物語り
昔々ある山の村に、星を眺めるのが大好きな女の子がいました。
女の子は昼は寝てばかり、夜になると一晩中、星をながめていました。
「朝なんて来なければいいのに」
と朝が来るたびにつぶやきました。
女の子にはお父さんもお母さんもいませんでした。
だからひねくれた性格になってしまったのだと、女の子の住んでいた村の人々は思いました。
だけど、その村の人々は優しかったので、その女の子を可哀想にも思って
みんなで面倒を見てあげていました。
ある日、男の子が星を眺めている女の子に尋ねました。星の特に綺麗な夜でした。
「きみはいつも星ばかり見ているけど、何がおもしろいんだい?」
女の子は答えました。
「私が星を見ていると、その星のことがみんなよりもよくわかるの。それがおもしろいのよ。
その星がどこにあるのかとか、どんな人がそこにいるのかとか」
男の子は驚いて言いました。
「星に人がいる?そんなバカな。星っていうのは、空に描かれている絵なんだよ。
アルセスがキュトスのために描いてあげたんだ。アルセス・ストーリーに書いてあったよ」
女の子は何も言いませんでした。男の子はさらに言いました。
「ねえ、たまには星を見る以外のこともした方がいいよ。明日、僕と一緒に泉に行こう。
水は綺麗だし、動物や鳥がいることもあるし、花も咲いてるよ」
女の子は返事をしませんでした。男の子は、溜息をついて自分の家に帰りました。
女の子は昼は寝てばかり、夜になると一晩中、星をながめていました。
「朝なんて来なければいいのに」
と朝が来るたびにつぶやきました。
女の子にはお父さんもお母さんもいませんでした。
だからひねくれた性格になってしまったのだと、女の子の住んでいた村の人々は思いました。
だけど、その村の人々は優しかったので、その女の子を可哀想にも思って
みんなで面倒を見てあげていました。
ある日、男の子が星を眺めている女の子に尋ねました。星の特に綺麗な夜でした。
「きみはいつも星ばかり見ているけど、何がおもしろいんだい?」
女の子は答えました。
「私が星を見ていると、その星のことがみんなよりもよくわかるの。それがおもしろいのよ。
その星がどこにあるのかとか、どんな人がそこにいるのかとか」
男の子は驚いて言いました。
「星に人がいる?そんなバカな。星っていうのは、空に描かれている絵なんだよ。
アルセスがキュトスのために描いてあげたんだ。アルセス・ストーリーに書いてあったよ」
女の子は何も言いませんでした。男の子はさらに言いました。
「ねえ、たまには星を見る以外のこともした方がいいよ。明日、僕と一緒に泉に行こう。
水は綺麗だし、動物や鳥がいることもあるし、花も咲いてるよ」
女の子は返事をしませんでした。男の子は、溜息をついて自分の家に帰りました。
その日から、ほとんど毎日のように男の子は女の子を誘いました。
女の子は、決して男の子と一緒に行こうとはしませんでした。
しばらく経ったある日、その男の子はいつものように星を眺めている女の子を誘いました。
「そうだ、ちょっと遠いけど町まで降りるのはどう?町にはいろんなものがあるんだよ。
大きな教会とか、珍しいおもちゃとか、変わった食べ物とか…」
「ありがとう。でもいいわ」
その日、男の子は諦めませんでした。
座って星を眺めている女の子の正面に立って、初めてその目を見つめました。
男の子は、そうして何か言おうとしたのですが、その言葉を忘れてしまいました。
女の子の大きな瞳は夜空のように暗く、そして星が輝いていました。美しい瞳でした。
「どいて。星が見えない」
「君の目の中に星がある!こんなの、見たこと無い」
男の子は、すっかりその目に見入ってしまいました。
「―――どいて」
女の子は、とても怒っていました。
男の子はようやくそのことに気付きましたが、すでに遅かったのです。
女の子の瞳の星が、ひときわ強く輝くと、そこから光の矢が飛び出しました。
光の矢が男の子の頭を貫くと、男の子はその場に倒れ伏せました。冷たい夜風が吹きました。
女の子は何が起こったのかわかりませんでした。すぐに人を呼びましたが、手遅れでした。
男の子のことについて、村の人々は大いに悲しみました。女の子もまた悲しみました。
いつもあんな態度でしたが、女の子は男の子のことが気に入っていました。
なぜなら、男の子はどこか、女の子が見る遠い遠い星に似た雰囲気を持っていたからです。
朝になると、みんなは集まって女の子のことを改めて考えました。
よく考えてみると、その女の子がいつ村に来たのか思い出せる者はいませんでした。
しかも、女の子が来てから少なくとも10年は経つのに、その姿は昔と全く変わっていませんでした。
村の人々はそのことを怖がりました。何故かそのことに気付かなかったことも怖がりました。
そして、村の人々は、その女の子を村から追い出すことに決めたのです。
村の人々はやさしい人たちでしたが、臆病な人たちでもありました。
女の子は、決して男の子と一緒に行こうとはしませんでした。
しばらく経ったある日、その男の子はいつものように星を眺めている女の子を誘いました。
