PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏


闇を切り裂くようなボルゾの鳴き声が響き渡る深夜の森――。
普段ならその鳴き声で寝不足になることもあるのだが、今その鳴き声はまったく聞こえない状態になっている。

鳴いていない訳では無いのだろう…ただ、違う音でかき消されているのだ。

――ザァァァァァァァァァァァッ。

――「これ、本当に大丈夫かぁー!?」
そう大声で叫ぶが、目の前を死に物狂いで歩いているホーキンズには声が届いていないらしい…。
届かなくて当たり前だ……こんな強風豪雨吹き荒れる嵐の中、外出しているのは俺達三人の他に居るわけが無い――。
風が音を消し、雨が視界を遮る。
雨合羽を着ているが意味を成していない。
それに雨が物凄く痛いのだ…。
早く目的を果して暖まりたいものだ…。


――俺達三人は今、港に停泊してあるバレン船に侵入するべく嵐の町中を歩いていた。
ボルゾの侵入を恐れて武器を持ってきたが、こんな雨風じゃあボルゾも巣から出てこないだろう。

毎晩ボルゾの鳴き声に不安を煽れていたが、今は別の意味で不安だらけだ。
俺達が今からしようとしている事は間違いなく犯罪…。
しかもバレンの連中が居る船…見つかれば十中八九殺されるだろう。

しかし、もう家を出てしまったのだ。
後戻りは出来るが、するつもりは無い。

「見えてきましたよ!」
俺のすぐ後ろを歩いていたハロルドが大声で叫ぶ。
普段なら何事かと、住人達が騒ぎだすだろうが、嵐の音にハロルドの声はすぐかき消されてしまった。

「よし、まずは隠れて様子を見よう!」
前を歩いていたホーキンズが角材の山に身を潜めるよう俺達に促す。
雨音と共に小さく聞こえるホーキンズの声に俺とハロルドはコクッと頷いた。

角材の山に身を潜め、船を見る。
灯りは…見る限りついていない。
ここからでは人の気配は無いみたいだが、80メートルほど離れているので分からないと言った方が正解か…。

「これから、どうするんだ?」

「…作戦会議したでしょう?作戦通りに行けば大丈夫ですよ。」
ハロルドが俺の肩にポンッと手を置き、自信満々に胸を張る。
本来なら頼もしい言葉なのだが――。


「ははっ、作戦か………作戦なんてねーだろっ!」

「バ、バカっ、立ち上がるな!それと、デカイ声もだすなって…」
ホーキンズが立ち上がる俺の肩を掴み無理矢理座らせる。

はぁ〜っと盛大にため息を吐き、俺は頭を抱えた。

俺達の作戦――それは船に侵入して敵を倒し、妖精を救う――ただこれだけだ。
簡単に言うと、大の男三人揃って良い作戦を思い付かなかったのだ…。
しかし、ここまで来てしまったのだ。頭を切り替えて行こう…このままでは本当に犬死にしそうだ…。


「それで…何処から侵入するんだ?」
頭から悪い想像を消し去り、船の周りを見渡す。
人が入れる場所は見当たらない…確か、コンテナを出し入れする入り口があったはずだが、こんな嵐の中開いてる訳が無い。


――「ふふっ、これですよ…。」
俺の問いかけに対して意味深ににやけると、ハロルドが腰に着いてる袋の中からロープを取り出した。

「…ロープ?」
ロープでどうやって?…っとハロルドに問いかけようとしたが、ロープの先端部分に何か付いている事に気がついた。



「――鉤?」
そう呟く俺に一度だけコクッと頷くと、ハロルドが周りに兵士がいないかもう一度確かめ、船の下へと走っていった。

ハロルドの行動に対して一瞬焦ったが、行動に出た以上、覚悟を決めてハロルドが鉤を船に掛け次第、突入する事にした……のだが。

「アイツなにやってんだよ……。」

ハロルドが船の下へと辿り着いたのは良いのだが……えいっ、えいっと一生懸命に船の上へと鉤つきロープを投げるのだが、届く気配を見せてくれない…。嵐の影響もあるのだろう…風で思う様にならないようだ。



「……ったく」
仕方なくハロルドの元へと駆け寄り、船に向かって投げ続けるロープを横から奪い取った。
後ろからいきなり奪い取られたのでビックリしたのだろう…肩をびくつかせたが、それを無視し、近くに落ちていた石を鉤下にくくりつけ、素早く勢いをつけて船へと投げた。

