復活祭 // トリエラ、ヒルシャー
        //蘇芳 ◆Ecz190JxdQ// General //2012/04/17


復活祭。
キリストが復活を祝う祭。
そして、卵と兎が街にあふれる。

「トリエラ。
卵は寮に十分にあるかい?」
急に言われて、一瞬何の事だかわからなかった。
クラエスのお菓子作りになぜこの人が配慮するのか?
そう考えかけて、カレンダーの日付に気付く。

「いえ、特に復活祭を寮でやる予定はありませんから」
何段か、会話の会談を飛び越した答え。
会話を短く切り上げようとしているようで、心証は悪いだろうな、と思いつつもやめられない。
「そうか、でも卵に色を塗るぐらいはやったらどうだ?
リコなんか喜びそうだが。
あぁ、クラエスの塗った卵は芸術的だろうな」
そうってあの人は楽しそうに笑う。
あの人を笑わせているのが私ではなく仲間たちであることが、少しだけ痛い。
私がこんな態度だから。

「でも、復活を祝うと言われても…
復活した後のキリストは見つかっていないんですよね」
キリストは、復活して幸せになれたんだろうか。
後半は言葉にしない。

「ああ、そうだな。
けれど、皆復活できたと信じた。
信じたかったからね」
信じたい、なんて言葉がなんだか気恥ずかしい。
なんでこの人の物言いはいつもこうまっすぐで私を困惑させるのだろう。

「でも、救世主としては復活後一回も目撃されてない…
キリストは本当に救世主として復活したんでしょうか」
もし、その記憶を失っていたら。
救世主じゃなくただの男として第二の人生を歩んでいたとしたら。
「もし救世主としての記憶を失っていても、復活には意味があると思うよ。
それはそれでいいんじゃないかな。
記憶はなくても、根底にある強さや優しさは損なわれてないだろうから。
救世主じゃなくただの人として生きたとしても、彼は周囲を幸せにしていただろうね」

記憶はなくても。
その言葉が胸を刺す。
私は私の過去を知らない。
でも。
きっと彼はこの言葉を私に向けていっているのだ。
キリストの話のふりをして。
彼がいつも言う、「トリエラ、君は君だ」という台詞。
だから、私はこう答える。
「既に一回復活を果たした私たちが復活を祝うのは変な感じですね」
彼が笑う。
苦笑いのような、寂しそうな、けれど穏やかな笑顔で。

The end

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