「そうだ、ちょっと遠いけど町まで降りるのはどう?町にはいろんなものがあるんだよ。
大きな教会とか、珍しいおもちゃとか、変わった食べ物とか…」
「ありがとう。でもいいわ」
その日、男の子は諦めませんでした。
座って星を眺めている女の子の正面に立って、初めてその目を見つめました。
男の子は、そうして何か言おうとしたのですが、その言葉を忘れてしまいました。
女の子の大きな瞳は夜空のように暗く、そして星が輝いていました。美しい瞳でした。
「どいて。星が見えない」
「君の目の中に星がある!こんなの、見たこと無い」
男の子は、すっかりその目に見入ってしまいました。
「―――どいて」
女の子は、とても怒っていました。
男の子はようやくそのことに気付きましたが、すでに遅かったのです。
女の子の瞳の星が、ひときわ強く輝くと、そこから光の矢が飛び出しました。
光の矢が男の子の頭を貫くと、男の子はその場に倒れ伏せました。冷たい夜風が吹きました。
女の子は何が起こったのかわかりませんでした。すぐに人を呼びましたが、手遅れでした。
男の子のことについて、村の人々は大いに悲しみました。女の子もまた悲しみました。
いつもあんな態度でしたが、女の子は男の子のことが気に入っていました。
なぜなら、男の子はどこか、女の子が見る遠い遠い星に似た雰囲気を持っていたからです。
朝になると、みんなは集まって女の子のことを改めて考えました。
よく考えてみると、その女の子がいつ村に来たのか思い出せる者はいませんでした。
しかも、女の子が来てから少なくとも10年は経つのに、その姿は昔と全く変わっていませんでした。
村の人々はそのことを怖がりました。何故かそのことに気付かなかったことも怖がりました。
そして、村の人々は、その女の子を村から追い出すことに決めたのです。
村の人々はやさしい人たちでしたが、臆病な人たちでもありました。
村から追い出された女の子は、とりあえず夜まで一眠りして、それからこれからのことを考えました。
今まで何も考えてこなかった女の子には、何も思い浮かびませんでした。
いつものように、とりあえず星を眺めることにしたのです。
女の子は、すぐにひときわ明るい、女の子の近くにある星を見つけました。
今までそんな星を見たことは無かったので、女の子は不思議に思いました。
なんとなく、女の子はその星の方向に行ってみようと考えました。
そして、女の子の旅が始まりました。
見たことの無い星は、どういうわけか左へ右へ、何回も動いているように見えました。
だから女の子は、夜の間だけ、蛇のように曲がりくねりながら進んでいきました。
険しい山道でしたから、女の子は大変でした。昼間はぐっすりと眠りました。
日が落ちるとその星が真後ろ、つまり今まで通ってきた道の方向にあることさえありましたが
それでも女の子は、星に少しづつ近づいて来ていることがわかっていました。
12回目の夜でした。雲ひとつ無く、星は空に無数に輝いていました。
その時はもう、村の人々に貰った食べ物は無くなっていました。女の子も疲れていました。
女の子がいつものように星を追いかけていると、開けた高台に出ました。
星はものすごく近くに見えました。そこに、小ぢんまりとした館が立っているのが見えました。
その星は、その館の上で輝いていたのです。その時、後ろから声がしました。
「やっと見つけたね、イングロール!」
今まで何も考えてこなかった女の子には、何も思い浮かびませんでした。
いつものように、とりあえず星を眺めることにしたのです。
女の子は、すぐにひときわ明るい、女の子の近くにある星を見つけました。
今までそんな星を見たことは無かったので、女の子は不思議に思いました。
なんとなく、女の子はその星の方向に行ってみようと考えました。
そして、女の子の旅が始まりました。
見たことの無い星は、どういうわけか左へ右へ、何回も動いているように見えました。
だから女の子は、夜の間だけ、蛇のように曲がりくねりながら進んでいきました。
険しい山道でしたから、女の子は大変でした。昼間はぐっすりと眠りました。
日が落ちるとその星が真後ろ、つまり今まで通ってきた道の方向にあることさえありましたが
それでも女の子は、星に少しづつ近づいて来ていることがわかっていました。
12回目の夜でした。雲ひとつ無く、星は空に無数に輝いていました。
その時はもう、村の人々に貰った食べ物は無くなっていました。女の子も疲れていました。
女の子がいつものように星を追いかけていると、開けた高台に出ました。
星はものすごく近くに見えました。そこに、小ぢんまりとした館が立っているのが見えました。
その星は、その館の上で輝いていたのです。その時、後ろから声がしました。
「やっと見つけたね、イングロール!」
女の子は振り向いて、驚きました。そこには、死んでしまったはずの男の子がいました。
「君を外に出すには、これが一番手っ取り早いと思ってね」
「あなたは死んだんじゃなかったの?見つけたって、この館を?