音は聞こえないが、間違いなく鉤が引っ掛かるガチャッという心地よい音が鳴ったであろう手応えが手に伝わってきた。
隣で拍手の真似をしていたハロルドに船の安全を確認する事を伝えて、角材の山へと戻らせる。


――「ふっ…はっ…と……よいしょっ……と……ふぅ…。」
ロープが切れるか心配したが、その心配は無く、楽に船の上へと侵入する事に成功した。

近くの物陰に身を潜め、周りを確認する。
……甲板は安全そうだ。人の気配は無い。

「おい…大丈夫そうだぞ…」
その事をハロルド達に無線機で伝えると、ホーキンズだけが此方に走りよってきた。

――「はッ…ほっ…よしょっ…と……ふぅ。」
ホーキンズと船の上へで合流すると、再度物陰へと身を潜めた。

『無事に辿り着いたみたいですね……』
無線機からハロルドの声が聞こえる。
ハロルドは外から船に近寄る人間を見張ってもらう。もし誰か来てもすぐに逃げ出せる様に。

『あぁ。何かあれば報告してくれ。』

『分かりました…それでは気を付けて。』
そう言うと、ブツッという音と共に無線機からハロルドの声が聞こえなくなった。

この無線機…ハロルドが持っていた物なのだが、一番役に立つ物がこれかも知れない。

なんでも商人から譲り受けた物らしいのだが、昔の人々の知恵が詰まっているモノらしい…。まぁ空を飛ぶ機械もあったぐらいだから大昔の人々は偉大だったって事だ。
本来進化しなければならない人間がここまで退化した今の時代を大昔の人間が見れば間違いなく呆れるだろうな…。
自虐的にふけたい気持が込み上げて来たが、今は敵船の上。
バレン兵に見つかる前に目的を探さなければ…。

「よし…ホーキンズ行くぞ。」

「おうっ。」
周りを警戒しながらゆっくり足を進め、船の中へと侵入するべく扉前まで前進する。

扉に耳を当て、物音を確認する…何も聞こえない。

「よし…中に入るぞ。」

「あぁ…」



――ガチャッ。

ゆっくり扉を開け、中を確認する。
暗くて良く分からないが、人の気配は無い。

「おっ、おいッ…」

「早く中に入れって…」
ホーキンズもそう感じたのだろう…急かす様に俺を中に押し込むと開けた時同様扉をゆっくりと閉めた。

先ほどから続いていた嵐の音から一転、船の中は無音に近い状態だった。
気持ちの問題か、空気も冷たい…一気に緊張の糸か張り詰める。

「……潜入成功だな。」

「あぁ…なるべく早く探そう…。」
探す…と言っても一つ一つの部屋を探す訳では無い。
俺達が目指す場所は、下部にあるコンテナ。

その場所にいるであろう、妖精を助け出す手筈なのだがコンテナに妖精がいなければ……お手上げだ。
こんな穴だらけの作戦誰も実行しないだろう。
だか、俺達は大真面目にそれを実行しているのだ。コンテナにいなければ一つ一つの部屋を探すしか無い…。
多分朝が来てバレン兵に見つかり殺されるのがオチだろうが…。



「……」
――最大限周りに注意を払い、下へと降りていく。



何も聞こえないと言うことがここまで恐怖を煽るとは…ボルゾの鳴き声がどこか恋しく感じる。

「おっ、ここか?」
前を歩いていたホーキンズが、俺の方へと振り返る。

この場所に来たのはホーキンズと同じく初めてなのだから、俺に聞かれても分からない。

だが、朝見たコンテナが目の前にあるのは確かだ。
――湿った通路を長々と歩いていたが、やっと開けた場所まで来ることができた。
周りを見渡すと同じようなコンテナが何個か置いてあるが、全部色が違う。
たしか、妖精の声が聞こえたコンテナの色は青かった。

青色コンテナを探し、中を歩き回る。ホーキンズも一つ一つコンテナに耳を当てて中を確認している様だ。


「………あったっ!」
見つけた事で、声をあげてしまった事に慌てて口を押さえる。
間違いなく俺達が朝見たコンテナだ。

俺の声に気がついたのかホーキンズも此方に駆け寄ってきた。

「おぉ、これだ……よっしゃ…それじゃ手っ取り早く中を確認しようぜ。」
幸いコンテナには鍵が掛かっていないようだ…。

コンテナの扉の前に立ち、ノブに手を掛ける。



――ガチャッ。

「…暗いな……ってなんだこ…れ…」

色々な商売道具があるのだが――その商売道具が異常だった――。

「バレンの人間は一体何がしたいんだよ…。」
――コンテナの中には大小様々な檻が設置されており、その檻の中には見たことも無い動物が閉じ込められていた。
いや――動物と言うような可愛らしい物では無い…見た目は様々だが、どれも動物らしい動物の原型を留めていない物体ばかりだ。

