『あんみん。』と同時系列の別視点になります。

「―――姫さん。大丈夫か?」
とろとろと眠りに沈んでいたピアニィの意識が、アルの声に引き戻される。
「………あ、はい…アル、あたし…寝てましたか…?」
「ああ、ちょっとな。部屋も取れたから、食事したらもう寝ちまえよ」
気遣うような優しい微笑みのアルに、ピアニィは素直に頷いて目を擦った。
「…すいません。そこのテーブルに定食を四つ。それと、ナッツの盛り合わせひとつ」
テーブルの近くにやってきたナーシアが、通りかかった宿の女性に頼んでいる声が聞こえた。
「………ナッツ?」
「……ナーシア、お前、ナッツ好きだったか?」
首をひねる男性二人の声をよそに、ピアニィは眠たい声のまま、ふわりと微笑んだ。
「あ、あたしもナッツすきです〜。一緒に食べてもいいですか〜?」
「どうぞ。…全部食べたいわけではないから」
不思議な返答をしたナーシアと首をひねりつづけるアンソンが着席し、程なくして食事が届けられた。
――食事を終えて、部屋に上がるところまでは何とか気力が持った。
落ちそうになる瞼を何とか引き上げ、身体の汗を流し寝間着に着替えてベッドに潜り込むと、すぐに意識が途切れた。

