『秘密のとびら』『扉のひみつ』の、いちおう真相部分です。
ジニー・パウエル一人称注意。


いつもの早朝。陛下がお目覚めになる前に庭の手入れをしようとしていたら、珍しくアル様に呼び止められた。
「―――裏庭の隅の扉、でございますか?」
話がある、と聞かれて、私――ジニー・パウエルは思わずそのまま繰り返してしまう。
…割と失礼をしたと思うんだけど、アル様は気にせずにうなずいて補足説明をしてくれた。
「ああ、かがまないと通れないくらいの、鍵のかかった扉だ。庭の事ならあんたに聞くのが一番だと思ったんだが――」
ありがたいお言葉を受けて、私はちょっとだけ考え込む。…知らなかったからではなく、一応秘密に属することだから。
―――けどまあ、アル様だったらいいか。そこらで言いふらす方でもないし。
「…鳥籠のノッカーがついた、頑丈な扉ですよね?」
私が声をひそめて返すと、アル様の目が真剣になった。
「―――やっぱり、知ってたか。何のために作られたのか、わかるか?」
「むぅ、それはですね…ちょっと長い話になりますですよ?」
ついでにいえば、いわゆる醜聞の類にもなります――と付け加えて、私は祖父から聞いた話を伝えた。

…ケネス王陛下、ピアニィ様の伯父君から数えて七代くらい前の王様の頃に、バーランドには大きな災害があった。
バーランド宮の城壁も崩れて、補修する際――当時の王族のおひとりが庭師に、小さな扉を作るように要請した。
この王族の方には、バーランドの街に『双方に人目を忍ぶ事情のある想い人』がおられて――まあ要するに人妻だったらしい。
その恋人との密会の為、内からも外からも鍵が無いと開けられない錠を取り付けて鍵をお互いに持ち合っていたとか。
…ただし、数年後には使われなくなって、鍵は二本とも庭師に預けられた。
その後、鍵は代々の庭師に伝わるものになった。私は祖父から、祖父は師匠…先代の庭師から、着任と共に鍵を渡されている。
『もし王家の方にあの扉の事を尋ねられたら、事情を聞かず鍵を二本ともお渡しするように』と――

「…ちなみに、祖父もその前の庭師も、この鍵をどなたかにお渡しした事は無いそうです。扉の手入れはしていますけども」
つまり、ここ十数年はどなたも不道徳な密会はなさらなかったわけで。
長い話を聞き終えたアル様の眉間には、しっかりとした皺が刻まれていた。
「………密会用の扉かよ…そんなこったろうとは思ったが」
王族だの貴族だのってやつはこれだから――とほざ、いや仰っていたがそこは聞かなかったことにする。
「――あの扉の事は、王家の記録には残ってないはずですので、ナイジェル様たちはご存知無いと思います。ナヴァール様は調べておられるかもしれませんけども」
公式の資料には、あそこは壁として残されている。よほど目の前に立たない限り、目に入る位置でもないから――
「……抜け道としてはうってつけ、って事か」
あ、アル様の目が輝いている。しみじみ男の人って、抜け道とか隠し通路とか大好きだよなあ。いや私も好きだけど。
「鍵は今、うちに保管してますので…午後になったら持って来ますけども」
ニヤリ、と笑って言うと……一瞬おいて、アル様が真面目な顔になった。
「――って、俺にそれ渡していいのか? 王家の人間って言ってただろう」
………今更それ言うか、と思いっきり突っ込みそうになったが、ぐっと堪える。
「…陛下の為に使ってくださるって、信じてますからね。もちろんこの事は――」
「…他言無用、だな」
アル様の言葉にしっかりとうなずいて、私は朝の仕事に戻る。――そうそう、裏庭の下草も刈っておかなくちゃ。忙しくなりそうだ。

その日の午後。昼に家から取ってきた鍵二本を、アル様はものすごく嬉しそうに受け取った。
――同日より、くっつけ隊の監視対象に例の扉が加わったことは言うまでも無い。
いや、だって、ホラ、私は誰にも言わないとは言ってませんから…。

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