PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏

森――私達人間が絶対に踏み込んではいけない場所。
まだ私が幼少の頃、母から何百回聞かされたか…。
森に立ち入ればモンスターに食べられる。それが嫌なら防護壁から外へは出るな。
子供心に森は絶対に侵入してはいけない場所だと認識していた気がする。だからだろう…私は好奇心旺盛な方だがその言い付けだけは絶対に守っていた。
何故かと言うと、私の父親は町を囲む防護壁の外側を修理する為に森に入りモンスターに喰い殺されたからだ。

――そんな誰も入らない危険な森の獣道を私達騎士団は今、鎧を身に纏い馬に股がり颯爽と駆け抜けていた。
夜が開け日差しが木々の間から射している。
ノクタールからもう、十時間ほど走り続けているだろうか……同じような獣道ばかりなので飽々してきた。



――「前方三十メートル先に三体ッ!」
前を走っている騎兵がボルゾを視界に入れたようだ。
大きな声を張り上げ、真後ろを走る私達にボルゾの数と距離を教える。
その声を頼りに走っている騎兵二名が銃を構えた。

「撃てぇえッ!」
私の声と共に銃声が三回連続で鳴り響く。

それと同時に前方の道を塞いでいたボルゾは三体すべてその場に倒れ込んだ。


「命中しました!」


「いい腕だな。左は崖だ、前と右の林だけを注意しろっ!」

私の隣を走るアルベル将軍の声に騎士団全員雄叫びで答えると、何事もなかったように先ほど撃ち殺したボルゾの死骸の上を走り抜ける。

腐るほどいるボルゾのごく一部に足止めをされる訳にはいかない。
何故かと言うと、もうすぐ嵐がくるのだ。空からも小粒の雨が降りだした。木々も風の力でざわつき始めている。

「もう少しでユードだ!ユードの外門まで気を抜かずに進め!」

「「「おぉっ!」」」
今騎士団が馬を走らせている場所…それは海門手前にあるユードの町だ。
私の故郷であり、ノクタール近隣で最も小さな町でもある。

その町に滞在しているであろうバレン船の偵察に私達騎士団は今、向かっているのだ。

バレンの人間をコンスタンの街から追い出す時に我々が海門まで誘導していればこんな問題は起きなかったのだが…。

我が国の生誕祭パレードに我々騎士団が出ない訳にはいかず、何十国と集まる生誕祭の日に他かだか一国の商人船を誘導する時間なんて多忙の我々には割けなかったのだ。

――「また、前方20メートル先に二体いまッ!?右の林からも一体きますッ!」

「お前達は前方にいるヤツを殺れっ!林の中のヤツは私がッ―――ふんっ!」
前を走る騎兵の声にいち早く反応した私は、林から飛び出して来た黒く醜いボルゾの胸に剣を突き刺し、馬の足を止める事なく大木に叩きつけた。
グシャッ!っという何かが潰れた音と共にボルゾの重みは一瞬で剣から消え去っていた。
前にいたボルゾも射撃手が殺したのか、いつの間にか地面に倒れている。

「うわぁ〜、ティーナ副長えげつなぁ〜…。」

「スゲェ〜…ボルゾ持ち上げたぞ…どんな力してんだ。」

「アホ共……聞こえているぞ?」

風の音で聞こえないと思っていたのだろう…私が睨みつけると団員達は慌てて前を向き、手綱を握り直した。

素人が見たら細い女の腕で百キロ近くあるボルゾを持ち上げた様に見えるだろうが、馬の走る勢いを味方にしただけの話だ。

仮にもノクタール騎士団の団員なのだからそれぐらい見抜け!と言いたい所だが見抜ける人間は残念ながら騎士団の中でも数人しかいないだろう。
最強のノクタール騎士団の中にも戦知らずの貴族が何人もいると言うことだ…。

「それにしても……思っていたよりボルゾの数が少ないな。」
隣を駆ける将軍が不思議そうに呟いた。

確かにここ数年ボルゾの数が減っている気がする。
いや…東大陸の森に住むボルゾの数こそ減ってはいないが、ノクタール近辺の森にいるボルゾの数は少なくなっている気がする。

