多人数で神話を創る試み『ゆらぎの神話』の、徹底した用語解説を主眼に置いて作成します。蒐集に於いて一番えげつないサイトです。

物語り

若い頃の木戸野2の続き

記述

 若者のような疑問だが、今でもおれには判らない。どうして生きていられるんだろう。どうして毎日毎日生きるって仕事をやれるんだろう。判らない。判らないけれども可能だ。ずっとやってきた。やれたからこそ今、死者たちについて書ける。?スティレット?にはできないことだ。
 過去のおれはまたリンさん?と一緒に仕事を始めた。相変わらずリンさんはいろいろなことをやっていてその日は以前書いた競馬についての仕事だった。おれは指定された馬券を買うと、たまたまそばにいた男を使い走りを命じた。若造のおれにいきなり命令されて男はむっとしたようだったが、札を握らせると下手にでてきた。おおかた帰りの電車賃もないほどすってしまったのだろう。おれはさらに札を重ねると届け先を指定した。
 これで馬券は届いた。勝敗はラジオでもなんでもで判るだろう。金はリンさんが自分で精算すればいいことだ。おれは足に使ったリンさんの車で警察へ向かった。
 おれは正面玄関から堂々と警察に入ると受付に書類を提出した。受付の人間は怪訝そうにおれをみた。けれどもおれがなんの感情もなく見つめ返すと目を伏せた。おれは遺体安置所の場所を尋ねた。
 細長い冷蔵庫のようなところからおれはスティレットの死体を袋ごと引きずり出すと、引きずりながら裏口から出た。停めた車までのあいだすれ違った人間が視線を投げてきたが、無視した。正規の方法でスティレットを回収した。文句を言われる筋合いはない。
 死にともなってスティレットの身元がわかったのでおれはスティレットの実家へ向かった。墓になにか手向けてやろうとおもった。そこでおれは彼女の両親が彼女を引き取るのを躊躇ったのを知った。世間体を気にしたようだった。それに諸費用がなかったというのもあったようだ。
 おれはスティレットの実家の胸の詰まるような空気を思い出す。スティレットを後部座席に乗せると、おれは車を砂漠へ走らせた。
 車をハイウェイから測道へ入れ、道がある限り進み、道がなくなれば、スティレットを背負って先へ進んだ。日が落ちてもおれは足を止めず、月の落ちた頃になって、ようやく足を止めて、穴を掘り始めた。
 スティレットを埋めると使ったスコップを墓標代わりに突き立てて立ち去った。
 おれはゆらぎ市に戻った。リンさんのアパートの前に車を停める。車に寄りかかったまま、運転席に手をいれて、クラクションを叩いた。アパートの2階をみる。人影がない。帰ってないのか。
 おれはクラクションを叩く。何度も叩いたせいでしまいにはめり込んでしまった。
 やがてアパートの階段を降りる音が聞こえた。リンさんだった。
 星が散った。足から力が抜ける。おれは膝をついた。リンさんから目に停まらぬ一撃を受けた。
 胸ぐらを捕まれる。リンさんの顔が視界一杯に広がる。リンさんの息が少しだけ普段より荒かった。興奮しているようだと冷静におもった。おれはりんさんの黄色っぽい光彩をみつめた。
 「なにをしてやがった」とリンさん。凄みのある声だが、どこかでふるえているような気がした。気のせいかもしれない。わからない。
 「スティレットを埋めにいきました。砂漠に」
 「そんな下らん事情でサボタージュしたのか」
 撤回しろとはいえなかった。身体を車にぶつけられて息が詰まったからだ。
 リンさんはさらに膝をおれに入れた。何発か食らわせるとおれから手を放した。
 おれは吐く。でも何も食べていなかったから胃液しかでない。
 リンさんが訊いた。
 「ガキ、おまえはどうやって遺体を引き取った。他人のお前にはできないはずだ。あの糞世間体を気にする親に金でも握らせて代理人にでもなったか。としたら糞結構な金の使い方だな」
 「まったく糞結構な金の使い方ですよ」と答えながらおれは車を支えにして立ち上がる。その場をさろうとした。リンさんの声をおれは背中で聞く。
 「待て、木戸野。お前、どこにいくつもりだ」
 「スティレットの親になんて金は払っていません」とおれは立ち止まるが、振り返らずに答える。「海道署長?に一筆書いてもらったんですよ」
 「木戸野、お前はおれから去るというのか。お前は海道につくというのか」
 「目に映ったように」
 舌打ちの音が聞こえた気がした。背中がぞくりとする錯覚を覚えた。反射的に拳銃を抜いたリンさんを想像する。リンさんらしいとおもい、流れに任せて、そのまま歩き、花火のような銃声を聞いた。おれの身体は崩れた。
 おれは痛みで気がつく。右耳がひどく痛み、耳鳴りがした。一瞬だけ意識が飛んだようだ。右耳にふれると耳の形状には問題ないらしかった。どうやら鼓膜が破けているようだ。
 リンさんの放った銃弾は右の側頭部をかすめたらしかった。
 おれは立ち上がるとまた歩き始めた。
 背中に視線を感じたが、おれは決して振り返らない。


