PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏


「ティーナ団長大丈夫でしたか!?」
数人の仲間達が私の元へと駆け寄ってきた。

「あぁ、大丈夫だ…それよりあまり大声をだすな。周りに迷惑だ」心配してくれるのは有り難いが、今の私には多少鬱陶しく感じる。

「は、はい…すいません」
頭を下げる仲間達の間をすり抜け、建物を後にする。

――今私はホムステルの町中にある、とある診察所へと足を運んでいた。

――理由は腹部の痛み…。
あの銀髪に腹部を蹴り飛ばされた痛みが治まらないので診察所へと来たのだが…。


「はぁ……まったく…」
悩みの種が次々と沸いてくる。
それに、あの銀髪……口振りから察するにライトの知り合いだと思うのだが、あれほど強い者と戦ったのは初めてだった。
アルベル将軍もやたら強かったが、あの銀髪は強いとかそんな次元では無く、人間離れしていたようにさえ感じた。
一瞬「逃げた方が良いんじゃないか?」と弱気になってしまうほどに…。

「…次会ったらどうするか…」
今の私ではあの銀髪相手に勝てるとは思えない…。




そう――このお腹に宿る命を抱えて戦う事は――。




「本当に…困ったな…」
まさか、私が母になるとは夢にも思っていなかった…。

診察所の医者が言うに、妊娠4ヶ月だそうだ…正直まったく気がつかなかった。
この4ヶ月の間にドラゴンとも戦った…アルベル将軍とも戦った…先ほどの銀髪にも腹部を蹴られた……よくお腹の子供が無事でいられたものだ。
普段神などは信じはしないが、今日ほど神が存在するんじゃないかと思った日はないだろう。

「……ライトはどう反応するか…」
勿論、この子はライトの子供だ。
私は今までライト以外の男と関係を持った事がないのだから。

「……ライトが父親…」
そして私が母親…。

なんだろう…不安になってきた。

ライトの事だから、多分責任を感じて私と結婚すると言い出すと思うのだが…。
――また、私は同じことを繰り返そうとしているんじゃないだろうか?
ライトは私に“女”を求めていない……直接聞いた事はないのだがそう感じる…と言うか恥ずかしい話、拒絶されるのが怖い。

ライトが私のお腹に宿る命に対して嫌悪するなら、私は間違いなくお腹の子を亡き者にするだろう……一番の理想はライトと家庭を築く事なのだが…。

「…アホらしい…私とライトが結婚だと?バカも休み休み言え」
自分の安い未来予想図に薄ら笑いを浮かべ、悪態をつく。

ライトの前を歩く存在で居続けると豪語したくせに、少し不安になるとすぐに女の幸せを求めてしまう。
こんな矛盾した自分の考えが実に腹立たしい…。

「ティーナ団長!」
一人の男が人混みの中から姿を現した。私の名前を呼ぶと、駆け足で此方へと走りよってくる。
平民の服装をしているが、我がノクタール騎士団の団員だ。

「あの連中達、今は港にいますよ」
あの連中…とは銀髪と白衣の男のこと。
銀髪との戦闘を終えた後、私は近くに居た団員に二人の後をつけさせたのだ。


「そうか…あの二人の他に誰か居たか?」

「はい、顔を隠していたのでよく分からなかったですが、フードを被った男が一人」

「フードを被った男…か……今はまだ港か?」

「はい、ホリックに見張らせてます」
ホリックとは隊長の名前だ。
身長が低いのでアイツならバレる事はないだろう。

「分かった…アイツらの行き先が分かり次第、私に報告しに来い」

「はい、失礼します」
私の命令に頭を一度下げると、また人混みの中へと団員は姿を消した。
多分、何処かに宿をとっているはずだ……その場所さえ突き止めればライトも見つけられるはず。

「お前は、産まれてくる事ができるのかな……まぁ、どうなっても私を恨むなよ?」
赤ん坊を撫でる様に優しくお腹を撫でながら、バレン城へと足を進めた。


◆◇◆†◆◇◆



「はぁ!?ティーナとやり合ったぁ!?」
人が居なくなった港で俺は無意識に大きな声をあげていた――。
倉庫に囲まれた港に俺の声が反響する。
遠くにいた整備員が何事かと此方へ顔を向けたが、またすぐに船の中へと消えていった。

