最終更新: izon_matome 2009年05月11日(月) 20:04:03履歴
作者:◆ou.3Y1vhqc氏
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「ふぅ…やっとかぁ…長かったなぁ…」
――入院から1ヶ月。
今日ようやく晴れて退院の日を迎えれた。
ベッドから降りて窓を開ける。
冬風の冷たい匂いではなく、春の息吹…桜の甘い匂いが微かに香る。
下の駐車場を眺めると道にそって桜の木が植えられている。
まだ七分咲きだが見ていると心が落ち着く。
咲き乱れる桜ほど綺麗な花はないって聞いたことがあるけど、桜は満開になる前が一番綺麗だと思う。
「なに見てるの?……あぁ……もうすぐ桜も満開になるわね。」
荷造りを終えた母がペットボトルのお茶を差し出してくる。
「ありがとう…そだね、桜が咲いたら、みんなで花見に行こうね。」
少し前に約束した花見は凪家族と俺たち家族。それに大樹と早苗も加わり七人ですることになった。
なぜ大樹と早苗が加わることになったかと言うと、見舞いに来てくれた大樹と母が鉢合わせしてしまったのだ。
終始大樹が母のことをべた褒めするので「今度花見に行くけどくるか?」と誘うと何が何でも行く!とのことだ。
母と大樹が楽しく話してるのを見て少し嫉妬してしまったのは口が裂けても言えない。
早苗も同様、「花見に行くから早苗もいかない?」と誘うと友達と花見に行ったことがないらしく、すごく喜んでいたのを覚えている。
何回か見舞いに来てくれたけど大樹と早苗が2人で見舞いに来たのはあの一回だけだった。
なぜ別々にくるのかと早苗に聞いたら、「勇が勘違いするでしょ?だから別々にきてるのよ。」らしい
大樹が意味深に「あいつは怖いぞ。」と言っていたが今でも意味があまり分からない。
――「…ねぇ、勇?」
窓の外を眺めていると母に服の袖を引っ張られた。
「ん?なぁに?」
「今日から一緒に三人で住むんだけど…勇は本当にいいの?迷惑じゃないの?」
まだ母の中では罪悪感に苛まれているらしい。
溝がすぐに埋まるとは思っていないが、少しやるせない気持ちになる。
「前にも言ったけど俺は家族三人で暮らすことが本当に嬉しいし、楽しみなんだ。お母さんが帰ってくるのに不平不満は無いよ。」
「ありがとう……勇は本当に男前になったわね…私も負けずにがんばらなきゃね。」
母の言葉が「ごめんなさい」から「ありがとう」に変わったのが一番の嬉しい変化だ。
――「…2人ともなに見つめあって惚けてるの?私のいない間に……。」
ビックリして振り返ると、いつの間にかトイレから戻ってきた姉が真後ろに立っていた。
姉は女性と話すとなんでも変な方向に持っていく癖があるみたいだ。
「べっ、べつに見つめ合ってないよ、」
「そうよ?…第一息子と母なんだからべつに見つめ合うぐらい普通だよ?」
母が言ったことに疑問をもったがまぁ見つめ合う家族だっているだろう…あまり深く考えないようにしよう。
「普通じゃないでしょ…まぁいいわ…荷物はまとめたんでしょ?早く帰ろうよ。」
「そうね…それじゃ私はナースの人達にお礼言いにいくから先に表玄関まで行っといて。すぐに私も行くから。」
母がそう言うと、前もって買ってきてたケーキを冷蔵庫から取り出し、部屋を後にする。
「それじゃ行こっか?」
「うん…」
1ヶ月お世話になった病室を見渡す。
この部屋に少し愛着が沸いてきていたのかもしれない。
私物が無くなって真っ白な風景になった部屋を見渡すとどこか寂しく感じる。
もう来ることもないだろう…
「お姉ちゃん……玄関まで手繋ごっか?」
「え?………うん……はいっ!」
俺から手を繋ごうなんて、言ったことがないから驚いたのだろう。
少し戸惑っていたがすぐに手を差し伸べてきた。
「さっ行こっか?」
「うん。」
姉に手を引かれ部屋を後にする。
「早く家に帰りたいでしょ?リクエストなんでもして良いよ?作れる範囲なら。」
「ははっ、今から考えとくよ。」
今から家に帰り、俺の退院祝いをしてくれるらしい。
夕方には凪と凪母も参加すると言ってたので、俺たち家族が食材を買って家に帰らなければならない。
――「まだちょっと肌寒いな…」
母を待つために病院から出る。