 おれはリンさんのもとから去り、新任の警察署長、海道のがわについた。リンさんも海道もハンドレッドドラゴンクライブの構成員だが、役割や受け持っている範囲が違う。おれはまったくの新参者として出直すことになった。
 海道署長もまたおれと違った意味合いで新参者だ。前の署長の持っていた人脈を掌握し直したり、締め付けていた連中を自分のやり方で締め付け直さなくてはならなかった。要は下っ端にボスはおれだ、従えと強要しなくてはならなかった。
 というわけでおれは海道の挨拶回りに付き合う。もちろんボディガードとしてだ。リンさんの助手をやっていたから異能と戦闘経験を買われたらしい。ボディガードはおれ以外にもいて、羽川?という男もそうだった。この男は以前から海道の部下だったようで、海道と羽川はツーカーの仲だ。
 海道はおれと羽川を連れて各所に赴く。多くは海道にとりあえず恭順の意を表して今後の動向をうかがっていた。けれどもすでに海道が気に食わないらしく銃火を交えることもあった。
 海道とおなじくおれは自分を売り込まねばならなかったので、リンさんと一緒だったときは隠し球にしていた異能を積極的に使った。敵対者たちはあらゆる攻撃を受け止めて立ち向かってくるおれに戦いたようだった。
 もっとも海道に刃を向ける連中はそれなりの準備をしていた。おれやリンさんと同じく異能者だったり、異能者を飼っていた。
 だから何度も死にかけたが、羽川と海道の支援で命を拾った。
 海道の支援は正直なところ意外だった。海道は他者を躊躇いなく見捨てるタイプとおもっていたからだ。けれども自殺志願者か、賭博者か、今日も明日もない者のように平然と危険に突っ込んできた。おれにとって海道は不可解な男だった。
 不可解といえば羽川も妙な男だ。もっともそうみえるのは羽川が非常に寡黙な男だからかもしれない。今までリンさんのようにおしゃべりな男と一緒にいたのにおれが慣れていないのかもしれない。なにしろリンさんはマグロのようだった。マグロが泳がないと窒息して死ぬようにリンさんも喋らないと窒息して死んでしまうかのようだった。
 マグロといえば羽川もまた魚のような印象がある。といっても川魚で石の下に隠れて釣り人を苛立たせる種類のものだが。
 これらの期間は試用期間だったらしい。海道はおれに個人で動くように指示をした。
 おれは命令のもと夜の街を闊歩する。吸血鬼が領地をいくように。


