『口づけ』//トリエラ、ヒルシャー
        //『』//Romance, //2008/12/14



   『口づけ』



任務完了後、宿泊先のホテルの部屋

−−−−−−−−


「去年、"来年もここに来てるかも"って言ったの、覚えてるかい?」

「ええ、覚えてますよ。東洋のほうには"二度あることは三度ある"っていう諺があるそうですよ」
苦笑いしながら、私が答える。
「しかも、ホテルの部屋まで偶然去年と同じだなんて、何かありますかね?」

「本当だな」
彼も笑う。

去年と同様、私の服装も"いつものスーツ姿"ではない格好だ。
以前はこんなことは殆ど無かったのだが、
この1年ほど前から、どこでどう見繕ってきているのか分からないが、
季節の変わり目あたりに、彼は私のために女の子らしい服装を選んで買ってきてくれる。
大概はシックなものであるのだが(笑)。



去年の"あの日"を境に、私たちの関係は大きく変わった。

私は彼への自分の感情を自覚し率直になり、彼に対して不自然な態度を取ってしまうこともなくなった。
彼も、私をどう扱っていいのか分からないような様子が、ゼロとは言わないが大きく減ったようだ。
"担当官と義体"という関係を抜きに、互いに無くてはならない存在となっている。


彼が今年も、ワインとパネットーネを取り出した。
私が一口食べるのをやや心配そうな顔をしつつ、彼が訊く。
「どうだ?」

彼には、甘みを感じにくくなっていることやその他の体の不調は伝えている。
彼を心配させてしまうのも嫌なのだが、それ以上に、彼に隠し事をしているのが嫌なのだ。
彼は技術部にも話をして、一生懸命、私のために対処してくれている。

「う〜ん、ちょっと甘みが少なく感じますかね」

「そうか・・・」
彼は少し表情を曇らせる。

「でも大丈夫ですよ。さあ、ヒルシャーさんも食べて、飲んでください」

「そうだな、明日は非番だから、のんびりローマへ戻るだけだしな」



−−−−−−−−


しばらく二人で飲んだ後、
ワインの酔いもあってか、あるいは思い出深いこの部屋にいることもあってか、
私は彼に、今まで訊かなかった−いや訊けなかったといったほうがいいかもしれない−ことを口にした。

「ヒルシャーさんは、私のことをどういう風に思っていますか?」

「?、前にも言ったことがあるけど、君は僕を裏切らないし僕も君を裏切らない。信頼しているよ」

「いえっ、そういうことではなくて、その・・・」
酔いが手伝ったのか、思わず言葉が口を突いて出る。
「私も勿論ヒルシャーさんを信頼しています。でも訊きたかったのは、その・・・。
 私はヒルシャーさんのことが好きです、大好きです。条件付けではなく自分の気持ちとして。
 ・・・愛しています。妹とか娘とかとしてではなく・・・一人の女として・・・」

言ってしまった後、顔に血が上るのを感じた。



去年、睡眠剤で眠っている彼に私が"一方的に"キスしてしまって以来、
キスをしたことなどは一度もなかったし、自分のこの気持ちを彼に伝えたこともなかった。
(どうしよう、言ってしまった・・・・・・)


不意に彼が私の隣に席を移した。
顔が火照りながらもびっくりして彼の方に向けた私の頭に軽く手をかけ、そして・・・
彼は私の額にキスをしてくれた。

「こういうのって、やっぱり・・・、!?」


苦笑いしながら言いかけた私の口が塞がれた。

彼の男らしい唇に。

「すまなかった、トリエラ」
そして私は彼に力強く抱きしめられた・・・。


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