「あぁ、それはあれじゃないですかね?今から向かうユードに一人、ボルゾを駆除してる男がいるらしいですよ?」
前を駆ける騎兵が後ろ振り返り話に割り込んでくる。

「男?…一人でか?」
将軍はその態度に何を言うでもなく、その騎兵の話に耳を傾けた。

「はい。自分もよく分からないんですが、なんでも町に侵入したり町の周りをうろつくボルゾを駆除してるって話を……だからボルゾ達もユードから此方側の森に入ってこれないんじゃないですか?まぁ、噂程度なんで信憑性は皆無ですがね。」
そう鼻で笑うと騎兵は頭を軽く下げ、前方に目を向けた。

「そんな奴がいたら是非とも騎士団にほしいな、ティーナ副団長。」

「はい、そうですね。」
そう冗談混じりの笑みを浮かべると、将軍は「先を急ぐぞ!」と皆に渇を入れ、前に向き直った。

将軍もただの噂話と受け取っているようだ。
無論私も嘘話だと考えている。
ボルゾに立ち向かう人間なんて私が知る限りあの町には居ないからだ―――――。


◆◇◆†◆◇◆


「あぁ〜、雨が降ってきやがった…」
何やら水音がすると思い、窓を開け確認すると、案の定空から小雨がふっていた。

これなら嵐が来るは早そうだ…。

「ライト、早く作戦会議の続きをするぞ!」後ろから投げ掛けられる声にチッと一度舌打ちをすると、窓を閉め、部屋の中へと戻った。

――今俺は、幼馴染みのホーキンズと昨日助けられた白衣のメガネ男、ハロルドの三人で作戦会議を行っていた。

何の作戦会議かと言うと、バレンの見せ物小屋にいる妖精の助けだす方法についてだ。
他の人間が聞けば間違いなく笑われるだろうが、ホーキンズとハロルドは本気で助け出そうとしているようだ。

「ライトッ、酒をだせっ!」
我が家の様にベッドに横たわるホーキンズが偉そうに声をあげる。

「朝っぱらから酒なんて飲もうとするな。ほらよっ。」
ホーキンズに水が入ったコップを差し出す。
「みずっ!?せめてお茶だせよっ!」

「ハロルド…ホーキンズいらなかったんじゃないか?」
ホーキンズの突っ込みを無視してハロルドに問いかける。

「まぁ、いいじゃないですか。囮ぐらいにはなると思いますよ?」


お茶を啜りながら呟くハロルドにホーキンズがぎゃー、ぎゃー騒ぎ立てている。
こんなんで本当に妖精を助け出す事ができるのか?
先ほどから何一つ助け出す提案が出ない今の状況を見る限り、絶望的なのは誰が見ても分かるだろう…。

「そう言えば、ライト。たしかお前の家にメノウ泊まったよな?メノウはどうしたよ?」
そう言うと、ベッドに横たわっていたホーキンズが周りを見渡しだした。

「あぁ、アンナさんと神父が連れて帰ったよ。」

「神父さん?もう、帰ってたんだな。」
今朝早く、アンナさんと神父が同じ始発船で戻って来たのだ。
なんでも嵐の影響で、今日の始発船を逃せば4日足止めをくらうとか。
あれだけ酷かったメノウの精神状態も朝起きれば元に戻っており、教会に帰るのを多少嫌がったが、アンナさんが「アップルパイを作ってあげる」と言うと、アンナさんと神父の腕を掴み教会へと帰っていった。
俺も連れていかれそうになったが、用事がある事をメノウに伝えなんとか辞退させてもらった。それでもメノウを教会へ帰らせるのに三人がかりで一時間近く掛かってしまったのだ…。

その後、すぐホーキンズ達が家に来て作戦会議…。
昨日から疲れる事ばかりだ。

「それで……何かいい案は浮かんだか?」

「…」
沈黙。
先ほどから同じような事をずっと繰り返している。
やはりバレン兵の目を潜り抜けて妖精を助けるなんて無理な話なんだ。
見つかれば間違いなく殺される…。
それでもこんな作戦会議に付き合っているのは、どこかあの妖精を助け出したいという、ちっぽけな正義感から来てるのだろうか…。

