【ハーモニー】//トリエラ、ヒルシャー
        //【】 // General,Humor, //【アヴェ・ヴェルム・コルプス】トリエラside//2008/03/10




    【ハーモニー】


 訓練を終えたトリエラは、担当官に促されてシャワールームへ向かった。
熱い水流が勢い良く褐色の肌を洗う。少女は目を細めて全身にそれを受け止めた。
心地よさに我知らず歌がこぼれだす。

   アヴェ・ヴェルム・コルプス

 天上の音楽、天使の歌声とも賞されるそのしらべは、
クリスマスも近いこの季節にはふさわしい気がすると、
12月に入って以来彼女の担当官が時折車の中で流している曲だ。
 彼は音楽を好むようで、しばしば移動の車中ではクラシック音楽が流れる。
いつも曲について何がしかの蘊蓄が傾けられるのが生真面目な彼らしい。
音楽を聴いていれば特に会話を交わす必要もなく、間を持たせるには良い手段だと思う。
 とはいえ彼女自身も音楽観賞が嫌いな訳ではない。
担当官にたずねたりはしないが、心引かれた歌声には後から自分で歌詞を調べて口ずさむこともある。
この曲もそんな曲の一つだった。

 ふと。耳馴れた声が扉の向こうから聞こえた。

 ヒルシャーだ。

 自分が口ずさむ歌を一緒に歌っている。
 少女は小さな驚きを覚えた。
つぶやくように響く男の声が低くやさしく耳をかすめる。
 それに耳をそばだてながらシャワーの水流を弱め、今までより少し小さく声をひそめて少女は歌い続けた。
自分が歌いやめてしまえば、彼もまた歌い続けることはないだろうから。
……それは少し惜しい気がしたのだ。


 金の髪がこぼれおちる褐色の背肌に白くやわらかな羽を描くように、あたたかな湯から蒸気が立ち上った。
扉のこちら側とあちら側で共に紡ぎ出される祈りの詞が、穏やかに重なりあい響きあう。
 聖誕祭を前にした静かな夜に、少女はささやかなハーモニーを楽しんだ。



  ≪Das Ende≫

    BGM // モ−ツァルト 『アヴェ・ヴェルム・コルプス』

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