□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第8話」終章・帰らざる旅路(後編)−− //
       // 壱拾参−3 ◆NqC6EL9aoU // Suspense,OC // 「Capitano」 // 2009/12/05



   □□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■

     −−「Capitano−第8話」終章・帰らざる旅路(後編)−−


「わん!わん!」と遠く吠える声がした。
「どうしたのカピタン?」というヘンリエッタの声が近づいたと思うと「クラエス!
早く来てっ!」という叫び声と共に少女の重みがジャンに覆い被さった。

暫くして「ジャンさん!ジャンさん!ヘンリエッタ!代わるわ!拳銃がある!あなたが
構えて!」という声がして、多少、重めの体重が代わって被さった。

わん!わん!というバセット特有の大きく響き通る吠声と「誰か〜っ!誰か〜っ!!
ジャンさんが!!」という声がした間もなく、もう少女一人分の体重がジャンの体に加わった。
ハァハァというリコの呼吸音・・・そうだ、持久走をさせているんだった・・・ジャンは
戻る意識の中で思い出していた。

「リコ!誰か呼んでくるわ!」というクラエスの声がして少し加重が減った後、回復しない
リコの荒い息が激しく首筋に吹き付けた・・・その擽ったさにジャンは目を覚ました。

「・・・大丈夫だ・・・単なる・・・立ちくらみ・・・だ。」
彼はベンチに座ったまま横に倒れていた。
彼女らはジャンが狙撃されたのかと思いガード体制に入っている様だった・・・教えたとおりに。

「リコ・・・よけなさい・・・ヘンリエッタ・・・銃を下ろしなさい・・・私は別に撃たれていない。」
「いいえ!ジャンさん!この場合は警護対象が命令しても・・・」
「適切な判断が出来る人が来るまでカバーしろと訓練しました!」

まいったな・・・早速「時間は取り戻せない」のか・・・。

ふがふが・・・ぴぃーぴぃー・・・。

さっきまで吠えていたバセットがトコトコと寄って来てジャンに鼻を近づけ
耳元で鳴くのだった。

「大丈夫だ二人とも・・・こうしてCapitano(大尉殿)が来て安心している。適切だ。
信じてやりなさい。」

言われたリコとヘンリエッタは困惑を隠せなかった。

「・・・あ、あのぉ・・・いいんですか?」
「本当に大丈夫なの?カピタン?」

バセットは高く大きく尻尾を降ってそれに答えた。

「野生の本能は人を遥かに越えている。思っているよりも・・・そういうことだ。」

ジャンは起き上がり両手を広げてベンチの背を持ち、空を見て寄りかかると
苦笑いを浮かべながら言った。

頭上にはさっきと同じく木の葉が光と織りなす明暗の交響があった・・・
綺麗だとジャンは思った。

「あそこです!」「兄さん!」「ジャンさん!」「狙撃者は!」「そんな物騒なものを持ち出すな!」
「何だそれは!?」「無いよりはマシだろう!」「誰か水を!」「ダメだ!いきなり飲ませるな!」
「タオルを濡らして持ってこい!」「担架だ担架!」

クラエスの声を先頭にドサドサと大人達の声が押し寄せてくる・・・顔を下ろしてみると・・・。

先ほどからいた二人とクラエス、血相を変えたジョゼと公社員と義体・・・大勢の者がいた。

少なくない者が拳銃を持って来たのは判るのだが、SMG5丁、自動小銃3丁、
ショットガン1丁、軽機関銃1丁に弾薬箱2つ、擲弾発射機1丁、防盾7脚、
鉄パイプやバールなど鈍器やスコップ等々、訳の判らないもの数本づつ、
緊急蘇生装置2つ、消火器3つ、カメラとビデオが合わせて4台、現場証拠保全用の
キット3組、何故かペンとノート1組、そして防弾装甲されたSUVが味方識別サインの
LEDをバイザーに点滅しながらABSを作動させ砂塵を上げて止まった・・・。

「・・・豪華キャスティングで、いったい何を始めるつもりだ君たちは?討ち入りか?はっはっは・・・」
両手を広げ座ったままジャンは目を伏せ高笑いした。

「兄さん!そんな言い方はないだろう!みんな幹部の兄さんが突然倒れているって聞いて・・・」
そういうジョゼを制止してビアンキ先生が脈を取り、持ってきたスポーツドリンクを
ジャンに差し出した。