それと、私の名前はイングロールじゃないわよ。知ってるでしょ?」
「そんなに興味を持ってもらえるなんて嬉しいね。質問はひとつずつだよ」
男の子は右手を前に出して、人差し指を立てました。
「まず、僕はそもそも死んでない。死んだフリをしていたんだ。君をここに導くためにね。
まあ、瞳を見るまで星夜光?で撃たれるとは思ってなかったけど」
「星夜光?あれは星夜光って言うの?」
男の子は中指を立てました。
「2つ目の質問だね。そう。少なくとも故郷ではそうだった。君も僕の故郷を見たんだろう?」
「見たかもしれない。あなたが星から来たことはなんとなくわかってたわ」
「うん。そうだろう。じゃあ3つ目の質問に答えるよ」
男の子は薬指を立てました。
「そう。僕は君にこの館を見つけてもらいたかった。僕一人じゃここまで辿り着けないからね。
君のように、星を読む力が無ければ、とてもこの場所を見つけることはできないんだ」
「それで、ここは何なの?」
男の子は小指を立てました。
「4つ目。この館は、星見の塔。かつてキュトスとアルセスが星を眺めた場所に立てられた館。
この館は、灯台でもあるし、見張り塔でもある。観測台でもあるし、素敵な館でもある。
館もすばらしいけど、この場所もすばらしい。少なくとも君にとってはね。
そう、この場所には――朝が来ないんだよ」
「本当?本当なの?信じられない!」
女の子はとても興奮しました。夢にまで見た楽園が、ここにあったのです。
そして、にっこりと微笑むと、男の子にお礼を言いました。
「どうもありがとう」
「いやいや、君は自分の力でここに来たんだよ。それにしても、君の笑顔なんて始めて見るな」
男の子は空いている左手で頭を掻きながら、最後の指、親指を立てました。
「そう、喜んでくれて結構だけど、5つ目の質問を忘れてはならない。
君の本当の名前はイングロール。キュトスの姉妹のイングロールだ」
「イングロール。変ね。そう思うと、私はすでにその名前を知っていたみたい」
「事実そうなんだけどね。忘れてただけなんじゃないかな」
「君を外に出すには、これが一番手っ取り早いと思ってね」
「あなたは死んだんじゃなかったの?見つけたって、この館を?
それと、私の名前はイングロールじゃないわよ。知ってるでしょ?」
「そんなに興味を持ってもらえるなんて嬉しいね。質問はひとつずつだよ」
男の子は右手を前に出して、人差し指を立てました。
「まず、僕はそもそも死んでない。死んだフリをしていたんだ。君をここに導くためにね。
まあ、瞳を見るまで星夜光?で撃たれるとは思ってなかったけど」
「星夜光?あれは星夜光って言うの?」
男の子は中指を立てました。
「2つ目の質問だね。そう。少なくとも故郷ではそうだった。君も僕の故郷を見たんだろう?」
「見たかもしれない。あなたが星から来たことはなんとなくわかってたわ」
「うん。そうだろう。じゃあ3つ目の質問に答えるよ」
男の子は薬指を立てました。
「そう。僕は君にこの館を見つけてもらいたかった。僕一人じゃここまで辿り着けないからね。
君のように、星を読む力が無ければ、とてもこの場所を見つけることはできないんだ」
「それで、ここは何なの?」
男の子は小指を立てました。
「4つ目。この館は、星見の塔。かつてキュトスとアルセスが星を眺めた場所に立てられた館。
この館は、灯台でもあるし、見張り塔でもある。観測台でもあるし、素敵な館でもある。
館もすばらしいけど、この場所もすばらしい。少なくとも君にとってはね。
そう、この場所には――朝が来ないんだよ」
「本当?本当なの?信じられない!」
女の子はとても興奮しました。夢にまで見た楽園が、ここにあったのです。
そして、にっこりと微笑むと、男の子にお礼を言いました。
「どうもありがとう」
「いやいや、君は自分の力でここに来たんだよ。それにしても、君の笑顔なんて始めて見るな」
男の子は空いている左手で頭を掻きながら、最後の指、親指を立てました。
「そう、喜んでくれて結構だけど、5つ目の質問を忘れてはならない。
君の本当の名前はイングロール。キュトスの姉妹のイングロールだ」
「イングロール。変ね。そう思うと、私はすでにその名前を知っていたみたい」
「事実そうなんだけどね。忘れてただけなんじゃないかな」
「……さあ、もう質問は全部片付けた。あの光は、君の姉さんであるダーシェンカのものだ。