「あれって…犬か…?」

プルプルと震える手でホーキンズが指差す檻の中には確かに犬らしき動物が横たわっている。
しかし、犬と言って良いのか…目を真っ赤にし、牙が剥き出しにしており、体のあちこちから触手の様な物が動いている。

一体何なんだコレは…。
頭がクラクラしてきた。

「早く探そう…バレン兵に見つかる。」
早くこの場所から離れたかったのだが本来の目的である妖精を探さなくては…。
慎重に一つ一つの檻を確認していく。
檻に閉じ込められてる「なにか」を刺激しないように静かに…。

コンテナの奥に行くにつれて、檻がでかくなる。檻がでかくなると言うことは、中に入ってるモノも大きくなると言うことだ…

――グルルルルルルゥッ

「おっ、おい……ヤバイんじゃないか…?」

「声をだすなってッ」
今声をだせば間違いなく檻にいる奴が騒ぎ出す…。いや、前後左右檻に囲まれた俺達がこの檻の住人達に殺される可能性も無い訳ではないのだ。
コイツらが手を伸ばせば簡単に俺達に届く…。
それに早くしなければ精神的にもヤバイ。
後ろを歩くホーキンズも弱音を吐きだした。先ほどまで先陣を切って歩いていたのに…。

まぁ、こんな光景を見れば逃げたくなる気持ちも分かるが………んっ?。


「…(お、おい…!)」

「…(んっ?)」
周りを警戒しているホーキンズの肩を乱暴に叩き、一番奥にある布の被った箱らしき物に指をさす。

布の隙間から青白い光が微かに漏れている…。間違いなくコレだ。

「…(ゆっくりだぞ!)

「…(あぁ…)」
ホーキンズが言うように恐る恐る布に手を掛け、布を取り除く――。
――すると、中から小さな檻が姿を表した。
あの時、妖精が入れられていた檻だ。
二人揃ってそぉ〜っと顔を近づけ、中を確認する…。

「……見つけた。」
予想通り―――作戦通りと言った方がいいだろうか?
中には金色の髪をした妖精が横たわっていた。

歓喜の声をあげたい衝動に刈られたのだが、早くこのコンテナから抜け出したい…。

「…(ホーキンズ…早く出るぞ。)」

「…(よっしゃ!)」
妖精が入っている檻を掴み、ゆっくりと歩き出す――




――グルルルルルルッ!

「なっ、ヤバッ!」

「えっ、痛ッ!?」
ドカッ、と前を歩いていたホーキンズを蹴り飛ばす。
勢いよく倒れたホーキンズが俺を睨み付ける。が、すぐにその目は恐怖に染まり、腰を抜かしたように後退りしだした。

ホーキンズが先ほど立っていた場所に檻の隙間から出た鋭い爪が飛び出していたのだ。
コイツ――間違いなくホーキンズを狙ってた。

「ホーキンズ早く外に出るぞ!」

「あっ、あぁ、行こう。」
声を隠す事を忘れ、俺達は早々にコンテナから抜け出そうとした――。


「ギシャャャャッ!」

――ザシュッ!

「がはッ!?」

「ライトッ!!」
背中に強い衝撃を受け、今度は俺が地面に倒れ込んだ。
手に持っていた妖精入りの檻が転がっていく。
――な、なんだ…なにされた?背中が熱い。

「ライト!早くここから抜け出すぞッ!」
ホーキンズに腕を掴まれ強引に立たされる。
抜け出すも何も足に力が入らないのだ。

ガクガクする足で踏ん張り、妖精の檻を掴み、コンテナの出口を目指す。

「ぐっ、この!」

――グギャッ!?

