扉のひみつ、更なるおまけ。
こちらも、ジニー・パウエル一人称注意。


…同じ日の午後。陛下のお茶出し当番が回ってきたので執務室へ。
陛下はなんというかこう…じっとりとした視線で私を見て複雑な顔をなさった。
お仕事が大変でいらっしゃるのかと思いつつお茶を淹れ替えたら、陛下は横目で私を見てポツリと仰った。
「…ジニーちゃん。アルに、何を渡したんですか」
―――はあッ!? み、見てらしたんですかッ!?
あー確かに陛下【感知】高いからなあ…と思いながらも硬直する私に、陛下は…こう、名状しがたいような、モノ凄いオーラをまとってさらなるお言葉を下された。
「……ジニーちゃんが、そんな人だったなんて、思いませんでした…」
……ああー嫉妬は人を醜くするって言うけど陛下は焼き餅焼いてもお綺麗だなあ…と、逃避してる場合じゃない!
このままだと、私の生命と陛下からの信頼が危険だ!
―――…一瞬、私から鍵を受け取って嬉しそうなアル様の顔が頭の隅をよぎる。多分アル様は、陛下に鍵をお見せするのを楽しみにしているだろう。
…しかし。私の中の天秤は勢い良く陛下に向かって傾いた。…すみません、アル様。
「…実はでございますね…」
結局、裏庭の扉についてアル様に聞かれたことと、ウチで保管していた鍵をお渡ししたことを洗いざらいお話しした。扉に関するエピソードは、陛下のお耳に入れるには相応しくないので割愛。
私が話しをするごとに、陛下から暗いオーラが消えてゆき…代わりにはにかんだお顔をなさった。
「そうだったんですか…ごめんなさい、あたしったら勘違いして」
ほんのりと頬を染める陛下が、またなんともお可愛らしい。
が、陛下を困らせるのは本位じゃないので、私は胸を叩いて笑ってみせた。
「いいえ、元はと言えば私などが陛下に隠し事をしようとしたのが間違いでございます。このジニー、お詫びに二度でも三度でも腹を切る所存でッ…」
「は、腹を切るって、二度は無理なんじゃ…」
「そこはそれ、生命の呪符とか使って」
私の馬鹿な答えに、陛下のお顔がようやくほころぶ。
「…もう、ジニーちゃんったら」
―――ああ、やっぱり、この方には笑っていて戴かなくては。穏やかな気持ちで笑いあう陛下と私。そこへ…
「おや、そなたがいるとは珍しいな、ジニー」
幸せな空間に、低く落ち着いた声が響いた。
その声に、私…と陛下の背筋がぴしっと伸びる。…現れたナヴァール様は、変わらぬ静かな笑顔で陛下にお辞儀をした。
「陛下、お楽しみのところを申し訳ございませぬが、署名がお済みの書状は…」
「あ、はい、コレですっ」
陛下が執務机の脇によけておいた紙束を受け取って、ナヴァール様は満足げに頷いた。
「ありがとうございます、陛下。ではこちらは通達に出しておきますので…ああ、ジニーもそろそろ下がりなさい。陛下の御執務のお邪魔をするものではないぞ」
「は。では、陛下、これにて失礼いたします」
人形のようにぎこちなく礼をした私に、陛下は優しい笑顔を見せてくださった。
「はい。お茶をありがとう、ジニーちゃん」
そのままナヴァール様に首根っこを捕まれたような気分で執務室を退出し、扉を閉める。
ほっと一息つこうとした瞬間――振り返ったナヴァール様の、何気ない一言が陛下のコキュートスの如く私を凍らせた。
「―――扉の鍵は、アルの手元に二本のみ…間違いは無いのだな?」
………ああ、やっぱり、ばれてましたね全部。というかどこから聞いていらしたんですか…。
「…一切の複製の作れぬ鍵、ということを伝え聞いております。私含め、代々の庭師であの鍵を私的に持ち出したことのある者はセフィロス様に誓って一人も居りません…」
萎れた声で言う私を、ナヴァール様は苦笑いで慰めてくださった。
「そう落ち込むことはあるまい。あの扉に付いては一切の記録が残っていなかったのでな、確認だけさせてもらったのだ」
ああ、代々の庭師は口の堅い人が揃っていたんだなあ…と思いながら、私はまだまだ落ち込んでいる。
「――あの扉、使用禁止とかになさるんですか?」
ちょっと恨みがましい声で言うと、ナヴァール様の苦笑いがますます深くなった。
「いや、外部からの侵入要因とならなければ問題はない。鍵が陛下とアルのお手元ならば、余人に奪われる可能性は限りなく低いだろうしな」
…確かに、それはそうかもしれない。ちょっと浮上した気分のところに、ぽつりと小さな呟きが降りた。
「――――それに、陛下が秘密を持ってはならぬということもあるまいよ」
思わずまじまじと顔を見ていると、ナヴァールさまはにっこりと笑ってくれた。…良かった。
ほっとすると同時に、疑問がひとつ湧いた。…あの扉の回り、草刈りをした時には足跡がアル様と陛下の二種類しかなかった。
つまり、他の人間は近寄ってすらいないはずで――それに、公式には一切残っていないって……。
「………ナヴァール様。あの扉の事、どこからお調べになったんですか?」
私の疑問に、ナヴァール様は立てた人差し指を口元に当てて――楽しそうに笑った。
「―――なに、事情通の友人がいるものでな」

メンバーのみ編集できます

メンバー募集!