5-776 無題

登場人物とか。

北里 悠一・・・高瀬とは親友の普通人。穏やかでぽややん。多分文系。
高瀬 孝二・・・森曰く男前とかなんとか。本人曰く硬派。でもツンデレ。
森 由希・・・ちっこくて乙女ちっくな地味っ子。北里とか香坂にはツボらしい。
香坂 咲・・・森の幼馴染で美人さん。とりあえず良い性格してると思う。

タイトルは知りません。


甘酸っぱいを目指したんですが、全然甘くない気がします。
むしろしょっぱい感じです。(文章力的な意味で)

それでは失礼します。

1.高瀬 孝二の場合。



「やっぱ、森さんに嫌われたのかな…。」
とある県立高校の昼下がり、埃ぽいようなカビ臭いような図書室にて、
図書委員なんて糞かったるいモンを押し付けられ、誰も居ない図書室
の受付に座る俺に、ようやっと口を開いた親友からの第一声がこれだ。
ちなみに、ここ一週間程、親友の北里 悠一が、図書室みたくカビ臭い、
「悩んでます」全開なツラしてやがったから、問い詰めた結果な訳だが。
「はぁ?お前、それ本気で言ってんのか?!」
親友からの相談に、俺は少しの驚きと過半以上の呆れでもって、眩暈を
覚えた程だった。

北里との付き合いは、高校に入ってからのものだが、それなりにこいつ
の事を分かっているつもりだ。
だから、こいつの誠実な所や何事にも真面目な性質ってのは、良く知っ
ているつもりだし、色恋には向かない性質だってのも、承知しているつ
もりだったのだが…。
が、それにしても、こんな鈍感野郎だったとは。
「お前さぁ…なんで嫌われてるとか思うわけ?」
眉間を揉みながら問い返す。
「だってさ…最近、森さんに避けられてるし…。」
はぁ、と小さくため息をつけば、本気で落ち込む親友の顔が視界に入る。
こいっつは…ほんとに…。
傍目にゃ、あれほど分かりやすい反応は無いと思うんだけどな…。
本人たちには分からないんだろう、と無理矢理自分に言い聞かせる。
うん、そうだ。きっとそうに違いない。

「森のアレって、明らかに照れてテンパってるだけじゃん…。
 つーか、お前は森が好きだとかぬかしておいて、森の何を見てる訳?」
お前の目玉はただの節穴か?色ボケでその節穴から脳まで垂れ流したか?
いやまあ、そこまでは言わないけど。
「す、好きだなんて!…い、いや、うん。でも、話しかけようにも
 近づくと逃げられちゃうし、あからさまに目を逸らされるし…。」
はぁ〜、と今度は深いため息が出る。
「でも、やっぱりこのままなんて嫌だし。森さんの気持ちも知りたい。」
なんとか顔を上げた親友に、毎度の事ながらしょーがねーなぁ、と思う。
ま、ここは一つ俺がなんとかしてやるか。

「わかったわかった。俺に考えがあるから少し待て。」
それと、お前が嫌われてるって事は、誰が何と言おうが有得ないからな、
それだけは覚えとけ。
そう伝えて教室へ戻る準備を始める。
昼休みが終わるまでにはもう少し時間があるが、誰も来やしないだろう。
不承不承の体ではあるが、北里も教室に戻る準備を始めたようだ。

しかし、どうしたもんかね。
考えがあるなんて言って、実は何も考えてねーんだよなぁ。
しょーがねぇ、小憎たらしいアイツに相談すりゃなんとでもなんだろ。
…後が大変そうだがな。

親友の恋と、自分の苦労を天秤に掛ける。
結果は分かっちゃいるけどね。

2.香坂 咲の場合



「私、北里君に嫌われちゃったかな…」
何時も通りの昼休み、一つの机でお弁当を囲む幼馴染の森 由希が出した、
喧騒で掻き消されかけたか細い声は、私の耳にそう聞き取れた。

ちなみに、幼馴染の態度に目星がついている私は「どうせ北里だろ」等と
思うものの、その落ち込みぶりに半ば以上は呆れつつ、声を掛けない訳に
もいかないよね…。と、お弁当を食べつつ聞いてみた結果がこれ。

「何言ってんのよ。ユキは可愛いんだから嫌われたりしないって。」
やっぱお弁当は卵焼きだよね〜。うむうむ。母上、なかなかの味ですぞ。
などとお弁当に舌鼓を打ちつつ答える。
顔は、真剣そのものって感じをキープしてるけどね。