「いてっ!コイツ!」

――ギャギャッ

これはヤバイ…次々に檻の中から攻撃を仕掛けてくる物体に成す術がない。
一刻も早くこのコンテナから抜け出す方法…それは反撃をせず走り抜ける事だった。




――「もう少しッ……よっしゃあぁぁぁ!」

「バカっ、コンテナの入り口を閉めろ!」
やっとの思いで転がり出たコンテナを素早く閉める。
触手なんか伸ばされて引きずり込まれたら間違いなく喰われて終りだ。

「ふぅ〜、危なかったな…」

「あぁ…今回ばかりは本気で死ぬかと思った。さっさとこの船から出よう…。」
危機を乗り越えたばかりなのだが、早くこの船を降りないと背中の痛みで気絶しそうなのだ。
骨は折れていないだろうが、間違いなく皮膚は裂けているだろう…。

「よし、脱出だ!」
元気よく叫ぶホーキンズの声に頷き、もと来た道を戻る為に振り返える――。






――「お前ら何をしている!!」


……そう言えば敵船の中だった。
あれだけ声をあげれば見つかるか…。

「逃げるぞ!」

「あぁっ!」
そんな余裕を見せている場合では無い。
早く逃げないと仲間を呼ばれてしまう。
バレン船員の横をすり抜け逃走する。後ろから叫び声と追いかけてくる足音が聞こえるが構っている暇は無い…。

「待てぇー!」

「はぁっ、はぁっ、誰が待つかよ!」
ホーキンズはまだ喋る余裕があるようだ。

「はぁっ…はぁっ…!」
ホーキンズとは違い俺は余裕など無かった。
背中の傷から血を流しすぎたようだ…。

「はぁっ、はぁっ、あの曲がり角を曲がれば出口だ!」
後ろを走るホーキンズが叫ぶ。
やっと出口か…。
早くこの船から出たい一心で走るスピードを止めず曲がり角を曲がる。



――ドンッ!


「ぐッ!?」

「なっ!?」
――勢いよく曲がり角を曲がった瞬間、何かと激突した。

瞬時にバレン兵と鉢合わせした事を察知した俺は背中の痛みを忘れ、バレン兵と対峙する。

「なっ、なんだお前達!この船で何をしている!」

「くっ!」
後ろからもバレン船員の走る足音と声が聞こえてきている。

このままでは挟み撃ちになり捕まる…。そう判断した俺は、念のために腰に装着していた剣を取り出しバレン兵へと構えた。

「ヒッ!?」
殺されると思ったのだろう…剣を取り出した事に怯んだバレン兵に素早く近づき、鞘で後頭部を強打する。

――ガツッ!

「がッ…くそっ……おま……え…?」

「ッ!?」
気絶する直前、俺の顔を隠してある布を掴みバレン兵は地面へと倒れ込んだ。

「早く行くぞ!」

「あ、あぁ…(くそ…見られたか?)」
気絶したバレン兵の手に掴かまれた布を奪い返し、急かすホーキンズの後を追ってバレン船を後にした――。



一抹の不安をその場所に残して…。

◆◇◆†◆◇◆

この家に来たのはもう何年振りだろうか?
幼い頃に見ていた家具がえらく小さく見える。それだけ私が成長したということか…。

身長が高くなるだけでここまで新鮮に感じるとは…。
机や箪笥などの配置は多少変わっているからか、知らない家に来ているみたいだ。

「しかし、あのバカ…こんな嵐の中どこに行ったんだ…?」
あのバカ…とは幼馴染みのライト・レイアンの事である。

ライトに話があって、わざわざ来てやったのに、あいつはこんな嵐の中外出しているらしい…アホだ。

――「……まぁ、私も宿を抜け出してこの家に来たのだから人の事を言えないか…。」
自分の身だしなみを見て、苦笑いを浮かべる。
嵐の中走って来たのだから、濡れるのは分かっていたが、まさかここまでとは……髪も風でほざぼさになっている。
この姿を見て思うが、ライトがいなくて良かったのかも知れない…。

「ふぅ…どうしたものか。」
独り言を呟き、近くにあった椅子に腰を降ろす。
――私がこの家に来た理由――それはライトを騎士団へ誘うためだ。
無論すぐに騎士団へ入れる訳では無い。
実際平民が騎士団へ入った歴史は今まで私以外いないのだから…。

しかし、私はライトを二年…いや、一年で騎士団へ入れる自信があった。
何故その様な自信があるのかと言うと、私が今いるノクタール騎士団、副長という地位があれば騎士団内の人間は私の発言を聞かざるえないからだ。
それプラス、王と姫様の信頼もそれなりにある……勿論、実績を残してきたからこそ、手に入れたものだ。

