多人数で神話を創る試み『ゆらぎの神話』の、徹底した用語解説を主眼に置いて作成します。蒐集に於いて一番えげつないサイトです。

物語り

記述

星の楽園の物語(1/5)

昔々ある山の村に、星を眺めるのが大好きな女の子がいました。
女の子は昼は寝てばかり、夜になると一晩中、星をながめていました。
「朝なんて来なければいいのに」
と朝が来るたびにつぶやきました。
女の子にはお父さんもお母さんもいませんでした。
だからひねくれた性格になってしまったのだと、女の子の住んでいた村の人々は思いました。
だけど、その村の人々は優しかったので、その女の子を可哀想にも思って
みんなで面倒を見てあげていました。

ある日、男の子が星を眺めている女の子に尋ねました。星の特に綺麗な夜でした。
「きみはいつも星ばかり見ているけど、何がおもしろいんだい?」
女の子は答えました。
「私が星を見ていると、その星のことがみんなよりもよくわかるの。それがおもしろいのよ。
 その星がどこにあるのかとか、どんな人がそこにいるのかとか」
男の子は驚いて言いました。
「星に人がいる?そんなバカな。星っていうのは、空に描かれている絵なんだよ。
 アルセスキュトスのために描いてあげたんだ。アルセス・ストーリーに書いてあったよ」
女の子は何も言いませんでした。男の子はさらに言いました。
「ねえ、たまには星を見る以外のこともした方がいいよ。明日、僕と一緒に泉に行こう。
 水は綺麗だし、動物や鳥がいることもあるし、花も咲いてるよ」
女の子は返事をしませんでした。男の子は、溜息をついて自分の家に帰りました。

星の楽園の物語(2/5)

その日から、ほとんど毎日のように男の子は女の子を誘いました。
女の子は、決して男の子と一緒に行こうとはしませんでした。
しばらく経ったある日、その男の子はいつものように星を眺めている女の子を誘いました。
「そうだ、ちょっと遠いけど町まで降りるのはどう?町にはいろんなものがあるんだよ。
 大きな教会とか、珍しいおもちゃとか、変わった食べ物とか…」
「ありがとう。でもいいわ」
その日、男の子は諦めませんでした。
座って星を眺めている女の子の正面に立って、初めてその目を見つめました。
男の子は、そうして何か言おうとしたのですが、その言葉を忘れてしまいました。
女の子の大きな瞳は夜空のように暗く、そして星が輝いていました。美しい瞳でした。
「どいて。星が見えない」
「君の目の中に星がある!こんなの、見たこと無い」
男の子は、すっかりその目に見入ってしまいました。
「―――どいて」
女の子は、とても怒っていました。
男の子はようやくそのことに気付きましたが、すでに遅かったのです。
女の子の瞳の星が、ひときわ強く輝くと、そこから光の矢が飛び出しました。
光の矢が男の子の頭を貫くと、男の子はその場に倒れ伏せました。冷たい夜風が吹きました。
女の子は何が起こったのかわかりませんでした。すぐに人を呼びましたが、手遅れでした。
男の子のことについて、村の人々は大いに悲しみました。女の子もまた悲しみました。
いつもあんな態度でしたが、女の子は男の子のことが気に入っていました。
なぜなら、男の子はどこか、女の子が見る遠い遠い星に似た雰囲気を持っていたからです。

朝になると、みんなは集まって女の子のことを改めて考えました。
よく考えてみると、その女の子がいつ村に来たのか思い出せる者はいませんでした。
しかも、女の子が来てから少なくとも10年は経つのに、その姿は昔と全く変わっていませんでした。
村の人々はそのことを怖がりました。何故かそのことに気付かなかったことも怖がりました。
そして、村の人々は、その女の子を村から追い出すことに決めたのです。
村の人々はやさしい人たちでしたが、臆病な人たちでもありました。

星の楽園の物語(3/5)

村から追い出された女の子は、とりあえず夜まで一眠りして、それからこれからのことを考えました。
今まで何も考えてこなかった女の子には、何も思い浮かびませんでした。
いつものように、とりあえず星を眺めることにしたのです。
女の子は、すぐにひときわ明るい、女の子の近くにある星を見つけました。
今までそんな星を見たことは無かったので、女の子は不思議に思いました。
なんとなく、女の子はその星の方向に行ってみようと考えました。
そして、女の子の旅が始まりました。
見たことの無い星は、どういうわけか左へ右へ、何回も動いているように見えました。
だから女の子は、夜の間だけ、蛇のように曲がりくねりながら進んでいきました。
険しい山道でしたから、女の子は大変でした。昼間はぐっすりと眠りました。
日が落ちるとその星が真後ろ、つまり今まで通ってきた道の方向にあることさえありましたが
それでも女の子は、星に少しづつ近づいて来ていることがわかっていました。

