5-605 気持ち伝えて 後編

「ていっ!たぁっ!」
「何の!って、ヤバい!回避を!」
「トドメじゃー!」
「あああああ!」
そして次の瞬間、テレビ画面の中の俺の操っていたキャラクターのライフゲージが0になり、美夜子のキャラの勝利画面が映った。

「やたー。りっくんに勝った〜。」
「くそ、コイツに負けるなんて・・・」
美夜子とのおやつタイムの後、また新たな命令として一緒にゲームしろ、と言われた。
そこまでは問題なかったのだが、このあーぱー娘は余計な条件まで付けてきやがった。それは・・・。

「ところで美夜子、いい加減俺の上からどいてくれんかね?」
「や。ここに座るの」
そう。今俺はテレビの前で、"美夜子を膝に乗せて"ゲームをしているのだ。
胡坐で床に座った俺を座イス代わりにする、というのが命令内容であり、何が楽しいのかご満悦の表情でプレイしてらっしゃる美夜子さん。
アンタが俺の目の前にいるせいで画面がすんごく見辛いんですが?

「画面が見えねーよ。実力出せねーじゃん」
「いいの。これはりっくんがあたしにする"せったいぷれー"なんだよ?あたしが負けちゃったら意味ないじゃん」
「いくら接待プレーでも妨害しながらなんてやるかっての。ったく」
だが本当のところ、理由はそれだけじゃない。
落ち着かないのだ。俺の上に乗っている美夜子の仕草の一つ一つに。
服越しに伝わるこいつの体温も、顔の間近にある髪から漂うほんのりとしたシャンプーの香りも、動くたびに擦れる互いの体も、その何もかもが。
多分、今俺の顔は赤い筈だ。どうしても意識してしまう。美夜子の事を幼馴染としてじゃなく、女の子として。

(あー、どうしちまったんだ俺は。何でこんなにそわそわが止まんねーんだ)
「?どーしたの、りっくん?」
「え、い、いや、何でもねーよ」
考え事の最中に、諸問題の根源にいきなり話しかけられ、慌てた俺はそこで更なるポカをしてしまった。

「つーかホントに降りろ。重いぞ」
「あー!女の子に一番言っちゃいけないこと言ったー!!」
こちらに振り向き、ビミョーに可愛い怒り顔で言う美夜子。しまったと感じたがもう遅い。


「体重の事は一番の禁句なのにー!ゆるさーん!」
「え、ちょ、今のはうっかりで・・・」
「考えなしにひどいこと言ったのかー!益々ゆるさーん!」
ああ、泥沼・・・。どーして俺はこういう時に上手いセリフが言えんのだ・・・。

「そんなりっくんには罰として、新たなめーれーです!」
「はいはい分かったよ。で、何をしろって?」
言い訳を早々に諦め、言い付けられる命令を聞こうとする俺。しかしどういうことか、美夜子は少し赤面してこちらをちらちらと見ながら言い辛そうにしている。

「あ、え、えーと」
「どした?」
「あ、あたしの事をぎゅーってして!」
「は?」
「だ、だから!あたしの事を正面から抱きしめて、ついでに頭もなでなでしなさい!」
      • それ、罰なのか?

しかし命令は命令。恥ずかしくはあったが逆らえはしない。
俺は座った位置からこちらに向き直った美夜子を、そっと抱きしめた。
右手を背中にまわし、左手を頭に当てる。
そうした後、美夜子の方からも俺の体に腕が回されてきた。

「ん〜・・・あったかい。それにりっくんのにおいがする〜」
「ただ汗臭いだけだろ?」
「そんな事ないよ〜。りっくんだけのにおいがあるんだも〜ん・・・」
「さよか」
口調こそ素っ気なく振舞ってはいるが、さっき以上に密着度が高まり、俺の心臓の回転数が跳ね上がっている。しかもやけに育ちのいい胸が直当たりして、それがむにゅむにゅと形を変えて・・・。
成程確かに、今の俺にとっちゃこれは罰かもしれん。恥ずかしくて死ねるわ。


「ほらりっく〜ん。頭もなでて〜」
溶けてしまったような伸びた口調で言う美夜子。頼むから頭を胸元にぐりぐりすんな。胸まで一緒に動くだろーが。
左手をゆっくりと、髪をすかすように動かす。・・・昔は別に気付かなかったけど、美夜子の髪って絹糸みたいにさらさらだったんだな。

「えへ〜、良い気持ち〜」
「そりゃよござんした。・・・ところでこれ、いつまでやんの?」
「あたしが良いって言うまで〜」
「・・・早めに頼むぞ」
そしてしばしの間、頭をなでる音以外は静かなまま、時間だけが過ぎて行った。


「・・・ねー、りっくん」
「ん、どした?」
不意に美夜子が、その沈黙を破る。

「あたしね、今までずっとこうしたかったんだよ」
「それはあれか、俺を言いなりにさせたかったってか?」
「あーんもう、違うよ。だからその、りっくんと、こうして・・・一緒になりたかったなーってこと、だよ」
これまた頬を赤らめながら、美夜子は言う。明らかに、何時ものあーぱーな雰囲気じゃない。もっとまじめな表情だ。

「いつからかなぁ。りっくんの事をね、ずっと目で追うようになってたの。幼馴染としてじゃなくて、一人の男の人として」
「美夜子・・・?」
「でもあたし、お馬鹿さんだから。正面から気持ち伝えられなくて、下着でお布団に潜り込んだり、おふざけするようにくっつくしか出来なくて、だからこういう気持ちでりっくんと密着出来たのがなんだか嬉しいんだ」
「・・・・・・」
「・・・もう、言っちゃうね。あたしはりっくんが大好きだよ。勿論男の子として。りっくんは、あたしの事どう思う?多分これから先、同じように勇気出して同じこと言えないと思うから・・・出来れば今、聞きたいよ」
それだけ言って、美夜子はまた黙りこんでしまう。


      • 正直、頭が真っ白だ。いきなり告白って、どれだけハイスピードな展開だよ。
でも、こいつはこいつなりに必死になって気持ち伝えたんだよな。
だったら、俺も俺なりに応えてやるのが筋ってものだ。

「美夜子」
「・・・何かな、りっくん?」
「ホントのところさ、今日の今まで、お前との関係はずっと幼馴染で続くと思ってたんだ、俺」
「!・・・そう、なんだ」
「でもさ、久しぶりにお前と至近距離で触れ合ったらなんだ、随分と女の子らしくなんてたんだなお前って」
「むー、女の子に面と向かって言うセリフじゃないよ、それ」
「悪い悪い。でもあれだ、一度それに気づいたらさ、鼓動が治まらないというか、緊張が止まらないというか・・・」
「りっくん・・・?」
「・・・もうあれだ、うまく言えないからぶっちゃけよう。俺もお前が好きだ。きっと、いや間違いなく心の底から」
「・・・!」
美夜子の体温が上がったのが伝わってくる。これは多分お互い様だろうが。

「よかった・・・嬉しいよ。ホントはね、もし断られたらどうしようかって、怖かったんだ。これからどころか、今までの関係まで壊れちゃう気がしてて・・・」
「悪かったな、美夜子。そんな心配かけさせる鈍感男で」
「ううん、良いの。だってもうそんな心配いらないから。りっくん、大好きだよ。今までも、これからも」
「俺もだよ、美夜子・・・」
「りっくん・・・」
やがてどちらからともなく、俺達は唇を合わせた。
互いを求めるように、これまでの遅れを取り戻す様に、いつまでも・・・。

終わり
2009年06月19日(金) 21:30:05 Modified by amae_girl




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