よく分からないが、自分自身あの妖精が気になってる事は確かだ。

「嵐が過ぎればバレン船は海門を抜けてしまいます。それまで何とかしないと…。」
深刻そうに呟くハロルドの声にまた部屋の中を静寂が包む。




――「………嵐……か…。」
ホーキンズが何気なしに呟く。
その声にいち早く反応したのがハロルドだった。


「……そうですよ。嵐ですよっ!」
机を両手でバンッと叩き、立ち上がる。
何か良い案を思いついたようだ。

「嵐がなんだよ?」
嫌な予感がするのだが、一応聞いてみよう。

「ふふふっ……私の予想では今日の夜に嵐がこの町に来ます。」

「あぁ…そうかもな。」
ホーキンズはもう気がついているようだ…顔がニヤニヤしている。勿論俺もハロルドがこれから発する言葉の内容を予測している。


――「…その嵐に紛れて妖精を助け出しましょう!」
ほら来た…無茶振り。
拳を握り、やる気を見せるハロルドに対して俺は逆に項垂れていた。
ハロルドの提案が浮かばなかった訳では無い。
ただリスクが高すぎるのだ。
町を囲む壁が壊れてボルゾが侵入してこないとも限らない。
嵐の夜、外を出歩くと言うことは死を意味するのだ。

「嵐の夜なら警備も手薄になるでしょう…助けるならその時ですっ!」
確かに警備も手薄なはず。いや、嵐の影響で警備兵が居ない可能性もある。

「だけど、どうやってその妖精の場所を特定するんだよ?」
そう、妖精があのコンテナや船に戻されるとは限らないのだ。
バレン兵が用心して宿に妖精を連れていく可能性だってある。

「それなんですよねぇ…問題は。」
ハロルドも分かっていた様だ。
やはり助けようが無いのか…。




――「んっ、なんだ?外が騒がしいぞ。」
外の異変に気がついたのか、ホーキンズがベッドから立ち上がり、窓へと歩きだした。

確かに外から騒ぎ声が聞こえる。また妖精を見せ物に一儲けしているのだろうか?

ホーキンズが窓を開け外を確認する。

同じように俺とハロルドも窓に近づき外を確認すると、大勢の町人達が急ぎ足で坂を降っている姿を確認できた。中には走っている町人もいる。

「おい、何かあったのかっ!?」
不思議に思い、家の外に出た俺達は急ぐ人の群れから一人の男性を止めて何が起きてるのか説明を求めた。

「ノクタール騎士団の連中が森を抜けてこの町まで辿り着いたみたいだぜッ!?今、中央広場にいるみたいだから俺も見に行くんだよ!」
その男は興奮したように説明すると、自らまた人混みに飲み込まれていった。

ノクタール騎士団――だからこんなに町入は興奮しているのか。
確かに滅多に目にする事ができないモノだ。

騎士団と言うのは王族直接の兵隊の軍団の事で、近隣の町に住んでいてもお目にかかる事なんて無いほど、本当に稀な存在なのだ。

実際俺も見たことが無い。


「ノクタール騎士団?この町に何の用だ?」
ホーキンズが首を傾げ、人混みを見ている。
ホーキンズが言うようにこんな田舎町に騎士団が来るなんてあり得ない事なのだ。
この町に何かあったのか……中央広場と言えば昨日バレン兵達が見せ物小屋を開いていた場所だが…。

そう言えばバレンの連中、コンスタンで出店を出せなかったと言っていた…それと関係しているのかも知れない。

「まぁ、見たことも無いし、どんな連中か見に行って見るか?」

「そうだな…。見るだけ行ってみるか。」

「はい、行きましょう。」
妖精を助けるヒントが見つかるかも知れない…。そう考えた俺は、ノクタール騎士団を見物しに行く事にした。
―――――
――――
―――
――


「今すぐこのテントを撤去しろっ!我々ノクタールの領土内で怪しい物を売るのは禁止だと通告したはずだ!」

「ぐっ…ノクタールから離れたんだから問題無いだろっ!」
中央広場に到着した俺達三人が見たもの――それは、重々しく派手な鎧を身に纏った連中とバレン兵が対峙する光景だった。

殺気混じりの気を放っている鎧の連中に対してバレン兵達がえらく小いさく見える。
「格が違う」とはこの光景の事を言うのだろう。
一応噛みついてはいるが、バレン兵は完全に飲み込まれている。

