1. 女王陛下はお悩みになる


「ふう・・・・・(溜息)」
「陛下、どうかなされましたか?」

ここは、バーランド宮殿、女王陛下の執務室。
出来立て国家の成り立て女王陛下の仕事場で、その部屋の主の可憐な溜息を聞いて疑問の声を上げたのは、休憩時間にお茶を運んできた、旧知のメイドだった。
「ふえ?!、あ、あの・・・・」
「何処か、お体の調子でも?」
なんせ、この出来立て零細国家の若き女王陛下の日々の執務量は、大真面目に半端無い量である。
つい最近まで大陸きっての大国の《超過保護・鍵付箱入り・温室育ち・勉強中・役職無し》だった元王女殿下がこなすには、いくら超有能な家臣が助けてるとは言え、いつ体を壊しても不思議ではない。
というか、その助けるべき有能な家臣の頭数さえ足りてない、むしろ、有能な家臣絶賛募集中な現状である。
しかも、激務テンコ盛りの上に、女王その人でさえ日々の食事にさえ満足な量もメニューも無く、自ら自身の食事の材料調達の為に農作業に従事せねばならない極めつけの貧乏ぶりが、更に華奢で儚げな元王女の不憫さに拍車をかけたりしているのだ。
そのメイドが元の主人に置手紙一つ残して国を出奔しお仕えするようになるまで、息抜きのお茶すら白湯だったと聞いた上に、短期間で元々細い体の更にやつれた風情と儚げ感の増した姿を目にした時には、その高貴な生まれと育ちにあるまじき生活レベルのあまりの低さに不憫過ぎて涙を拭い、どうして国を出る前に諸悪の根源の《陰険腹黒兄王子》に下剤の一つも盛ってこなかったのかと、激怒と後悔に臍を噛んだのはメイド的には記憶に新しい出来事である。
(ちなみに、自腹でお茶やお菓子を作成しているこのメイドが出張にでると、やっぱりお茶が白湯になる。それほど貧乏なのだ、この国は)
「いえ、別に体がどうとかではないんです・・・・・えっと、ちょっと眠いのは確かですけど・・・・」
「なら・・・・」
「いえ、大丈夫です☆。まだまだ行けます!。このお茶、あいかわらず良く効きますから♪」
「それはありがとうございます。こちらに来た甲斐がありましたわ。では、こちらもどうぞ」
差し出されたハーブティのティーカップを、身分に相応しい優雅な仕草で口にして正しく花のように微笑む女王陛下に、その作成者のメイドは満足そうに持ってきたお茶菓子を進める。
「ありがとうございます。これ食べたらまた頑張ります!」
「いえいえ、どうぞごゆるりと・・・・・で、お体で無いなら、他に何かお気にかかることでも?」
本来、出来るメイドであれば仕えるべき主人の心情を正面から問いただすなどあんまり褒められたことではないが、なんせこの女王陛下の溜息の原因になりそうなことなど、現時点では日々履いて捨てるほど沸いてきているのだ。詳細を確認さえせずに察しろというのは、いかな有能を自負するメイドでも不可能極まりないので、その辺はわりきって率直に訪ねることにした。
「いえ、その・・・・・本当に個人的なことなので・・・・・」
「まあ。個人的なことなら尚更ですわ。国の大事となれば、私ごときが口を挟めることではございませんが、日々のお身の回りのことなら、陛下の御身のご不自由がないように万事取り計らうのが私の勤めでございます(キッパリ)」
というか、陛下お大事で此処にやってきた身としては、国の大事より陛下の御心大事でなんですわ!。
と、メイドの鏡というか、イマイチ間違っているというか・・・・・、なコメントを大声で大真面目に宣言するメイドに、ちょっと面食らう可憐な女王陛下であった。
「えーっと、本当に・・・・その・・・・言ってみても大丈夫ですか?」
「勿論です。というか、聞くまで下がりません!!」
「笑ったり、呆れたりしませんか?」
「陛下のお悩みを笑い飛ばしたり、呆れたりしたモノがいたら、私がその場で滅殺いたします!!」
思わず、服の下に常時携帯している武器(レーザーガン)に手をかける危険なメイドである。
「(ビックリ)・・・・・いえ、まだ誰にも言ってないので・・・・・」
「なら、どうぞおっしゃって下さいませ。いかなることであろうとも、私の全力を持って陛下のお役に立たせていただきます!!」
拳を握り締めて暑苦しい宣言をするメイド。これで、実は『部屋にゴキブリが・・・』とか言われたら、どうするつもりなのだろうか?
「あの・・・・・その・・・・じつは、アルのことで・・・・・(モジモジ)」
「??・・・・・女王騎士様、いえ、アル様のことですか?」
あの女王陛下の側近中の側近の癖に、城に不在が多い(というか、殆ど不在)という、ちょっとありえない王国第一にして筆頭騎士様が、陛下に何かなさいましたのでしょうか?