海道に呼ばれたのでおれは警察署へいく。犯罪者のおれが犯罪者兼警官のもとへ足を運ぶ。署長室のドアを叩くと「入れ」と返ってきた。
ドアを開けると、海道はデスクに足を乗せてコインを宙へ投げた。このコインを海道は右手の甲でキャッチして左手で覆う。
「表か裏か? 先に言いなさい」
あのコインの裏表を当てろということか。おれは答える。
「表です」
「なら、私は裏だ」
コインを現すとコインは裏側をみせていた。
海道はコインをおれへ投げてよこす。
「裏表が本当にあるか確認しろ」
おれはコインをひっくり返す。まともなコインだ。二枚重ねになっているわけでもない。もっとも他に細工の仕方はあるからこれで海道がまともな方法を行ったかは確認できない。
なぜこんなことをするのだろう。海道はまだおれを試しているのか。わからない。だから調べてみよう。
「もしコインをすり替えられたら」
おれは海道を見据える。リアクションによってこいつの考えが読めるはずだ。仮に読めないとしても参考になる可能性がある。さあ眉を寄せるのか、口笛を吹いて誤魔化すのかみせてくれ。
が、海道はほほえんだ。小さい子が親へ悪戯を仕掛けて成功したような笑い方だった。普段の海道は冷たくドライな態度を保っている。初めてみた表情だった。
「木戸野。そのコインをもう一度よく確認してからコイントスしろ。こんどは俺が先に決める。そうだな、次も裏だ」
おれはやる。裏が出た。おれは不審に思ったのだが、海道に伝わってしまったらしく、「もう1回だ」と言われてしまった。
結局30回ほどやってすべて海道は勝ってしまった。
おれは眉をよせる。困ってしまった。
「海道署長、あなたはとても幸運らしい」
「幸運かどうかなど私にはわからない。だが、私は自分の運を信じている。さて遊びはここまで。仕事の話をしようか」
「そうです。私は仕事のために呼ばれたはずです」
「この辺り一帯の連中は締め付けた。しかし未だにできない奴らもいる。ガキ共だ。金も仕事もなくて暇を持てあましているガキどもはなかなか統制できない。やってしまえ」
「方法は?」
「警察にわからないようにするならば、殺しても構わん」
「殺すには数が多すぎます。組織化してもいいですか。ガキ共をしつけます」
「木戸野、きみが大久保リンからしつけられたようにか」
「はい。リンのやったようにおれもやります」
海道は目を細めた。私は見返す。すると海道は髪を触って整え、「もういけ」と命じてきた。
おれは警察を後にした。


 吸血鬼のようにおれは夜の街を歩く。金持ちのガキ、威勢の良いガキを有象無象のガキ共の中から見つけ出す。こいつらがリーダー型になることが多いからだ。
 金持ちのガキや威勢の良いガキはたいてい被っていた。まあ犯罪者やる前のおれの生活水準は底辺を這っていたから、暇を持て余せるだけでもだいぶ余裕があることになる。
 リーダー型のうち金持ちのガキどもを始末しよう。戻る場所のある奴らは暴力にさらされたら本来いるべき場所へ帰るだろう。金があるということはそういう風に生きる場所を選べるってことだ。俺からいわせれば。
 というわけでグループの大半をぶち倒した。烏合の衆だ。金をばらまく奴らが姿を消せば、群れる理由はなくなり、小さいグループになる。これらのグループは威勢の良いガキどもたちに圧倒されて壊滅もしくは吸収されてしまう。威勢の良いガキたちはおれのような犯罪者候補か、街よりもマシな場所を見つけられない連中のことだ。それと単なる馬鹿どもだ。
 ここでいう馬鹿共というのは頭のねじが外れた奴らだ。リンさんといたおれからみても狂っている。生まれてくる時に子宮になにか落としてしまったらしい。まあ落としたといっても今日まで生きてこれたのだからたいした物ではないのかもしれない。あくまで本人とって。周囲のおれやガキ共やハンドレッドドラゴンクライブは困る。
 そんなわけで馬鹿共はこの機会に処理してやりたかったが、こいつらにかかずらっているうちに威勢の良い連中が組織化してしまう危険があったので、威勢の良い連中から吹っ飛ばすことにした。行くところの無い奴らが迷走するとそのうちに行くところがないのが当然という事実に気づいてしまって自分で場所を作ってしまう。少し前まではガキ共のようなもの(連中と違っておれはちゃんと働いていたが)だったおれとしては横やりをするのは少々気まずい。まあ運が悪かったというやつだ。
 前置きが長くなったが、こうやっておれは組織化の準備をした。
 そしておれはリンさんといた頃のスーツに袖を通し、拳銃を身につけ、武器を隠すようにマントのようなコートをまとう。
 交渉なんてするつもりはない。飴と鞭なんて使い分けない。藁を刈る鎌のような暴力で選別する。果たして誰が残る?果たして誰が残られる?