「だって…最近、避けるみたいな態度取っちゃってるし…」
それに、咲ちゃんみたいに綺麗じゃないし…暗くって、胸もないし…。
あ〜あ、言いながら自分で凹んでる。

私から言わせれば、童顔でちっこくて、綺麗な黒髪で、乙女ぇ〜〜〜え!
って感じで、いかにも男受けしそうな気がするんだけど。
女の私でさえ、可愛くてほっとけないな〜、なんて幼馴染やってるんだし。

そもそも、ここ1週間程ずっとこの話題だ。
ユキとクラスの北里は、以前からあからさまな両思いだったし、いかにも
乙女って感じのユキと、穏やかで何処かぽややんとした北里は、結構お似
合いの純情カップルになるんじゃないかと思っていた。
まあ、本人たちが照れてテンパったり、のほほんとしてるせいで、周りは
随分苦労させられたけどね。

だから、ユキがぽややんに告白されたって聞いた時は、結構本気で驚いた。
ついにこの二人も…とか思うでしょ?
私も思ったわよ。
それを…なんと!この大馬鹿娘はテンパってその場から逃げ出したらしい。

「ちゃんと謝って、そんで「北里君だ〜〜い好き!」って言うだけじゃん。
 時間が立つほど言い難くなるだけだよ?それともユキは、北里が諦めて、
 それで終わりで良いの?」
「だ…だだだだだだだ大好きって?!そ、そそそんなこと!!
 だって、信じられないよ。私なんかがそんな…。」
だからこの一週間、ずっとこんなやり取りばかりなのよね。私もいい加減
飽きちゃって、真面目に聞く気もなくなるって言うか…。

あー、顔真っ赤にしちゃって、可愛いなぁ。
ぷにぷにってして良いかな?
「それに、あんな事しちゃって北里君…怒ってるよね…?」
あー、もう。ウルウル上目使いとか!
これ、あのぽややんにやったら、流石のアイツでも押し倒すんじゃない?
っていうか私が…。ぎゅってするよ?しちゃって…良いよね!!?

「あ、待って!咲ちゃん、駄目だよ…ぴゃあー!」
ユキのちっこい体をぎゅーってして、髪の毛を梳きながら囁く。
珍妙な悲鳴は当然スルー。


「北里にこんな風にされたいんでしょ?
 だったら、きちんと謝って気持ち、伝えなきゃ。」

「こんな風にって…ぁ
 …うん。」

胸の中で、真っ赤な顔のユキが、こくんって頷くのがわかった。
さーて、この大馬鹿で、可愛くてほっとけない幼馴染の為に、優しい私が
もう一苦労してあげようかしらね。
とはいえ、どうしようかな?どうとでもなりそうな気もするけど。

「おーい、香坂。ラブラブなとこ申し訳ないんだが、ちと話がある。」
そんな、思考を中断させる声。振り向くと、教室の入り口で高瀬が手招き
していた。

な〜んか嫌そうな顔してるけど…。
ユキに一言ことわって、私は高瀬と廊下に出た。
昼休みももう終わりだから、教室に戻る生徒で、それなりに人通りがある。
声が喧騒に紛れないよう、高瀬のすぐ傍に立ち、事の次第を聞く。

あー、やっぱそっちもそんな感じか。
そんな本心を隠しつつ、高瀬の頼みを聞いてやる。

「協力しないでもないわよ?」
ニヤリと笑う。
「はは、お手柔らかに頼むよ。」
なーんでコイツは引きつった笑いなんかするかな。

3.北里 悠一の場合



「高瀬はああ言ってくれたけど…。はぁ。」

「すまん、どうしても外せない用事があるんだ!図書室頼む!」
等と言って教室を出て行った親友の高瀬 孝二を思い出しつつ、放課後の
廊下を図書室へと向かう。

この学校の図書室は、はっきり言って人気が無い。蔵書も少ないし、パソ
コンどころかエアコンさえもない。
老朽化って言葉がピッタリくるような場所だなぁと思う。

でも、僕はこの図書室が実は結構気に入っている。
人が居ないだけに、静かに落ち着いて本が読めるし、なんとなくこの古さ
が好きな僕は、稀有な図書室の愛用者の一人だったりする。

高瀬が図書委員なのは本当に偶然の成せる業なんだけど、以前から図書室
を良く利用していた僕は、ちょくちょくと代理を務めるようになった。

しばらく受付カウンターでぼーっとしてた僕は、どうせ本を読んでも内容
なんて頭に入って来ないだろうと思い、のろのろと本の整理を始める。
高瀬と一緒に当番だったはずの香坂さんはまだ来ない。