「僕は何もできなかったんですがね…シュエットさんが私を助ける為に仕方なく…そうですよね、シュエットさん?」

「うん―しかたなく――だからクーは――わるく―ないよ。――ライト―おこってる―?」
説教されると思っているのだろうか?
ハロルドの背中に隠れて此方の顔色を伺いビクビクしている。

「いや、怒ってはないけど……まぁ、いいや。てゆうかティーナのヤツ、バレンに来てるのか…何しに来たんだアイツ?」
まさか俺をボコボコにする為に捕まえに来たとか…。
ティーナならあり得る。


「多分、招待されたんじゃないでしょうか?」

「招待?あぁ…アレか」
先ほどの広場の出来事が脳裏に過る。

ゾグニ帝王とメノウが結婚か――。

どんな事情があるのか知らないが、メノウが結婚を望んでない事はスグに分かった。
あんなに綺麗だったメノウの瞳が泥のように濁っていたから…。

「まぁ、ティーナと会ったら俺がなんとかするよ…それよりまず、メノウ達を助け出さないと…」
後々ティーナに事情を話せば半殺しぐらいで許してくれるだろう。

「やっぱり、ライトですね……メノウちゃんなんですが、既にティエルに尾行させてます。もうスグ、戻ってくるんじゃないでしょうか……って来ましたね」
やっぱりライトですねの意味が分からなかったが、掘り返すような引っかかる言葉でもなかったので触れずにハロルドが指差す空へと視線を向けた。
ハロルドが言うように、町の方からティエルが飛んでくるのが視界に入ってきた。

「ティエル様のお帰りよ!膝をついて崇めなさい!」
俺の頭へと舞い降りると、ハロルドとクーに向けて手をかざした。

いつもの流れなら、この後数十分ティエルの芝居に付き合わされるのだが(付き合わないと一日機嫌が悪くなる…)今回はその芝居をする前にティエルが驚いたように叫び声に近い声をあげたので、自然と芝居の流れは断ち切られた。



「クー、あんたなんでそんなにボロボロなのよ!?」
俺の頭から飛び降り、クーの元へと向かった。
――そう、ティエルが言うように、クーの身体のあちこちから、血が滲み出ているのだ。

ハロルドの後ろへ隠れていても、目立つ程の傷なので気になってはいたのだが…。

「あんた達、クーをボコボコにしたわね!?女の子に手をあげるなんてサイテー!クーが無口だからイジメたんでしょ!?このっ、このっ!」

「んなことするか!てゆうか、やめろ!」
ティエルが俺の頭をゲシッゲシッと蹴るので片手で鷲掴み動きを封じた。

「男どもー!わだじが、クーのがだぎをとっだるー!」
俺の指を噛み、腕の中で暴れた倒す。
コイツの場合、本気か冗談か区別がつかないので、口から冗談だと漏らすまで動きを封じないとメチャクチャするのだ。

「シュエットさんを傷つけたのは僕達ではありませんよ?」

「ふーッ、ふーッ!……ふぇ?」
俺の指を噛みきろうと、かじったり舐めたりしていたティエルがハロルドの声を聞いた途端、噛むのをやめた。

「やっぱり、ティーナと戦った時の傷だったのか…」
薄々感ずいてはいたが、まさかクーがここまでボロボロになるなんて…。

かなり激しい戦いだったのだろう……そうなるとティーナも怪我を負っている可能性がある。
ティーナが心配になってきた…。

「えぇ…それにしても彼女…本当に人間ですか?」
複雑そうな表情を浮かべ、ハロルドはボリボリと頭をかいた。

「ははっ、まぁ言いたい事は分からんでもないけどな…で、どっちが勝ったんだよ?」

「まぁ…見ての通りですよ…」
ハロルドが申し訳なさそうにクーに目を向けた。
クーはティエルに傷を治してもらっている最中で、俺達の話を聞いていたのか、目に涙を溜めている。


「そうか…」





クーが負けたのか…。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「初めはシュエットさんが優勢だったんですよ?いや、一度は彼女を地面へ沈めたんです」
僕は先ほど、シュエットさんとロゼス・ティーナの戦いをライトに一部始終、伝えていた。

「へぇ、ティーナに膝を地面へつかせたのか…それだけでもスゲーぞ?俺が知る限りティーナは人間相手に膝をついた事は無いはずだからな」
何処と無く嬉しそうだ…彼女がシュエットさんに勝った事が嬉しいんじゃなくて、純粋に彼女が“負けなかった事”が嬉しいのだろう。

