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キュトスの姉妹
結界の六十二妹



累卵の記述項

2-45マリアフィーリース。 0-45,1-45,B-45とも言われる。

シャフティールバルティオーが数人の姉妹たちの前に現れ、一つの卵を産み落としていった。
小さな少女が丸々入るような巨大な卵は、シャフティールバルティオーがかなたへ去っていくのと同時にひび割れ、
中から覗いたのは禍々しい牙から涎を滴らせた口だった。
不運にも、偶々その卵を覗き込んでいた一人の姉妹がその口の餌食となった。
18番コキュートスは断末魔を上げる間もなく頭蓋を食い千切られそのまま全身を大きく裂けた口で飲み込まれてしまった。
15番カルミセアの反応は素早く、新生したその姉妹を危険と判断した彼女はありったけの呪詛をその口の中に送り込んだ。が、全身全霊を込めたカルミセアの強大な呪詛を、あろうことかその口はばりばりと噛み砕き、そのまま飲み干してしまった。そこで唖然としてしまったのがいけなかった。
卵からにょきりと伸びた真っ白な腕がむんずと彼女の頭を掴み、手の平の端から端まで裂けたその口がカルミセアの頭部をがぶりと噛み千切った。姉妹がばくりばくりと食われていくその姿を見て腰を抜かした43番アミアウィズは悲鳴を上げながら這いずって逃げようとしたが、ついにその卵を割って全身を露わにしたその姉妹を見た瞬間、アミアウィズは全てを諦めた。
すらりとした長身と、その倍はある銀色の髪。その一本一本がまるで蛇のように不気味にうねり、前に垂れた髪の狭間から覗いた真紅の瞳孔は爬虫類のように縦に割れていた。
まさしくそれは、獲物を前にした蛇そのものの姿。 その姉妹は、蛇のような女であった。
一瞬でアミアウィズの前まで駆け抜け、アミアウィズが知覚するよりも早く頭から丸呑みにした恐るべき手の平。その中央で唸る口は、明らかに手の平の横幅を超えて横に裂けていた。
一部始終を極小の扉から覗き見ていた14番コート・ドールは、この事態を即座に5番ディスペータに報告。
彼女はこの新たなる姉妹を危険視した。全ての姉妹にこのことが知られては大なり小なりの混乱が発生するだろう。
できるだけ迅速に事態を収拾するため、ディスペータは自らがその場に赴き新たな姉妹と交渉を行うことを決めた。
が、その思惑は頓挫したのである。
折りしもつい先日に6番ミスカトニカが姉妹最初の完全な消滅を迎え、姉妹たち全体がある種の危機感と不安を感じていた時期であり、バランサーシュトラールが調整作業のため新設された黒百合宮?に篭っていた時であった。多くの姉妹がその場に集まっており、コート・ドールのひそやかな報告は期せずして漏れ、そのまま姉妹全体に広まってしまったのだ。
つい先日、姉妹たちは初めての経験を味わったばかりであった。すなわち、不滅のはずの姉妹を永遠に失うという経験を。多くの姉妹たちが悲しみ、そして自らの身もまた永遠ではないのだと、漠然と抱いていた安心感を失った姉妹たちが現れていた。
そこに現れた凶暴な姉妹は三人の姉を瞬く間に食い殺したのだと言う。
ディスペータが気付いた時には、既に手遅れとなっていた。彼女が姉妹たちを落ち着かせようとすれども、上位姉の大半が不在の今、大した求心力を持たない当時のディスペータの言葉に耳を貸すものはいなかった。
姉妹たちの意見は四つに分かれた。
一つ目は不干渉。我関せず、という魔女らしいスタンスを貫こうという意見。
二つ目は親交渉。まずは話し合い、説得に当たろうという意見。
三つ目は復讐。あるいは、こちらが殺される前に殺してしまえという意見。
四つ目の意見は、彼女の軍門に下り安全を確保しようというものであった。
これにより幾人かの姉妹がその「蛇の姉妹」の配下となり、彼女を説得あるいは討伐しようとしたものは残らず返り討ちに合い、滅ぼされはしなかったものの、幾人かは死亡することになった。