「あれがノクタール騎士団ですか?なんかいろいろと凄いですね…。」
唖然とした様にハロルドが呟く。
ハロルドが言うようにあの鎧の連中が騎士団なのだろう。

隣にいるホーキンズも口を開け、騎士団をアホヅラで眺めている。

「海門内は我々の領土内だ!何のための海門だと思っている!」
騎士団の先頭に立ち、バレン兵達に向かって声を荒げる人物がいる。
他の騎士団は皆、肩部分に小さな赤い十字架が描かれているのだが、先頭に立っている人物が纏っている鎧には肩部分に十字架は描かれておらず、背中部分に大きな赤い十字架が描かれており、冑の形も他の者とは全く異なっているのだ。
一番の違いは何と行っても他の騎士が身に着けている鉄色のプレートアーマーとは違い、全身黄金色に輝いていることだ。

趣味が悪いのか、なんなのか…戦に出たら一番目につきそうだ。
確か噂によると、あの鎧を身に纏っている人物は王族の人間でなんとか将軍だった気がする…。
ノクタール王国の中でもかなり腕がたつらしく、ノクタールでは英雄扱いされているらしい。

ふとその隣に立つ人物に目を向けた。
鎧は他の者と同じなのだが、多少身長が低く、此方の鎧にも将軍同様、背中に赤い十字架が描かれている…。

他の騎士団とは違い、此方の人物も特別な階級の持ち主の様だ。




――「くっ……テントを撤去するぞっ!」


昨日ステージの上で妖精を見せ物にしていた団長が悔しそうにテントの方へと歩いていった。

これ以上居座れば只じゃすまないと判断したのだろう…他の兵士達も苛つきを隠さずテント撤去へと向かった。

「なんだ、もう終わりかよ…。」

「もっとやれよっ!バレン根性ねーなぁー!」
先ほどの殺伐とした空気が薄れたのか、野次馬から愚痴の声が聞こえだした。

野次馬の声に気がついたのか、将軍の隣にいる騎士が数名の団員を引き連れて、此方に歩み寄ってきた。

「ほら、テントを撤去させたからこれ以上、この場所に居ても何も起きないぞ。邪魔になるから解散しろ。」
此処にいる皆は一目騎士団の姿を見たかっただけなのだろう…騎士の声に従い町人達はバラバラと散らばっていった。

(それにしてもあの騎士の声……女だったのか…どうりで小柄だと思った。)
女の騎士とは珍しい……そんな事を考えながら騎士を眺めていると、見られている事に気がついたのか騎士が此方に視線を向けてきた。

「も……もう、帰ろうぜ(やばい…目があった)」
俺達もこの場所にいる意味が無くなったのでこの場を後にする。
決して居づらくなった訳では無い。






――「おい。」


「えっ?」
後ろからかけられる声に対して条件反射で振り返ってしまった――。先ほど目があった騎士が此方に歩み寄ってくる。
周りの町人も何事かと静まり返り、騎士に目を向けている。


「な、なんだよ…。」
ホーキンズも逃げ腰になっている。
こればかりは仕方がない……相手の表情が冑に隠れて見えないのだ。
怒っているのか、笑っているのかまったく分からない。
そんな不安を察する事なく鎧姿の騎士殿は金属音と共に此方に歩み寄ってくる。



――「久しぶりだな。ライト、ホーキンズ。」
親しげに俺とホーキンズの名前を呼ぶと、冑に両手てを掛け、取り外す。
冑の中に隠れていた金色の長髪がファサッと肩にもたれ掛かった。

「数年ぶりかな?元気にしてたか?」
続けてそう話しかけてくる女性の顔を見て唖然とした。
間違いなくホーキンズも俺と同じ気持だろう…。

――なんでお前が騎士団なんだ?
確か、平民は騎士団に入れなかったはず…。目の前に立ち、鎧を身に纏っているこの女性は間違いなく平民だった。

俺達と同じこの町に産まれ、一緒に遊んだ幼馴染み――二年前、俺を完膚無きまでに叩きのめした幼馴染み――ロゼス・ティーナが俺の前に立っていた。


◆◇◆†◆◇◆


「いやぁ〜、マジで久しぶりだなっ!まさか騎士団の兵士になってるなんて思いもしなかったよ。」

「ふふっ、ホーキンズは相変わらずだね。まだパン屋をやっているのか?」
――俺達幼馴染み三人は今、とある店に足を運んでいた。
久しぶりの再開に喜んだホーキンズが無理矢理ティーナを誘ったのだ。
俺は絶対に断られると思っていたのだが「許可を貰ってくる」と言い、ティーナが将軍の元へ駆け寄ること数分、呆気なく許可をもらい今に至る。

