最終更新: izon_matome 2010年07月01日(木) 05:23:21履歴
作者:6-665氏
そしてその何かが象徴するように状況はさらに悪化してきていた。
四時間目の授業が終了後、昼食を食べ終わった俺は次の授業が移動教室だったので、
特にやることも無いと思い早めに授業をやる教室へと向かうことにした。
その際に優香のクラスの前を通りかかる。
何気なく教室の中を覗いて見ると、休み時間だと言うのに席に座っている優香が見えた。
そしてその横に立って、話しかけている東田の姿も。
東田はいつも見せる人懐こい笑顔で会話を試みているようだが優香の表情は少々戸惑い気味に見える。
まだ心は開いていないようだ。
ふと優香がこちらに気づき一瞬目が合い、一瞬喜んだ顔をするがそれも束の間すぐにはっとした表情をしてまた視線を逸らしてしまった。
どうやら昨日の忠告がきいているようで、少し嬉しくなったが、こんなところで立ち止まっていたら
怪しまれるのでやや早足でその場を立ち去る…つもりだったが、後ろから声がかけられたため振り返ることになった。
「お〜い、ええっと…近藤?だっけ」
妙に憎めないファニーフェイスで東田が教室の戸から顔だけ出して呼び止める。
「…そうだよ、何か用か?」
ゆっくりと振り返った俺に抱きつくように東田が走ってきて両手を強く握り締めてくる。
「ちょっと助けてくれないか?」
真剣な面持ちで俺より少しだけ背の高い端正な顔を近づけながら頼みごとをしてくる姿に正直気圧されてしまい、
「な、なに?」
のけぞりながら返事を返してしまった。
「お、お前ってさ、瀬能さんと幼馴染なんだろ?す、少し一緒に話をしないか?
実はさ、さっきから話しかてるんだけどどうも俺がむさいせいか彼女引き気味なんだよ〜、教室の中がすごい微妙な空気になってるんだ!とにかくこっちに来てくれ!」
有無を言わさずに強引に俺の手を引っ張って教室内へと連れて行く。
手にはじっとりと汗をかいていて握られた手のひらごしに伝わる感触が気持悪い…というより不快だった
「や、やあ…瀬能さん、ちょうど君の幼馴染で演劇部の仲間である近藤が来てくれたから一緒にトークしようぜ」
やや外し気味のテンションの東田と急に俺が現れて少しテンパっている優香、そしてあきれ気味の俺、遠巻きに楽しげに見ている優香のクラスメイトたち。
なんとも混沌とした雰囲気の中で東田はそれに気づきもしないで話を始める。
内容は学生らしいといえば学生らしい話だった。 好きなアーティスト、お笑い芸人、テレビ番組に学校のこと。
話している内容は何の変哲も無いことだったが、東田という人間にかかるととても面白いことのように感じられる。
彼の話し方のトーン、リアクションに聞かせっぱなしにならないように要所でこちらに話を向けてくるタイミングの良さ。
まるで素晴らしい映画を見ているような気になるほどに東田の話は楽しかった。
あまり笑わない俺でさえ笑ってしまうほどに東田のトークというか人を楽しませる能力は際立っているということが感じられた。
そしてその結果として彼は人にとても好かれやすいという人間なんだろう。
それを俺は理解した。 後は彼の魅力に気づかれる前にどうやって優香と彼を引き剥がすのかを考えなければならない。
俺の予感に間違いは無かったのだ。
東田は起きてしまえば決して生き残ることの出来ない大いなる災厄なのだ。
優香が東田に惹かれてしまえばそこで全てが終わりとなる。
一度引き上げられた蝶ははるか大空にまで飛び上がって蜘蛛には届くことの無い高さまで行ってしまうだろう。
東田の笑顔と優香の笑い顔の中で俺はその恐怖に立ち舞うことが果たして出来るのかと微笑を浮かべたまま自問した。
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そしてその何かが象徴するように状況はさらに悪化してきていた。
四時間目の授業が終了後、昼食を食べ終わった俺は次の授業が移動教室だったので、
特にやることも無いと思い早めに授業をやる教室へと向かうことにした。
その際に優香のクラスの前を通りかかる。
何気なく教室の中を覗いて見ると、休み時間だと言うのに席に座っている優香が見えた。
そしてその横に立って、話しかけている東田の姿も。
東田はいつも見せる人懐こい笑顔で会話を試みているようだが優香の表情は少々戸惑い気味に見える。
まだ心は開いていないようだ。
ふと優香がこちらに気づき一瞬目が合い、一瞬喜んだ顔をするがそれも束の間すぐにはっとした表情をしてまた視線を逸らしてしまった。
どうやら昨日の忠告がきいているようで、少し嬉しくなったが、こんなところで立ち止まっていたら
怪しまれるのでやや早足でその場を立ち去る…つもりだったが、後ろから声がかけられたため振り返ることになった。
「お〜い、ええっと…近藤?だっけ」
妙に憎めないファニーフェイスで東田が教室の戸から顔だけ出して呼び止める。
「…そうだよ、何か用か?」
ゆっくりと振り返った俺に抱きつくように東田が走ってきて両手を強く握り締めてくる。
「ちょっと助けてくれないか?」
真剣な面持ちで俺より少しだけ背の高い端正な顔を近づけながら頼みごとをしてくる姿に正直気圧されてしまい、
「な、なに?」
のけぞりながら返事を返してしまった。
「お、お前ってさ、瀬能さんと幼馴染なんだろ?す、少し一緒に話をしないか?
実はさ、さっきから話しかてるんだけどどうも俺がむさいせいか彼女引き気味なんだよ〜、教室の中がすごい微妙な空気になってるんだ!とにかくこっちに来てくれ!」
有無を言わさずに強引に俺の手を引っ張って教室内へと連れて行く。
手にはじっとりと汗をかいていて握られた手のひらごしに伝わる感触が気持悪い…というより不快だった
「や、やあ…瀬能さん、ちょうど君の幼馴染で演劇部の仲間である近藤が来てくれたから一緒にトークしようぜ」
やや外し気味のテンションの東田と急に俺が現れて少しテンパっている優香、そしてあきれ気味の俺、遠巻きに楽しげに見ている優香のクラスメイトたち。
なんとも混沌とした雰囲気の中で東田はそれに気づきもしないで話を始める。
内容は学生らしいといえば学生らしい話だった。 好きなアーティスト、お笑い芸人、テレビ番組に学校のこと。
話している内容は何の変哲も無いことだったが、東田という人間にかかるととても面白いことのように感じられる。
彼の話し方のトーン、リアクションに聞かせっぱなしにならないように要所でこちらに話を向けてくるタイミングの良さ。
まるで素晴らしい映画を見ているような気になるほどに東田の話は楽しかった。
あまり笑わない俺でさえ笑ってしまうほどに東田のトークというか人を楽しませる能力は際立っているということが感じられた。
そしてその結果として彼は人にとても好かれやすいという人間なんだろう。
それを俺は理解した。 後は彼の魅力に気づかれる前にどうやって優香と彼を引き剥がすのかを考えなければならない。
俺の予感に間違いは無かったのだ。
東田は起きてしまえば決して生き残ることの出来ない大いなる災厄なのだ。
優香が東田に惹かれてしまえばそこで全てが終わりとなる。
一度引き上げられた蝶ははるか大空にまで飛び上がって蜘蛛には届くことの無い高さまで行ってしまうだろう。
東田の笑顔と優香の笑い顔の中で俺はその恐怖に立ち舞うことが果たして出来るのかと微笑を浮かべたまま自問した。
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