PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆MkmoheL0Rc氏

翌日。
太陽は既に高く昇っているが、僕は布団にくるまっていた。
「・・・どうしよう」
今たぶん12時過ぎだけど、起きようという気が微塵もしない。
朝起きるのは、苦手だ。
思い返せば、修学旅行などで早起きするのが本当に苦痛だった。
目覚まし時計3個くらい持っていったから、どうにか起きれた・・・んだっけ?違う気がする。
・・・そうだ、同じ班の詩音さんに起こしてもらったんだ。
『みーやーまー君!いい加減起きないとにゃあにゃあしますよ?』
とか言って。
彼女が口癖のように言っていた「にゃあにゃあ」という行為が、何を指すのかは未だに分からない。
ただ、語感からして明らかに脅迫には適さない。
むしろ萌えてしまう。
そんなことを考えていると、

「優歌くーん!お昼、一緒に食べませんか?」
表で声が聞こえた。
「んー・・・白峰さんかな?」
できれば放っておいてほしい。
そう思ったが、渋々ながら起き上がる。
すると。

「・・・うわ!?」
いつの間にか、見知らぬ女性が僕の部屋に立っていた。
身長がかなり高い。170は優に超えているだろう。
長く、綺麗な黒髪の間から、冷たい色をした瞳がこちらを見据えていた。
なんかこの人・・・白峰さんに似てるな。見た目は。
彼女の姉だろうか?
だが、あの気弱で優しそうな女の子の姉とは思えない程、冷酷な目をしている。
従って僕は確信を持てなかった。

・・・暫くして、というか遅まきながら、僕は寝起きを見知らぬ女性に見られたという事実に気づいて慌てる。
異性云々という以前に、人間として恥ずかしい。穴があったら入りたい。
だが、僕のそんな内心の葛藤とはまるで無関係に、そのひとは言葉を紡ぎ始める。
「こんにちは、深山くん。・・・いえ、君にとっては”おはようございます”かしらね?」
「あー・・・ごめんなさい、こんにちは」
とりあえず謝る。
「妹が待ってるから、来てもらえる?」
彼女は淡々と言葉を続ける。
「あー、はい。あれ・・・雪灯さんのお姉さん、ですか?」
「はい。白峰灯璃(あかり)と申します。妹共々、よろしくお願いします」
この情況から鑑みれば、よろしくお願いしないといけないのはこちらの方ではないかと思う。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
そんなわけで、きちんと挨拶しておく。

「・・・あれ?」
ふと、彼女が疑問の声を上げた。
「はい、なんでしょう?」
何か粗相でもしたか。
と思ったが、寝起きの姿を晒すこと以上の無礼があろうか。
「ーーーもしかして、あなた、低血圧?」
「・・・そうですけど、それが何か」
「いえ。朝勃ちしていらっしゃらないものですから、不思議に思って。まあ、結構なことです」
「・・・・・・」
なにが結構なのだろう。僕が朝勃ちしないことか、それとも低血圧なことか。
思考する価値がまるで無い問題だったので、僕は放棄する。
「・・・まあ、とにかく着替えて。お昼のお食事、深山くんの為ということで妹が朝早くから頑張ってたの。・・・と言っ ても、ご存知のように妹は目が見えないから、私がサポートしたんだけど」
「えっと、それは光栄です。ありがたくご相伴させていただきます」
「そうしてくださると嬉しいわ」
彼女はそっけなく言うと、部屋から出ていった。

「・・・怖いひと」
着替えながら、ぼそっと呟く。
それからなんとなく、無愛想な彼女ーーー灯璃さんが、目の見えない妹を手助けしているところを想像しようと試みる・・・が、できなかった。
きっと妹の前でだけ、優しい姉なのだろう。いわゆる姉妹愛か。
うらやましい。
「優歌くん、はやくー!お弁当ー!」
雪灯ちゃんが僕を急かす声が聞こえる。
僕は少し雪灯ちゃんに嫉妬しながら、外に出た。


 そんなわけで白峰姉妹と僕は、海の見える野原で優雅に昼食をとることになった。
「えっと、じゃあ、いただきます」
ぼそっと僕が呟くと、雪灯ちゃんが「優歌くん、元気無いよ?」と真剣に心配してきた。
うん。そうだね。と苦笑いしてから、ふと疑問に思う。
雪灯ちゃんはどうやって食事をとるのだろう。
そう思っていると、向かいに座っている灯璃さんがおもむろに言った。
「じゃあ深山くん、折角だから雪灯に食べさせてあげて。ほら、雪灯は目が不自由でしょう?」

