彼の人は触れた//トリエラ,エルザ,ラウーロ
  //,Snippet/,General /5398Byte /Text// 2006-01-28


彼の人は触れた


エルザ・デ・シーカの髪は、いつも器用に編みこんであった。

私が結い上げるのより、時間も手間も掛かっていただろう。

そして彼女の瞳は、担当官以外を極力映さないようにしていた。

まるで、世界はそれだけしかないかのように…。

それが私の知る限りの彼女だった。

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エルザ・デ・シーカの髪は、いつも器用に編みこんであった。

私が結い上げるのより、時間も手間も掛かっていただろう。

そして彼女の瞳は、担当官以外を極力映さないようにしていた。

まるで、世界はそれだけしかないかのように…。

それが私の知る限りの彼女だった。





「エルザ、いつも綺麗に編んでるね」

授業が終わり、足早に教室を去るエルザを、私は廊下で呼び止めた。

怪訝な顔で振り向いたエルザの目の前に、ノートにはさんでおいた書類を差し出す。

「…今度の作戦の?」

表情を崩さないまま、エルザはそっと受け取った。

彼女が顔を傾げるたびに、二本の三つ編みは揺れる。尻尾のようだ。

「うん、ラウーロさんから頼まれて」



空気が、ピンと張り詰めた。

「そう。ラウーロさんから」

エルザは目を細めて呟くと、踵を返し去っていった。尻尾の先が、弧を描いた。

「ラウーロさん、お仕事早くに終わったんですね」

ヒルシャーさんを探しに立ち寄った二課で、ラウーロさんを見掛けた。

仕事が長引きそうだから、とエルザへの伝達を頼まれたのに。



「ん?ああ、届けてくれたのか。悪かったな、トリエラ」

だるそうに紡がれる言葉に、

「いいえ、たいした事じゃありませんから」

一応きちんとした返事をする。



ラウーロさんは、エルザに関心がないようだった。

別に、私があれこれ思うことじゃないけれど、せめて負担にならない程度に向き合えば

いいのになと感じていた。エルザは、細い線の上でバランスを取っていたから。



ヒルシャーさんが見当たらないので、別の場所に行こうとした瞬間だった。



「トリエラ、髪引っつかまれるとやっぱり痛い?」

ラウーロさんが、不意に妙な質問を投げかけてきた。



「引っつかまれる?掴んで引っ張られるという意味ですか?それは痛いですけど」

力加減にもよります…と返事をすると、

「ふぅ〜ん、そっか」

と頷いている。



「それがどうかしたんですか?」

「いや、先週任務中にエルザがバランス崩してさ。とっさに髪掴んで引き倒しちまって」

やっぱ痛いよな〜と、ラウーロさんは1人で納得している。



「エルザの髪、掴んだんですか?」

「ああ、前は邪魔にならないかと思ってたけどさ。まあ、死ななくくて良かったよ」

そう言ったラウーロさんは、柔らかく笑っているようにも見えた。







エルザの髪が解かれた姿は、ついに見ることがなかった。

これは私の想像だけど、洗い流した髪を乾かし、丁寧に梳き、編みこむ。

これらはエルザの儀式だったのかも知れない。



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