※第6話エンディングフェイズより、直結してお読みいただけます【捏造】※

それぞれの仲間にひと時の別れを告げて、再び八人が一堂に会する。互いに刻んだ傷は既に、それぞれの方法で癒していた。
わずかな緊張感の中――ピアニィは真っ先に進み出て、カテナとゼパに頭を下げた。
「じゃあ、カテナさん――それにおじいちゃん。ナヴァールとステラ姉様のこと、よろしくお願いします」
「ふむう。女王陛下に頼みごとをされるのは、はじめてじゃぞい」
照れくさいのか、つるりと頭を撫でたゼパの横で、カテナがシニカルに笑う。
「―――頼まれるのは構わんが…私としては、別れる前にあの犬娘に首輪をつけてもらいたいな。また走って逃げられたらかなわん」
「そそそそそんなことはしないでやーんす!! …たぶん」
「たぶんかよっ!」
「たぶんなんだっ!?」
慌てふためくベネットに、アルとアンソンが同時に突っ込みを入れる。
「―――失礼、ナーシア・アガルタ殿」
遠巻きに騒ぎを見守っていたナーシアの背後から、穏やかな声が名を呼んだ。
「………私に、何か?」
警戒心を露にしながら、ナーシアは声の主――ナヴァールに振り返る。
「何、私からも陛下をお願いいたそうと思いまして――それに、そちらの騎士殿には大いに世話になるでしょうからな。前もって礼を申します」
「―――――本当に、それだけ?」
闇紫の瞳をすっと細めて、ナーシアが質問を重ねる。同時に、ナヴァールの口元からは笑みが消え、閉じた瞼が薄く開いた。
「……この先、そなたの道行には多くの選択が待ち受けるでしょう。それに関して助言を差し上げようかと思ったのですが――」
「要らない。自分で、何とかする。―――私の事なんだから」
黄金色の竜眼に気圧されながらも、ナーシアはきっぱりと首を横に振る。その言葉に、ナヴァールは薄く笑んで竜眼の光を消した。
「ならば、そのように。ただ、迷った時には我が陛下にも聞いて見られるといい。あの方は、正に天啓のごとき閃きをお持ちですからな」
「―――………考えておく」
そう言って、ナーシアは小さく肩をすくめた。―――それを離れた位置で見たアルが、首をひねる。
「……ナーシアの奴、旦那となんの話してるんだ?」
「さあね。昔の女の事など、気にしている暇があるのか? 両手に花の色男君は」
カテナの露骨な茶化しに、アルの眉間に縦じわが寄る。その背後に――
「……………アル? そんなに気になるんですか?」
「って、だから姫さんはその笑顔はやめろって!? ……不安がるなって、言ったじゃねえかよ…」
綺麗な笑顔を浮かべて立つピアニィに、剣士は慌てて向き直る。一段トーンを落として囁かれた言葉に、ピアニィは可愛らしく拗ねる表情になった。
「―――わかってます、けど……あたしだって、言ったじゃないですか…」
「あー、まあ、な…だけど、それはっ…」
「――――な、なんだろう、あの入っていきにくい空気は」
突然ふたりの世界に入ったアルとピアニィに、アンソンが呆然と呟く。
「大体予想できたこと。――資料、渡したでしょう」
アンソンの背後に立ったナーシアが、呆れ顔で呟く。ノルウィッチ周辺で彼女とカテナが探った情報は、『ピアニィ女王と第一の騎士の婚約に関する噂』も突き止めていた。
「いやその、見たけど――それにしたってアレは……」
ただの噂じゃないの、と続けかけたアンソンの前に、ベネットがひょいと現れ指をちちち、と振った。
「いやいやいや、コレは忠告でやんすが……あの空気には慣れてしまうと、ラクでやんすよ?」
「慣れるの前提なんだ……」
途端にげんなりした顔になる聖騎士の背後で、ナヴァールとカテナ、ゼパがそれぞれ異なる笑みを浮かべる。
「左様。耐えてしまうと、あとから反動が来て辛いですからな」
「やれやれ、ご苦労なことだ。アテられないように気をつけろよ、アンソン」
「ま、愛じゃからのう」
「―――…………」
無言でがっくりと肩を落とすアンソンの背中越しに、ナヴァールは主君に声をかける。
「……では、陛下。そろそろみなの支度が整ったようですので――」
「あ、はいっ。今行きます」
慌てて顔を上げたピアニィが、アルを従えて合流する。――八人は自然と、東へ行くものと西へ行くものに分かれて向かい合った。

「―――じゃあ、次に会う時はエストネル、だな」
アルは琥珀の瞳に強い意志を宿して、笑う。
「……ナヴァール、ベネットちゃん。ステラ姉様のこと、よろしくお願いしますね―――気をつけて」
ピアニィは微笑みに、深い信頼と気遣いを乗せて頷いた。
「お任せください、陛下。必ずや、吉報をお持ちいたしましょう」
胸に手を当て、ナヴァールは長身を軽く折り曲げる。
「新生ジェネラル・ベネットの英雄たるゆえん、とくと御覧あれ、でやんす♪」
ベネットは腰に手を当て、新調した防具を見せつけるように胸を張った。

「………ファントムレイダースは一時、分割行動をとります。できるだけ早く合流すること」
事務的な言葉と裏腹に、ナーシアの表情にはかすかな不安がよぎる。
「―――大丈夫だよナーシア、あっちにはゼパが居るし、こっちには僕がいるんだからさ」
黒い鎧の胸元を叩き、アンソンは気楽な調子で笑った。
「隊長も、アンソンさんも。体には気をつけるのじゃぞ」
深々と。好々爺という言葉が似合う笑顔で、ゼパが頷く。
「アンソン、足を引っ張るなよ? ゴーダ伯には伝えておいてくれ。目標を見つけた、とな」
いつもどおりの、シニカルな微笑に軽く嫌味を乗せて、カテナは手を振った。


東は、グラスウェルズ王都ベルクシーレへ。
西は、レイウォール王都ノルドグラムへ。
奇縁の下に出会った八人は、新たな仲間を得て新たな道を進む。



―――――また、いつか。
再会のその日を、胸に誓って。




〜後記〜
第6話エンディングフェイズをアルピィ分大目に捏造(笑)
著作権その他への配慮で、当初のものから大幅な改稿・削除が行われておりますことをご了承ください。
アンソン君はケセドの杖は借りてないので、そこだけは直しました(笑)

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