・・・は?
と思って雪灯ちゃんを見ると、若干頬を赤らめながら、可愛らしく小さな口を開けていた。
明らかに、待っている。
・・・僕が、その、いわゆるところの、「お口あーん」という行為をするのを。
できねえよ。
反射的にそう思ったが、灯璃さんがたたみかけてきた。
「どうしたの深山くん?雪灯の口に入れてあげるだけでいいのよ?・・・それとも、嫌なの?」
びくり。
雪灯ちゃんが肩を震わせた。
「あ・・・優歌くんが嫌だったら、その」
うわ、狡い。
僕は腹を括った。
「いやいや、やるよ?ちょっとおかずのチョイスで悩んでただけだから」
事務的にこなせばいい。ただの作業だ、と自分に言い聞かせる。
・・・そうだな。おかず→ごはん→おかず→ごはん、というローテに時々副采を交えていこう。
とりあえず、何かの魚料理に手をつける。
「・・・えっと、魚です」
「はい」
一応断りを入れてから、歯並びの綺麗な口に運ぶ。
箸がこつん、と歯に当たる感触がやけに生々しい。
「ん・・・ん、ん」
小さな口を懸命に動かして咀嚼する雪灯ちゃん。
何故だろう、ひどく官能的に見える。
・・・何かのフェチに目覚めてしまいそうだ。
僕は妄念を断ち切って訊ねる。
「おいしい、ですか」
「え・・・はい」
よく考えたら、このお弁当は彼女が作成したものだから僕が聞いても仕方ないのだが、彼女は律儀に答えてくれた。
「えっと、じゃあ、次はごはん・・・あ、おにぎりか。じゃあ自分で食べられr「あ、ごはんも、その・・・おねがいします」
「・・・・・・」
困惑して灯璃さんを見る。
彼女は僕を見て、にこりと笑った。
たぶん、今日初めて見る笑顔だった。


 その後も僕は、雪灯ちゃんの餌付け・・・いや全然違う、食事の補佐的な行為に夢中で、自分の食事はかなりおろそかになってしまった。
というか、食欲より性欲の方が盛んだった気がする。

それはともかく。
食後は白峰姉妹と雑談(雑談というか、僕が灯璃さんにいじられただけ)に耽る内に日が暮れ、島民の方々主催の歓迎会とやらがスタートしていた。
簡単な自己紹介をした後は皆、酒を飲んだりご馳走を頂いたりと好き勝手。
義父はああ見えて人の懐に潜り込むのが巧く、既に馴染んでいた。
僕はというと、未成年なので、酒は飲めないし、暇なので女性のスリーサイズを目測していた。
・・・義父の言っていたことは嘘ではなかったらしく、美人が多かったので、つい。
「こう見えて僕の目測の技術はなかなかの精度を誇るのですよ、灯璃さん」
灯璃さんは興味無さげだった。
「何が『こう見えて』なのかしらね・・・。じゃあ、私のスリーサイズを言い当ててみて」
「えーっと、84 59 87ってとこですかね」
暫しの沈黙。
「・・・すごい、本当に当たってる」
ふっ、見直したか!
と思ったが、彼女の表情を見る限りそんなことはなさそうだった。
続けて、隣でえへへと笑っている雪灯ちゃんのも当ててみせようかと思ったが、それはやめておく。



「さてと、本題に入りますが」
突然、灯璃さんが言った。
あの後も馬鹿な話を続け、雪灯ちゃんは笑い疲れたのか、僕の腰に手を回し、膝に頭を乗っけてーーーまるで僕にすがりつくかのように、すやすやと寝ていた。
一応僕より年上、という設定なのに。
さておき。
「ずいぶん長い前振りでしたね」
彼女はあっさりとスルーして話しだす。

「あなたはもう気づいているでしょうがーーー私たち姉妹は・・・否、私たち一族はこの島で忌まわれています」
「・・・え?」
僕は普通に驚いた。
確かに、なんとなく空気で感じ取ってはいたが、気のせいだろうと思っていた。
この穏やかな島で村八分というのは、まるで想像できないから。
「何故ですか」
「私の家は代々巫女をしているのですがーーー」
 