ハロルドは気を聞かせて席を外してくれたらしいのだが、俺からすればいらん世話だった…。
ホーキンズがいるからまだ大丈夫だが、正直気まずい。
別に恨んではいないが、あれだけ派手にボコボコにされたのだ…どう顔を合わせていいのか戸惑ってしまう。

「ははっ、俺は一生涯パン屋だよ。それにしてもティーナ…美人になったなお前。」

「私を誉めても、何も返せないぞ?」
ホーキンズの軽口に機嫌を悪くする訳でもなく、小さく笑みを浮かべている。
昔からホーキンズの女癖の悪さをしっているからだろう……ホーキンズの言葉遊びを軽くかわして流している。
てゆうか幼馴染みを口説くなよアホホーキンズ…。

――まぁ…ホーキンズの気持ちも分からんでもない。
昔から多少可愛いと言われていたが、この二年でティーナは本当に綺麗になったと思う。垢抜けた…と言ったほうがいいだろうか?
都会に行けば変わると言うが、まさかここまで変わるとは…。

「ライトもそう思うだろ?ティーナ綺麗になったよな?」

「んっ?あ、あぁ…そうだな。」
いきなり話を振られ、一人焦ってしまった…。
話の相手がホーキンズから俺に移行したと思ったのか、ティーナが此方に視線を向けてきた。

「ま、まぁ俺は騎士団の副団長になってる事が一番驚いたかな。」
そう…綺麗になってる事もビックリしたのだが、俺が一番驚いたのはティーナが騎士団副長の肩書きを持っていることだった。

ティーナは嫌がるだろうが、騎士団の騎士…しかも副団長をこの町から生み出したと言う事実は、この町に住む皆の自慢話になるかも知れない。

「まぁ、私はこれしか脳が無いからな。毎日こればかり振っていたよ。」
腰に装着している剣をポンっと軽く叩き笑顔を見せる。

二年前の事など無かったように――。

ティーナにとって二年前の事はもう過去として片付いているようだ。

しかし、なんだろう…ティーナが俺を見るときに見せるあの目……どこか鳥肌が立つ様なモノを感じる。

二年前の出来事が尾を引いているのかも知れないが…何か変な…。

――「それじゃ、私は任務があるからもう行くよ。町長の所にも行かなくてはいけない…。
二人共、本当に元気で良かった。」
そう言うと、ティーナは亭主を呼びつけ、勘定を済ませ、椅子から立ち上がった。

「えぇ〜?」

「ホーキンズ辞めとけって…無理矢理連れてきたんだからもう行かせてやれ。
それじゃあな、ティーナ…元気でやれよ。」
不満の声をあげるホーキンズを宥め、ティーナに別れを告げる。
これでまた数年間会う事も無くなるだろう…内心俺はホッとしていた。



――「……言い忘れたが、私達騎士団は嵐が過ぎるまでこの町に留まる事になっている。
ノクタールに帰る前にもう一度ぐらい会えるかもな。」
此方に振り返らず背中越しに…無機質な声でそう告げると、俺達の返答を待たずに早々と店を出ていった。
昔から勘の鋭い奴だったので、俺の考えている事を読まれたのかも知れない…。

「いや〜、それにしてもティーナが騎士団かぁ……変な事もあるもんだな。」

「まぁな……。」

店から出ていくティーナの背中を見送った後すぐ、俺達二人もティーナ同様に店を後にする事にした――。
ハロルドを俺の家で待たせているからだ。

まだ妖精を助ける作戦会議の途中……それに騎士団の存在でまた一段とややこしくなってきて……騎士団…。

「なぁ、ホーキンズ。」

「んっ、なんだよ?」

「騎士団がいるって事は、宿に妖精を連れていくのはまず無理なんじゃないか?」
ふと、思った事をホーキンズに問いかけてみた。
騎士団の介入で宿や港は騎士団が監視しているはず。
宿に妖精が入ったカゴを持ち込むと、間違いなく騎士団の目に止まるだろう…目に止まればその日に海門を潜らされ嵐の中、危険な航海の可能性だって出てくるのだ。