いえ、メイド的にはむしろ「何かしにとっととと城に帰ってこい!!」というか、「基本業務が警護役なら、四六時中陛下のお傍にくっ付いてろよ、コラァ!」なんですが・・・・・。
と内心の呟きはあくまで出さずに、視線で陛下に先を促すメイド。
「その・・・・・元々あたしが無理言って騎士になってもらったのに、・・・・あの・・・・・この間もまた無理を御願いしてしまって・・・・・・」
「ああ、この間の・・・・・(薄笑)」
ちなみに、女王陛下の気に病んでいる『女王騎士様へのこの間の無理な御願い』に関して、もう一人の上司(軍師様)の依頼で《重要だった例のモノ》の調達や追加分の量産、ついでに、身分証の偽造や任務に必要な武装前提のオリジナル修道女衣装の作成(あの下着ギリギリな際どいスリットや短剣装備用のガーダーベルトなど)、女王陛下のご希望の《アルティアさんの着せ替えショー》用の諸々衣装・アクセの作成まで、委細手配して回ったのは、実は有能な(副業化甚だしいが)密偵でもあるこのメイドであった。
なんせ、お茶代にも事欠くこの国に無駄な予算などある筈もなく、メイドの特技の《錬金術》と自慢の器用を駆使した手芸の技で現在在る物を有効活用するしかなったのだ。―――余談だが、調達衣装一部はやっぱりメイドの自腹である。
(もしこれらの事実を女王騎士様が知ったら、件の某助っ人密偵少女並に恨みを買うのは間違いない)
というわけで、任務内容と結果については、女王陛下本人よりも詳しく知っていたりするのである。
「あの時は・・・・ナヴァールと二人がかりで御願いして、無理矢理《あの格好》で任務に行って貰ったんですけど・・・・、アル、あんなに嫌がっていたのに・・・・・」
でも、女の子のアルがあんまり可愛かったんで、あたし喜んじゃって・・・・・と、言葉を紡ぐごとに語尾と体が小さくなる、女王陛下。
「仕方がありませんわ、可愛かったのは本当ですし・・・・・。陛下の反応は、女性として普通です。逆に、普通あの格好を(見るのはともかく)するのを喜ぶ男性はおりませんですわねえ・・・・」
というか、喜んであんな格好をする野郎なんぞ論外である。もし女王騎士様が嬉々としてやったなら、イロイロと考え直さなければいけないだろう、メイドも軍師様も・・・・・。
「本当は私が行くべきだったのに、私の経験とかスキルが足りないばっかりに、アルに無理をさせちゃって・・・・・それなのに、あの後も何回もあそこに後始末にまで行ってもらうハメに・・・・」
「それは・・・・あの場所の後始末に関しては、別に陛下の所為では・・・・(汗)」
端的に言って、某助っ人密偵少女の余計なチョッカイの所為である。遡れば、その助っ人密偵の派遣を根回しした、腹黒軍師様の所為であるとも言えなくない。
「アル、あれからあんまりあたしと顔を会わせようとしてくれないんです。・・・・あたし、役立たずな上に我侭な女王だって、愛想尽かされちゃったんでしょうか?(ウルウル)」
「愛想を尽かすだなんて、・・・・・・そ、そんなことは、絶対にありえません!!(焦)」
それこそ、あの(本人無自覚だけど)女王陛下に心の底から《とッ捕まっている》のがイロイロ駄々漏れモロバレな女王騎士様に限って、たとえ天地がひっくり返ろうが、某幼年趣味の眼鏡騎士団長が老婆を口説こうが、あまつさえ某狼娘が防具を着ようとも、それだけはありえるわけがない!と断言できるメイドである。
まあ、多少怯んだり、呆れて腰が引けたりはあるかもしれないが・・・・甲斐性無だから(苦笑)。
ちなみに、メイド的には女王騎士様の最近の女王陛下への挙動不審は、件の《量産型・劣化高殺意プリンセスモドキ武装シスター軍団》への拒絶反応なんじゃないかなあと推測していたりする(笑)。
「でも、本当に辛そうなんですよぉ。城を出て行く度に本当に死にそうなくらい青褪めて泣きそうな顔で嫌そうに出かけていくし、帰ってくる時は毎回毎回ゲッソリ窶れ果てて、そのまま自分の部屋に閉じこもっちゃうし・・・・」
「まあ、それはアル様にとっては、・・・・・至極当然のことですわねえ・・・・・・(トオイメ)」
普通の神経を持った男なら、アレはとてつもなく精神的に消耗するだろう。ヘタをすれば重度のノイローゼになってもオカシク無い。というか、アレやコレやを平然と受止められる神経だった方が問題があるのではないだろうか?
おまけに、今回の女王騎士様の例の場所の後始末においては、ロクデモ無さをより泥沼化させるというか、さらにドツボに嵌まらせるというか、底無し沼に突き落とすようなことまで起こっているんです、とはあんまりにも女王騎士様が不憫なので、女王陛下に詳細を報告できないメイドだった。