受付カウンターに誰も居なくなってしまうけど、滅多に利用者の無い(現に
今も僕だけだ)この図書室では、受付に誰も居ないのも、珍しい事ではない。

そういえば、森さんと初めて会ったのも、話をしたのも、ここだったなぁ。

最初に会ったのは1年以上前。
数少ない利用者同士だから、お互い顔だけは知ってる状態が随分続いて。
それで、森さんが本を読みながら瞳をうるうるって…今にも泣きそうな顔
してるのを見ちゃったんだよな。

(うわ、凄い感情移入しちゃってるよ、この娘!)
なんて思わず見てたんだけど、次の瞬間に顔を上げた森さんと目が合って。
吃驚した顔。
その後真っ赤になって俯いちゃって…。
「…見た?」

その顔が、仕草が本当にすっごい可愛くて…これって、一目惚れなのかな?
あ、初対面じゃないから一目惚れじゃないか。
結局、あの時の本ってなんだったか教えて貰えなかったな。

慌てて謝った僕は、その日から少しずつ読んだ本の感想なんかを言い合っ
たり出来るようになったんだった。

その後、進級した僕らは同じクラスになって、毎日顔を合わせるようにな
ったけど…。
彼女の声に、仕草に、表情にますます惹かれていって。
彼女の事を可愛いとか、守ってあげたいとか、そんな…愛おしい気持ち?
が我慢出来ない位に大きく膨らんで。

今の関係が崩れるかもしれない、なんて恐怖なんかを、膨らんだ気持ちが
追いやってしまった結果が…これだ。

「森さん、あれ以来図書室にも来ないし。やっぱ嫌われたのかな。」

そんな事を呟きつつ書架の間を彷徨う僕に、彼女の声は届いた。
「あれ、高瀬君まだなのかなぁ…。おーい、高瀬く〜ん?」
心臓がドクンって高鳴るのを感じた。

「…ぁ」
振り向いたその先に、森さんの吃驚した顔が。
真っ赤な顔が…はは、本当に耳まで赤いや。
俯くその仕草が。
思い出したばかりのあの日に重なって。
彼女の手を。

一週間前に取り逃がした彼女の手を、情けなくても、みっともなくても、
それでも良い。
なんて事を思う暇もなく、ただ彼女から離れたくない一心で握っていた。

今思えば、多分数秒だったのだろうと思うけど、「時間が永遠に感じた」
なんて、まさにそんな瞬間。
しかしその瞬間は、彼女の言葉でいやにあっさりと終わった。

「…北里君。ごめんね。」

今考えれば、本当に馬鹿みたいなんだけど、混乱しきったその時の僕は
「ああ、やっぱりそうなんだな。」なんて事を、考えていた。

4.森 由希の場合


きゅって握り締めたお守りがきっと私に勇気をくれる。
どんなに恥ずかしくって、照れくさくっても、きっと伝えれる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


幼馴染の香坂 咲ちゃんは私の憧れだ。
小さい頃から大人っぽくて、なんでも出来て、スタイルも良くて、美人
な上に、素敵な恋人まで居る。

それに比べて私は、昔っから内気で、臆病で、背も胸も小さくて…。
私も咲ちゃんみたいだったら…。もっと、自分に自信が持てたのかな?
…だめだめ!自分で言ってて落ち込んできちゃった。

咲ちゃんの渡してくれた「お守り」をきゅって握り締める。
高瀬君から話って、やっぱり北里君の事だよね…?

「ユキ、ちょっと手を出して。」
放課後、まっすぐに私の席に来た咲ちゃんは、そう言ってキャラクター物
のストラップを私に手渡してきた。

「わわ、りらっくまだ〜。可愛いよね、これ。」
咲ちゃんが携帯電話にいつも付けてるストラップ。
「これはお守りだよ。」

お守り?お守りっていうと、赤とか青とかの小袋に入ってるあれだよね?
でも、りらっくまのお守りあったら可愛いよね。後、りらっくま神社とか。
お守りも、絵馬も、破魔矢もぜ〜んぶりらっくま。で、神主さんや巫女さ
んの代わりにりらっくまが寝そべってて…