シュエットさんは悔しそうにライトを見ている。

「でも、どうやってクーが負けたんだ?正直、クーが負ける絵なんて頭に浮かばないんだが…」
僕もシュエットさんが負けるとは、まったく考えていなかった…始めの競り合いを見てシュエットさんに余裕があると思ったぐらいだ。

「えぇ…それなんですが……」

「ちょっと待て…俺が当ててやる」
僕の言葉を遮り、ライトがニヤッと笑みを浮かべる。





――「アイツ、目隠しをしたんじゃないのか?」

「えっ!?な、なんで分かったんですか!?」
ライトの言葉に僕の口から驚きの声が飛び出した。
――彼女が地面へと倒れた後、僕達はその場を一刻も早く離れようとしたのだが、驚く事に彼女はフラフラと立ち上がり、徐に布を取り出すと一度此方を睨んだ後、目を布で被いだしたのだ。
意味が分からず、唖然とする僕達に彼女は先ほどと同じように剣を向けてきた。

何も言わずにシュエットさんが彼女の前に再度立ち塞がり、手を大きく広げ、挑発する……ここまでは同じ事を繰り返しているだけなのだが、戦神は此処からが違った――。
何故か彼女からの攻撃は一切無く、ただ此方へ剣を構えているだけなのだ。

我慢できなくなったシュエットさんが彼女へと攻撃を仕掛ける……次の瞬間、シュエットさんが大きな音を立てて地面へと叩きつけられていた。

――そこからは、ずっと彼女の一人舞台だった。
何をしてもシュエットさんの攻撃が彼女へ当たる事はなく、シュエットさんの攻撃が当たる寸前、水のように無軌道な軌道を描き、舞い避ける。
彼女が避ける瞬間、どう攻撃されているのか分からないが、シュエットさんが地面へ倒れ込む。
何をされているのかまったく分からないといった感じでシュエットさんがパニックに陥り、薙刀で攻撃するも、それすら払われる。

目隠しをしている事を逆手に取り、隙をついてシュエットさんの腕を掴みなんとか逃げてきたのだが、「――ピカピカ―にんげん―こわい―いたい―」と泣きだすシュエットさんを連れて港まで降るのにどれだけ苦労したか…。


「ははっ、それはティーナがどうにもならなくなった時に使う手だよ」

苦笑いを浮かべ、シュエットさんに目を向けた。
シュエットさんはライトに目を向けられた瞬間、勢いよく目を反らした…。
ライトが怒っているとまだ思っているようだ。

「どうにも…とは?」

「ティーナの力は何も剣の才能だけじゃねーんだよ。アイツは人の動きを目を閉じて感じ取る事ができるんだ……たしか、心眼っていったか?」
心眼…確か肉眼に頼らず、相手の気配だけで動作を予測したり感じ取る一種の超能力のことだった気がする。
玄人の域になると、相手の気を感じ取れる間合いを三メートル近く持ち、目が見えなくても、何処にいるか…何をしているのかも分かるそうだ。

「いったい、彼女はどの辺まで目隠しで相手の気配を感じ取れるのでしょうか?」
純粋に知りたくなってライトに問いかけた。






「う〜ん…俺が知る限り、軽く十メートルは目隠しでなんでもできるんじゃねーの?」

「はは…は…十メートルですか…」
腰を抜かす様に近くにあった椅子へと力なくへたりこんだ。
それならシュエットさんの様に近づいて攻撃するのは無理みたいだ。
十メートルも自分の間合いを持っているなら、彼女の一〜二メートル範囲内は正しく手の平の上と言うことになる。

どうりで、何をしても当たらないワケだ…。
命があるだけでも、儲けモノと思ったほうがいいかも知れない。

「そんな事より、メノウはどうなったんだ?ティエルが見に行ってくれたんだろ?」

ライトが思い出した様にシュエットさんから目を放し、ティエルへと視線をずらした。

「メノウの居場所ならちゃんと分かったわよ。てゆうか私を誰だと思っているのよ!ティエル様よティエル様!私に不可能は無いわよ!」
シュエットさんの治療を終えたのか、再度ライトの頭へと飛び乗った。

