最終更新: gunsringergirl_ss2 2009年06月06日(土) 00:44:22履歴
【リボン】//ヒルシャー、トリエラ
//【】// Humor,//ナタレシリーズ2//2008/12/12
【リボン】
「髪留めのリボンが片方ほどけてるぞ」
「え? ああ、本当だ。ありがとうございます」
担当官の指摘を受けて立ち止まり、二つ髪の一方に手をやったトリエラは礼を言うと、
次いで軽く鼻にしわを寄せた。
「どうした?」
「いえ、今日は予備のリボンを持ってきていないんです」
「そうか。それならどこか雑貨屋に寄って新しい物を買おう」
「大丈夫です。もう片方のリボンもほどいてしまえばいいだけですから」
「……そうか」
少女が残ったリボンを解けば金の髪の根本は細い黒のゴム紐でくくられている。
成程、女の子の髪の毛とはこんな風に結ばれているものなのかと観察しながら、男が問いかける。
「そう言えば、そのリボンはいつも誰が用意してくれているんだ?」
考えてみれば自分は服や靴を用意してやった事はあっても、アクセサリーの類を買ってやったことはない。
誰か女性課員が選んでいるのだろうが、それならば後でどんな物が良いのか聞いておこう。
そう思った彼に少女は意外な返答をする。
「別に、誰からも。あなたが下さった物ですよ」
「え?」
「いつもあなたからいただくプレゼントに掛かっている、包装用のリボンです。
結び目のしわにアイロンを当てた後できっちり巻き取って、必要な時に必要な長さだけ切って使っています」
ヘンリエッタのように包装紙にまではアイロンがけしませんけど、と少女は珍しく軽口めいた言い方をする。
「そうだったのか。 しかし物を大事にするのは良いが、必要な物があればちゃんと言うんだぞ。
そのための経費も認められているんだからな」
「あ、はい」
「………」
「………」
しばし沈黙が降りる。
ヒルシャーにしてみれば、だから遠慮なくおねだりをしなさいというつもりで言ったのだが、
元々トリエラにはあまり物欲がない。
少女の反応がないとそれ以上会話を続けることもできず、やや気まずそうに、
では行こうかと男は歩き出した。
無言で歩を進めながらも、男は先ほど途切れた会話の接ぎ穂を懸命に探していた。
視界の隅に入った金の髪が自分の胸の辺りの高さで揺れている。
「リボンの 」
「はい?」
「ああ、いや。その、リボンの端は、切ったままではほつれてきたりしないのか?」
「いいえ。この程度の細さなら大丈夫です。布の織り目に対して斜めに切ってありますから」
「…ああ、そういうことか」
「これがもっと幅広のリボンだったら、ピンキングばさみで切っておかないとまずいかも知れませんけれど……」
「え? ピッキングばさみ?」
怪訝そうな顔をした男の言葉に、少女はいきなり吹き出した。
「“ピンキング”はさみですよ。布を角張った波状に裁断するための、裁縫用鋏のことです。
鍵開け道具が何の役に立つんですか」
「あ 」
男の聞き間違えが余程おかしかったのか、トリエラはくつくつと笑い続けている。
「……僕は家政学の講義はしない方が無難だな」
「そうですね」
口元にむずむずと残る笑いをこらえながら、彼女は担当官の下手な冗談に頷いた。
少女に着せた自分の上着のポケットからは、赤いリボンの端がのぞいている。
思い返せばいつもプレゼントの包装は店員に任せきりだし、
どの色が良いかと問われても、女の子ならばリボンは赤だろうとしか考えていなかった。
今まで気にしたこともなかったが、今年からは心がけて様々な色のリボンを選ぶことにしよう。
華やかなクリスマスの飾りで彩られたローマの街を歩きながら、
不器用なドイツ人はそんなことを考えるのだった。
≪ Das Ende ≫
BGM // ポンキエルリ “ジョコンダ”より『時の踊り』
//【】// Humor,//ナタレシリーズ2//2008/12/12
【リボン】
「髪留めのリボンが片方ほどけてるぞ」
「え?
担当官の指摘を受けて立ち止まり、二つ髪の一方に手をやったトリエラは礼を言うと、
次いで軽く鼻にしわを寄せた。
「どうした?」
「いえ、今日は予備のリボンを持ってきていないんです」
「そうか。それならどこか雑貨屋に寄って新しい物を買おう」
「大丈夫です。もう片方のリボンもほどいてしまえばいいだけですから」
「……そうか」
少女が残ったリボンを解けば金の髪の根本は細い黒のゴム紐でくくられている。
成程、女の子の髪の毛とはこんな風に結ばれているものなのかと観察しながら、男が問いかける。
「そう言えば、そのリボンはいつも誰が用意してくれているんだ?」
考えてみれば自分は服や靴を用意してやった事はあっても、アクセサリーの類を買ってやったことはない。
誰か女性課員が選んでいるのだろうが、それならば後でどんな物が良いのか聞いておこう。
そう思った彼に少女は意外な返答をする。
「別に、誰からも。あなたが下さった物ですよ」
「え?」
「いつもあなたからいただくプレゼントに掛かっている、包装用のリボンです。
結び目のしわにアイロンを当てた後できっちり巻き取って、必要な時に必要な長さだけ切って使っています」
ヘンリエッタのように包装紙にまではアイロンがけしませんけど、と少女は珍しく軽口めいた言い方をする。
「そうだったのか。
そのための経費も認められているんだからな」
「あ、はい」
「………」
「………」
しばし沈黙が降りる。
ヒルシャーにしてみれば、だから遠慮なくおねだりをしなさいというつもりで言ったのだが、
元々トリエラにはあまり物欲がない。
少女の反応がないとそれ以上会話を続けることもできず、やや気まずそうに、
では行こうかと男は歩き出した。
無言で歩を進めながらも、男は先ほど途切れた会話の接ぎ穂を懸命に探していた。
視界の隅に入った金の髪が自分の胸の辺りの高さで揺れている。
「リボンの
「はい?」
「ああ、いや。その、リボンの端は、切ったままではほつれてきたりしないのか?」
「いいえ。この程度の細さなら大丈夫です。布の織り目に対して斜めに切ってありますから」
「…ああ、そういうことか」
「これがもっと幅広のリボンだったら、ピンキングばさみで切っておかないとまずいかも知れませんけれど……」
「え? ピッキングばさみ?」
怪訝そうな顔をした男の言葉に、少女はいきなり吹き出した。
「“ピンキング”はさみですよ。布を角張った波状に裁断するための、裁縫用鋏のことです。
鍵開け道具が何の役に立つんですか」
「あ
男の聞き間違えが余程おかしかったのか、トリエラはくつくつと笑い続けている。
「……僕は家政学の講義はしない方が無難だな」
「そうですね」
口元にむずむずと残る笑いをこらえながら、彼女は担当官の下手な冗談に頷いた。
少女に着せた自分の上着のポケットからは、赤いリボンの端がのぞいている。
思い返せばいつもプレゼントの包装は店員に任せきりだし、
どの色が良いかと問われても、女の子ならばリボンは赤だろうとしか考えていなかった。
今まで気にしたこともなかったが、今年からは心がけて様々な色のリボンを選ぶことにしよう。
華やかなクリスマスの飾りで彩られたローマの街を歩きながら、
不器用なドイツ人はそんなことを考えるのだった。
≪ Das Ende ≫
BGM // ポンキエルリ “ジョコンダ”より『時の踊り』
コメントをかく