 夜の街のもっとも闇深い路地を若者たちが走る。おれは一定の間合いで追いかける。おれの持つ拳銃は5ミリ拳銃だ。この距離でないと必殺の威力を保てない。それにこれは狩りを兼ねた試験でもある。
 若者たちはT字路にぶつかる。どちらへ逃げたほうがいいか迷っているようだ。昨日までこの辺りは若者たちの領域だったが、昼の間にあちらこちらを封鎖しておいた。だからこの領域は今夜だけはおれともう1人のものだ。
 発砲する。1人がびくりとしてから倒れる。この距離なら小口径の銃弾でも体内に残留して致命傷を与えられる。
 若者たちは叫んで二手に別れた。考えあっての行動ではなくて反射的なものだろう。左へ2人逃げ、右へ4人逃げた。どちらにいっても行き止まりだ。いずれ戻ってくる。
 敵の全滅を望むならばこの場で待ち伏せするのがいい。けれども今回に限っては右に走ってみた。左へ行った連中の始末はまあ試験の正否を確かめてからでいい。後ろからやられる危険があるが、まあ今回は仕方ないし、おれには一般人より高い防御力があることだしね。
 右へいくとちょうど4人がもめていた。逃げたとおもったら行き止まりで後ろから銃を持った犯罪者が追ってくるのだからまあ混乱しても仕方がない。今回襲ったグループのリーダー格の少年が一番下っ端の少年を殴りつけ、わめく。便乗して他の連中もこの少年を殴った。
 どこにでもみられる光景だ。今でこそ銃を振り回す身分だが、殴られ役の少年にほど近かったおれとしてはあまりみていたい気分ではない。それにこういうピンチで団結しないというのもなかなかいやらしいことだ。
 1人を撃ち殺すと連中は静かになった。どうやら現実を理解したらしい。これから駆除される人間たちに理解が遅いというのは酷だからいわない。おれは殴りまわされていた少年にいう。
 「紙屋?少年、今日の狩りは終わりだ。この獣たちはおまえの取り分だ。遠慮無く受け取り給え。仕事への正当な報酬だ」
 少年たちに動揺が走る。紙屋少年は拳銃を抜いた。おれと同じもので前払いの報酬だ。仲間を売ることの。まあ紙屋にとってこいつらはだいぶ以前から仲間ではなかったようだが。もちろんこの連中にとっても紙屋は仲間ではなかっただろう。せいぜい便利な道具といったところか。
 少年の1人が拳をつくって紙屋少年へ襲いかかる。紙屋少年は拳銃を突きつけ、ためらいもせずに撃ち抜いた。おれは手を叩く。
 「眼球を撃ち抜くのは悪くないアイディアだ。致命傷を与えられるからな。だが、やはり前歯を狙って撃ったほうがよくないかな。なにしろおおむね標的が大きい。目が細い奴を狙ったら頭骨で弾が滑るかもしれない」
 などとおれが喋っているうちに紙屋少年はかつての仲間を撃ち殺した。
 紙屋少年の銃がおれに向けられた。
 「眼球ですけど、その通りですね。木戸野さんみたいに目の細い人には当てづらいです」
 「そうだろ。まあ耳の穴や側頭部にあるあごの蝶番みたいな箇所に当てられるようになったら眼球を狙うのもいいだろう。おれはやれるからお前の技をもらうぜ」
 「光栄っていっときますよ」
 紙屋め。おれも殺すつもりか。異能で防御開始、同時に甲高い音に右頬を叩かれる。わずかに遅れて銃声が響いた。おれは振り返りざまに撃つ。紙屋の銃声と俺の銃声が重なる。
 路上には死体がもう2つ転がる。さっきT字路で左へ逃げた連中だ。背後からならやれるとでも考えて戻ってきたのだろう。そうならば、敬意を払えるが、どんな勇気も機転も銃弾で打ち消せる。
 紙屋は死体の1つに近寄って指した。
 「両目が撃ち抜かれています。ぼくは右目を狙いましたが」
 「おれは左目を狙った」
 お互い良い腕してるねえとおれは新しい仲間紙屋の背中を叩いた。