「よし、なら一刻も早く助けにいこう!」

「ちょっと待ってください」
逸る気持を押さえきれないといった感じで走り出そうとするライトの肩を掴み、止める。

「ティエル…ホーキンズはいましたか?」

「ホーキンズはいなかったわ…アンナとかいう女なら居たわね」

「……ホーキンズを探しましたか?」

「は?いや、探してないわよ?」

「何故ですか!?」
ライトの頭の上へにいるティエルへと詰め寄る。

「な、なぜって…メノウの居場所を調べてこいって…」
僕の声にビックリしたティエルはライトの髪に目をギュッと瞑りしがみついてしまった。

「ティエルなら、城内を探す事なんて容易いでしょう!?何のために城に入ったんですか!」
何をこんなにイラついているのだろうか?
そう思いながらも、僕の口は止まらなかった。

「そ、そんなこと言ったって…遅くなると皆が心配するかと思って…」
ティエルの声が小さくなり、涙声へと変わる。

「心配する!?半日だけでですか!?ホーキンズ達は何ヶ月ッy「ハロルド!!」
怒りの混じったライトの声にハッと我に返った。

「少し落ち着けって……上手くいかないのは分かるけど、ティエルにあたってもしかたないだろ?」
ライトが僕を諭すように肩に手を乗せる。
そうだ…今は仲間内で争っている場合では無いのだ。
カッとなってティエルを責めてしまったが、メノウちゃんの居場所を見つけてくれただけでも感謝しなければ…。


「…そうですね……ティエル…申し訳ありませんでした…許してください」
ティエルに向かって頭を下げる。

「……」
しかし、ティエルは僕の謝罪に反応する事はなく、ライトの髪にしがみつき顔を伏せたまま動かなかった…。

「んで、どうするんだよ?」

「え……あっ、はい、明日の昼頃から祝祭が行われます。大半の兵士は規制の為に町へ行かざるえないでしょう。その隙を狙って、森側の城壁からバレン城内へ忍び込みます」
流石にバレンも森から人間が侵入してくるとは思っていないだろう。

見張りが数人いるだろうが、此方にはシュエットさんがいる。
多少の兵士なら楽に侵入できるはずだ。



「でも、明日は城内にメノウもゾグニ帝王もいるんだろ?流石に王がいる城を手薄にはしねーだろ?」
確かに、王が滞在中の城をほったらかしにして、民衆達を優先する兵士はいないだろう。

「いえ、城内と言っても敷地内にある宮殿へ祝祭時は移動するようです」
聞いた話ではその宮殿で他国の重役達を集めて、宴会をするらしい。
そこで再度メノウちゃんの紹介と、二人の婚儀の際の説明などが行われるそうだ。

「そうか、なら明日行動に移すか…今日はもう動くのをやめよう。あまり目立ちすぎるとかえって危ないからな」

「そうですね…それでは宿を探しましょうか」
ライトの言う通り、他国の人間が町をうろつきすぎると、バレンの人間の目につきやすい。
もう少し情報収集したかったが、今日はもう身体を休める事に徹した方が賢明な判断と言えるだろう。

それに、早くティエルと仲直りしなければ今後の作戦もガタガタになってしまう恐れがある…。

「ハロド―おこったら―めっ――」
後ろに居たシュエットさんが怒ったように頬を膨らませ、僕の頭を軽く叩いた。

「はは…そうですね(後でもう一度謝りますか…)」



◆◇◆†◆◇◆

――昔、親父がコンスタンでパン屋を経営していたと聞いた事がある。

ユードに移り住むまでコンスタンの町で経営していたらしいのだが、ユード出身の母と結ばれる為にユードへと店を移したとか…。
親父のパンはコンスタン一と言われるぐらい評判がよく、コンスタンの客は店がユードへ移ってもなお買いに来ていたのを覚えている。
だが、親父が病気で死に、数年後に母が後を追うように他界した後、俺が後を継いだのだが、親父のパンの味を再現できずにコンスタンから買いに来ていた客は次々と離れていってしまった…。
それが悔しくて、悔しくて……いつしか親父のようにコンスタンで店を開く事が俺の夢となっていた。
そんな事を考えながらユードでパンを作り続けて八年…。

ティーナのように死ぬ気でコンスタンへと渡る根性があれば俺も親父みたいにコンスタント一と言われるパン屋になれたのかも知れないのだが…残念ながら俺にはそんなたくましい思考は持ち合わせていなかった。
そんな簡単に夢を実現できるとも思っていなかったし、何時しか小さなパン屋で満足してしまったのだ。