ロビーで待っていても良かったのだが、早く病院から出たかったのと、一際でかい桜の木が病室から見えたので、近くに行って下から眺めたかったのだ。
「うわ〜綺麗な桜…満開になったらすごいでしょうね。……」
「うん、上から見えたから近づきたかったんだ……綺麗だね。」
この一本だけやたらでかい…なのに物凄く繊細で桜の色も綺麗だ
姉も見惚れている。
「ん?な〜に?何か顔についてる?」
「いっ…いや、べっ、べつに…。」
姉の横顔を眺めていると見られてることに気がついたのかこちらに振り向いた。
慌てて目を反らすがなぜかオドオドしてしまった。
「…さっきね?…勇に手を繋ごうっていわれた時、ビックリしたけど物凄く嬉しかった…」
握っている手をもう一度しっかり握り返してくる。
少し手汗をかいてるが、離すどころか姉は力強く握っている。
「…勇……今しか言わないことだから…私の話聞いてくれる?」
顔が髪に隠れて表情が見えない。
声を聞く限り泣いてる訳でもなくはっきりと話している。
「うん……べつにいいよ。」
多分お母さんが居てると話せないことなのだろう。
2人だからこそ話せる話だってある。
「…私ね?……勇が他の人と話してるのを見かけると、たまに物凄くイラッと来るときがあるの……姉なのに嫉妬なんておかしいでしょ?」
「……」
その感情がおかしいのか正直わからない…俺はこの家族で育ったから他人の家族と比べることなんてできなかった…。
姉に彼氏ができれば少なからず嫉妬するかもしれないし。
母が再婚すれば始めは反対するかもしれない。
ただ仲が良い家族には良くあることじゃないのかと俺は思っている。
「私バカだから………こんなこと普通聞かないと思うけど………私どうしたら勇の自慢のお姉ちゃんになれるの?」
――「自慢の……お姉ちゃん…?」
「うん……ずっと考えてたんだけど、正直自慢のお姉ちゃんってどんなのかわからなくて……一応いろんなことしたけど勇と一緒にいる時が一番楽しいし……自慢のお姉ちゃんって……勇に近づかなきゃ自慢のお姉ちゃんになれるの?……わからない…」
入院してる間ずっと考えてたのか…。
入れ替わりで姉が入院したらたまったものじゃない。
「…お姉ちゃんにとってさ…俺って胸張って弟ですっいえる?」
「あたりまえじゃない!?勇は私の弟よ!!」
「あたりまえ…だよね?俺も一緒…あたりまえなんだよ。」
「え…?」
「俺の姉はお姉ちゃんだけだし、お姉ちゃんしか考えられない…だってあたりまえに毎日一緒にいたからね。」
「ぇ……あ…」
「他人に自慢なんてしなくても俺のお姉ちゃんってだけで大満足だよ?家族愛なんて俺たちが決めることでしょ?他人が決めることじゃないでしょ。」
「……」
そう…これは俺たち家族のことなんだ…いちいち他人に自慢なんかしても、なにも得る物なんて無い。
「今の俺があるのもお姉ちゃんのおかげなんだよ?俺が自慢って言うなら、自慢の弟にしたお姉ちゃん自信、誇りに思っても罪にならないでしょ?」
「勇…」
「だから強いて言うなら普段のお姉ちゃんが自慢できる姉かな?」
そう…普段の姉こそ一番魅力的だと断言できる。
正直無理してる姉はみてるほうが痛々しくなる。
「そう………ふふっ……勇って本当に女ったらしね……ちょっとドキドキしたよ?。」
姉が髪をかきあげてこちらを見る姿に少しドキッとした。
さっきまでの姉と違って表情がどことなく色気を感じたからだ。
なにか吹っ切れたみたいに清々しい顔をしている。
「女ったらしって……人聞きが悪いな…」
心を見透かされてるみたいで恥ずかしくなり桜の木に目を向ける。
枝の間から差し込む太陽が眩しい…。
「勇?」
「ん〜?なに?」
――「心から愛してるわ…。」
「うん…ありがとう。」
家族愛か別の愛情か……姉の声からは判別できなかった。
ただ多分もうこの言葉は聞けないと思う……。
姉として一つの区切りなのだろう。
「ふふっ…勇に彼女ができたら大泣きしてやるから、おぼえてなさい?。」
恥ずかしいが桜よりも姉の笑顔のほうがはるかに綺麗だった。
――「こらー!!勇も麻奈ちゃんも、お母さん置いてなにウロウロしてるのよー!?」
声につられて後ろを振り返ると、こちらに走ってくる母が視界に入る。
「あぁ…そういや玄関前で待ってろって言われてたね…忘れてた。」
