PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆x/Dvsm4nBI氏

情けないことに俺は二日ほど抜け殻のように日を過ごした。
目的は無くなり、惰性で習慣となった勉強や新しい友人との会話はしていたが
心配されたくらいだから相当酷かったのだろう。
俺は神城とは距離を置き、昼食は屋上で一人、取るようになっていた。
だが、今日は来客があった。見慣れた地味な眼鏡とおさげ、でも明るい友人。

「いたいた、八代君。ここんとこ変だから心配したよ。佐久耶も教えてくれないし。」
「神城に告白して振られた。しつこく付き纏うのは趣味じゃない。」
「そか…。」
深くは追求しない。そんな気配りのできるこいつはありがたい奴だ。

「元の自分に戻るだけだ。気遣うこともない。お前も俺と一緒にいる必要は無い。」
「さびしいこというね。」
「一人は楽だ。」
「そうかな。私も邪魔?」
「いや、俺は友人と思ってる。いい奴だし世話になってるしな。」
そういうと新庄は隣に座った。

「別にいい奴じゃないよ。私、佐久耶にずっと嫉妬してた。」
「そうか。」
「うん。八代君に世話焼いてもらえて、暗くなりそうだった高校生活も
 明るくしてもらって…。独占してた。私と再会したとき覚えてる?」
「学級委員会のときか。忘れた。」
「だろうね。私、八代君が同じ委員だって知ってすごく嬉しくて。
 だけど話しかけてもそっけなくて泣きそうだったよ。」
「すまない。」
「しかも、一緒に帰ろうって喜ばしておいて言うことは佐久耶のことだし。」
「全く最低だな。」
新庄は一度言葉を止めた。
そしてこちらを向いて笑顔で続けた。

「私はね…助けてもらったときからずっと八代君が好きだった。今はもっと好き。」
「ごめんな、気づかなくて。だけど今は答えられない。時間をくれ。」
「勇気使い切っちゃった。次は振るにしろ受けてくれるにしろ、そちらからね。
 ああ、後私は名前で呼んでるからそっちも菖蒲って呼んで。」
溜め込んだ想いを全部言い終えた彼女は晴々としていた。


数日後、一志から電話がかかってきた。

「おい、ハチ。あれどういうことだ。」
「何だ。」
「お前のとこの…神城に告られた。付き合ってんじゃなかったのか。」
「告って振られた。」
「そうか、ハチこんなこと初めてだったのにな…お前のお陰で俺も珍しい体験をした。」
「どんなだ?」
「初めて女をこっちから振ったぜ。完膚なきまでに。」
「らしくないな。」
「わかってら。だがな、あれほど不愉快な思いをしたのは初めてだ。」
「どういうことだ?」
「俺はあいつのためにお前がどれ程無理したか知ってる。」
「そうだな。自分でも驚きだ。」
「逆で考えてみろ。俺が本気で好きになった奴が別に好きでもないお前に告ってきたら
 お前はどう思うんだ。他の女を全部捨ててもいいと思うほどの奴が。」
「確実に不愉快だな。」
「もっといい奴さがせ。お前も。あいつはやめたほうがいい。」
「一志もいい加減一人に決めろ。刺されるぞ…それとすまない。」
「俺は修羅場が好きなんだ。じゃ元気出せよ。これ以上暗くなられたらかなわん。」
俺はほっとしたような悔しいような情けないような気分になりながら夕食を
作った。気力がわかないのでインスタントでその日は済ませた。


それから数日、ようやく落ち着いた俺は普通にクラスの連中と付き合えるように戻った。
冷静になってまわりを見ると──神城はまた一人に戻っていた。

俺がおかしくなっていたせいで色々な噂が立っていたらしい。
初めてあったときのような物憂げな表情で彼女は席に座っていた。

「おはよ。」
「あ…おは…よう。もう話してくれないかと……っ…」
「馬鹿、泣くな。」
「ごめん…なさい…。」
「俺のあれも忘れろ。二度は言わん。友達として付き合っていけばいい。」
俺の努力は徒労だったのだろうか。自分がいなければ未だに、クラスとの
コミュニケーションが取れないとは。

「犬飼君に言われたの…。彼は凄く怒ったんです。お前はなんにもわかってないって。
 大事な親友のことを何も理解できないような奴は絶対ごめんだって。」
「そうか。すまんな。ある意味俺のせいだ。」
彼女は泣きながらも笑顔で続けた。