――毎朝母親のお使いでパンを買いに来る小さな女の子。
――仲良く手を繋いで買いにくる、ユードで一番仲がいいおしどり老人夫婦。
――仕事帰りにラム酒とミックスピザを必ず買って帰るユード一の変人。

――夕方に寂しいので夕食を一緒に食べてくださいとクソ恥ずかしい事を口走る白衣姿の友人。

――金を払わずタダでパンを食べにくる幼馴染み…。


いつしか俺の世界がそこに作り上げられていた。
だから俺はその小さな世界で生き続けるモノだとばかり思っていたのだが……世の中何が起こるか本当に分からない。

今俺がいる場所は、平民は入りたくても入れない、宮廷にある一室。
様々な料理器具がぶら下げられており、中には見たことが無い器具も数多く存在する。
簡単に言えば宮廷の調理室だ。


塵ひとつないこの場所で、本当に料理が行われているのか疑わしいが、毎日ここで王族と言われる者達の料理が作られているらしい。
そんな場違いな所になぜ俺が居るのかと言うと…。





――「早くしろ!」
後ろで偉そうに座る赤い毛皮のような鎧を身に纏ったヤツが俺の背中にゴミを丸めたモノを投げつけてきた。

軽いモノなので別に痛くはないのだが、年下にここまでされるとイラつきも増してくると言うものだ。
この赤い鎧を来た人間…なんでもバレンの騎士団に所属する騎士らしく、剣の腕も立つそうだ。

名前はフラン・ミア。
ミアは俺達が拐われた時に数ヶ月乗った船に監視役として同行していたのだが、コイツのおかげでじめじめした数ヶ月間の船生活で気が狂わなかったと言っても過言では無い。

拐ったヤツに感謝する気は無いのだが、今俺達が何の危害を加えられなく過ごしているのもミアのおかげなのだ。
どういう事かと言うと…

「早くしろって、ホーキンズ!」
満面の笑みを浮かべ、子供のようにテーブルを両手でバシバシと叩いている。

「ったく…ほら」
オーブンから焼きたてのパンを取り出し、包丁で薄く切ると、ミアが座るテーブルへと差し出した。
ミアがキラキラと輝いた目をテーブルの上にあるパンへ向ける。

「食べていいか?」
パンから目を離さず許可を求める。許可を得なくても食べるくせに。


「おう、喉つめんなよ」
俺の声を聞く前に、パンへとかぶりつくミア。
それを見た俺は、咎める事なく近くにあった椅子に腰を掛けエプロンをテーブルの上へと放り投げた。

聞いて分かると思うのだが、俺達が普通に暮らせる理由――それは単純な話、俺がミアに気に入られたからだ。
何が気に入ったのか分からないが、俺とアンナにやたら東大陸の事を聞いてくるのだ。
なんでもミアはバレン領土から出たことが無かったらしく、俺達を拐った時に初めてバレンから遠出したらしい。
外の世界がバレンとどんな違いがあるか気になるようだ。

聞かれる度、あまり変わらないと返答するのだが、それでもしつこく問いただしてくる。

そんなことが数ヶ月間続いて、いつの間にか俺はミア直属の料理人となっていた…。
いや、直属の料理人と言っても豪華な料理を作る訳では無い。
東大陸の基本的な家庭料理を振る舞っているだけだ。

正直拐われた側からすればバレンの人間にこんな事したくないのだが、何故かコイツは憎めなかった。


「あぁ、そう言えばお前の国の騎士団長さんよぉ…」
無言のまま焼きたてパンを綺麗に平らげたミアが、木のコップに入っているミルクを飲み干し、話しかけてきた。

「団長?ティーナの事か?アルベル将軍か?」
ミアが食べ散らかしたパンカスを掃除し、食器を洗い食器棚へと並べた。

俺の片付ける姿をぼーっと眺めるんならせめて自分が使った食器ぐらい洗ってほしいものだ。

「あっ?女のほうだよ」
イラついたように頭をかくと、椅子に片足を乗せて此方を睨み付けてきた。

「ティーナか…それがどうしたんだよ?」

「アイツって強いのか?」

「はぁ?なんだよ、いきなり…」
水で手を洗い先ほど腰を掛けた椅子へと再度座り直す。

「いいから!強いのか!?」
此方を睨み付けたままずいっ、とテーブルを越えて身を乗り出してきた。

「顔を近づけんな……まぁ、強いんじゃねーの?てゆうか俺が知ってる人類では一番強いな、間違いなく」
最近のティーナはどうか知らないが、噂を聞く限りノクタールでは負け知らずらしい…。