―――― 例えば、二度目の戦術指南訪問時には院長室の『伝説の最高プリンセス・ティナ王女殿下の肖像画』の隣に、既に『当院第二の救世主にして新たな伝説の騎士・アルティア様の肖像画』が飾られていたとか。しかも、院長その他幹部連がその二人の肖像画の前に跪いて、何故か滂沱の感動の涙を流していたのに遭遇したとか。また、肖像画の前で揃って、称えるように『聖句』とアルの教授した『戦術論』を滔々と朗読するシスター達の集団の一種異様な熱気溢れる姿を目撃したとか。
さらに、三度目に訪問した時には、『アルティアお姉様にお仕えし隊』なんぞというファンクラブが結成されており(ちなみに、修道院の過半数以上が参加してるそうである)、戦術講義と実践訓練時間以外の修道院滞在時間中を、特に熱心なファンだというシスター達(しかも髪型が女王陛下と同じ)にひたすら懐かれ、追いかけ回され、何故だか存在したブロマイドにサインを求められた挙句、《お守り》に下さいなどと言われ、髪の毛やら、ガーダーベルトやら、ベールだの服の布の切れ端やらを毟られまくったとか ――――
(筆者注:いくらなんでも偽名が「アル子」は何なので、当方にて偽名を捏造設定。旧アヴェルシア→新生フェリタニア王国女王であるティナ元王女殿下ご息女ピアニィ・ルティナベール陛下直属騎士「アルティア・ベルイーズ」様となっております)

ある意味《加減を忘れた女性の容赦の無さと恐ろしさ》を悲惨な幼年期から思い知りまくって《耐性》があった女王騎士様でなければ、《女性恐怖症》もしくは《女性アレルギー》が発病すること請け合いの状況だったそうなのである。
あの惨状だったら、女王騎士様が、己が多少後ろ暗い思いをしようとも陛下(というか、陛下の髪型をした女性)を避けたくなるのも、わかる気がする――――だからといって、それで陛下を落ち込ませるのが許せるのかといえば、それは別問題であるが・・・・・