「ううん。犬飼君の言うとおりでした。二週間、八代君も菖蒲もそばに
 いない学校の時間は初めの一週間と…中学の頃と同じで…。灰色で
 全然楽しくなかったんです。」
「頑張ればよかったんだ。もう俺がいなくとも大丈夫なはずだ。」
「うん…。でも話してて気づいたの。みんなが心配してるのは八代君でした。
 それだけのことをしてたんだって。」
「だが、別に神城が間違ったことをしたわけじゃない。気にするな。」
「私…離れてやっとわかったんです…。八代君がいないと寂しいの…。
 勝手なことばかりで悪いけど、もし前の告白が有効なら…私と付き合って…
 ごめん本当に勝手ですよね…。」
「わかった。付き合おう。」
俺は即答した。そして、彼女は笑顔を見せてくれた。
それは掛け値なしに美しかったが、俺は何か間違えたようなそんな不安に駆られた。

放課後、神城に先に帰ってもらい俺は屋上に菖蒲を呼び出した。

「前の返事だが…。俺は神城と付き合うことになった。」
「そっか…でもそれでいいの?」
菖蒲の顔が曇る。その言葉の意味を俺は正確に理解している。
一志の電話での台詞と朝の神城の態度と言葉で判断した。
恐らく間違っていない。

「あいつは俺が好きなわけじゃない。」
「うん…そうだよ。それでも?」
「ああ。まだ俺は好きだから。」
「今までのことを考えると…永遠に好きになってもらえないかもしれないよ?」
「そうでないことを祈る。」
「私はもう手伝えないよ?いつ怒りに任せて手を出すか判らないから。」
「判った。今まで本当に助かった。」
「八代君とは友達でいていいよね?」
「当然だ。菖蒲は親友だ。」
「ありがと。それじゃまた明日。」
菖蒲はそれだけ言って走って帰っていった。
俺は彼女を泣かせた。


付き合い始めてから佐久耶は前より俺に寄りかかるようになった。
自分から外への窓口を作らず、全て俺を通して外と交流する。

「ああ、最近仲がおかしかったのは俺がセクハラしたせいだ。」
「嘘―。犬塚君って意外とむっつりさんだったんだね。」
「佐久耶が可愛いからついな。お陰で二週間謝り倒すことになった。」
「もう、惚気ちゃってー。変な噂流れたから心配したじゃない。」
クラスメイトの女子に少しおどける。こんなのもすっかり慣れた。
悪い噂を自分を悪役にして消していく。
本当は触れてすらいない。

「八代君…一緒に帰ろ?」
「ああ、すぐに行く。それじゃ、みんな…また明日。」
笑顔の佐久耶と並んで駅まで歩く。はたから見れば恋人に見えるかもしれない。
彼女の好きな話題で話し、楽しませる。
だが、俺が触れると彼女は俺に恐怖の目を見せる。
手を繋ごうとすると露骨に嫌がる。

その日は一志が俺の住処を訪れていた。

「お前、神城と付き合ってんだってな。」
「ああ。」
「早く別れろ。あいつは…あいつは!」
「判ってる。お前は正しい。だが、好きなんだ。」
「難儀な性格だな。だから女は嫌いなんだ。困ったらすぐ言えよ?」
「ああ。それはおいといて期末の範囲だが…」
期末は学年一位だった。一志はなんとか全教科赤点を免れた。
いつも女を侍らせてるこいつが女嫌いであることは俺だけが知っている。

俺にとって長い一学期が終わった。
学校は拷問だ。好きな女は俺がいないと何も出来ず、俺には恐怖と嫌悪を向ける。
精神が擦り切れそうになっていたそんな頃、学校は終わった。

こちらから二人で遊ぼうと連絡を入れても佐久耶は断るため、夏休みは
一志や菖蒲と殆ど過ごした。クラスメイトの誘いのときだけ佐久耶を誘い、
それ以外殆ど関わらなかった。俺も疲れていたのかもしれない。

一志は菖蒲は気に入っていた。馬鹿なことをしたり、海、キャンプ、
うちへの泊まりこみ…三人での夏休みは本当に楽しかった。

夏が終わると以前と同じような日々が変らず始まっていたが、二学期のある日、
ついに事件は起きた。

朝、駅の階段で佐久耶を見つけた俺は挨拶をしようと近づこうとしたが、
目の前で彼女が足を滑らせ、俺はそれを受け止めた。
結構な高さから落ちてきたため、階段では自分も踏ん張れず結局一番下まで
落ちて彼女をかばったために背中を強く打った。幸いにも荷物を下敷きに
することが出来たので怪我は無かった。運動神経に感謝したのは初めてだ。