「ふ〜ん…俺とどっちが強いと思う?」
頬を吊り上げ、ニヤリと笑うミアの頭の上に手の平をポンッと乗せ、耳元で俺は呟いた。


「間違いなく、ティーナだ」
俺の声を聞いた瞬間、ニヤケ面が怒り顔へと豹変し、俺の手を頭から振り払うと、テーブルを乗り越え俺に掴み掛かってきた。

「ふっざけんな、アホホーキンズ!てめぇ、俺があんな女に負けると思ってんのか!」

「負けるどころか殺されるわ!」

二人で地面に転がり、顔を引っ張り合う。

「はぁ?殺されてねーだろ!今現にこうやって生きてんじゃねーかよ、ハゲ!」

「ハゲてねー!てゆうか、お前もしかしてティーナとやり合ったのか!?ボコボコにやられたんだろ!だから、イラついてんだろ!」

「ボコボコにされてねーよ!女だからって手加減したんだ!そしたらアイツ、隙ついて腹殴りやがったんだ!」

「ぶはっ、ほら見ろ!やられたんじゃねーか!小便チビったんだろ!?」
床を転げ回り、壁へと激突する。
上から器具がガラガラと落ちてきたが、そんなことお構い無しに殴り蹴り合う。

「てめぇ、俺を怒らせたな!」
俺の上で馬乗りになっていたミアが徐に自分のズボンのベルトへと手を伸ばすと、カチャカチャとベルトを外しだした。

「おまっ!?何考えてんだ!俺に興味ねーって言ってたじゃねーかよ!」
俺を押さえつけ器用にズボンを脱ぐミア。
身の危険を感じた俺は何とか逃れようとジタバタと暴れるが、華奢な身体をしているクセにミアをまったく動かせなかった。

「俺は童顔の男しか興味ねーんだけどよぉ…お前でもヒーヒー言わせるぐらいはできるんだぜぇ?」
俺の耳元に顔を近づけ悪魔の囁きを呟くミア。

これが可愛い女ならどれほど嬉しいか…。
別にミアが不細工だと言ってる訳では無い。
十分綺麗だし、男ウケもいいだろう。
今こうやって股がられるだけでも少し変な事を考えてしまうほどに…だけど無理なのだ。
絶対に…。






「離せ、ホモ野郎!」
そう…正真正銘コイツは女の顔をした男なのだ。
下には立派なモノがついている立派な雄だ。

「んじゃ、さっきの取り消せ!あの女より俺の方が強いだろ?」
ミアがそう呟くと、今度は俺のズボンへと手を掛けた。

「わっ、分かった!お前の方が強いって!だからやめろ!(コイツ目が血走ってる…)」

「あぁ!?ダメだな!お前の目は嘘ついてる!ヒーヒーの刑だ!」
笑いながらそう声を荒らげると、一気に俺のズボンを膝下までずり下げた。



「わかっ、分かった!お前に童顔のツレ紹介してやるよ!」

――自分可愛さに出た言葉だった――。


「……」
俺の言葉にミアの手がピタッと止まる。

「俺は普通だからなんとも思わねーけど、多分お前は気に入ると思うぜ!なんせ、あの騎士団長が惚れた男だからな!」
ミアの肩を掴み俺の上から退かすと、素早くズボンを履き直した。

「へぇ……本当だな?嘘ついたら、寝てる時に後ろからガバッと…」

「マ、マジだよ!」
罪悪感が込み上げてくるが自分の身を守る為だ。
しかたない。


「ふん…まぁ、いいや……元々お前なんて興味ないし。
んじゃ、腹もいっぱいになったから戻るわ!ちゃんと部屋に戻れよな!あっ、あと約束ちゃんと守れよな!」
無邪気な笑顔を此方へ見せると、足取り軽く部屋から出ていった。

「うぅ、ライト……すまん……」
この町に居るであろうライトに心の中で謝罪する。
ミアと鉢合わせする事なんてないと思うのだが…まぁ、その時はライトがミアと戦えばいい。そして大切なナニかを守ればいい。




「はぁ……戻るか…」

汗を手で拭い、調理室を後にした。




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