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寝癖もないし、肩に糸クズもついてない。
朝から何度も鏡を見てチェックしていたのに、ああもう!

昼休みになって屋上に行った葵の目的はただ一つ、静かに弁当を食べたかったからだ。
本当は別の期待もあったけれど、まさかまさかとは思っていた。
その、まさかが目の前にいる。
「…あ、男鹿」
「邦枝先輩じゃないスか!」
真っ先に反応したのは男鹿の隣にいた古市だったが、もちろん葵の目には入っていない。
「ちょっと、用事があるんだけど」
以前なら躊躇していたことをストレートに言えるのは、それなりのことがあったからだ。しかし肝心の
男鹿はちらりと葵を見上げただけで黙々と弁当の残りを口に運んでいる。背中にいるベル坊だけが
遊んで欲しそうに目をキラキラさせている。
「…あー、お邪魔虫ってことね。はいはい分かりましたっと」
もっと空気を読めずに渋るかと思った古市は、案外あっさりとまだ半分以上残っている弁当を包み
直して立ち上がった。
「男鹿、悪いコトすんなよな」
そんなことを言い残して。
「何言ってんだあいつ」
最後の一口を掻き込んでしまうと、男鹿はペットボトルのお茶をごくごくと飲んだ。あれからも別に
何一つ態度の変わらない男ではあったが、葵にとっては最初の男に変わりない。
「…あの、隣、いいかな」
弁当の包みを抱き締めてやっとのことでそれだけを言う葵に、やはり男鹿は相変わらずの素っ気
ない態度で接してくる。
「別に構わねーよ」
「うん、邪魔してごめんね」
「どーってことないって」
それは別に葵に気を遣った訳でも何でもなく、本当にその通りなのだろう。この年頃の男は特に
理由もなく友人とつるみたがるものだ。それに、男鹿は全くと言っていいほど嘘がつけない。
そこが好きな理由でもあるのかなあ…と思いながら、葵はもじもじと隣に座った。
「あの」
間を持たせようと何か話しかけたのだが、腹が満たされたことで男鹿は早くもうとうとしかけている。

ベル坊はすっかりはしゃぎながら男鹿から降りて葵の方に這って来た。
「ア゛ーー」
「ベルちゃん、こんにちは。今日も元気だねー」
「バ、ブーーーー」
「よしよし、一緒に遊ぼうね」
いつも弟の世話をしているから子供の相手ならお手のものだ。ベル坊に懐かれていることで少しは
男鹿に近付きやすくなっているのも都合がいい。
悪魔とはいえまだ純真な赤ん坊を下心の道具にしていることにやや罪悪感を感じてはいるものの、
昼休みは短い。すぐにでも何か進展を遂げなければここに来た意味がないのだ。
「あのね、男鹿」
「…んあー」
壁にもたれて完全に居眠りモードに入っていた男鹿は、急に話しかけられてとぼけた声を出した。
それが誰にも見せない素の顔に見えて胸がドキドキしてしまう。
「あんなことがあったからって訳じゃないんだけど、私、あんたのこと…」
「…あー」
男鹿の眠気は取れないままのようだ。
この恋心があったのはもちろんそれ以前からのことだったが、何もなければただ思いを募らせる
だけで済んでいた。それが、この前のことで気持ちのメーターが完全に振り切れてしまった。
あの喧嘩しか知らないような逞しい腕に抱かれた、女として要求されて受け入れた、と思い出す
だけで頭の芯がじいんと痺れてしまってどうしようもなくなるのだ。
男鹿はそれを大したことだとは思ってないだろう。だから重くて面倒な女にはなりたくない。そんな
色々と相反する思いがあれからずっと葵を悩ませている。
恋をすれば誰もが陥るジレンマに、葵もまた迷い込んでいた。
「男鹿」
「…うるせーな、ちっと静かにしててくれよ」
半分寝惚けながらも男鹿は突然葵を抱き寄せてきた。
「ええっ!??」
一瞬何が起こったのか全然理解出来ず、固まってしまう。
多分何の邪心もなく、子供がぬいぐるみでも抱くようにただ側にあるものを引き寄せただけだろう。
それでも何となく嬉しかった。こんな男鹿を見られるのも役得だと思った。
きっと以前の二人なら有り得ないことだったかも知れない。

これも滅多にないことだしと、ドキドキし過ぎて破裂しそうな心臓を宥めながら男鹿の寝顔をすぐ
近くで眺めた。いつもの険が取れて本当に子供のようにあどけない顔をしている。そんな無防備な
顔を見たら余計に葵の胸がざわめくのも当然なのだが、それすらも当の本人は全く気にかけても
いないのだろう。
「もう…」
諦めたように呟く葵の表情は、それでも母親のように優しい。
この男は大きな子供とほとんど同じだ。手間もかかるし面倒だけれど、特に嫌な思いはしないの
だから接するのは決して不愉快ではない。
「昼休みが終わるまでには、起きるのよ」
膝の上でしきりにじゃれているベル坊を宥めながら、葵は手のかかる面倒臭い男の鼻を掴んで
軽く嗜めた。




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