「はぁ、はぁッ忘れてたって……てゆうか仲良く手繋いでなにしてたの?」
多分探してくれたのだろう。
服が少し乱れている。
「ん?上から見た時この桜だけ目立ったから近くで見たかったんだよ。だから見てた。」
「そう…じゃあ、なんで手繋いでるの?」
どことなく膨れっ面に見える。
「お母さん…知らないの?姉弟で手を繋ぐなんてあたりまえなのよ?…見つめあうのがあたりまえみたいにね。」
姉なりの母に対する仕返しなのだろう。
だが母は「あっそっか。」と普通に流してしまった。
最近分かったことだが母は魔性の天然らしく、姉が言うには1ヶ月一緒に暮らしたけど、未だに行動パターンが読めないらしい。
「それじゃ、私は反対の手…を握りたいけど荷物あるからこうするね。」
開いてる腕を母が組んでくる。
「まぁいいけど…車までだよ?」
こうやって三人で歩く桜道が一番の退院祝いかもしれない。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
―― 「この辺までくるとやっぱり安心感があるなぁ…。」
車に乗って40分、やっと地元についた。
ここまで来ると見慣れた建物がいくつも並んでいる。
いつも見ていた建物だが、なぜかテンションが上がる。
「そうね……」
母の車に乗るのはこれで二回目だが、運転はかなり慎重だ。
だから運転中の母に話しかけても、あまり返答が返ってこない。
母の身長のせいで少し前が見づらいらしい。
「もうすぐ家かぁ〜なんだかワクワクする。」
「おかしなこと言うね勇は、自分の家へ帰るのにワクワクするの?」
後部席から身を乗り出し話しかけてくる姉を、母が危ないと注意する。
自宅へ帰るのにワクワクするなんて入院しなければ分からない感情だと思う。
このワクワクはもう経験したくない。
懐かしさに浸っているとポケットに入ってる携帯がヴーッヴーッと震えるのを感じた。
携帯をポケットから出してディスプレイを見る。
「誰だろ?………凪ちゃん?。」
携帯の画面には「凪ちゃん」と表示されている。
←前話に戻る
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◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「ふぅ…やっとかぁ…長かったなぁ…」
――入院から1ヶ月。
今日ようやく晴れて退院の日を迎えれた。
ベッドから降りて窓を開ける。
冬風の冷たい匂いではなく、春の息吹…桜の甘い匂いが微かに香る。
下の駐車場を眺めると道にそって桜の木が植えられている。
まだ七分咲きだが見ていると心が落ち着く。
咲き乱れる桜ほど綺麗な花はないって聞いたことがあるけど、桜は満開になる前が一番綺麗だと思う。
「なに見てるの?……あぁ……もうすぐ桜も満開になるわね。」
荷造りを終えた母がペットボトルのお茶を差し出してくる。
「ありがとう…そだね、桜が咲いたら、みんなで花見に行こうね。」
少し前に約束した花見は凪家族と俺たち家族。それに大樹と早苗も加わり七人ですることになった。
なぜ大樹と早苗が加わることになったかと言うと、見舞いに来てくれた大樹と母が鉢合わせしてしまったのだ。
終始大樹が母のことをべた褒めするので「今度花見に行くけどくるか?」と誘うと何が何でも行く!とのことだ。
母と大樹が楽しく話してるのを見て少し嫉妬してしまったのは口が裂けても言えない。
早苗も同様、「花見に行くから早苗もいかない?」と誘うと友達と花見に行ったことがないらしく、すごく喜んでいたのを覚えている。
何回か見舞いに来てくれたけど大樹と早苗が2人で見舞いに来たのはあの一回だけだった。
なぜ別々にくるのかと早苗に聞いたら、「勇が勘違いするでしょ?だから別々にきてるのよ。」らしい
大樹が意味深に「あいつは怖いぞ。」と言っていたが今でも意味があまり分からない。
――「…ねぇ、勇?」
窓の外を眺めていると母に服の袖を引っ張られた。
「ん?なぁに?」
「今日から一緒に三人で住むんだけど…勇は本当にいいの?迷惑じゃないの?」
まだ母の中では罪悪感に苛まれているらしい。
溝がすぐに埋まるとは思っていないが、少しやるせない気持ちになる。