「おーい。ユキ、さっさと帰ってきて〜。
 どうしてお守りって単語で飛ぶかね、この娘は?」
いけない。妄想の世界に旅立ってた。
呆れ顔の咲ちゃんに、ほっぺたをぺちぺち、ってされてしまった。


「これはね…ちょっと恥ずかしい話だけど、私が彼に貰ったものなんだ。」
なんでも、以前に彼氏と大喧嘩をして、仲直りした時に買って貰ったもの
らしい。咲ちゃんも相手も意地っ張りな所があって、付き合い始めたばか
りだったから、彼の事を信用しきれてなく、凄く不安だったって。

でも、勇気を出して謝って、仲直りした象徴なんだって。

咲ちゃん達はすっごい仲良しで、私と北里君も、何時かはあんな風になれ
たら良いなぁって、思ってた。
だから、二人にもそんな事があったんだーってビックリしちゃった。

「だから、これは勇気の出る大切なお守り。
 ほら、これ貸してあげるから。あんたも勇気出して謝るんだよ?」
「…うん!私も頑張る!」
少し恥ずかしそうに、私の手にお守りを渡してくれたユキちゃん。
そのまま、私をぎゅーってしてくれる。

「よしよし、良い返事。次に北里と二人きりになったら、絶対謝るんだよ。
 それで返事する事!今度こそ逃げちゃ駄目だからね。」
私を解放した咲ちゃんは、高瀬君が話があるらしいって伝えると、帰り
支度を始め、そのまま教室を出て行ってしまった。

私は、なんとなくお守りを手に握ったまま、図書室へと向かった。

高瀬君は格好良くて、口調はちょっとだけ怖いけど、本当はすごく良い人。
北里君とも仲が良くて、以前から私達の事を応援してくれてた。
やっぱり高瀬君も、先週のあれ…知ってるんだよね?

どうしよ…なんて話せば良いのかな?
そんな事を考えていたら、図書室はもう目の前になって、少し躊躇った後、
私は扉に手をかけた。

扉を開けると、そこには誰も居ないくて、がらんどう。拍子抜けしちゃった。
高瀬君まだなのかな…あ、本の整理中かな?
そんなに広くない図書室だから、すぐに見つかるよね。
図書室は好きだな〜。北里君との思い出が一杯あるから。
あ、あそこに居るの高瀬君かな?

だけど、そこに居たのは高瀬君じゃなくて…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

北里君に掴まれた左手が、火傷しちゃうんじゃないかな?ってくらい熱い。
触れられた瞬間に電気みたいな何かが全身にビリビリって走って、きっと
私の心が、体が、全身全霊をかけて、彼を求めてたからだと思う。

右手のお守りをきゅっと握り締める。
視界はチカチカと眩んで。
心臓ははち切れそうに脈打って。
頭はグルグル回って何も考えられなくて。
本当に真っ白になっちゃったけど。

でも、熱を持った左手が、体が咲ちゃんにもらった少しの勇気が、私に
そうさせたんだと思う。

「北里君、ごめんね」

逃げ出しちゃって、ごめんね。
ほんとは私も、大好きなんだよ?ずっとずっと好きだったんだよ?

図書室で見かけて、優しい表情とかが気になって、でも声なんて掛けれ
なくて…。
それでも北里君と会いたくて、ずっと通ってたんだよ?
初めて話した日、私は本を読んで泣いちゃったんじゃないよ?
北里君に話しかけれない、意気地無しの自分に泣いちゃったんだよ?

だけど、私のそんな思いは届かなくて、痛いくらいに握り締められた手が
ほどける。

「そう、だよね…。ごめん、こんな事しちゃって…嫌われちゃったかな。
 はは…あはは…。」

彼の言葉がすーって、胸に染み込んできた。
なんで、そうなっちゃうんだろう…。
恥ずかしさが、今度は悲しさに変わって心をはちきれさせる。
咲ちゃんのお守りに貰った勇気が、萎んでいくのを感じる。

でも、彼の熱さを覚えた体が、左腕がそれを許さなかった。
だから、私は相変わらずはちきれそうな心を持て余して、頭はパニックを
起こしたみたいになってたけど。


気づいたら、左手が彼の裾を掴んでた。

本当は、もっと、ずっと手を握ってて欲しいって。
咲ちゃんがしてくれるみたいに、ぎゅーってして欲しいって。
…北里君をこの体に感じていたいって。

だから、右手の「お守り」をきゅって握って、もう1度だけ勇気をもらう。
恥ずかしくて、照れくさくて、それでも彼の顔を見て。

「嫌い…じゃない。
 北里君とずっと一緒に居たい。」

言えた。
最後の方は、やっぱり恥ずかしくて目をそらしちゃったけど。

でも…心のどこかですっと風が抜けたような気がした。
緊張ではち切れそうだった心が、別の何かに置き換わる感覚。

「森さん…あの…ごめん!」

大きな声に吃驚して顔を上げると、目の前に彼のワイシャツがあった。
大きな男の子の手が、背中をきゅってする感触。
咲ちゃんの柔らかい胸とは違う、男の子の感触。
北里君の匂い。

