PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆6ksAL5VXnU氏

 深夜のコンビニで出会った少女。いや、もう女性か。
 彼女は、俺が教育実習生だった頃に出会った生徒だ。家庭の問題で高校を卒業する事無く、退学した。
 その記憶が濃くて、接した期間は短かったが、一番印象に残っていた。
「川崎燕(かわさき つばめ)さん、だよな?」
「やっぱ先生! なつかしー!」
 眠気などは何処かへいっていた。
「マジで一瞬判らなかったよ」
「ふふ、そう?」
 学生の頃はパサパサの金髪に、パンダメイクという、非常にお粗末なギャルファッションだったが、今その面影は欠片もない。
 髪は地味ながらも綺麗なショートヘアーになっており、化粧も巧くなっている。左目の泣きぼくろが印象的な、美人となっていた。
「本当に、変わったよな」
「あは、前は酷かったもんね。今は仕事とかあるから」
「今の方が綺麗だよ」
 言ってから自分の言葉に気が付いて、年甲斐もなく赤くなる。これじゃまるでナンパだ。
 チラッと川崎さんの方を覗いてみると、彼女も少し驚いているようだった。
「ありがと、先生。……ちょっとキャラ変わったね」
「はは、まあな」
 笑って誤魔化した。彼女も釣られて笑ってくれた。
 一瞬の沈黙。その後で、彼女は俺に尋ねてきた。
「先生さ、今何してんの?」
「ニート」
「え?」
「嘘」
 受けなかった。
「今は、普通のリーマンって感じだな」
「教師には、ならなかったんだ?」
「色々厳しくてさ。まぁ、厳しいのはどこも一緒だけど」
「……疲れてるみたいだね」
 心配そうに俺を見つめるその目は、何というか、とても綺麗で、何時までも見つめていたいような、そんな目だった。
「疲れてるのは、一緒だろ。そっちは、何をしてるんだ?」
「パートで何とか生きてるって感じ。家は実家だからそこまで厳しくはないけど」
「へぇ、パートって?」
「ファミレス。もう忙しくて」
 ファミレスか。彼女は自転車で来ているから、この近くだろう。となれば。
「そこのガ●ト?」
 呟くように聞くと、彼女はピクッと反応した。
「うん、そこ! もしかして、たまに来たりするの?」
「やっぱりか! 結構使うよ」
 ファミリーレストランガ●ト。俺の重宝している店である。値段のわりに、店内はお洒落で、しかも中々うまい。
 彼女は驚いていたが、俺も驚いていた。まさかあの店で彼女が働いていたとは。
「あれ? でも、中々会わないよね」
「いつも何時くらいに入るの?」
「あ、そっか。私、いつも夜8時くらいに入るから」
「あぁ、なら会わないな。俺は昼と、遅くても夜の7時くらいにしか行かないから」
 そうなんだ、と彼女はまた落ち着いた。
「ラッシュ時は大変だろ?」
「大変なんてものじゃないよ」
 言って、彼女は真底うんざりした顔をした。相当参ってるらしい。
 俺のやっていたバイトは主に、裏で荷物を運んだりする力仕事だった為、彼女がどのような事をやっているのかわからないが、まぁ大変なんだろう。
 彼女の愚痴を聞いているうちに、時計は午前2時を指していた。
「川崎さん、帰らなくていいのか?」
「私は良いけど。ごめん、先生は明日また仕事あるんだよね」
「いや、良いよ。それより、送らなくても平気?」
「毎日のことだから、大丈夫」
「そりゃそうか。じゃ、帰るわ。今度、夜に寄ってみるよ」
 そういって、俺はリモコン操作で車のロックを外した。
 ガシャン、と数メートル先の車の鍵が外れる音がする。
 そして、彼女に手を振って別れようとしたとき、パッと冷たい感触が手首の辺りを掴んだ。彼女の手だ。
 彼女は先程とは少し変わって、緊張した様子で此方を覗き込むように見つめていた。その仕草に思わず息を呑む。
 大人っぽくなった彼女が、少女の表情をしていた。



「あの、先生……?」
「なんだい?」
 俺は何でもないように答える。しかし、伊達に23年も生きている訳ではない。
 彼女に出会って、話始めたときから薄々とだが気付いていた。
 俺は、この表情を知っている。
「たいした事じゃないよ。ちょっと、メールアドレス、教えて欲しくて」
 俺には三月がいるのだが、流石に断るわけにもいかない。
「なんだ。全然いいよ」
 そういって、アドレスを交換して、俺たちは別れた。



 家に帰って、床につく頃には3時になっていた。4時間しか眠れないのなら、帰らなくてもよかったかもしれない。
 川崎さんと会った後に、まるで図ったかのように三月からのメールがあったので、正直焦った。いや、別にやましいことなどは何もないのだが、相手が美人だとつい意識してしまう。
 メールの内容は「今から電話に出れる?」というものだった。
 こういう所に、よく気がきく奴だ。
 俺は携帯を操作して、三月に電話をかける。
 待っていたのか、2コールほどで繋がり、小さなマイクから、恋人の声が聞こえてきた。
『あ、疾人?』
「おう。どうした?」
 数日振りに聞く彼女の声。独特の訛りが今は懐かしい。
『いや何でも。ちょっと話したかっただけ』
「なんだそりゃ?」
『いいでしょ、別に』
「まぁ、俺もお前と話したかったし、丁度いいや」
 半分冗談。半分本気。
 受話器の向こう側で赤くなっている三月が見える。俺も赤いけど。
『……疾人。体、大丈夫? 無理してない?』
「お前は俺のオカンかよ」
 お互い笑ってしまう。
『そういえば、お母さんじゃないけど、疾人のお婆ちゃんの具合知ってる?』
「百超えてるようなババアだろ。いつ逝っても満足だろ」
『そうだけど、たまには顔出してあげてね』
「今は、忙しいからな」
『そう。今度はいつ会えるの?』
「わからん」
『そう』
 そういって、急に元気がなくなってしまった。
 婆さんの事もだが、それ以上に、三月は俺に会いたいのだろう。言葉には出さないでも、声でわかる。
 それは俺も同じだ。俺だって三月に会いたい。しかし、それは不可能なのだ。
 遠距離恋愛なんて、つらいだけだ。想いが強ければ強いほど、つらい。
 そして、つらい想いをして守っていても、ちょっとした事で脆く崩れ去るのだ。
「じゃ、明日つーか今日も仕事だから、切るわ」
『あ、うん、ごめんね?』
「いいって。それじゃ」
 それで切った。
 その後で、フーっとため息が漏れる。
 最近はいつもこんな感じだ。最初盛り上がっても、最後はこんな風にずーんとした空気になってしまう。
 余裕がないというのだろうか。お互いの気持ちを確認するので精一杯という感じ。
 正直、疲れる。
 三月の事は好きだ。でも、いやだからこそ、渇いてしまう。この街には三月(水)がない。
 いや違う。この街に水はあるのだ。目の前を流れているのだ。しかし、それを飲むことは許されない。何という拷問だろう。
 ふと今日、出会った少女を思い浮かべた。泣きぼくろが印象的な彼女。
(川崎さん、綺麗になってたよなぁ)
 そんな事を考えながら、目を閉じた。

 翌日、祖母が亡くなった。



←前話に戻る

次話に進む→?

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

累計依存者数

人!

現在名が閲覧中