……唐突に訪れた眠りには、目覚めも唐突に訪れた。
肌に触れる空気から、夜もかなり更けているものと知れる。階下から聞こえる物音もなく、静寂が耳に痛いほど。
「……目が、覚めちゃった……」
ベッドから身を起こし、ピアニィがあたりを見回すと―――
壁にもたれ足を伸ばして座り、毛布をかぶって――床に眠っているアルの姿が見える。
一度瞬きをして、それが夢でないことを確認して。ピアニィは慌ててベッドを降り、恋人に駆け寄った。
「―――アルっ!? ど、どうして…?」
「………ん。姫さん、か」
眠っていたはずのアルが、すぐに目を覚まし顔を上げた。寝起きがいいのはやはり、傭兵だった経験からだろうか。
「ゆ、床で寝なくても…っ。アルも疲れてるんだから、ベッド使ってくださいっ」
慌てて大きな声を出すピアニィの唇を、アルの指が抑える。
「夜中なんだから、声抑えろって。――俺はいいんだよ、床で寝るのなんて慣れっこだ。屋根があるだけありがたいんだから――大体、ベッドは一つしかねえし」
「そんな事…っ。あ、あたし端っこで寝ますから……!」
床に座り込み、膝をずいと進めてアルを休ませようとするピアニィに、アルは若干目を逸らしぎみに笑った。
「―――あのな。そんなことしたら、姫さんが余計に疲れる羽目になるぞ」
「…ぇ、ぅっ……で、でも、その……っ」
言葉の意図を悟って真っ赤になるピアニィに、笑顔を向けて――薄紅色の髪を愛おしげに撫でたアルが、囁く。
「俺はホントに大丈夫なんだから、もう寝ろよ。明日も早いんだから」
一瞬だけ迷って―――ピアニィは立ち上がると、ベッドから毛布を引き摺り下ろし始めた。
「………姫さん、何を――」
「アルが床で寝るんなら、あたしも床で寝ますっ。アルを一人で床に寝かせるわけには行きません…っ!」
「ちょ、ちょっと待てって……!」
これにはアルの方が慌てて、ピアニィを抱きしめるようにして止める。腕の中で、涙さえ浮かべた瞳で少女が振り向いた。
「…………あたし、本気ですよ…っ」
「―――………」
大きく深く、溜息をついて。アルは抱きしめた腕を緩めて、肩を落とした。
「…ああ、よーくわかったよ…じゃあ姫さん。ベッドのそっち、できるだけ端に寄って寝転がってみろ」
「あ、はいっ」
素直に従ったピアニィが、シングルベッドの端に横たわる。それに背を向けてアルも横になるが――
「……ホラ、背中が当たるじゃねえか。無理だって、ふたりは」
寝返りを打とうとすれば背中がぶつかり、肩が触れ合って非常に狭苦しい。起き上がって苦笑し、ベッドから離れようとしたアルの手を――ピアニィが引き寄せた。
「――――それでも、だめです。アルもちゃんと……ベッドで寝てください」
「………いや、だから無理だって――」
笑いながら、手を引き戻そうとするアルの前で。ピアニィは――視線を逸らし、頬を染めて俯いた。
その態度にアルが絶句し、小さく息を呑む。
「――――……」
「……………」
沈黙したまま、ピアニィがアルの胸に身を委ねる。触れた肌から伝わる鼓動が、熱い。
「………声。抑えられるか…?」
「―――は、い…」
互いに、吐息だけで囁きながら唇を重ねて。
「…ぅん………ふぁ、ぅ…ん」
甘く、切ない喘ぎが口付けの隙間から溢れ出る。アルの手がピアニィの背中を滑り、薄い寝間着を引き降ろす。
「――――ぁ、んっ…!」
胸元を降りた薄布が胸の蕾を刺激して、ピアニィは思わず声を上げる。
「………声、出すなって言ったろ…」
小さく笑いながら囁いて、アルはピアニィの細い首筋に唇を這わせる。かすかに息を吹きかけただけで、華奢な体が快楽に震えた。
「…やぁ、だっ…て…っ、――っ、や、くび、だめ…っ…」
もちろん、そこがピアニィの一番弱い個所だということは、アルも知りすぎるほどに知っている。口付け、時折軽く歯を当てながら、仰け反る身体をそっとベッドに押し倒した。
「ふぁ……あぁ…っ」
熱く、情欲に蕩ける吐息が少女の可憐な唇から零れた。大きな呼吸に合わせて、露になった形良いふくらみが上下している。
小さく薔薇色に色づいた蕾をいただくそれに、アルは静かに両手を添わせる。まるで上質の絹のようにしっとりとした手触りの双球が、あわせて誂えたようにアルの手に収まった。
「―――っ、…ん、ふ、くぅ…っ――」
両の指と掌で柔らかく刺激すると、声を抑えるために唇を噛み締めたピアニィのたおやかな腰が大きく跳ねる。膝丈の薄い寝間着は大きく捲れあがり、細い膝がアルを迎え入れるように開いた。
「――――アル…っ、ぁあ、や、もぉ…っ…」
アルの首元に両手でしがみつき、切ない声でピアニィが囁く。上は胸の下までずらされ、下は腰まで捲れたあられもない寝間着姿で――懇願する翡翠の瞳に、アルは小さく微笑みを返した。
「………声、しっかり抑えてな。もっとよくしてやるから――」
囁いて、触れる前から既にしとどに濡れた下着を引き降ろす。透明な蜜の溢れるそこに指を這わせると、背中に回ったピアニィの手が爪を立てた。
「……………っ………ぁ、――っ、ぁっ…………」
小さな唇を噛み締め、歯を食いしばりながら、ピアニィは必死で声を抑える。眉を寄せきつく瞼を閉じたその表情に、アルの背中にぞくりと戦慄が走った。
「―――可愛いな。声抑えてるときの顔――」
その顔がもっと見たくて。秘唇に這わせた指を増やし、胸の尖りを摘んで、首筋に強くキスを落とす。細くたおやかな肢体が、アルの腕の中で大きく震えた。
「………んっ、―――あぁっ、や……っ、―――あ、るぅっ…!」
抑えた声が溢れ出し、ピアニィがこの夜最初の、激しい絶頂を迎えて果てる。力なく横たわるピアニィの膝を開かせて身を入れながら、アルはその耳元に小さく囁いた。
「…まだ、終わりじゃない――もう少し頑張って、声抑えろよ」
言葉と共に、熱く張り詰めた自身をピアニィの濡れきった秘唇に挿入した。溢れる蜜が濡れた音を立て、待ち望むようにアルを受け容れる。
「あ、あぁん…っ、アルっ、や、ふぁ、………っ……!」
歓喜の涙をこぼしながら、ピアニィは必死に唇を引き結び声を抑える。細い指がアルの背中をかきむしり、幾筋もの跡をつけた。
強い律動と柔らかな胸への愛撫でピアニィを追い詰めながら、アルは優しいキスを繰り返す。額に、瞼に、頬に――そして。
硬く強張った小さな唇を舌先でなぞって開かせ、舌を絡める。くびきを解かれたピアニィの甘やかな悲鳴が、キスを通してアルの中へ消えていった。
「―――――――――っ、………ぅっ、んん…………っ! ―――――ぁ、………!」
重なる唇の隙間、絡めあう舌の間から、切なくも悦びに震える声が溢れる。全身でピアニィを味わい尽くしながら、アルは一際強く華奢な体を突き上げた。
「――――! ………、……っ! ………ぅ、――――――――……っ、ぁあ、アル……っ……!」
既に昇り詰めていたピアニィの声なき悲鳴がアルの内に響き――大きく仰け反った瞬間に唇が離れ、掠れた声がアルの名を呼ぶ。
同時に強く、アルを抱きしめるピアニィの胎内に向けて――白く熱く滾る熱を、解き放つ。折れそうに細い肢体がアルの腕の中で、強く震えて――そのままくったりと力を失った。


