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 見えないはずの"雨"が見えるようになったのをきっかけに、日常を不条理に侵食され"持たざる者"となっていく子供たち。その逃れがたい業を描いた暗黒童話、ダークメルヘンとでも言いましょうか。一人の作家が、その全存在を一冊の本に叩き込んだような作品です。「作者が命を削って書いた」と表現しても、決して言い過ぎということはないでしょう。

 毒の強さ・胸残りの悪さという点で、その強烈は麻耶雄嵩さんの作品に通じるものがあるかもしれません。ただし麻耶さんがどこか達観した視点から登場人物を冷酷に切り捨てているとすると、沙藤さんはまさにその「切り捨てられる者」の視点で、泥の中をもがき苦しんでいます。

 麻耶さんの例を挙げましたけれど、麻耶さんがよくそう評価されるように、本書も非常に「読み辛い」作品です。序盤の「語り」パートのリーダビリティはそこそこですが、中盤からはじまる「小説」パートは、場面転換の境目が分からなかったり、視点がどこにあるのか分からなかったりという、異様に幻惑的な文体で書かれています。描かれる内容自体も非常に陰鬱なもので、多くの読者は強いストレスを感じるでしょう。

 物語の展開にも一本の確固としたストーリーラインというものがなく、次第に「これは読者を馬鹿にしているのか?」と思える酷いものになっていきます。それがまた、わざとやってるのか素でそういうことをやっているのか判断のつきかねるぎりぎりのラインなので、読者のストレスは否応なく高まってしまうのです。

 それでも我慢して読み続けていくと、ああこれは何かおかしいと読者は気付きはじめます。本書はそういった酷く捻じ曲がった構造をしていて、そこにはもちろん作者の意図があります。ただし、その意図自体にも実はけっこう設計上の不備があったりして、そういった瑕疵が本作をさらに歪んだ作品にしています。そして作者持ち前の悲しみとも恨みともつかない重々しすぎる情動が加わり、結果として出来上がったのは非常に"いびつ"な作品なのでした。この"いびつ"さは本当に特筆すべきもので、その"いびつ"さを味わうためだけにこの一冊の本を読んでみてもいい、と思います。

魔王14歳

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