この力を使えば私の隊へ一人平民を入れる事など、それほど問題は無いはず。

後は本人――ライトをどうノクタールへ連れていくかだ…。

片足を切り落として強引に連れ帰ってもいいのだが、五体満足のライトじゃないと意味が無い。

「どうしたものか………んっ?」
椅子から立ち上がり、テーブルの前まで歩いていく。
テーブルの上には落書きされた紙が置いてある。

「なんだこれは?……落書き?」
手に取り、落書きされた紙を目の前に持ってくる。

「これは……ライト?」
紙に描かれていたモノ――それは色々な色をしたライトであろう人物だった。
その横には……知らない女性の様な人物が描かれている。
幼い子が書いたのだろうか?
描かれている人物の上には名前が書いてある。
ライト…やはり描かれている一人の男性はライトだ。


そして、もう一人描かれている女性の名前は――。



「………メノウ…」
どこかで聞いた事のある名前…。
たしか町長が言ってた教会に捨てられた孤児がそんな名前だった様な…。

その孤児がライトと手を繋ぎ花畑の中、笑顔で描かれている。



「――ふん、くだらない。」
その絵を真ん中から綺麗に破ると、女性が描かれている側の絵をクシャクシャに丸め、ゴミ箱へ投げ捨てる。

ライトが描かれている絵も少し眺めた後、同じようにゴミ箱へと捨てた。

こういったライトの人の良さも治さなければ…いつか痛い目にあうだろう。

「……今日は戻るか…。」
まだノクタールに帰るまで時間はある。
それまでにライトを説得できるか怪しいが、タダで諦めるつもりは無い。




――「そう言えば…どこかの国の姫様もメノウとかいう名前だった様な……まぁ、気のせいか。」
あり得ない考えが頭を過ったが、すぐに底へと沈んでいった。

◆◇◆†◆◇◆

「ふぅ…これで、大丈夫だと思います…。ですが明日一応、診療所へ行ってくださいね。」
檻の住人にやられた背中の治療を終えたのか、ハロルドが俺の肩をゆっくりポンッと叩くと妖精の元へと歩いていった。
多分俺より妖精の方が気がかりなのだろう…俺は命に別状は無かったが、妖精は危ないらしい…。
衰弱しきっており、俺達の声もまったく届いていないようだ。

「あぁ、ありがとうハロルド。」
ハロルドにお礼を言い、用意された服に袖を通す。
ハロルドいわく、白衣が私服らしいが、ちゃんとした民服もあるじゃないか。

「微かに息をしていますが…本当に弱っています。できるだけの事はしますが医療の知識があまり無いので助かるかどうか…。それに妖精となると本頼りになりますし…」

「あぁ……まぁ、頑張ってくれ。なにか俺達にできる事があれば手伝うから。」
弱気なハロルドの不安を少しでも軽くする為に笑いながらバシッと肩を叩く。

「…分かりました。絶対に助けてみせます!」
そう言うと、妖精の檻に手を掛け、檻についてある鍵を外し始めた。
鍵と格闘するハロルドの後ろ姿を数秒眺めた後、ホーキンズへ視線を落とした。

疲れたのだろう…ハロルドの家だというのにベッドを独占し、爆睡している。

「貴方も寝ていいですよ?」

「いや、俺は…」

「妖精を救い出したのは貴方達です……次は私がこの妖精を助ける番です。」
そう言うと、毛布をクローゼットから取り出し俺に手渡した。

「それじゃ…任せる」
逆らわずハロルドの言うことを聞いとこう…。
背中の痛みで眠れるか分からないが、体力を大幅に消耗したのだ…回復はしとかないと。

毛布を手にソファーへと歩いていく。
背中を庇う様にうつ伏せに横たわると、ゆっくりと目を閉じた。

バレン船での事を思い浮かべる。
曲がり角でぶつかったバレン兵――たしか昨日の朝、ハロルドと言い合いになった兵士だった。
俺の顔を覚えているかどうか分からないが、用心だけはしとかないと…。
どうせ、バレン船は嵐が過ぎ去り次第、この町を離れる。
それまで目立たない様に心がければ大丈夫だろう。

深く考えず雨の音に耳を傾けていると、それがいつしか子守唄効果になり、背中の痛みを忘れる程の深い眠りに落ちていた。

そう…達成感から出た、安らかな気持ちで…。





二日後――俺は殺人者として騎士団に捕まる事になる。



←前話に戻る

次話に進む→

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

累計依存者数

人!

現在名が閲覧中