12回目の夜でした。雲ひとつ無く、星は空に無数に輝いていました。
その時はもう、村の人々に貰った食べ物は無くなっていました。女の子も疲れていました。
女の子がいつものように星を追いかけていると、開けた高台に出ました。
星はものすごく近くに見えました。そこに、小ぢんまりとした館が立っているのが見えました。
その星は、その館の上で輝いていたのです。その時、後ろから声がしました。
「やっと見つけたね、イングロール!」

星の楽園の物語(4/5)

女の子は振り向いて、驚きました。そこには、死んでしまったはずの男の子がいました。
「君を外に出すには、これが一番手っ取り早いと思ってね」
「あなたは死んだんじゃなかったの?見つけたって、この館を?
 それと、私の名前はイングロールじゃないわよ。知ってるでしょ?」
「そんなに興味を持ってもらえるなんて嬉しいね。質問はひとつずつだよ」
男の子は右手を前に出して、人差し指を立てました。
「まず、僕はそもそも死んでない。死んだフリをしていたんだ。君をここに導くためにね。
 まあ、瞳を見るまで星夜光?で撃たれるとは思ってなかったけど」
「星夜光?あれは星夜光って言うの?」
男の子は中指を立てました。
「2つ目の質問だね。そう。少なくとも故郷ではそうだった。君も僕の故郷を見たんだろう?」
「見たかもしれない。あなたが星から来たことはなんとなくわかってたわ」
「うん。そうだろう。じゃあ3つ目の質問に答えるよ」
男の子は薬指を立てました。
「そう。僕は君にこの館を見つけてもらいたかった。僕一人じゃここまで辿り着けないからね。
 君のように、星を読む力が無ければ、とてもこの場所を見つけることはできないんだ」
「それで、ここは何なの?」
男の子は小指を立てました。
「4つ目。この館は、星見の塔。かつてキュトスとアルセスが星を眺めた場所に立てられた館。
 この館は、灯台でもあるし、見張り塔でもある。観測台でもあるし、素敵な館でもある。
 館もすばらしいけど、この場所もすばらしい。少なくとも君にとってはね。
 そう、この場所には――朝が来ないんだよ」
「本当?本当なの?信じられない!」
女の子はとても興奮しました。夢にまで見た楽園が、ここにあったのです。
そして、にっこりと微笑むと、男の子にお礼を言いました。
「どうもありがとう」
「いやいや、君は自分の力でここに来たんだよ。それにしても、君の笑顔なんて始めて見るな」
男の子は空いている左手で頭を掻きながら、最後の指、親指を立てました。
「そう、喜んでくれて結構だけど、5つ目の質問を忘れてはならない。
 君の本当の名前はイングロール。キュトスの姉妹のイングロールだ」
「イングロール。変ね。そう思うと、私はすでにその名前を知っていたみたい」
「事実そうなんだけどね。忘れてただけなんじゃないかな」

星の楽園の物語(5/5)

「……さあ、もう質問は全部片付けた。あの光は、君の姉さんであるダーシェンカのものだ。
 君はこれから彼女に会って、話をしなくてはならない。キュトスの姉妹として。
 姉妹の詳しい話とかは、彼女から聞くことができるはずだよ」
「あなたは来てくれないの?」
「うん、残念ながらね。他に片付けることがたくさんあるんだ。もうここには来れないと思う」
イングロールは表情を曇らせました。ここでずっと星を眺めて、彼の誘いを断る。それが理想でした。
「ごめんよ」
イングロールは少し考えると、男の子に尋ねました。
「ねえ―――名前を教えてくれない?嘘のじゃない、本物の名前。
 私の本当の名前はイングロールだった。あなたにも本当の名前があるんでしょ?」
「鋭いね。教えてあげてもいいけど、約束して欲しいんだ。
 僕の名前と、僕が教えたことは誰にも言わないで欲しい。無論、これから出会う君の姉さんにも」
ダーシェンカの光で、男の子の顔ははっきりと見えていました。
イングロールはその星の輝く瞳で、しっかりと男の子を見据えて答えました。
「約束する」
男の子は、ゆっくりと、1つ1つの言葉の発音を確かめるように言いました。
「よろしい。僕の本当の名前は―――ハグレス?。ハグレスだ」
「ハグレス。いい名前。青く輝く星のような響き」
ハグレスは笑いました。何でも星に結びつける、イングロールがおかしかったのです。
「君はやっぱり変わっているなあ」
「そうかしら?」

辺りに、冷たい夜風が吹きました。
風が収まると、イングロールは改まった態度で言いました。
「ハグレス。私は星空が一番目に好きだけど、あなたは二番目に好きよ」
「それは嬉しいね」
「だから、また会えるよね…?」
「それは君次第だね。約束を守ってくれるなら…」
女の子はすぐに力強く答えました。
「守るわ!」

イングロールに詰め寄りながら、ハグレスは言いました。
「―――それなら、きっと」
ハグレスは、イングロールの額にキスをして、はにかむように笑いました。
「―――また会おう!」
そして、ハグレスは、崖からさっそうと飛び降りました。
イングロールがその崖の下を見ても、星々も姉の光もそこを照らしてはくれませんでした。
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