無題(努力) // エルザ
        //蘇芳 ◆Ecz190JxdQ // romanse //2012/06/05


トリエラみたいに、担当官とパートナーのような関係にはなれない。
リコみたいに、何の疑いもなく従う事も出来ない。
ヘンリエッタみたいに、「好き」って感情だけにもなれない。
アンジェリカみたいに、忘れる事すら、できない。
どうしてなんだろう。
私だけ。
私だけが、「私」になることができない。
彼は私の全て。
だけど、私は彼にとっては、道具ですらないのかもしれない。
ただ、命令されるから隣に置いてあるだけのお荷物。

私はラウーロさんの義体です。
「愛」なんて甘いものは求めません。
ただ、側にいて、声を聴いて、姿を見つめて、あなたのために働いて、それだけでいいんです。
そのための努力は惜しみませんから…

全ての時間を彼のために使うと決めた、あの日から。
エルザとして、私が生まれたあの日から。
私はずっとそうしてきた。
けれど。
私に出来る「努力」なんてたかがしれている現実。
その現実に打ちのめされる。

私の意思だけじゃ、何もできない。
演習場の使用は担当官が申請する、義体にはできない。
レンジに入るにも、担当官の同伴を求められる。
実弾は寮に勝手に持ち込めないから、ただ撃つだけの訓練すら私一人ではできない。
座学で私が何かを書けば、ラウーロさんはそれをチェックする事を求められる。
射撃以外の身体機能の訓練をしようにも、そのための道具を買うのは担当官の仕事。

私には、ラウーロさんしかいないのに。
私には、ラウーロさんのために努力する権利が与えられていない。
何をしようとしても、ラウーロさんの手を煩わせてしまう。

私は義体だから。
担当官の命令なしには、何もできない。
わかっているの、そんな事は。
けれど、私はラウーロさんのために何かしたい。
ラウーロさんに命令していただけなくても。
私一人で何ができるか、ずっとずっと考えていた。

私にあるのは、名前と、写真と、銃と、私の体だけ。
全てラウーロさんがくれたもの。
だから、私は私にあるもので、ラウーロさんに尽くします。

銃を分解して、磨いて、また組み立てて。
もっと私に必要な訓練はあるけれど、私にはこれしかできないから。
私一人でできる訓練はこれだけ。

後はラウーロさんにいつ呼んでいただいてもいいように、待つだけ。
待っている間、私は丁寧に髪を編むの。
実用的でない長い髪。
これをラウーロさんが残したのには、きっと理由がある筈。
だから私はこの髪を大切にしなくては。
けれど、私はなぜ三つ編みなのか、もう覚えていない。
きっと、ラウーロさんに決めていただいた事なのに。
ラウーロさん、ごめんなさい。
これ以上、忘れないように、私、もっと努力します。
だから、ラウーロさんも忘れないでください。
私に全てを与えてくださったのは、ラウーロさんだって事。





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