『幻影』//ジョゼ、ジャン、エッタ、ジョルジョ
        //『』// Suspense,Death,Dark,//2009/06/15



    『幻影』



男は病室で目を覚ました。

「ここは・・・」

何があったのかを思い出そうと自問自答する。

「そうだ、あの時・・・」


「目を覚ましたな、ジョゼ」
「兄さん、俺はどれくらい意識を失っていたんだ?」

自分が何をしていたか思い出したジョゼはジャンに尋ねた。

「丸二日は経ってるな」
「そうか・・・。作戦はどうなった?、ヤツは・・・」
「もともと鐘楼には居なかったようだ。俺たちはまんまと一杯喰わされたってことだ」

吐き捨てるようにジャンは答えた。



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しばらくして今度は少女が病室に姿を現した。
目に涙を浮かべながら嬉しそうな顔をしている。
ジョゼがとてもよく知っている少女だ。

「ジョゼさん!、とても心配しました。もう大丈夫なんですか?」
「エンリカ!、来てくれたのか。大丈夫だよ」
「?、ジョゼさん、私はあの・・・」
「ハープの練習はちゃんとやっているかい?」

その後もジョゼは少女に「エンリカ」と呼びかけながら話を続けた。

(ジョゼさん、まだ調子が悪いのかしら・・・)

しかし、翌日もまたその翌日も、見舞いにやってきた少女にジョゼは「エンリカ」と
語り続けた。

少女はジャンにそのことを報告した。

「そうか・・・」とだけ答えるとジャンは暗い顔をしながらドクターのところへと
向かっていった。

(エンリカっていったい誰なんだろう・・・?)

少女の頭の中にはその疑問だけが残った。



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義体棟へ戻る途中、たまたま作戦二課員に出会った少女は思いきって聞いてみることにした。

「あの、ジョルジョさん、ちょっといいですか?」
「どうした、ヘンリエッタ?」
「ジョゼさんの周りの人で、エンリカっていう人、知ってますか?」
「?・・・!、そういえばクローチェ事件で亡くなった妹がそんな名前だったような」
「ジョゼさんの妹さんですか?、亡くなってるんですか?」
「ああ、聞いた話じゃその妹に随分と溺愛されてたようで、あの優男のジョゼさんも
 まんざらではなかったとか」
「・・・」
「そういやヘンリエッタ、お前の名前もそのエンリカから取ったんじゃ・・・、!
 いや、すまない、なんでもない(しまった、余計なことを喋っちまったかな)」



(私がどれだけジョゼさんのことを想っても、ジョゼさんは私を見てくれていなかったんだ。
ジョゼさんが見ていたのは、私ではなく妹のエンリカさん・・・)

(ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ)
(ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ)
(ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ)
(ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ)
(ジョゼさんは私を見てくれてることはないんだ)
  ・
  ・
  ・



ジョゼの病室に二発の銃声が響いたのは、その翌日のことであった。


<< FIN >>

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