「縁談…だと」
「はい。アキナ嬢のナリ。ご存知なかったナリか」
「いや。私の耳には入ってきてないな。
ふむ。だが、そう不思議な話でもないか。年齢的にも、立場的にも、な」
なんといっても養女とはいえその実家は、この国最大の武器商人にして支援者たるブルックス家。結びつきたい人間は山ほどいるだろう。
それにその想い人が義理のごにょごにょでさらにこの国の女王のもにょもにょなだけに、早く結婚させようという発想が出てくるのも自然かもしれない。
だが。
そこまで考えて、マルセルはふと笑みを浮かべた。
これで、もう前線に出てくるのは無理かもしれない。そう考えると同時に不満そうに頬を膨らませる彼女の姿がよぎったためである。
「お、心当たりでもあったのかよ」
「む。こほん。いや、そういうわけでもない。
しかし、いろいろな意味で並みの人間では相手にはならないはずだが。その野心家の顔を見てみたいものだな」
「マルセル卿ナリよ」
「マルセルだと?そう珍しい名前ではないが…、フェリタニア、メルトランド、いやレイウォールか?」
「お前ぇだって」
「裏目ナリ」
「何ィ。
そんなはずがあるわけがなかろう」
「先ほど、並みの男では話にならないと言ったナリ」
「む」
「結婚話が不思議でもないと言ったナリよ」
「フン」
「まさか、政略結婚に恋愛感情がどうとか言ったりしないよな」
「馬鹿をいうな」
「ならば」
「待て。候補の一人に挙がっているというならば分からないでもない。だが、それにあう人間は他にも当然いるはずだ。たとえば、ドラーク卿などどうだ」
「もう一つ大切な条件があるナリよ」
「何だ」
「アナタもさっき考えたはずナリ。このままだとアキナ嬢はエンジェルファイヤーを辞めざるをえないと」
「そうだな。
女性が戦場に出ること自体はこの大陸で珍しいことでもないが、こんな仕事(エンジェルファイヤー)を認めるような夫がいるとも思えん」
「そうナリ」
「しかし、当の旦那がそばでプロテクションなりヒールで守っているなら何も問題ないってわけだ」
「…買いかぶりだな。
私とて、自分の妻にこんなところで戦わせようとは思わないぞ」
「ならば、エンジェルファイヤーのリーダーが替わってもよりナリか」
「愚問だな。現状、彼女以上の適任がいるはずもない。
ふむ…」
「「………」」
「馬鹿馬鹿しい。
そもそも、あわてて結婚する必要もなかろう。
単に話が出ても不思議がないというだけだ。
もう二年もすれば、他に人材も出てくるし、アキナも正規軍で活躍するようになっていてくれなくては困る」
「気づいたナリ」
「では、ナヴァールに伝えてもらおうか。
私はアキナ嬢と結婚することなどない、と」
「別に軍師どのは関係ないナリが、残念ナリ(にや)」
「ああ、残念だな(にやにや)」


「さあ、今日の任務も張り切っていこう」
さて二年といえば長いようだが、うかうかしていると万年係長(?)で終わる人間も大勢いるものだ。しかしノーブレスオブリュージュというもので、彼女にはそれは許されない。成長するか、さもなければ退役だ。
そしてそれは、周りにいる我々にもアキナの正しい成長を促す義務があることを意味する。
やれやれ。
「マルセル、どうしたの。何か顔についてる?」
「がんばれ」
「何言ってるの。マルセルも頑張らないと駄目だよ」
「む。わ、分かった」
「よし、それじゃ、エンジェルファイヤー出動。おー」
「おぅ」
「お〜、ナリ」
「…おう」

〜あとがき〜
はじめまして。せいぶと申します。
辞典ものが大好きな性質でして、掲示板からなんどかお世話になりました。
他の方も挑戦していただくとこで、辞典が活発になると楽しいと思います。
今回の話は、隊長のサイトへのコメントから思いついてしまった話です。

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