それにしても、女王騎士様の《何処へ行ってもシンパを量産》してしまう《萌属性人コマシスキル所持》というのも、この場合は良し悪しですわねえと、思わず憐憫というか同情してしまうメイドであった。騎士様の方は、同情されても嬉しくもなんともないだろうが・・・・なんせ、自分の《萌属性人コマシスキル》に自覚皆無なので。

――余談だが、かの軍師様がチョロっと洩らした「あの女王陛下の《カリスマ天然人タラシ》と、うちの筆頭騎士殿の《万能型萌属性人コマシ》を掛け合わせたら、大層有望な《天然カリスマ萌属性人タラシコマシ》な跡継ぎが出来ると思わないかね?(ニヤリ)」という台詞は、(メイド的には果てし無く同意だが)陛下と女王騎士様には絶対に聞かせられない台詞として、心の中に秘匿されていたりする。

「で、陛下としては、・・・・・アル様を労いたいのに、避けられているようなので、どうしていいかわからない・・・・と?」
「・・・・・・はい(コクリ)」
ここまで聞けば、メイド的には己の仕える主人の望みなど丸解りである。というか「アルのこと・・・・」が出た時点で実は予想がついていたんですが・・・・。
「・・・・その、ただ『ありがとう』とか『御苦労様』とかじゃ、とっても足りない気がするんです。でも、・・・・・じゃあ、どうしたらいいかって考えると・・・・・」
「思いつかないんですね」
避けられてる感じがする以上、迂闊なことをしてより状況を悪化させる・・・・・ぶっちゃけ、好ましく思っている殿方にこれ以上愛想尽かされたり嫌われたくないと、可憐にして高貴なる女王陛下が普通の少女のように怯えておられる・・・・・なんと麗しくも初々しい乙女心なのでしょう・・・・・と、顔には出さずにウットリする、ちょっと危ういメイド。
「そうなんです。で、何か物を贈ろうにも・・・・・」
「アル様に何を贈ったら喜んで貰えるか解らないと・・・・」
「あたし、アルみたいな男の人にどんな物が喜んでもらえるかなんて、全然知らなくて・・・・」
当たり前である。
普通、どんな有能な教育係であろうとも、箱入りの王女殿下に、流れ者の傭兵稼業の若い男性に何を贈ったら喜ばれるか―――なんぞはまず教えない。傍仕えのメイドだって、流石にそんな路線の話題を姫様の前ではおしゃべりはしないだろう。少なくとも、自分の同僚が姫様方の前でそんな話題を振ろうものなら問答無用でド突いていていたハズだ、前の勤め先(レイウォール王宮)では。
・・・・・・実は、メイドだってイマイチ解らなかったりするんだが、あんな剣術と戦闘一辺倒な朴念仁が何を貰ったら喜びそうなのか?なんて。
が、ここで「申し訳ありません、私もわかりません」とぶっちゃけるのは、有能にして陛下お大事を自負するメイドとしては、己のプライドにかけて出来ない相談だったりする。
というわけで、陛下の不安を解消し望みを叶えるべく、さっさと話を進めるメイドである。
「なら、とりあえず男性に一般的に喜ばれそうなものを片っ端から贈ってみるというのは・・・・・」
下手な鉄砲数撃ちゃ当ると言いますし・・・・・って、駄目ですわね。
「はい、その手はあたしも考えたんですけど・・・・」
「そうですわね・・・・・今のこの国というか、陛下には・・・・」
「致命的に・・・・予算もモノもないんです・・・・・(涙目)」
なんせ、女王陛下自ら農作業に従事しないと明日の御飯もままならない国である(笑)
そもそも、女王になる前の段階。レイフォールを出てきた(というか追われた)時点で、着の身着のままの手持ちは武器と装備だけという極貧状態だったのだ、ピアニィ陛下は。