「ごほっ…おい。気をつけろよ。佐久耶、怪我は無い…」
ぱんっ!!!
自分に何が起きたかわからなかった。
頬に痛みが走る。彼女は怒りに満ちた目で俺を見ている。
次の瞬間にはいつもの気弱な目に戻り、泣きそうになりながら学校に走っていった。
俺はそれを何も考えずに見送った。

教室に入ると全員の目がこちらに向いた。
通学時間帯だったお陰で見たものがいたのだろう。
そして男も女も俺に寄ってくる。残りのものは佐久耶に非難の視線を向けている。

「犬塚君…朝のあれ何…?」
「ああ、あれは……俺が変なことを言ったせいで佐久耶が驚いて足を滑らせたんだ。
 かばったのも無茶するなって怒られたよ。俺は心配かけてばかりだ。俺が悪いんだ。」
真顔で言い切れた。質問してきたクラスメイトも信じさせれるだろう。

「そ…そうなの?」
「違うでしょ!何でそこまで庇うのよ!!」
隣のクラスの菖蒲がいつの間にか教室に来ていた。こいつも見てたのか…。
本気で怒っている彼女の肩を叩いて俺は言った。

「菖蒲、いいんだ。」
「よくない!佐久耶!あんた何様よ!!いつも、八代に頼って!縋って!
離れようとしたら好きでもないのに縛りつけて!」
「菖蒲!!やめろ!!よせ!」
これ以上言わせるわけにはいかない。
俺は菖蒲を後ろから羽交い絞めにし、口を押さえた…が、
次の瞬間に噛み付かれ、離される。

「命懸けであんた助けた八代をあんな眼で叩くなんて…私の恩人を…
 私の好きな人を傷つけて…それでも平然としてるあんたを私は…
 私は…絶対に許さない!!」
羽交い絞めにされながら怒りに震える菖蒲を俺は必死に抑えながら、
佐久耶を見た。彼女は怯えていたがやがて口を開いた。


「仕方…ないんです。明るくて友達も多い菖蒲さんには判らない。」
「判る…わけないでしょう。あんたの気持ちなんか。」
「八代君は私の始めての友達です。中学まで誰も私と仲良くなんて
 してくれなかった。彼だけなんです。私が怖がっても気長に接してくれたのは。」
「あんた、そんな人に何してるか自覚…してんの。」
「彼は暗くてどうしようもない私を好きになってくれて…。本当に嬉しかったんです。
 彼がいて、みんなと仲良くできるようになって…だけど、私は他に好きな人がいたの。
断るしかないじゃないですか。」
「だったらなんで後で受けたのよ!それで八代が今どんだけ傷ついてんのよ!」
「彼がいなくなったらみんな私から離れていったんですよ…。彼は仕方ないとしても
菖蒲さんもみんなも好きな人も私を否定して…私は怖かったんです…一人に戻るのが。」
「そんな理由で…利用したの…」
菖蒲の顔は怒りを通り越して真っ青になっていた。
俺は佐久耶の告白にはそれほど驚かなかった。鋭い痛みは走ったが判っていたことだ。
彼女はその美しいといえる愁いを帯びた顔を向けて続けた。

「八代君は人気があるから…他の人と付き合うと私と入れなくなります。だから…
 お願いしたんです。でもどうしても…男の人として好きになれなかったんです。
 好きでない人に触られたらどうしても嫌なんです。無理なんです!」
「本当にどうしょうもない女…。」
「いいんだ、菖蒲。判っていたしその上で俺も好きでやってるんだ。」
「いいわけ…ないでしょう。私は無愛想な一匹狼だった八代がどれ程の努力を
 して、無理をしてみんなに溶け込もうとしたか知ってる。私のせいで停学まで
 受けて、白い眼で見られてたはずなのに。それなのに…こんな奴のせいで…」
菖蒲は俺の胸に頭をつけて泣いていた。
抱きしめる資格は俺には無いので代わりに頭を撫でていた。

「佐久耶がいなければそもそも努力すらしなかった。感謝してるんだ。」
「私もうやだよ。辛すぎるよ…わああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は菖蒲が泣き終えるまで好きにさせた。
彼女が泣き終えたとき佐久耶の味方は……俺しかいなかった。




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