紙屋のような少年をおれは11人集めた。サッカーチームと同じだけの数だ。これがおれの私兵でチームで可愛い子犬たちだ。
もっとも本当に子犬同然無知な連中なのでおれはゆらぎ砂漠?へ連れて行く。リンさんが俺にやったように彼らに戦闘技術を教えてやった。
技術を知らないとどうにもならないというもあったが、精神的な意味合いが強い。この訓練は。彼らはあまりに殴られすぎている。相手を殴り倒したり、放たれた拳を避けることを教えなくてはならない。できれば、脳みそでなくて脊髄反射でできるくらいに。
おれは海道から許可を取って一週間ほど訓練のための時間を取っていた。この最後の晩、ゆらぎ市へ戻る途中、おれたちは襲撃を受けた。
子犬たちには悪いが、正直にいうとラッキーとおもった。一週間ではまったく訓練にはならない。しかしここで技術を実践し、かつ有効と信じさせられたら、この一週間の意味はまるで違うものとなる。
敵を最初に見つけたのは紙屋だった。前方を示した。おれはみた。夜だったので視界が効かない。暗視スコープでのぞくが、まだよくわからない。しかしみていると判った。亜竜だ。
「総員戦闘態勢。前方の亜竜を敵と認定。攻撃する」
子犬たちに一瞬動揺が走る。が、紙屋が「ファイア&ムーヴ、迂回戦術ッ」というとチームが二手に別れる。片方のチームの指揮はおれが、もうかたほうは紙屋がとる。
紙屋のチームが移動を開始する。
おれは自分のチームに攻撃を命じる。おれは帽子のつばを少しだけ下げて無駄に銃火が目に入らないようにした。発砲音が連続する。亜竜は動きを止め、叫び、こちらに向かってくるが、着弾するたびに動きを止める。頑丈を誇る亜竜といえどもただの生物だ。先っぽの尖った銃弾には弱い。もっとも距離が遠く、チームの腕も良くないので、致命傷を与えられない。
致命傷を与えるのはもう少しあとだ。
おれからみて亜竜の右側で銃火。紙屋のチームが攻撃を開始した。十字砲火が形勢される。亜竜は手出しをされない。おれはチームに全身を命じる。するとチームはさらに二手に別れてお互いを援護しながら前進し始める。紙屋のほうもこちらに併せて距離を詰め始める。
雨のような銃弾。やがて亜竜は動きを止めた。死んだか。それとも死んだふりか。おれは命じる。
「目標の頭部を破壊しろ。目を狙って脳をえぐれ」
これだけ距離が詰まると命中率が上がった。おれは亜竜から目を背けた。


とまあ意気揚々とおれと子犬たちは訓練を終えたのだが、海道はいった。
「あまり銃を振り回すな」
「あのもやしっ子たちにどうさせろっていうんです」
「パンチ&キック」
海道の副官というか助手の羽川?が混ぜ返す。
「それに投げ技、関節技」
「よいね」と海道。「羽川、木戸野の子供たちに格闘技を仕込んでやってくれ」
羽川は実に変な顔をした。やぶ蛇とでもいいたいだろうが、悪いけれども利用させてもらうぜ。おれは子犬共に死んでほしくはないからな。
である地下駐車場で格闘技の練習をすることになった。紙屋を筆頭にして11人の子犬たちは羽川の指導のもと殴りっこを始める。羽川は1人1人様子を見る。拳の握り方が違うとか力み過ぎているなど教える。一通りみるとおれのもたれている壁に近寄ってくる。
「木戸野、どうだい? きみの犬コロどもは」
「それがさっぱり判らない。銃はそこそこいけるし、チームワークも割合あるとおもうが」
「ひょっとして木戸野は格闘技経験がないのか」
「実はないんだ」
異能の防御能力に任せきりだ。覚えたほうがいいだろうか。
「人体の急所に関する知識は」
「相応に。でなければ5ミリ拳銃なんて使わない」
もし射撃の腕に自信がなかったら9ミリ拳銃で24発入るタイプの奴を携帯するはずだ。実際のところ一時期はそっちをもっていた。今では使わないが。
「まあいいさ」と羽川「勝手に死ねばいい」
「冷たいね。そういうのは嫌いじゃないよ」
「嫌いなのは背中で銃やナイフの冷気を感じることか」
「そうかもね」と答えながらおれは疑問におもった。なぜ羽川はなぜこの文脈の会話であんなことをいったのだろうか。