ちなみに、現在でも(仮にも)女王陛下が《着たきり雀》な状態である。当たり前だが、御飯代に困っているような女王に、自分の衣装を新調する余裕は無い。
「・・・・バーランドに来るまでに稼いだお金もあったんですけど・・・・」
「この間、全額突っ込んでお買い物をなさいましたね、軍師様に下賜なさった【ケセドの杖】を」
しかも言いだしっぺは、かの女王騎士様だったという皮肉さだったり。
で、予算無しでもなんとかしようと何か自作を考えても、仕事に追われまくって制作時間もない女王陛下だった。(ゲームをする時間はカウント外ということで)
「では、お手軽に何か手料理でもいかがですか?」
割と乙女の恋愛攻略方法(何処の乙女ゲー?!)としては、王道です。なんでしたら、私がアル様の好物などを内偵してきますわ!
と、意気込むメイドの言葉に、何故か体をさらに縮める女王陛下。
「・・・・でも・・・・・あたしが得意なのって、サバイバル食とか保存食料理で・・・・・オマケに・・・・」
「・・・・・はい?」
「アルの方が、料理がすっごく上手なんですよおぉ(涙目)。ノルドグラムからの逃避行の間中、野営のご飯は全部アルが作ってたんです!!。ちなみに、材料調達の方があたしとベネットちゃんだったんですよぉ、ふえぇ〜(泣)」
「あぁぁぁぁ、姫様、もとい、陛下。どうかお嘆きにならないで下さいまし!!(アセアセ)」
そういえば、相手は経験値10年以上な家事万能スキル所持の上に、このバーランド宮殿内でもBEST3に入る器用度の持ち主でした。(ちなみに、職種柄BEST1と2を某狼娘とこのメイドが争っており、それに女王騎士様と有能超速黒執事様、他一部メイド連が続くような形になっている)
そりゃ、《愛の手料理》で攻略するには、どうしようもなく難易度が高すぎる相手である(だから、乙女ゲーじゃないってば)。多分、レパートリーも手際も器用さも、この女王陛下じゃ比較にならないのは間違いない。
というか、普通は超箱入りの姫君は料理(というか、家事全般)なんかできなくて至極当り前のハズである。むしろ、保存食作成だけでも出来るだけ、うちの姫様もとい女王陛下がスゴイんだ!と、己を奮い立たせるメイドだった。・・・・・・メイドが奮い立っても仕方が無いんだが・・・・(苦笑)
「大丈夫ですよ、陛下。材料調達できるなら、役立たずだなんて絶対に思われてませんから」
「ふえっ(エグエグ)・・・・・そうでしょうか?」
「はい!(キッパリ)。きっと感心されてましたに違いありませんわ。」
というか、きっと驚いてたろうなあと思う。どう考えたって、大陸きっての大国の箱入り王女殿下の取得スキルじゃないから、サバイバル技能は・・・・・。
「確かに、えーっと感心というより・・・・とっても驚かれましたけど・・・・・ついでに、教そわったお母様には会いたくないといわれました」
ああ・・・・・やっぱり(溜息)。
しかもティナ前レイウォール王妃殿下といえば、今回の女王騎士様の受難の根本的原因だったりする以上、其処に触れるようなネタは極力避けるが無難であろう。
ということで、手料理攻略法はボツ決定!
「で、・・・・ほんとうに・・・・・・あたしはアルに何をしてあげたらいいんでしょうか?(ジワリ)」
ちょっと涙目になってしまった女王陛下には、結局《振り出しに戻る》になってしまった。
この可憐で高殺意な女王陛下を涙目に追い込むとは、実は手強い女王騎士様である。
が、手強い相手ほど燃えるのが、また女の性(サガ)である。ここは一発・・・・・
「そうですわねえ・・・・・とりあえず、頭で考えても駄目なら、ここは【体】を使ってアタックあるのみですわね」
