PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏

――お父さん…



いつもある「毎日」が一本の電話で音を立てて崩れ落ちた。
お手伝いさんのヒソヒソ声が、偶然扉越しに聞こえてしまった。
ハッキリと聞こえた「事故」、「即死」と言う言葉。
トラックとの接触事故らしいがどうでもいい……
お父さんがいなくなった今、私の居場所はもう無かった。

お母さんはいつも忙しく、私の周りのことは、全部お手伝いさんがしてくれた。
だからお母さんとの思い出がまったくない。
だけどお父さんは違った、忙しいけど暇をみつけては私と一緒にいてくれた。
夜寝る時も、私が寝るまで側にいてくれた。
私の大好きなお父さん。

なのになんでだろう……
お父さんの葬式の時も、お父さんが火の中に入れられるのを見た時も、涙は出なかった。

なんでだろう――お父さんの顔が思い出せなくなっていた。

お父さんの葬式から5日も経てば、周りのみんなは、なにもなかったかのように普段の日常を取り戻していた。
私だけ日常に戻れず、学校と家の行き帰りだけになっていた。
外に遊びに行くわけでもなく、家でなにかするわけでもなく、窓の外を見るだけ。
お父さんの部屋の前に行ったが扉を開けようとすると手が震えて開けられなかった。
扉を開けてお父さんがいなければ、私は多分泣き叫ぶと思う。
いや…絶対に壊れるという確信があった。
だからお父さんのことは、頭では解っていたけど心が現実を拒んでいた。
お父さんがいないこの家は私の家ではない……

どうせお母さんは私のことを探さない。
そう思うと行動は早かった。
財布とお父さんから貰った携帯以外なにも持たず家を飛び出した。

――なにも考えず歩いた。
夕方になり空が薄暗くなるとカラスが鳴き始める。

財布の中を見てみると千円と小銭がちょっと
「…」
近くのコンビニで肉まんを買いまた歩き始める。
「寒い……ここどこだろ…」
なにも考えずに、歩いて来たため、ここがどこかまったくわからなかった。

トボトボと歩いていると近くに自販機が見える
「…なにか暖かいの飲もう…」


自販機の前に立ち、財布から千円札をだそうと手をかけたその時。

後ろから図太い男の声が聞こえた。


「ねぇ、どうしたの?…… 」
いきなり声をかけられたので、ビックリしてお金を下に落としてしまった
「あぁ…ごめん、怖がらせちゃったね。」
振り返ると小太りの30代の男の人が立っていた
「うぅ…あの、えっと…わたし…」
「大丈夫だよ、おじさんがとってあげるよ」
そう言うとしゃがみ込んで千円札を拾う。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

御礼を言うとまた自販機に向き直る。
なにも買わずに走って逃げたら怪しまれると思って手が震えるのを我慢し、千円札を入れる。
「髪になにかついてるよ……」
そう言うとり小太りの男は髪を触ってきた
「ありが……ざいます…」
背筋がゾッとする
(早く逃げなきゃ!!)
ジュースを買い、とるためにしゃがみ込むと
男の手が肩に置かれる。
「夜遅いから……家まで一緒に行ってあげるよ。」

この瞬間、身の危険より、家に送り返されることが頭が浮かんだ。
「やッ!!」

ジュースもお釣りも取らず、走って逃げようとした。
ガシッ
「まってよ…大丈夫だからね?こっちおいで」

腕を掴まれ、恐怖で足が動かない。

「それじゃ、僕の家においでよ…」
凪がピタッと止まる。
それを見た男は、汚らしい笑顔を浮かべた。
「……家?」
私がこの人の家に行く?
「そう……遊ぼうよ」
意味がわからない、私を家に連れて帰るんじゃないの?
「遊ぶってなにして?」
「楽しいことだよ」
男はニコッと笑って頭を撫でてきた。

本来なら嬉しいはずが、男の行為すべてに嫌悪感しか抱けない。
この時になってやっと本当の身の危険を感じ取った。
(この人おかしい…ついて言っちゃダメだ!)
男が凪の頭を撫で終わった直後、男を両手で、力いっぱい突き飛ばした。

すると男は、中腰で立っていたため、女の子の力でも勢いよく派手に転んだ。
その隙に凪は、男の横を全速力で走り抜けた。
男もすぐさま立ち上がり、追いかけようとしたが凪の足の速さに勝てる訳もなく、ただ呆然としてるだけだった。


――後ろを振り返らず、がむしゃらに走った。
「ハァ…ハァ…ハァ」
どれぐらい走ったかわからないが、追っかけてくる足音も声も聞こえない。
後ろを振り返ると誰もいない、
「……はぁ〜怖かったぁ」
安堵か恐怖か解らない足の震えが来る。
「これからどうしよう、お金もう無いし…戻るのは嫌だし。」
お釣りを置いてきてしまったので財布は空っぽだ。

またトボトボ歩き出す。
(私このまま死んじゃうのかなぁ?…そしたらお父さんに会えるかな…)
ふとそんなことを考えながら歩いていると
視界に薄暗い公園が入ってきた。

空を見上げればもう真っ暗だ…
無論公園には誰もいない。

夜の公園は怖いが仕方がない。
街灯に照らされている一つのベンチが目に入る。
(歩くの疲れた…ちょっと休もう)
フラフラになりながらベンチに腰を落とす。

(少し休んだらまた歩こう)

どこに?

