キッチンドリンカー //エッタ
        //名無しかわいいよ名無し//Romance,



その夜はなかなか眠くなりませんでした。
 電気を消してすぐリコの寝息が聞こえてきて、それからもうずいぶんたっています。
 こんなに遅い時間ならもう誰も起きていないはず。そう思って、
前から気になっていた、ある物を見るためキッチンに行ってみる事にしました。
 リコを起こさないように静かにベッドを降りて、部屋から廊下に出ます。
 月あかりが廊下に窓の形を白く浮き上がらせています。
 キッチンに入って、そこの戸棚の昼間見たのと同じ場所にお目当ての物はありました。
 その丸みをおびたガラスのボトルには、こはく色の液体が入っていて、ラベルを
調べると私が思ったとおりです。
「少しだけならいいかな」
 普通のコップでは大き過ぎるので、ちょうど良い大きさのを探すと、ワイングラスと
同じ棚に5センチぐらいの高さの小さなグラスがあったので、それにしました。
 窓際のテーブルにボトルとグラスを置いて、ボトルの口を開けると良い香りがします。
 グラスに半分ぐらい注いでからキャップを元に戻して、少しだけ口に含んで味わうと
ふわりと香りが広がります。
 カーテンの間から月の光がもれていたので、カーテンを開けてみました。
 ちょっとだけ欠けた月が高く登っていて、薄い白く見える雲が少しあります。
 そしてテーブルの上では、月の光がボトルのガラスの曲面やカットの入ったグラスに
反射してキラキラと輝いています 。
 腕を重ねて、その上にほほをのせて横からきれいなこはく色の液体が入ったグラスを
ながめます。

「ジョゼさん」
 私の担当官のジョゼさんは遠くへ出張であさってにならないと帰って来ません。
 今日は会えなかったし、明日も会えないのです。
 声に出して名前を呼ぶと、さびしい気持がふくらむようです。
 そしてもう一口。
 近頃は訓練にジョゼさんが立ち会わない時もあって、今日もトリエラが私達の
指導役でした。それでもジョゼさんが公社にいれば演習場から公社に着くころには
迎えに来てくれて、義体棟の入口までお話ししながら歩きます。
 少しの時間ですが、それでも声を聞いたり、あの時々見せる少しだけ微笑んだ
顔が丸一日見られないのは、とても物足りない感じがします。
 ジョゼさんはみんなに笑わない人だと思われているみたいですが、こんな時のような
笑顔を見たことがないのでしょうか。
 もしかして私といる時だけなのかな、なんてとても希望的なことを思ったりも
しますが、もしそうなら、それはそれでどうなのかなという気もします。
 でも、他の女の人にジョゼさんが微笑むのを想像するのはあまりいい気がしません。
 そうでなくてもジョゼさんは素敵だから、ジョゼさんのことを好きになる女の人は
きっといるはずです。
 そしてジョゼさんから見れば、私のような子どもより大人の女の人の方が良いに
決まってます。まして私は普通の女の子でさえないのです。
 少し月の光がかげりました。月に雲がかかって、雲が白く輝いて見えます。
 この一口で最後かな。
 でも、あさってになればジョゼさんに会えます。おみやげも期待していいよね。
 この次ジョゼさんとお出かけするのはいつかな。
 グラスが空になりました。
 メープルシロップのボトルは元の棚に戻して、グラスも洗って元の所に置きました。
 おやすみなさい。

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