一応個室という事で、簡素ながら浴室が備え付けられている。
そこで自分とピアニィの身体を清め、アルはすっかり眠りに落ちているピアニィに寝間着を着せてベッドに横たえ――小さく苦笑した。
「……結局のところ、俺が床で寝るんだけどな」
シングルのベッドはピアニィが眠るだけで手一杯で、並んで寝るには寝床が狭いという問題は一切解決していない。
ピッタリと密着でもしていればなんとかなるかもしれないが、寝返りを打てばベッドから落ちかねないし――それではアルの方が眠れない。
明日の出発には影響ない程度に手加減はした――少なくとも、アル自身はそのつもりでいる。あとは、起きてきたピアニィに、小さな優しい嘘をつくしかない。
「一緒がいいって、言ってくれるのは嬉しいんだけどな。今日はこれで勘弁してくれよ」
薄紅色の髪を撫で、額に優しく口付けて。ピアニィにきっちり毛布をかけなおしてから、アルも毛布を手にとり最初にそうしたように床に横になった。

翌朝。日課の鍛錬から戻ったアルを、眠そうに目を擦ったピアニィが迎えた。
「………アル…、ちゃんとベッドで寝ましたか?」
眠たげな瞳で、咎めるような声音の恋人の髪をふわりと撫で、アルは小さく微笑んだ。
「ああ、ぐっすりな。姫さんが俺が抜け出したの気付かなかっただけだろ」
「……む〜」
何となく納得がいかない様子のピアニィにさっと口付けて、反論を封じる。
「……まだ言ってなかったよな。おはよう、ピアニィ」
「―――お、おはようございます………」
アルの不意討ちに、ピアニィが真っ赤になって俯く。くすくすと笑いながら愛しい少女を抱きしめて、アルは入ってきた扉に再び手をかけた。
「もう少し散歩してくるから、その間に――」
「は、はい、着替えておきますっ。…………あの、えっと…アル?」
「―――どうした?」
困ったような上目遣いに問い返すと――ピアニィはもじもじと指を動かしながら、視線を逸らして小さく囁いた。
「――――あの、昨夜の、その………お、お隣に、聞こえてない……ですよね……?」
「…………………あー……」
同じく目を逸らし、気まずい声でうめいて。アルはこの朝ふたつ目の小さな嘘を口にした。
「――――まあ、大丈夫だろ。聞こえてたとしても、何にもなかったように堂々としてりゃいい」
「あ………はい…」
「というかな、今更だろ。だったらなんで昨夜―――」
直截的な言葉を口に出しかねてアルが目を逸らすと、真っ赤な顔をうつむけて―――ピアニィが小さく囁いた。
「―――だって…アルの隣で、眠りたかったんだもの」
「――――――――――――っ………」
瞬時に、アルの頭に血が昇る。笑ってしまいそうな口元を抑えて、不機嫌な声を作った。
「………だから。そういうのもナシだぞ。…下行って来る」
「あ、はいっ。じゃあ、あとで――」
ピアニィの返事を部屋の中に置き去りにして、閉めた扉にもたれて――アルは大きな溜息をつく。
「……………ったく。そういう事は夜のうちに言っとけって…」


ベルクシーレへの道は―――遠い。




というわけで、壁のこっち側のお話(笑)
こちらのタイトルは、『アルさんのみんなに言えない裏事情』(命名・さや様)です。
…声抑えてるときの顔が好きって、あんたほんまにマニアックやな。

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