一通り指導すると羽川は立ち去った。おれは覚えの良い紙屋に指導を任せる。地下駐車場に肉を打ち音が響く。やがて紙屋がこちらをみたのでおれはうなずいてやる。紙屋は訓練の終了を宣言した。子犬たちは散開する。
紙屋とおれだけになり、紙屋も頭を下げると立ち去った。おれも帰ろうとおもっていると出入り口から紙屋の叫び。
「木戸野さん!――――」
出入り口へ走る。薄暗い階段を登る。開け放たれたドアが外の光が差し込む。まぶしくて目を細める。その瞬間、陰る。不意の衝撃が転がってきておれは落ちた。
防御できない――視界に星が散った。が、おれはうなり声を上げて気合いで耐えて立ち上がる。足下からうめき声がしてぎょっとする。おれの服に血がついている。足下には血ダルマになった少年が転がっている。
こいつ帰ったはずなのに。「大丈夫か?」と意識を確認する。震える腕で出入り口をさして気を失った。おれはうなずくと一息で階段を登り、白昼に姿を現した。
外では子犬どもがスーツをまとった小柄な男を囲んでいた。紙屋と少年たちが男の左側面と背後から襲いかかる。しかし男の大振りな一撃で全員吹っ飛ばされる。なんて力だ。
おれは異能で打撃を無効にすると突撃する。タックル! 男は小柄だったから吹っ飛ぶ。「子犬共。逃げな。ここはおれが殿を務める」
「だけど――――――」
「だけどもくそもない。木戸野さんの命令だぞ」と紙屋が一括して子犬たちは姿を消す。
よし犠牲無しでいけるとおもった瞬間、男に腕を捕まれて投げられた。まるで棒きれを犬に放ってやるように安易に。おれの身体は宙を舞った。
 まずいとおもうが、対処を思いつかず困ってしまい、次の状況を待つが、そのときが来たら首の骨でもやってしまいそうで、こんなことを考えている自分を馬鹿のようにおもい、仕方ないともおもい、宙を舞うことに少しだけ心地よさを感じながら、投げた張本人をみると、帽子のつばをちょいと下げていて、まるで照れくさいかのようにみえて、リンさんは時々子供みたいにみえるとおもったところで、閃いて、宙をかくようにして電線を掴んだ。
腕がちぎれるかとおもった。そんなに痛くないから脱臼はしていない。でも筋は痛めたかも知れない。おれは電線からぶら下がると拳銃を抜き、大久保リン?へ突きつけた。
「てめえ、なにしやがる!」
「おいおい。そんな不安定な姿勢での射撃でおじさんを撃とうというのかい。それは無理ってもんだね」
リンさんは両手をあげておれの足下へ近づいた。
「受け止めてやるから落ちなさい」
おれは電線から手を放す。リンさんがひょいとその場から逃げた。やっぱりと思いつつ、着地と同時に前転する。衝撃を殺しきれず顔をしかめた。
「リンさん、あんた何の真似だ」とおれは銃を突きつけない。しまいはしないけれども「これでも同じハンドレッドドラゴンクライブ?の一員だ」
「独り立ちしたとおもったらもうけっこうな口をきくようになったな。おじさんの助手だったら口や目を有刺鉄線で縫合しちゃうけどな」
「やってみろよ」
「血気盛んはけっこう。撃つのはごめんだぜ。海道に逆らうことになるからな」
「どういうことだ。一枚噛んでいるのか」
「当然。海道署長が木戸野の練兵を見に行けってさ」
「それで1人血だるまにしたのか」
「おもちゃを傷つけられてかんに障ったか」
「おれはリンさんじゃない。飼い犬をやられて気が立っている」
「そうかい。そういうことにしておく」
「で、気は済んだか。これで終わりか。でなければ、相手をするぜ」
「今のでお前の性能も十分判ったよ。お前は相変わらず弱い。素直になってもう少しおれの真似をしなさい」
おれは背を向けた。血だるまになった少年を病院へつれていかなくては。おれはリンさんを見もしないで中指を立てた。出入り口のドアを閉めるとき笑い声が聞こえたような気がした。


