【ロジック・パズル】 //トリエラ、ヒルシャー
        // 【】 // Romance, //2010.04.04.


   【ロジック・パズル】


 義体の条件付けは、担当官に対して愛情に似た感情を呼び起こす。
例え不満があったり、苛立ったり、腹を立てることがあったとしても、
担当官を嫌いになることだけはあり得ない。

   あなたが嫌いです。

 そんな言葉は、だから、他の義体だったら思い付くことすらないはずだ。
義体は担当官に対して否定的な感情を持つことは有り得ない。
不満を持つとしたら、それは担当官に対する嫌悪からではなく、
担当官からの好意を求める感情ゆえなのだろう。

   あなたなんか好きじゃありません。
   あなたといたって幸せじゃありません。

 そう、心の中で呟いてみる。
胸が苦しくなるのは条件付けによる心理的抑制のせいだと、
以前の私ならば思っただろうけど。

「あなたが好きです」

 二人だけの教室で、テキストを開いた担当官がおどろいたように顔を上げる。

「あなたと一緒にいられて、幸せです」

 目を見開いて私の顔を見つめる彼に、私は笑う。

   冗談ですよ。今日はエイプリルフールですから」

 エイプリルフール。一年に一度だけ、嘘をついても許される日。
けれど義体は、担当官を否定するような嘘をつくことはできない。
だからあなたが教えてくれている、ロジックを応用する。
冗談を言うことは、嘘をつくことにはならない。
でも、嘘も冗談も、本当のことではない。 

「大人をからかうんじゃない」

 困ったようなしかめ面で言うあなたに、私はまた笑う。

 義体は担当官に嘘をつくことはできない。
 でも私は、あなたに本当のことを言えるほど素直でもない。
 冗談です。
 その言葉で、私は自分に嘘をつく。

 これは冗談なんですからね、ヒルシャーさん。
 
 あなたが好きです。
 あなたと一緒にいられて、私は幸せです。


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2010,04,01,







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