「か、【体】ですか?・・・・・・あたし、魔法や戦術の知力関係なら得意ですけど、肉弾戦は苦手ですよ。自慢できるのは、【素早さ】くらいで・・・・」
「誰もアル様に直接肉弾戦を挑んで下さいとは申しません。アタックの意味が違います。大体、あのアル様相手に、そのような包丁装備だろうが素手だろうが、陛下では絶対に掠りもしないような無駄で無謀な提案はいたしませんとも」
相手は【見切り技】(ディフェンスライン)で、達成値40だの50だのをホイホイ叩き出すのだ。いくら高レベルとはいえ、か弱い魔導士が凄腕剣士相手に武器攻撃など、無駄無茶無謀もこれ極まれりである。
というか、仮にも労わりたいと願っている相手に、当らないとはいえ肉弾戦を挑んで一体どうするつもりなんですか、陛下?!!
「じゃあ・・・・、その・・・・【体】を使うって、どうするんですか?」
「勿論、アル様を癒すのに使うんです。【女の子の体】というのは、それはもうイロイロな使い道がございますから」
「・・・・?。えっと・・・・、アルに癒しになるんでしょうか、あたしの【体】なんかが?」
「なりますとも!(キッパリ)。」
たいていの男なら、バッチリです!・・・・・使い方を間違えなければですが・・・・・(苦笑)
実は一番手っ取り早いのは、定番の【体に包装最低限な勝負下着装備でリボンを飾り「あたしを好きにして下さい」と贈呈】なんだろうが、あの《極めつけの朴念仁》な上に自分の気持ちに自覚症状皆無な女王騎士様にイキナリそんな必殺技を繰り出そうものなら、折角チマチマと積み上げたフラグすらクラッシュさせた挙句、即刻尻に帆かけて疾風の速度で国外逃亡を謀るに決まってる。
いくら初撃にリソース突っ込むのが基本とは言え、このタイミングでそんな結果のわかりきった下策中の下策をとるのは非常に拙い。
ついでにいうと、《女王陛下の貞操》という切り札中の切り札を、こんな序盤で安易に安売りするのは、戦術的に大変宜しくない。切り札とは、相手を徹底的に追い詰めて逃げ場を無くしてから、回避不能の効果的な局面で叩き付けなければ意味は無いのだ。
というわけで、ここで利用するならもっと一般的な【小技】の方がいいだろう。むしろ、意表をついた【小技】の連続攻撃とかの方があの朴念仁には有効かもしれない。
「でもぉ・・・・・やっぱり、【体】っていうのは自信ないです。あたし、あんまり器用じゃないですし・・・・」
「大丈夫です。別に器用さなんて必要ありませんから」
どっちかっていうと、この場合へたな器用さなんぞむしろ邪魔である。
どこぞの魔性密偵少女と違って、うちの陛下の売りは純情可憐清純派ですからね!
「本当に、むずかしく考えることなんてないんですよ、陛下」
「ふえっ?」
それでもイマイチ納得がいかない風な可憐な女王にむかって、メイドはウィンク一発☆
「行き詰った時は発想を逆転させるんです」
「ぎゃく・・・・てん・・・・ですか?」
「はい(ニッコリ)。つまり、何をしたらいいか?ではなく、こういう時なら自分が何をしてもらったら嬉しいかを考えるんです」
軍師様曰く「根っこは似た者同士」な二人なら、正解一直線になること請け合いだ。
「で、正直にお答えくださいね。陛下は、ご自分が疲れている時にアル様にどうしてもらったら嬉しいですか?」
「えうっ?!。あ、あたしですか?」
たいしたことを聞いているわけでもないのに、イキナリ真っ赤になって俯いてしまう女王陛下。
そうして、俯いたまま・・・・・・・・
「・・・・あ、あの・・・・そ、・・・・そ」
「はい?、そ?」

