PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:4-263氏


 昏々と眠り続ける小萩の白い顔を見つめて、京介は言い知れぬ昂ぶりに唇を舐めた。
 時折苦しげに呻く小萩の頭を撫で、額に浮く汗を冷水を含ませた手拭いで拭ってやる。気絶するような眠りは打撲からの発熱が原因だと知り、京介は慌てた。そして、心の底で喜びもした。
 これで、熱が下がるまで引き留めておくことが出来る。

 小萩が小さく声をあげて掛け布団を蹴る。京介は苦笑まじりに汗ばむ細い脚に布団を掛け直してやった。
 触れた白い脚の、その間に潜む生々しい女の肉を思い出し、喉を鳴らした。
 それを隠すには頼りない布団の狭間から覗く赤い亀裂。
 京介の下腹部が熱を持つ。はぁ、と短く息を吐き、勃ちあがりはじめた陰茎に触れた。
 ゆるやかな手の動きで自身を刺激する。邪な性欲に硬くなった陰茎は、先端から透明な欲望を吐き出しながら膨らんでいく。
 京介は欲の命じるままに手を激しく上下させた。

「……はっ、はあっ」

 懐から書きかけの紙を取り出し、にちゃにちゃと水っぽい音をたてるものにあてがった。

「小萩っ……」

 すうすうと穏やかな寝息をたてる小萩に覆い被さる。白い枕の上に散る黒い髪に指を絡ませた。
 股間がじくじくと熱くなり、手の中の陰茎がびくびくと震える。紙の墨文字が滲んだ。受け止めきれなかった精液が小萩の顔を汚す。

「は、……ははっ」

 吐息に混じって自嘲が漏れた。先ほどまでの熱が嘘のように虚しさばかりが京介を蝕む。
 汗を拭っていた手拭いで小萩の顔に散る精液を拭いてやった。小萩が身じろぎ顔をしかめるのを見て、京介は逃げるように桶を手に部屋を後にした。


 依然として死んだように眠り続ける小萩の顔を覗き込む。小萩を助けたのが、昨日の午前中で、夕方にはもう眠り込んでいたから、そろそろ丸一日眠りっぱなしである。

(そろそろ起こした方が良いのだろうか)

 そう思うも、起こしてしまうのは惜しい気がして京介は立ち上がった。

 先日数年ぶりに火を入れた竈。昨日も本当は飯を炊くつもりだったのだが、何を間違えたのかべちゃべちゃになってしまったので、適当に味をつけて粥にした。
 決して食道楽ではない自分が食べても美味いとは言えない粥を、小萩は全て平らげた。それがとても嬉しかった。
 釜の中に残るべちゃべちゃのご飯を鍋に移す。昨日は適当に塩をいれたのだが、今日は味噌にしてみよう。と慣れない手つきで火をおこした。

 白湯と粥を乗せた盆を手に、小萩の眠る部屋へと足を運ぶ。引き戸を開けると、すぐ目の前に小萩が立っていた。どうやら、向こう側から開けようとしていたらしい。
 小萩は「ひゃ!」と短く悲鳴をあげてあとずさる。ほんの少し驚くが、それより愛おしさと可愛らしさが勝る。

「おや、元気そうだね」
 笑ってそう言ってみたが、自分が本当に笑えているかは分からなかった。
 彼女が元気になったら、自分の手元からいなくなってしまう。その不安ばかりが頭を巡る。
 視線を、引きずる左脚へと向けた。小萩を手放したくない浅ましさ故の苦肉の策。

「左脚の筋をいためているらしい。動かない方がいいよ」
 小萩をこの家に縫い止めるための嘘。
「脚が治るまで、ここにいなさい」
 親切めかした欲深い言葉。

 小萩は、妻とは違う。それは分かっていた。いや、分かっていないのかもしれない。
 にこにことよく笑い、弾むようによく喋った“小萩”とは違う。小萩はあまり表情豊かとは言えないし、喋るときもぽつりぽつりと呟くように喋る。
 それでも、妻によく似た唇が己の名を呼ぶ度に、言いようのない至福を覚えてしまう。

 空になった腕と匙を受け取る。まだ熱が残っているのだろうか。触れた手が熱い。

「そういえば、小萩はいくつなの?」

 熱に潤んだ視線に耐えられず、そう話題を振る。小萩は掠れた声で「十八、です」と答えた。
 意外であった。嫁入りしたときの妻よりも幼いものだとばかり思っていた。
 取り立てて童顔であるわけではない。華奢な顎が、細い頸が、肉の薄い体つきが、小萩を年齢よりもずっと幼く見せていた。

「そうなの?もっと年下……私の子供くらいの年かと思っていたよ」

 まあ、子供はいないんだけどね。と笑う。子供、と言ったのは自分が小萩に害を与える人間ではないことを殊更強調するためだった。

「子供……」
 小萩が呟く。黒い瞳がきょとんとした風に京介を見上げた。
 京介はその頭を撫でる。
「そう。だから、安心して」
 白々しくも、そんなことを言う。小萩の裸体に欲情し、あまつさえその寝顔を眺めながら自慰に耽ったことを知ったら、小萩はどんな顔をするだろうか。


 取り留めのない話を二、三しているうちに――もっとも、ほとんど京介が一人で喋っていたのだが――朱々としていた夕日も沈んでいた。
 酔漢の罵声とまだ冷たい春の宵の風が室内に流れ込む。どちらもまだ熱のある小萩の体にはよくないだろうと雨戸を閉めた。
 急に静まり返った室内にいたたまれず、京介は部屋を去ろうとした。
 自分の布団は小萩が使っている。湿っぽい布団を引っ張り出したはいいが、結局昨夜は興奮から眠れずに夜の街をふらふらしていた。
 さて、今晩はどうしたものかと思案する京介の足取りが止まった。
 布団から伸ばされた小萩の手が、京介の着物の裾を掴む。突然のことに返す言葉も思いつかない。

「ここに、いて欲しいです」

 熱っぽい小萩の瞳が不安そうに揺らぐ。
 熱があるといやに心細くなるのに京介は身に覚えがあったので京介は「分かった」と返事をした。
(そういえば“小萩”も風邪をひくといやに甘えてきたっけ)

 部屋の文机の前の座布団に腰掛け、ここにいるからねと声をかける。小萩は枕に頭をこすりつけるように首を振った。

「もっと、近くがいい」
 京介は布団のすぐ横まで座布団を移動させる。

「やだ、もっと」
 小萩の手が、京介の袖を握る。促されるままに、小萩の枕元に座る。

「もっと」
 ほとんど膝が小萩の頬に触れそうな位置にも関わらず、駄々をこねる幼子のように首を振る。
 困り果てた京介の手を、小萩の熱い手が引っ張った。

「うわ!」
 声と共にどさりと布団の上に転ぶ。小萩はごそごそと身動きしながら、横たわる京介の体に布団を被せた。
 小萩の小さな熱っぽい体が、京介の胸に額を付けて丸くなる。

「ちょ、ちょっと……小萩?」
 慌てふためき問い掛けるも返事はない。寝ているのかと思えば、宵闇よりなお黒い目がこちらを見つめていた。

「眠い……の」
 小萩はぽつんと呟き、京介の胸に頬を寄せる。

「うん、おやすみ」
 その体は“小萩”よりもずっと小さくて、“小萩”とは違う香りがした。




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