ヒルシャーの誕生祝 // トリエラ,ヒルシャーヒルシャーの誕生祝 ,
 // // //Novelette/,Romance /9547Byte /Text// 2005-07-24



ヒルシャーの誕生祝



 ヒルシャーは仕事で出張に出掛けていた。

今日帰ってくるのだが、実は彼の誕生日だった。

プリシッラがヒルシャーの誕生祝を目論んだ。

会場は、ヒルシャーの住むアッパルタメント( appartamento )にして、

彼をびっくりさせようと、みんなでこっそり侵入して準備した。

社会福祉公社の面々にとっては錠前をこっそり開けて忍び込むのは朝飯前だった。



ヒルシャーが出張から帰ってきた。

ヒルシャーが、扉を開けた瞬間、

クラッカーを鳴らして迎える義体たちとプリシッラ、アマデオ。

ヒルシャーは唖然として、しばし戸口で立ち往生していた。

ハッピー・バースディと声を掛けられ、

少し恥ずかしそうにしつつも皆に礼を言うヒルシャー。

そして、みんなに促され、代表としてトリエラがヒルシャーに花束を渡す。



しばらく歓談した後、ケーキのろうそく(本数不明)に灯をともし、部屋の灯りをおとした。

そして、ハッピーバスディの合唱が始まった。

ヒルシャーがローソクを吹き消すと、部屋は真っ暗になった。

そして・・・。

再び明かりがついたとき、ヒルシャーは息を呑んだ。

皆は消え、部屋の中にはトリエラのみ。

そして、トリエラの胸にはリボンが掛けられ、プレゼントと大書してあった。



トリエラは俯いたまま恥ずかしそうに、

「ヒルシャーさん、私自身を受け取って下さい。

 私ヒルシャーさんにプレゼントできるものってこれしかなくて・・・」

(言わせるかよぉー。)

「うっ・・・。と、とても嬉しいよ、トリエラ。

 しかし、その気持ちだけで結構だ。」

「えっ、でも・・・。わ、わたし・・・、私決心してきたんです。」

「ありがとう。だけど、もっと自分を大切にしなさい。

 軽々しくそんな子供地味たことするんじゃない」



「ヒルシャーさん・・・。これのどこが子供じみているんです?」

「トリエラ・・・、そんな急に拗ねたりするんじゃないよ。」

「(ムカッ。)だいたい、ヒルシャーさんが、

 私にちっとも|お小遣い《げんなま》くれないから、

 気の利いたプレゼントひとつ買えないんです」

「う、それは、たしかにそうだが・・・。」

「プレゼントが買えなかったら、もう捧げるものは、この身体しかないじゃないですか」

「おい、その理屈はちょっと」

「それとも、私のこの体ではお気に召さないのでしょうか?」

「何を馬鹿なこと言ってるんだ」

「分りました。私にはヒルシャーさんに差し上げるプレゼントが必要ですから、

出かけてきます。そこらの街角で素敵なオジサンにこの身を買ってもらいますから」

「トリエラ、一体自分が何を言っているのか分ってるのか?!」

「分っています、ヒルシャーさん!(つん。)」

「トリエラ、優等生の君らしくないぞ」

「そんなこと関係ありません。」

(この、朴念仁! 女に恥をかかせるんじゃないよ!)



トリエラは、ヒルシャーのアパートからとび出そうとしたが、

ヒルシャーは素早くその前に立ちふさがった。

勢い余ってヒルシャーにタックルしてしまうトリエラ。

二人は、ドアの前で倒れこんでしまった。

そして、ヒルシャーは後頭部を打って気を失ってしまった・・・。

・・・翌朝。



ヒルシャーは目を覚ました。後頭部がずきずきする。

頭に手をやると、包帯が巻かれている。

「そういえば昨夜・・・。」

目を開けて起き上がると、ベッドに凭れたまま、トリエラがうつ伏せで寝ている。

「彼女が手当てして、一晩看病してくれたのか・・・。」

もう朝だが、ヒルシャーは声を掛けるのをためらい、

トリエラの寝顔をしばし眺めていた。



(『私自身をプレゼントします』・・・か。

本当に彼女もいつまでも子供ではないって事だな・・。)

昨夜のことを思い起こし、トリエラに対する愛《いと》おしさが募ってくるヒルシャーだった。

このままトリエラの可愛い寝顔を見ていたくなったヒルシャーだったが、

しかし、いつまでも寝ているわけにはいかない。

トリエラに声を掛けた。

「トリエラ、もう朝だよ。」

「うーん。・・・ヒルヒャーのばかぁ・・・。むにゃむにゃ」

「ふふふ。寝ぼけてるな」思わず笑いがこみ上げるヒルシャー。

トリエラの肩に手を掛けて揺すってみた。

「トリエラ、起きなさい、朝だぞ。」

トリエラは、はっとして目覚めた。

「ふわぁー。あっ、ヒルシャーさん。おはようございます。」

「おはよう、トリエラ。」

「わっ、私ったら」と、赤面するトリエラ。

「一晩看病してくれたんだね。有難うトリエラ」

「昨夜はすみませんでした。私としたことがヒルシャーさんに怪我させるなんて」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

「そんなわけにはいきません。私達には担当官の身の安全を守る義務があるのですから」

「あれは不慮の事故さ、止むを得ない。

 僕を心配して一晩付き添ってくれたんだろ?

 それで十分だよ、トリエラ」

「でも・・・」

「そういえば、昨夜は君からのプレゼントを貰い損ねたね。

 だから、今回はこれだけ貰っておくよ」

そういって、ヒルシャーは素早くトリエラの頭を引き寄せ、

トリエラの唇を奪った・・・。

「ひっ、ヒルシャーさん。」

「さあ、コーヒーでも飲んで公社へ出勤しよう。

車で送っていくよ」



朝早く、プリシッラは窓から、公社の駐車場で車を降りる

トリエラ&ヒルシャー二人の同伴出勤を目撃しました。

そそくさとオフィスへ向かうヒルシャーと、

義体棟の自室へ隠れるようにして向かうトリエラ。

ヒルシャーの頭には包帯が巻かれています。

プリシッラは、オフィスを出ると義体棟の入り口でトリエラを待ち構えました。

「おはよう、トリエラ。」

「あっ、おはようございます、プリシッラさん」

「朝帰り、というより、同伴出勤とは隅に置けないわね」

「からかわないで下さいよ」

と、ちょっぴりトリエラは頬を赤くしました。

「ヒルシャーさんが頭に包帯してたけど、どうかしたの?」

「あの、それなんですけど・・・」

と、トリエラは、ヒルシャーが怪我した次第を手早く語った。

「ふーん。すると、ヒルシャーさんは結局

プレゼントを受け取らなかったわけ? 

残念だったわね、とりえら。せっかく一大決心していったのに」

「まあ、そうですけど・・・。でっ、でもいいんです」

ここで、トリエラは、ますます頬を赤くそめました。

「昨夜は手伝って頂いて有難うございました」

と、トリエラは逃げるように部屋へと逃げて行きました。



 プリシッラはその後姿を見送りながら独言《ひとりご》ちた。

(やっぱり、ヒルシャーさんってどうしようもない朴念仁だわね。

鈍感というのか、乙女心を踏みにじる女の敵という人種ね。

怪我もその当然の報いといったところね。

 今回の作戦は失敗だったけど、

トリエラが赤くなって礼をいったところを見ると、

何にもなかったわけではなさそうね。

後で、ヒルシャーさんをからかってみようっと。)



   <了>

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