「そ、・・・・・・傍にいてくれるだけで、嬉しいです」

「・・・・・・・・」

「あ、変ですか?・・・・・駄目ですか?」
「・・・・いえ、あまりの無欲っぷりに意表をつかれただけですわ」
というか、純情と乙女っぷりもここまでくれば立派である。箱入り経験値皆無は、これはこれで至極有効な武器かもしれない、あの朴念仁相手なら。
とはいえ、これだとちょっとパンチ力にかけるので―――
「陛下、確認の質問ですから、こう、もうちょっと欲張っても大丈夫ですよ。してもらう場合、傍にいるのが当たり前ですから、もっと何か具体的にして欲しいことを・・・・言うだけならタダですから・・・・」
欲張るというか、欲望に忠実になってというか・・・・・無理かしら・・・・?
「えっ?!、もっとですか・・・・・・えっと、じゃあ・・・・・その・・・・」

「・・・・笑って欲しい・・・・とか?」

「・・・・・・・・」
「あの・・・・・その・・・・、アルと知り合ってからあんまり笑ってる顔って見たことなくて・・・・・・、その爆笑とかじゃなく、こう、普通に笑って欲しいんです。最近、特に不機嫌そうな顔ばっかりだし・・・・。それで、あの、前に見た笑顔が・・・・その、す、素敵だったんで・・・・・あうううっ(ポッ)」
そりゃまあ、フェリタニア建国騒動の時から女王騎士様の表情には、仏頂面か眉間に皺寄せが標準装備になってますが・・・・・・・・特に最近の某所通いの所為で皺がさらに深くなっていたりして・・・・・
だからといって、欲張ってそれなんですか、陛下?!
もうもう・・・・そんな真っ赤になって、可愛いじゃないですか!!!!!
くうううううう、あの朴念仁の果報者め!!。今すぐ帰って来い!。そして、全力で笑え!!
・・・・・って、無理なのはわかってるんですが。行ってる場所が某所な以上、きっとまた消耗して帰ってくるだんだろうし。
って、陛下。それじゃ、あの《フラグスルー》なスキル装備のアル様相手じゃ、まだまだインパクトが足りません。
「あの・・・・・陛下、それだけですか?。この機会に、他にもどんどん言っていただいてかまいませんよ」
「えっ?。まだ良いんですか?・・・・えっと、うーんと・・・・」
真っ赤な顔のまま額に指をあてて考え込んでしまう、純情可憐な女王陛下。
やっぱり、自分の気持ちに自覚がないとイマイチ積極性に欠ける欲望しか出てこないらしい。
と、15秒ほど唸ってから、真っ赤なままの顔を上げた陛下がおずおずと口を開く
「じゃ、ちょっと図に乗っちゃって・・・・」
どんどん乗っちゃっていいんですよ、はい。
「・・・・・・・・あの、その・・・・あ、あ、あ、・・・・」
「・・・・あ?」
あ・・・・・・・・?、まさか「愛してる」って言って欲しいとか・・・・は、無いですわね。
癒すとは関係ないですねものね・・・・って、それ以前の問題か・・・・自覚ないんだし。

「あの、あ・・・・・頭を撫で撫でしてくれたら、嬉しい・・・・です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・えーっと」
「だ、駄目ですか?(ジワリ)」
「いいえ、とんでもございません!!(汗)」
あんまりにも可愛らし過ぎる欲望に二の句が次げなかっただけです。
ホントにもう、ほのぼの過ぎて涙が出そうです、陛下。
ああもう、果報者過ぎるわ女王騎士、アル・イーズデイル!!、あんた、光の速さでとっとと帰ってきて、陛下を部屋へでも拉致れ!!。そんで、この超絶可愛らしい女王陛下を撫で撫でしろ!!。
この際、頭以外でも好きなだけ陛下を撫でまわしても許すから!!。たとえ何処だろうと!!
・・・・・・・・ま、あの自覚のない朴念仁じゃ、頭以外はまだまだ無理だろうが・・・・・(←失礼)

つまり―――― これはもう、こっちがヤルしかないじゃないか!!!

「あのぉ・・・・やっぱり・・・・・だ」
「委細、了解いたしました(キッパリ)」
「はい?」
「ですから、只今の陛下のおっしゃられた『傍にいて、微笑んで、頭を撫で撫で』ささやかな欲望三点セットでやっちゃいましょう、【アル様を労わろう大作戦☆】を」
ついでに、陛下の【体】使用のオプションもつけちゃいます!!
「えぇぇぇっっっ?!!、あの、でも、それ・・・・」
「お金も掛からず、特別なスキルもいりません。時間も都合がつきます。準備も大掛かりな物は必要なし!。陛下のご希望に沿ってます。問題はありませんね(キッパリ)」
まあ、各所に多少の根回しがいるが、そんなモノはメイドにとって大した手間でもない。
というか、一報を入れただけで、諸手を挙げて協力参加希望が大挙して上がること請け合いだ。
「でも・・・・・それって、あたしが嬉しいことなのに・・・・・」
それで、ホントにアルを労わることになるんですか?
と、真っ赤なままの顔で小首を傾げてくる女王陛下も――