「前にも言ったけど俺は家族三人で暮らすことが本当に嬉しいし、楽しみなんだ。お母さんが帰ってくるのに不平不満は無いよ。」
「ありがとう……勇は本当に男前になったわね…私も負けずにがんばらなきゃね。」
母の言葉が「ごめんなさい」から「ありがとう」に変わったのが一番の嬉しい変化だ。
――「…2人ともなに見つめあって惚けてるの?私のいない間に……。」
ビックリして振り返ると、いつの間にかトイレから戻ってきた姉が真後ろに立っていた。
姉は女性と話すとなんでも変な方向に持っていく癖があるみたいだ。
「べっ、べつに見つめ合ってないよ、」
「そうよ?…第一息子と母なんだからべつに見つめ合うぐらい普通だよ?」
母が言ったことに疑問をもったがまぁ見つめ合う家族だっているだろう…あまり深く考えないようにしよう。
「普通じゃないでしょ…まぁいいわ…荷物はまとめたんでしょ?早く帰ろうよ。」
「そうね…それじゃ私はナースの人達にお礼言いにいくから先に表玄関まで行っといて。すぐに私も行くから。」
母がそう言うと、前もって買ってきてたケーキを冷蔵庫から取り出し、部屋を後にする。
「それじゃ行こっか?」
「うん…」
1ヶ月お世話になった病室を見渡す。
この部屋に少し愛着が沸いてきていたのかもしれない。
私物が無くなって真っ白な風景になった部屋を見渡すとどこか寂しく感じる。
もう来ることもないだろう…
「お姉ちゃん……玄関まで手繋ごっか?」
「え?………うん……はいっ!」
俺から手を繋ごうなんて、言ったことがないから驚いたのだろう。
少し戸惑っていたがすぐに手を差し伸べてきた。
「さっ行こっか?」
「うん。」
姉に手を引かれ部屋を後にする。
「早く家に帰りたいでしょ?リクエストなんでもして良いよ?作れる範囲なら。」
「ははっ、今から考えとくよ。」
今から家に帰り、俺の退院祝いをしてくれるらしい。
夕方には凪と凪母も参加すると言ってたので、俺たち家族が食材を買って家に帰らなければならない。
――「まだちょっと肌寒いな…」
母を待つために病院から出る。
ロビーで待っていても良かったのだが、早く病院から出たかったのと、一際でかい桜の木が病室から見えたので、近くに行って下から眺めたかったのだ。
「うわ〜綺麗な桜…満開になったらすごいでしょうね。……」
「うん、上から見えたから近づきたかったんだ……綺麗だね。」
この一本だけやたらでかい…なのに物凄く繊細で桜の色も綺麗だ
姉も見惚れている。
「ん?な〜に?何か顔についてる?」
「いっ…いや、べっ、べつに…。」
姉の横顔を眺めていると見られてることに気がついたのかこちらに振り向いた。
慌てて目を反らすがなぜかオドオドしてしまった。
「…さっきね?…勇に手を繋ごうっていわれた時、ビックリしたけど物凄く嬉しかった…」
握っている手をもう一度しっかり握り返してくる。
少し手汗をかいてるが、離すどころか姉は力強く握っている。
「…勇……今しか言わないことだから…私の話聞いてくれる?」
顔が髪に隠れて表情が見えない。
声を聞く限り泣いてる訳でもなくはっきりと話している。
「うん……べつにいいよ。」
多分お母さんが居てると話せないことなのだろう。
2人だからこそ話せる話だってある。
「…私ね?……勇が他の人と話してるのを見かけると、たまに物凄くイラッと来るときがあるの……姉なのに嫉妬なんておかしいでしょ?」
「……」
その感情がおかしいのか正直わからない…俺はこの家族で育ったから他人の家族と比べることなんてできなかった…。
姉に彼氏ができれば少なからず嫉妬するかもしれないし。
母が再婚すれば始めは反対するかもしれない。
ただ仲が良い家族には良くあることじゃないのかと俺は思っている。
「私バカだから………こんなこと普通聞かないと思うけど………私どうしたら勇の自慢のお姉ちゃんになれるの?」
――「自慢の……お姉ちゃん…?」
「うん……ずっと考えてたんだけど、正直自慢のお姉ちゃんってどんなのかわからなくて……一応いろんなことしたけど勇と一緒にいる時が一番楽しいし……自慢のお姉ちゃんって……勇に近づかなきゃ自慢のお姉ちゃんになれるの?……わからない…」
入院してる間ずっと考えてたのか…。
入れ替わりで姉が入院したらたまったものじゃない。