子犬たちを森に放つ。夜の森は人食い鬼が闊歩する空間だが、犬は犬だから決して食われはしない。そしておれは異能という魔法の鎧をまとい、紙屋という忠犬を従えて狩りにいく。おれと紙屋は子犬たちの残す手がかりを頼りに人食い鬼に着実に近づく。
ガキ共の組織化には成功したが、完全ではない。ガキ共は毎年毎年増えるし、ただのガキを悪いガキや馬鹿なガキにしてしまう連中がたむろしている。おれはハンドレッドドラゴン以外の人食い鬼どもを撃ち倒す。狩人の隠し弾なんて持っていないし、弾に唾をつけることもしなかったが、それで十分だった。怪物を白昼に晒したらただの猿だったように人食い鬼から皮を剥がせば人間の死体があるだけだ。
だが、鬼の一匹が闇の深奥に隠れてしまった。鬼はひそかに子分を作ると街へ放ち、少しずつ勢力を拡大する。おれが犬を闇へ放ったのと同じことだ。
夕日に照らされた影がゆがんで大きくなるように敵の真の姿が掴めなかった。けれども敵と違っておれと犬たちは確かな鎖で繋がれていたし、敵が人間とも知っていた。
おれと犬たちは敵を各個撃破し、少しずつ力をそぎ落とし、本体のいる場所を探った。
暗中模索には違いなかったが確実に敵を追い詰めていたのだが、ここに海道からの連絡が入った。海道は街の有力者の娘の探索を依頼してきた。どうやらハンドレッドドラゴンクライブとゆかりの深い人物らしく助けざるえないようだった。同時に紙屋の報告が入る。敵の陣中にその娘をちらりと見たらしい。
おれは焦る。真正な誘拐犯なら金を払えばOKだが、半ば壊れた連中にはそんなことは通用しない。おれは強襲を犬たちに伝達する。


強姦と輪姦は嫌いだ。やるほうが良いだろうが、やられるほうがたまったものではない。たまにやったほうがやられたほうに金銭を渡すことがあるが、まったくもて糞ッ垂れの自己満足だ。死んでしまえ。いや出会い頭に殺してやる。問答無用だ。買売春には寛容に振る舞えるが、あれだけは許せない。
というわけで監禁場所を襲撃すると女の子が2人拘禁されていた。おれは子犬共にその場にいた男たちを拷問してから殺すようにいった。いや敵の情報も聞き出す必要があったので、この処置もしたのだが、自白剤を打つと聞きたくないことまでまくし立ててきたので、薬を使った奴は殺して、他の奴は普通に足の指から順に潰すことにした。で必要なことが判ったら目障り耳障りなので殺した。
さておれはどうしたものかと思案した。紙屋も眉を寄せて、困ったという表情をしていた。
おれは拳銃を抜く。拳銃の先で女の子たちのあごをあげる。「生きたいか、死にたいか」
救出対象もついでも同じ回答だった。
面倒臭いな、おれはおもう。紙屋がいった。
「おれがやりますんで。そっちのをお願いします」
「サンキュウ。後片付け任せたよ」
おれは救出対象の首根っこを掴んで引きずる。手に生臭い物がついて気色が悪かった。
部屋を出ようとしたとき銃声がした。おれは振り返る。
「おまえは彼女の欲するものを与えてやったんだ」
おれは今度こそ部屋を出た。

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