彼女の話をまとめると。
昔、彼女の一家は巫女ということで、人々から敬われていた。
だが、先代の巫女の頃。
巫女は男と関係を持ってはならないとされているにも関わらず、ある男と交際しているという噂が立つ。

人々に問い詰められた彼女は、恋人がいることを認め、また子を孕んでいることを告白する。
さらには、巫女なんて辞めて恋人と幸せに暮らす、と言いだす。
人々は失望し、あっさりと一族の権威は地に墜ちた。
あらゆる人々から罵倒を受けた。
家族でさえその例外ではなく。
ーーーだが、それも一時のこと。
すぐに、憎悪すら向けられなくなる。
完全な孤立。
だが、二人は特に悲しまなかった。
お互いが共に在れば、それで幸せだった。

やがて月日が経ち、子も二人、生まれていた。
そんなある日。
生まれて間もない下の子が、酷い風邪を引いた。
その日は凄まじい嵐が吹き荒れていたが、彼女の夫は医者の元に走った。
事情を話し、診てくれるように必死に頼む。
だが、医者は話すら聞かずに断ったという。
だからと言って諦めるわけにはいかず、助けを求めて彼は、必死に島中を駆け巡った。
そしてーーーどこからか飛んできた屋根瓦に頭を打たれて、あっけなく死んだ。

いつまで経っても戻らない彼を心配して、探しに行った彼女。
「それ」を見て発狂した。
止める間もなく医者を殺し、それから自分も夫の後を追う。
結果、あたりには三つの死体が転がることとなった。

風邪を引いていた幼子は病状が悪化していたが、さすがに人々が看病し、一命を取りとめる。
だが、失明していた。

「・・・その子が雪灯ちゃんで、姉が灯璃さんなんですね」
「そうです」
「そしてあなた方は嫌われている・・・というか、遠ざけられているわけですね」
「はい」
灯璃さんは肯定する。
表情には何も浮かんでいなかった。
「で・・・それは分かりましたが、僕にどうしろと言うんですか」
「いえ、別に。強いて言うならまあ、わたしたちはあまり親しい人がいないから仲良くしてくれて嬉しいし、これからもよろしく、ということ」
照れる様子もなく彼女は述べた。
格好良い。
「なるほど、わかりました」
道理で雪灯ちゃんがあんなに友達を欲しがっていたわけだ。
「ありがとう。・・・じゃあ、そろそろわたしたちは帰ります。ほら、雪灯、起きて」
「んー・・・にゃあ・・・やめて、にゃ」
唸っている。
・・・詩音さんの夢でも見ているのだろうか?
今度会ったら聞いておこう。
「ねぼけてるわ、この子。・・・もう16なのに」
溜息をつく灯璃さん。
「はは・・・あ、家まで送りますよ」
そう言って僕は雪灯ちゃんをだっこして立ちあがった。


帰り道。
時刻は夜半を少し過ぎている。
闇を溶かし込んだような夜空を切り裂くように、三日月がぎらりと光っていた。
心地良い夏の夜風を浴びながら、訊ねてみる。
「・・・突然ですけど、灯璃さんは月の中でどれが一番好きですか」
「満月ね」
即答だった。
「そうですか。僕は三日月が好きです。歪みが美しい。満月も美しいとは思うんですが、嫌いです」
「嫌い?どうして?」
「・・・なんか、満月って何かの目みたいだと思いませんか?」
「目ですって?」
そんなことを言う人は初めて見た、と言わんばかりに首を振る灯璃さん。
ちなみに雪灯ちゃんは僕にだっこされて爆睡している。
「いえ、まあ・・・何でもないです」 
「妙なことを言うのね・・・あ、そういえば雪灯は月について詳しいのよ。今度話を聞いてみたら」
「へえ、そうなんですか。・・・あれ、でも、失礼ですけど月の形とか分かるんですか?」
「それが不思議なことに、分かるのよ。何故でしょうね。夜、外に出ると『今夜は満月だね、灯璃お姉ちゃん』なん て言ったりするの」
「それはすごいですね・・・」
感心して、胸に抱いた少女を見やる。
相変わらずぐっすりと眠っている。
彼女はどんな夢を見ているのだろう、と、再び思った。


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