「…お姉ちゃんにとってさ…俺って胸張って弟ですっいえる?」
「あたりまえじゃない!?勇は私の弟よ!!」
「あたりまえ…だよね?俺も一緒…あたりまえなんだよ。」
「え…?」
「俺の姉はお姉ちゃんだけだし、お姉ちゃんしか考えられない…だってあたりまえに毎日一緒にいたからね。」
「ぇ……あ…」
「他人に自慢なんてしなくても俺のお姉ちゃんってだけで大満足だよ?家族愛なんて俺たちが決めることでしょ?他人が決めることじゃないでしょ。」
「……」
そう…これは俺たち家族のことなんだ…いちいち他人に自慢なんかしても、なにも得る物なんて無い。
「今の俺があるのもお姉ちゃんのおかげなんだよ?俺が自慢って言うなら、自慢の弟にしたお姉ちゃん自信、誇りに思っても罪にならないでしょ?」
「勇…」
「だから強いて言うなら普段のお姉ちゃんが自慢できる姉かな?」
そう…普段の姉こそ一番魅力的だと断言できる。
正直無理してる姉はみてるほうが痛々しくなる。
「そう………ふふっ……勇って本当に女ったらしね……ちょっとドキドキしたよ?。」
姉が髪をかきあげてこちらを見る姿に少しドキッとした。
さっきまでの姉と違って表情がどことなく色気を感じたからだ。
なにか吹っ切れたみたいに清々しい顔をしている。
「女ったらしって……人聞きが悪いな…」
心を見透かされてるみたいで恥ずかしくなり桜の木に目を向ける。
枝の間から差し込む太陽が眩しい…。
「勇?」
「ん〜?なに?」
――「心から愛してるわ…。」
「うん…ありがとう。」
家族愛か別の愛情か……姉の声からは判別できなかった。
ただ多分もうこの言葉は聞けないと思う……。
姉として一つの区切りなのだろう。
「ふふっ…勇に彼女ができたら大泣きしてやるから、おぼえてなさい?。」
恥ずかしいが桜よりも姉の笑顔のほうがはるかに綺麗だった。
――「こらー!!勇も麻奈ちゃんも、お母さん置いてなにウロウロしてるのよー!?」
声につられて後ろを振り返ると、こちらに走ってくる母が視界に入る。
「あぁ…そういや玄関前で待ってろって言われてたね…忘れてた。」
「はぁ、はぁッ忘れてたって……てゆうか仲良く手繋いでなにしてたの?」
多分探してくれたのだろう。
服が少し乱れている。
「ん?上から見た時この桜だけ目立ったから近くで見たかったんだよ。だから見てた。」
「そう…じゃあ、なんで手繋いでるの?」
どことなく膨れっ面に見える。
「お母さん…知らないの?姉弟で手を繋ぐなんてあたりまえなのよ?…見つめあうのがあたりまえみたいにね。」
姉なりの母に対する仕返しなのだろう。
だが母は「あっそっか。」と普通に流してしまった。
最近分かったことだが母は魔性の天然らしく、姉が言うには1ヶ月一緒に暮らしたけど、未だに行動パターンが読めないらしい。
「それじゃ、私は反対の手…を握りたいけど荷物あるからこうするね。」
開いてる腕を母が組んでくる。
「まぁいいけど…車までだよ?」
こうやって三人で歩く桜道が一番の退院祝いかもしれない。
◇ ◇ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
―― 「この辺までくるとやっぱり安心感があるなぁ…。」
車に乗って40分、やっと地元についた。
ここまで来ると見慣れた建物がいくつも並んでいる。
いつも見ていた建物だが、なぜかテンションが上がる。
「そうね……」
母の車に乗るのはこれで二回目だが、運転はかなり慎重だ。
だから運転中の母に話しかけても、あまり返答が返ってこない。
母の身長のせいで少し前が見づらいらしい。
「もうすぐ家かぁ〜なんだかワクワクする。」
「おかしなこと言うね勇は、自分の家へ帰るのにワクワクするの?」
後部席から身を乗り出し話しかけてくる姉を、母が危ないと注意する。
自宅へ帰るのにワクワクするなんて入院しなければ分からない感情だと思う。
このワクワクはもう経験したくない。
懐かしさに浸っているとポケットに入ってる携帯がヴーッヴーッと震えるのを感じた。
携帯をポケットから出してディスプレイを見る。
「誰だろ?………凪ちゃん?。」
携帯の画面には「凪ちゃん」と表示されている。
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