5-713 無題

「私がご主人と遊ぶの!」
「遊ぶのは…私」
目の前で繰り広げられる、二人の女の子がいがみ合う。まったく、毎度毎度飽きないものだ呆れながらも
感心してしまう。
俺はと言えば、レポートを書いている最中。ちなみに提出期限は明日、遊んでやる暇などあるはずもなく。
言い訳させてもらえるのなら、俺は昨日のうちに終わらせようと頑張っていた。けれど、この二人が遊んで
とせがんできて、ついつい構ってしまったのが原因だ。
「こうなったら、ご主人に決めてもらう」
「…望むところなの」
ちゃぶ台にひしっとしがみつく二人。じーっとこっちを見詰める瞳。一方の子は、尻尾をぱたぱた振り
もう一方の子は尻尾をピンと立ている。そう、こいつらは普通の人間ではない。
犬の尻尾を持つ子―梓は犬憑きというやつで、小さい頃に犬の幽霊に祟られ、気が付いたら犬の耳と尻尾が
生えていたらしい。ずっと家に引きこもっていたのだが、俺が宅配のバイトで偶然出会ってからは
俺をご主人と呼び、しょっちゅう家に遊びに来るようになった。
年頃の女の子が男の部屋に入り浸りなんて健康的とは言えないが、引きこもっているよりは…と親からも
認めてもらったらしい。…ちなみに、俺の意見はどこにも反映されていないが。
猫の尻尾を持つ子―静はちょっと変わった猫又だ。普通は長年生き、妖力を得て猫又になるのだが、静は
事故で死に掛けたのをきっかけに猫又になったらしい。
その事故で倒れている所を、これまた宅配のバイトで通りかかった俺が発見して、病院に運んであげた。
それで命の恩人である俺に恩返ししようとうちに来て、そのまま居ついてしまった。
「ねね、ご主人。ボール持ってきた、投げて投げて」
「…猫じゃらしをふりふりしてほしいの」
ため息を一つ。右手でボールを、左手で猫じゃらしを受け取り、それぞれの望む事をしてあげる。
投げたボールに飛びついて、すぐさま戻ってくる梓。猫じゃらしに猫パンチを続ける静。
どっちも凄く可愛い・・・が、それを愛でている余裕が俺にはない。
「二人とも、これで言うのは4度目だが」
「レポートで忙しいから邪魔するなー」
「…終わったら遊んでやるから我慢しろ」
さっき俺が言ったセリフをつまらなそうに口に出す二人。分かった上で邪魔をしているのなら、あとでたっぷり
とお仕置きしてやる必要があるな。

「静、コーヒー淹れてくれ」
「にゃん」
可愛く返事をすると、台所へと消えていった。残された梓は、静の後ろ姿を目で追い、見えなくなると俺に
視線を戻す。
「ご主人、ボクにも何かできる事ない?」
「ん…静と仲良くしてくれ」
「やだ」
「じゃ、俺とも仲良くできないな」
「静〜、ボクもコーヒー手伝うよ」
騒がしく台所へと消えていった。久しぶりに訪れた静寂で、レポートもはかどる。
しばらくすると、一つのお盆を二人で持って戻ってきた。
「…どうぞ」
「二人とも、ありがとう」
「梓は…お湯を入れただけ」
「し、静だって、コーヒーをコップに入れただけじゃんか」
「はいはい、喧嘩しないの」
二人の頭を同時に撫でてあげると、目を細めて嬉しそうな表情に変わる。いつもは喧嘩ばかりのふたりだが
何だかんだ言いつつ似たもの同士。
コーヒーをすすりつつ、最後の追い込みをかける。時計は12時を過ぎた頃、二人にとっては眠い時間。
寝まいと必死に目を擦りながら、俺の作業が終わるのを今か今かと待っている。
「はふっ…ご主人、まーだー?」
「もうちょっと」
「そっかー、楽しみだなぁ…えへへ」
のっそり立ち上がると、俺の隣に座り、ぽてっともたれ掛かって来た。それを見た静も、俺の隣に這って来て
膝の上に頭を乗せる。
「こらこら」
「…コーヒーのご褒美」
「まったく、しょうがないやつだな」
少し重みを感じるものの、作業には重大な支障はない。そのままにしながら、続きを進める。

時計が1時を過ぎる頃、ようやく完成した。伸びをしようと思うと、右腕に梓がもたれかかっている事を
思い出した。そして、膝の上にも静がいる事を。
「梓、終わったぞ」
「ん…終わったの?」
「静、起きろ」
「…ん」
二人とも寝ていたようで、眠そうな顔で俺をじっと見ている。
さすがに今から遊ぼうなんて言わないだろう。明日はレポートを提出しに行くだけだから、帰ったら遊んで
やるか…なんて事を考えていた。
しかし、二人とも目をパチッと開くと、両方から抱きついてきた。今まで寝てたと思えないくらいの勢いに
俺は二人に押し倒されれる形となった。
「あーそーぼー」
「…遊ぼう」
「ちょ、ちょっと待て!時計を―」
言いかけた言葉、梓の唇でふさがれた。遊ぶって、そっちの方か!?割り込むように、梓を押しのけ静の
唇が俺の唇と重なる。…感じとしては、エサを乗っけた一つの皿に二匹が群がっているような感じ。
交互に口付けし、舌をだすと二人で舐め始める。
「ちゅ…ん…ちゅぅ」
「ん…ちゅー…くちゅ」
深夜の部屋に、卑猥な音が響く。そういえば、最近忙しくてこっちの「遊び」はしてなかったっけ?
二人の頭に手を回し、撫でてるとニッコリと笑う。
「3人で遊ぶか?」
「うん」
同時に頷く二人。レポートの提出は明日中…午後でも大丈夫だから…などと、頭の中で明日のスケジュールを
アレコレと考える。が、顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている二人を見て余計な事を考えるのを止めた。
今はただ…二人と遊ぶ事だけに熱中するとしようか。
2009年06月19日(金) 21:43:36 Modified by amae_girl




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