君はこれから彼女に会って、話をしなくてはならない。キュトスの姉妹として。
姉妹の詳しい話とかは、彼女から聞くことができるはずだよ」
「あなたは来てくれないの?」
「うん、残念ながらね。他に片付けることがたくさんあるんだ。もうここには来れないと思う」
イングロールは表情を曇らせました。ここでずっと星を眺めて、彼の誘いを断る。それが理想でした。
「ごめんよ」
イングロールは少し考えると、男の子に尋ねました。
「ねえ―――名前を教えてくれない?嘘のじゃない、本物の名前。
私の本当の名前はイングロールだった。あなたにも本当の名前があるんでしょ?」
「鋭いね。教えてあげてもいいけど、約束して欲しいんだ。
僕の名前と、僕が教えたことは誰にも言わないで欲しい。無論、これから出会う君の姉さんにも」
ダーシェンカの光で、男の子の顔ははっきりと見えていました。
イングロールはその星の輝く瞳で、しっかりと男の子を見据えて答えました。
「約束する」
男の子は、ゆっくりと、1つ1つの言葉の発音を確かめるように言いました。
「よろしい。僕の本当の名前は―――ハグレス?。ハグレスだ」
「ハグレス。いい名前。青く輝く星のような響き」
ハグレスは笑いました。何でも星に結びつける、イングロールがおかしかったのです。
「君はやっぱり変わっているなあ」
「そうかしら?」
辺りに、冷たい夜風が吹きました。
風が収まると、イングロールは改まった態度で言いました。
「ハグレス。私は星空が一番目に好きだけど、あなたは二番目に好きよ」
「それは嬉しいね」
「だから、また会えるよね…?」
「それは君次第だね。約束を守ってくれるなら…」
女の子はすぐに力強く答えました。
「守るわ!」
イングロールに詰め寄りながら、ハグレスは言いました。
「―――それなら、きっと」
ハグレスは、イングロールの額にキスをして、はにかむように笑いました。
「―――また会おう!」
そして、ハグレスは、崖からさっそうと飛び降りました。
イングロールがその崖の下を見ても、星々も姉の光もそこを照らしてはくれませんでした。
君はこれから彼女に会って、話をしなくてはならない。キュトスの姉妹として。
姉妹の詳しい話とかは、彼女から聞くことができるはずだよ」
「あなたは来てくれないの?」
「うん、残念ながらね。他に片付けることがたくさんあるんだ。もうここには来れないと思う」
イングロールは表情を曇らせました。ここでずっと星を眺めて、彼の誘いを断る。それが理想でした。
「ごめんよ」
イングロールは少し考えると、男の子に尋ねました。
「ねえ―――名前を教えてくれない?嘘のじゃない、本物の名前。
私の本当の名前はイングロールだった。あなたにも本当の名前があるんでしょ?」
「鋭いね。教えてあげてもいいけど、約束して欲しいんだ。
僕の名前と、僕が教えたことは誰にも言わないで欲しい。無論、これから出会う君の姉さんにも」
ダーシェンカの光で、男の子の顔ははっきりと見えていました。
イングロールはその星の輝く瞳で、しっかりと男の子を見据えて答えました。
「約束する」
男の子は、ゆっくりと、1つ1つの言葉の発音を確かめるように言いました。
「よろしい。僕の本当の名前は―――ハグレス?。ハグレスだ」
「ハグレス。いい名前。青く輝く星のような響き」
ハグレスは笑いました。何でも星に結びつける、イングロールがおかしかったのです。
「君はやっぱり変わっているなあ」
「そうかしら?」
辺りに、冷たい夜風が吹きました。
風が収まると、イングロールは改まった態度で言いました。
「ハグレス。私は星空が一番目に好きだけど、あなたは二番目に好きよ」
「それは嬉しいね」
「だから、また会えるよね…?」
「それは君次第だね。約束を守ってくれるなら…」
女の子はすぐに力強く答えました。
「守るわ!」
イングロールに詰め寄りながら、ハグレスは言いました。
「―――それなら、きっと」
ハグレスは、イングロールの額にキスをして、はにかむように笑いました。
「―――また会おう!」
そして、ハグレスは、崖からさっそうと飛び降りました。
イングロールがその崖の下を見ても、星々も姉の光もそこを照らしてはくれませんでした。
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