「好きだ、僕も森さんとずっと一緒にいたい!」

なんで彼の声が、匂いが、こんなにも私を落ち着かせるのだろう。
胸の硬さを、背を抱く腕の力強さを、心地よく感じるんだろう。
恥ずかしくて、逃げ出してしまいそうなのに、心が安らぐんだろう。

きっと私にとって、ここが世界で一番落ち着く場所だから。
はち切れそうな心を満たしてるのは、きっと「幸せ」だから。
だから…





「私も、…好き。…ずっとずっと、離さないでね。」








後日談.ツンデレ君の場合。



「それで最初は、裾を摘むのがサインだって分かんなかったから、可愛
 いな〜ってぼーっとしてたら、恨みがましい目で見上げてくるんだよ!
 も〜〜〜可愛いのなんのって、ついぎゅーって…」

なんて話を聞いたらさ、こいつやっぱ、色ボケで脳が垂れ流しになったん
だな、とか思わねぇ?
俺は思う。間違いなく思う。

確かに、くっつけようとしてたのは俺らだけどさ、まさかここまでバカッ
プルになるとは思わないだろ。
裾を摘んでくるのが可愛いだとか、これって二人だけの合図だよねとか、
良くやってられるよ、ホント。

隣を歩く奴にそんな愚痴を言いつつの帰り道。
「大体、人の惚気話程、聞いて役に立たない話もねーしな。そーだろ?
 お前も大変なんじゃね?」
「そだねー。まあ、私はユキの惚気にはもう慣れっこだけどね。」

そーいや香坂とは、最近ずっとこの話題だったな。
上手く話がまとまって、めでたしめでたしってとこか。

「ふーん、お前も苦労してんだな。
 ま、ダチに彼女が出来るってのは悪い気がしないがな。」
「…それで?上手い事話をまとめてあげた、この私に対して何か無いわけ?」

うっわー、何このニヤニヤ笑い。
すげぇ気分悪いっつーか、憎たらしいんすけど。

「あるも無いも、お前は適当すぎだ。同じ部屋に放り込んだだけじゃねーか。
 まあ、そんな案に乗っかる俺も俺だけどさ。」
「あらら〜。そんな事言っちゃうんだ。」


握っていた手を、胸に抱くようにしてきやがった。
だーからコイツには、あんま相談とか頼み事とかしたくねーんだよ。

…つーか、胸あたってんぞ。
後、その上目使いもやめれ。
まともに顔が見れん。

「ま、感謝はしてるよ。…多分な」
「あれ、照れちゃった?
 ふふーん。じゃ、感謝の証拠、見せて貰おうかな〜?」



  や は り そ う く る か 。



わかっちゃいたけどな。またロクでも無い事を言い出すに決まってる。
どーせ、やれ「後ろから優しく抱きしめろ」だ「頭をなでなでしろ」だ、
そんなこっぱずかしい事やってられるか!!

そもそもだな、俺は本来は硬派キャラなんだぞ?そんなイチャイチャだ
とか、北里だけでお釣りが返ってくる、ってより胸焼けがして吐き気が
してくるんだよ!釣りじゃなくてゲロ返してやろうか!?

そんな事を考えていると、腕の柔らかい感触が消え、珍しく開放?!とか
ほのかな期待で香坂を見ると…、最悪の結果がお待ちしていましたとも。
新パターンを開発しやがったよ、コノヤロウ。


俯いて、俺のシャツをちょこん、って。


チクショウ、認めるめてやるよ!
コイツは糞っ憎たらしいくらいに可愛い、俺の彼女だよ!
それにコイツの事だ、お次はアレだろ?

「あー、こほん。やっぱしないと駄目っすか?」
「モチロン!ぎゅーってしてね?」

やっぱりそのニヤニヤ笑いか!
どうせ逆らえないとか思ってんだろ!こんちきしょーめ!!
2009年06月19日(金) 21:50:48 Modified by amae_girl




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