「蛇の姉妹」は自分の名前を知らなかったが、シャフティールバルティオーから継承した知識の中から自分にふさわしいと考えた名前と言葉を選び、己をマリアフィーリースと名づけた。
彼女は無性になにかを喰らいたい気分であり、慢性的な飢餓感はマリアフィーリースの思考を曇らせていった。
彼女は食欲を第一に行動する。そのためならば姉であろうが妹であろうが躊躇わずに喰う。
しかし幾度かの姉妹との交戦の果て、最後にやってきたディスペータとの三日三晩に渡る激戦は彼女にある種の恐怖、あるいは学習効果とでもいうべきものをもたらしていた。
ディスペータは初めから妹を殺すつもりは無く、丸呑みにされたというアミアウィズを無事に救出することにのみ念頭を置いていた。一日かけて相手の動きを分析し、さらに一日掛けて相手を痛めつけて消耗させ、最後の一日でマリアフィーリースを生きたまま解体してその腕からアミアウィズを救出してのけたのである。
最初の殺された二人については既に手遅れと諦めて帰還したディスペータだが、マリアフィーリースにとってそれは初めての完全な敗北であった。
彼女はそれ以降、姉妹で食欲を満足させることを諦めた。
しかし、マリアフィーリースの食欲というのは通常の食物、つまり植物や生物などでは満たすことができなかった。
彼女は魔女などの高い霊格を持つものを喰うことでしか食欲を満たせなかった。
彼女は矛先を変えた。
配下の姉妹たちを引き連れ、亜大陸に向かったのである。
亜大陸と本大陸の中間地点に浮遊する巨大な岩塊、浮遊大陸イヴァ・ダスト?の真下に巣くう魔女達がいる。
キュトスの姉妹たちの技術を盗み、飛来神の力を借り受けて反映を極めていた人間の魔女達である。
彼女たちがあがめる魔女の神クロウサー。マリアフィーリースは、クロウサーを配下ともども喰ってしまえば自分の飢餓感も消えうせるのではないかと考えた。
マリアフィーリースは魔女たちを虐殺し、天空で翼を広げる巨大な神へ襲い掛かった。
戦いは四つの月が天頂で七回交差するまで続けられた。配下の姉妹たちもクロウサーの魔女たちもその全てが力尽き倒れ臥す中、最後まで立っていたのはマリアフィーリースであった。彼女は掌の口で巨大な神を飲み込むと、勝利の雄たけびを上げたという。
その声は亜大陸の南の果て、本大陸の北方にまで響き渡り、世界中を震撼させた。
だが、クロウサーは死んではいなかった。喰われたクロウサー神はマリアフィーリースと同化し、新たなる神として彼女を内側から乗っ取ろうと画策していたのだ。
そんなことが自分の内で起こっているとは露知らず、マリアフィーリースは満たされた食欲に満足しつつ、クロウサーの魔女たちと死から蘇った配下たちを引き連れ、東の地へ旅立った。新天地で自らの王国を築くことを決めたのである。
マリアフィーリースを恐れた大半の魔女達はその配下となったが、しかしフィルモランの大魔女?に絶対の忠誠を誓っていた少数の魔女達はマリアフィーリースに従うことは遂に無かった。この魔女達は、後世になってクロウサー家忠誠者?として名を残し、その血筋の者は特に大きな力を持つとされている。

たどり着いた灰色の大地で、マリアフィーリースはクロウサーを裏切った魔女達に永遠に自分の奴隷となる呪いをかけた。だが、彼女は強大な敵を倒したことで慢心し、油断しきっていた。
気がついたときには呪いを倍にして返され、強大な呪詛によってマリアフィーリースは絶命した。
この呪詛を送り込んだ者こそ、マリアフィーリース襲撃の時に不在であった魔女達の長、フィルモランの大魔女である。マリアフィーリースが死に際に撒き散らした血潮は灰色の大地を染め上げ、赤く濁った灰色の大地は永遠に呪われた。

呪われた大地は灰色庭園と名づけられ、その場はマリアフィーリースの墓地にもなった。
配下の姉妹たちは灰色庭園を拠点にした。かつてのマリア派?毒花を中心とした毒花派?と呼ばれる派閥となり、ディスペータ派?イストリン派?などの主要派閥に対しては不干渉不介入を宣言。毒花がその本性を露わにするまで遥かな東の地で孤立したまま長い年月を過ごすことになる。


追記。
裏切ったクロウサーの魔女達は、フィルモランの大魔女が呪いを返したおかげで呪われずに済んだが、その心に焼きついたマリアフィーリースの絶対的な恐怖は消えず、彼女が死した後もその墓を守り、次代の姉妹に従うために灰色庭園で子孫を残し続けていった。

そして、マリアフィーリースの死から十年後。
次代となるカルル・アルル・アの「最初のサイクル」であるモリクフィアレンが誕生するのであった。
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