大変だったんだよ。ゆーくんに大怪我させないように捕虜にするの。
でも、戦ってるゆーくんカッコよかったなぁ。」

 いままでよりさらに顔がゆるむ『スカーレット・サン』
 なんなんだ、このギャップは本当にこいつがあの『スカーレット・サン』なのか?
だが、今まで戦ってきた経験と部屋に入るまでの立ち振る舞いを
考えると本人であることは間違いない。
「ふざけるな!今まで戦ってきた相手にイチャつく拷問なんか聞いたこともない。
それに俺はお前たちの計画に協力する気はない。」
相手のくだらない言動に苛立った俺は、『スカーレット・サン』を引き剥がす。
俺たちの間に流れる気まずい雰囲気。
 しばらくの沈黙の後、
「どうしてそんなこと言うの?私頑張ったのに。」
は?なんで急に泣き出すんだ?
「ゆーくんとご飯食べたり、デートしたり、一緒にお風呂で流しあいっこ
とかいーっぱいしたくて頑張ってきたのに。なんでいじめるの?
えぐっ、私のこと嫌いなんだぁ。」
大粒の涙を流しながら、どんどん思考が飛躍していき、ついにぐずり始めた。
「な、なに急に泣いてんだよ。別にお前が嫌いだなんて一言も言ってないだろ?
俺はお前のこと結構認めてるんだぜ?」
俺は慌てながら彼女に弁解を始める。
敵とはいえ女の子を泣かすのはヒーローのやることではない。
実際、実動部隊の三人組の中では一番手こずらされた分、
俺はこいつを一番評価している。

「ほんと?」
「ああ、ほんとだよ。だからもう泣かないでくれよ。」
多少笑顔を作りながら、俺はそう答えた。
だが、甘い顔をしたのがまずかった。
「じゃあ、ナデナデして。」
「はぁ?なんでだよ。」
「やっぱり私のこと嫌いなんだ。」
また目に涙を溜め始めた。
涙は女の武器というのはこうゆうことか。ずりぃなぁ。
「あー、ったく、わかったよ。撫でればいいんだろ撫でれば!」
こうなりゃヤケクソだ。
おそるおそる彼女の頭に手を載せる。
さわり心地のよい髪に触れながら、手をゆっくりと動かしていく。
その間、こいつはしばらく俯いていたが、突然、震え始めたかと思うと
「ゆーくんゆーくんゆーーくんっ。だいすきだいすきだいだいだーいすき。」 
頭を撫でる行為だけで感極まったしまったらしくこいつは
再び俺にタックルをかまし、そのまま俺はベットのほうへ押し倒されてしまった。
俺の視界は彼女の長い髪に遮られ、自然見つめあうような形になってしまう。
首を傾げ、俺に満面の笑みを浮かべる美少女。
こいつの無邪気な笑顔を見ているうちに、俺の心臓は鼓動を増していった。
「えへへ、ゆーくん。」
 このままだと、いろいろとやばい。
話題を変えて時間を稼がないと。
「ひ、ひとつ聞いていいか?なんで、ゆーくんって呼ぶんだ?」
「それはね。ゆーくんがユキトって名乗ったからゆーくんって呼ぶのが
ぴったりだと思ったからだよ。」
こいつ。俺の質問に答えながら、さりげなく顔を近づけてやがるな。

「………なにしてるんですか?ひよさん。」
よし、誰か来たみたいだ。とりあえずこの危機は脱出できたようだ。
非常に残念な気もするが。
しぶしぶ彼女は俺の上からどいてくれた。
ところでこいつの名前、ひよっていうんだな。
 俺はとりあえず体を起こし、この部屋の入口のほうを見ると
そこには平均的なスタイルに黄色いボディスーツを着た
ショートカットのひよとはまた違ったタイプの可愛い少女が立っていた。
黄色いボディスーツを着ている。
つまり、こいつは実動部隊の中の一人『シューティング・スター』か!?
『シューティング・スター』は顔を赤く染めながら衝撃発言を放った。
「……独り占めはずるいです。」
 あれ?こ、こいつもなのか?
もしや状況はさっきより悪化してるんじゃないか?
「………ひよさん。僕もユキトさんの拷問に参加してもいいですか?」
無表情だが顔は赤いまま、ひよに尋ねた。
「ちょっとだけだよ?」
セイナはコクコクと頷くと俺の方に駆け寄ってきた。

「…………、コードネーム『シューティング・スター』。
基地内ではセイナって呼ばれてます。よろしくおねがいします。ユキトさん。」
「あ、ああ、よろしく。」
「では、早速拷問を開始します。」
膝立ちでベットの上に乗り、俺に体重を預けながら背後から抱き締める。
 ひよよりは大きくはないが、それでも十分な弾力を持ったセイナの胸が
しっかりと背中にが当たっているのが感じられる。
 やばい。むちゃくちゃ気持ちいい。いかんいかん。これは仮にも拷問なんだ。
俺はヒーローとして、この快楽に堕されるわけにはいかない。
数分間、俺が精神力で耐えていると
「ゆーくぅん。私もう我慢できないよ。」
急にひよが正面から抱きついてきやがった。
背中と胸の両方から心地良い感触が俺に伝わる。
その上、ひよは邪魔された分を取り返すような勢いで俺の胸に頬ずりをし始めた。
セイナにいたっては俺の耳をはむはむと甘噛みしてきやがった。
 流石にこれを続けられるのはまずい。
「くすぐったいから、もうやめてくれぇ。」
「これは拷問なんだから絶対やめないもん。ねー。」
「………当然です。」
悲鳴混じりの俺の懇願はあっさり却下された。
「マジかよ。」


後篇へつづく
2009年01月16日(金) 23:49:17 Modified by amae_girl




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