それぐらいバレンの連中も分かっているはず。

「確かに…それじゃ、中央広場にあるコンテナか、港にある船のどちらかになるのか…」

「いや…中央広場にあるコンテナも船に戻すだろう…もうこの場所で商売ができなくなったんだ…この場所にコンテナを置く意味が無い。」
そう…商売をしないのに商売道具を置いておく意味が無いのだ。
テントと一緒にコンテナも船に戻しているはず。

「それじゃあ、港の船か…。」

「あぁ…そうなるだろうな…。」

「ハロルドに報告だ…家に帰って作戦会議の続きだっ!」
人が行き交う往来で高らかに叫ぶと、俺の家に向かって走り出した。
小さく息を吐き捨て、俺もその後を追いかける。
いつの間にか助ける事が決定事項になっているが不思議と後悔はしていなかった。
――それは、大出世した幼馴染みの姿を目の当たりにした直後だからだろう……背中を押された感じになってしまったが、ここまで来て逃げる気は毛頭無かった。

◆◇◆†◆◇◆


狭い町の中…嵐が過ぎるまで滞在する予定なのだから何時かは会うと思っていたが……まさか到着してすぐ再会するとは思っていなかった。

幼馴染み二人――。

ホーキンズは良い意味で変わっていなかった。
ライトは悪い意味で変わっていなかった気がする。

まぁ、良い…どうせ会うのも此所を出発する日だけだろう…。

「……」
しかし、何故私はあの店を出る時、あの様な言葉を二人に投げ掛けたのか…。
いや、二人と言うより…。

「あの…副長様?」

「んっ?あぁ、失礼…。」
私の機嫌を損ねたと勘違いしたのだろう…町長がおどおどしながら話かけてきた。

隣にいる将軍も私の顔を眺めている。
故郷に帰って気が緩んでいるのかも知れない…
しっかりしなくては。

「話はそれだけだ。次は何かあれば私達に報告するように。」

「はい、分かりました。気を付けます。」
将軍の短い注意が終わったのか、町長は安堵の表情を浮かべている。
別に悪行を働いた訳でもあるまいし、堂々としていればいいのに…。

まぁ、無理な話か…。

――「あぁ、最後に一つ町長に聞きたい事がある。」

「な、なんでしょうか?」
再度町長の身体が硬直する。
死刑宣告を待っているみたいで何処か面白い。



――「この町に侵入するボルゾを駆除している人物がいると聞いたのだが…本当か?」

「アルベル将軍…」
まさか本気にしていたのか…。
冗談話として受け取っているとばかり思っていたが…。
案外、おとぎ話とか神話の類いを信用しそうだ。



――「駆除?あぁ、ライトの事ですか?。」

「……は?」

……ライト?今、町長の口からライトと言う名前が聞こえた気が…。

聞き間違えか?

「ライト?その駆除してる奴の名前がライトと言うのか?」

「えぇ…教会の道をおりてすぐの民家に住んでいまして、よく教会に預けられた14才の少女を世話しているとか…。」
聞き間違えでは無い…ライトがこの町に侵入するボルゾを駆除している…。

それもたった一人で…。



――「ふふっ…あはっ、ははっ……」
やはりライトをこんな田舎町に置いておくのは勿体無かったのだ。
二年前…気絶したライトを無理矢理縛り上げてノクタールに連れてこれば良かった。
そうすれば私の背中を守れる唯一の人間になれたはず…。
それなのに今はモンスター退治に孤児の面倒か…。

「どうしたティーナ副長?やけに嬉しそうだな。」
私の笑う姿が珍しいのだろう…将軍が不思議そうに私の顔を見ている。


「いいえ…?ただ昔の悪い癖が再発しそうになっただけです。」

「悪い癖?なんだそれ?」
――私はライトの事を諦めたと思い込んでいた…。役に立たないのなら捨てていくと…。
それが大きな間違いだったのだ。
簡単な話、役に立たないのなら私が一から育てればいい。
私の背中には一番信用できる者を置く――。



「私……昔から人一倍諦めが悪いんです。自分の欲しいモノなら特に―――ね。」





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