(はぁ…心配してるかなぁ)

だれが?

(………)

私を心配する人や、帰りを待ってる人なんて、誰もいない。

「……お父さん」
公園で遊んでいれば迎えに来てくれた。
「…ウッ…グスッ…」
いつも私の頭を撫でてくれた
「お父さんに…会いたい…」
顔を思い出せないんじゃなくて、思い出したくないんだ……
(お父さんが探してくれるまでここにいよう……お父さんなら見つけてくれるはず)
今は、唯一この街灯の照らす光が、私の居場所。


お父さんのことを考えていると、少し遠くから小さな声が聞こえる。
お父さんの声ではないので私ではない。
しかし足音は公園内に入ってくる。
(もしかして……追いかけてきた?)
嫌な汗がでる。
(ヤダ、怖い!逃げなきゃ!!)
そう考えていると視界に靴のつま先が入ってきた。
(もうダメ!逃げれない!!)
ギュッと目を瞑り膝を強く抱え込む。



――「大丈夫ですか?なにかあったんなら警察呼びますか?」


――あの人じゃない?
聞こえてきた声はもの凄く優しい声だった。
お父さんと同じ優しい声
何故か分からないけど、その人の顔を見たくて自然と目線が上がる。

お父さんに似てる…
顔や背格好が似てる訳じゃなく、雰囲気がお父さんに似てる。
「帰るお家ない…お父さんいなくなっちゃったから」

なぜこの人にこんなこと言ったんだろう…自分でもよくわからない
ただこの人が、本当に心配してくれてるのが声でわかった
こんな優しい声を私にかけてくれる人なんて、お父さん以外にいなかった。

気が緩んだのか見知らぬ人の前で私は泣いてしまった。
私が急に泣き出したのを見て、男の人が困惑してるのが分かる
だが感情が溢れかえってる今、涙を止めることはできなかった。
オロオロしながら男の人が私に言う
「それじゃお巡りさんに助けてもらおっか?」

おいて行かれる!!
「嫌!お兄ちゃんも私を置いてどこかいくんでしょ!?」


言い終わった後にハッとなった。
(もうダメ…私おいていかれる…)
「こんな暗いとこに置いていくわけないだろ?一緒にお巡りさんのとこまで連れていってあげるよ」

考えていたことと違った答えが返ってくる。
どうしたらいいか考えていると、彼が私にスッと手を差し伸べてきた。
(…握ってもいいのかな?)
少し警戒したが思い切って手を握る。

(……暖かい)
手袋もせず、何時間も真冬の夜の街を歩き回っていたから手の感覚が無かった。
「どうしたの?早くいこ?」
手の暖かさを感じていると声をかけられた。

「嫌、お巡りさんのとこにいくとあの家に連れていかれる…」
「家があるの?なら帰らなきゃ心配するよ?お母さんだって今頃探してるかも」
「あの家に帰るならもうここでお家つくるもん!!」

感情的になって繋いでいた手を離してしまった。
(手……離れちゃった…)
よくわからない感情がこみ上げてくる。

もう一度手を繋ぎたい、そう思いながら彼の手を見ていると。
「キミが嫌じゃなかったら一晩だけ家にくるかい?」

――え?今なんて?私がこの人の家に行く?…

(さっきのおじさんと同じこと言ってる…どうしよう、でも…おじさんみたいに嫌悪感がまったく感じられない。)

父の顔色ばかり伺う人を見てきたからなのか、上辺で話してる人と、心から話してる人の区別がつく。
「ここじゃ寒いでしょ?風邪引くし寝る所ぐらいなら用意するよ?」

でも…もう、私にはこの人しかいないんだ。
「いいの?迷惑じゃないの?」
「大丈夫だよ、てゆうかキミをここに置いていったら心配で眠れないから」
彼が優しい笑顔で答えてくれる。
思わず嬉しくなって抱きついてしまった。
彼は倒れそうになるのを支えてくれた。
(お兄ちゃん…)
何時間もかけて、ここまで歩いてきた理由がやっとわかった…。



――この人に会うためだ。




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