「(ニッコリ)陛下、アル様の頭を撫で撫でしてみたくないですか?」
「・・・・・・・・し、してみたいです!!(コクコク)」

意気込むメイドの、ささやかだが妖しい誘惑の囁きにアッサリ陥落することになった(笑)。

フっ、おまかせ下さい!。あの朴念仁の女王騎士様なら、こんな感じの【純情ほのぼの癒し系・でも直接的攻撃】が有効に決まってるんです!!
というわけで――――
「では、陛下。大変申しわけありませんが。休憩時間をこれにて終了していただき、そちらのご公務を早急にお片付けいただけますでしょうか(ニッコリ)」
「は、はい!!」
《ミッション》目標の女王騎士様は、明日には帰城するのだ――しかも、ほぼ間違いなく精神を消耗させて。
つまり、実行するなら消耗しきった明日の午後が狙い目。そのタイミングで陛下の時間を、最低2時間・できれば3時間は割いてもらう必要がある。
その分溜るであろう仕事の山を、今日と明日の午前で前倒しで頑張って消化していただかなければ、根回し先筆頭の軍師様も困るだろう。
「ちなみに、明日に備えて今晩のゲーム時間はお控え下さいね」
「えうっっ(汗)・・・・は、はい。我慢します」
アルの頭を撫で撫でするために!!。っと、イマイチ間違った方向に決意を新たにする女王陛下(笑)。
「ええ、もちろんです」
一方のメイドも、それをあえて訂正しようとはしなかった。というか、陛下の「アルの頭を撫で撫でしたい」意欲は、メイド的には「もっと欲張って下さい!」なのだから。
ついでに、労わり役の陛下が寝不足では、本末転倒。下手をすれば、逆に女王騎士様に逆に労わられてしまうはめになってしまうのは明白なので、この際、動機に頓着はしないが吉。
大事なのは陛下に明日に備えて体調を整えてもらうことなので、経緯には拘らない。
ついでに、密偵は目的の為には手段を選ばない。

「では、私はこれにて下がらせていただきます」
「はい!。相談にのってもらってありがとうございました。えーっと、イロイロ宜しくお願いします」
「お任せくださいませ!!。・・・・・それでは失礼いたします」
憂いの晴れた笑顔で言われた通りに仕事にとりかかる可憐な女王陛下に、同じ様ににっこりと微笑み、雑談しながらもキッチリ中身を飲み干された茶器をさげつつ部屋を辞去するメイド。
勿論、その足が向かったのはメイドの控えの間などではなく・・・・・

「さーて、ではまず軍師様の処にでも行きますか・・・・いや、隊長の所で狙い目スポットを相談する方が早いかしら?。あと確実を期すなら《トラップ》も考えるべきですわよねえ・・・・」
どうせなら、外見からも癒される方がいいかしら。つまり、陛下の明日のお召し物も気合をいれなくては!。今から間に合うか?。いや、陛下の為に頑張れ、私!!

やっぱりとっても間違っている怪しげな呟きをしながら、意味も無く隠密。音も気配もなく王宮内を移動するメイド。

「ふふふふ・・・・・・首を洗って帰って来やがりませ、アル・イーズデイル!!」
女は恐ろしさだけではないということを、ガッツリ癒されて思い知るがいいわ!!

・・・・・己の女王陛下への忠誠心以外は、そりゃもうイロイロ間違ってるメイドだった。



―――2に続く



というわけで、長くなったので二分割いたします。
ここまでで、前の「パラディン受難」より長いって、どうよ?!
ちなみに、アル子さんの偽名に関しては、異論は受け賜っておりますので、掲示板にどうぞ!

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