「ゆっくりと噛むように数口飲んで。後は点滴で補った方がいい。恐らく過労と軽い熱射病だ。」
「・・・もう歳か・・・俺は。情けない倒れ方だ。」
「ここ暫く相当な無理をしていたのだからな。」

自分に"無理のない人生"なんて今まであるのか?疑問を抱きつつジャンは集まった人々に言った。

「騒がせて誠にすまなかった。援護には感謝する。但し!ここはあくまでも『社会福祉公社』だ。
威力偵察なら敵の思うツボな状況だ。以後、気をつけろ。
あと例の下らん件で疲れも溜まっているだろう・・・私のように倒れる前に各自で適宜、十分な
休息を取る様に。では解散!」

「はぁ〜」「まいったまいった」「おつかれさん」「まだ判らんぞ!」「じゃ震えてSUVに隠れてな!」
「お前そんな物どこから?」「あれ?何処だっけ?」「ヘンリエッタ、またクラエスの畑に行ってて良いよ」
「ヒルシャーさん、何でノートとペンなんですか?」「・・・ちゃんと拳銃もあるぞっ!で、そのスコップは?」
「え、クラエスの畑に手伝いに行くところで・・・」

三々五々に公社員は散って行く。

「兄さん!本当に大丈夫か・・・」
「ゆっくりと立って。あれだけ流暢な演説なら脳出血ではない。ジョゼ、一緒に肩を支えてくれ。」
両肩を支えられてジャンは立ち上がった。

小さな体がジャンの腰を支えようとした。
「ジャンさん・・・御一緒します。」

そのリコの体を跳ね除け、訓練に戻るよう言おうとしたジャンを見越したようにビアンキ先生が言った。
「支える者以外に護衛が必要だろう。私は何者でも命を救うのが仕事だ・・・貴方だけの盾にはなれないぞ。」

遠くを見つめるようにジャンが呟いた。

「・・・ヤツと刺し違えても構わない俺には盾など邪魔に過ぎない。そう思わないか。ビアンキ"医学博士"」

そう言ったジャンの顔を向きもせずにビアンキ先生は言った。

「今の自分の立場をわきまえろ・・・屍の上に生き延びた者の義務だ。

               時間は取り戻せない、もう二度と。」

      ジャンは驚いて立ち止まり、ビアンキ先生を見て、そして振り返った。
      遠くバセットハウンドの"カピタン"がこちらを向いて尻尾を振って見つめていた。

「カピタ〜ン!もう大丈夫よ!いらっしゃい!」
見えない遠くの畑からクラエスの声がした。

      わん!と、ひと吠えしてバセットはトコトコと畑の方に去っていった・・・。

俯いてビアンキ先生が言った。
「すまない・・・君たち兄弟には酷い言葉だったな。」
「いいえ・・・本当にもう・・・二度と帰れない・・・帰る場所のない旅路ですから。」
ジョゼが飲み込むように呟いた。

                  暫しの沈黙が流れた・・・

「リコ。この袋を持って付いてきなさい。中に拳銃がある・・・のは、さっき見たから知ってるな。」
「はい!ジャンさん!」
袋を受け取ったリコの頭を久々にジャンは撫でてやった。

「・・・ビアンキ先生。申し訳ない。」
「多めの点滴をしてもらおう。その間、ゆっくりと寝た方がいい。リコ、君も静かに付き添って
あげてくれないか。」

他に誰もいなくなった庭を四つの影が去っていった。

     一陣の風が通り抜け、大樹を揺らし、何枚かの木の葉が風に舞い地に落ちた。

         ・・・日々の中にある永遠の別れ。

       二度と戻らぬ時の理だった。

しかし・・・たった一枚の葉が高く空に舞い上がると、白銀に輝き、光の中に吸い込まれ消えていった。


                             fin

              「午前0時のメリーゴーランド」 By ZIGGY


※ 謹んで取材させていただいたバセットハウンドの御冥福をお祈りいたします。
                         2009-12-05 壱拾参−3 

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