過去に書いた小説のまとめと新しく書ければ書いてみたいなと。

ビックリして両目を開くとのび太は地面に立ち
謎春奈、銅鑼えもんと向き合っていた。
そしてそれを認識したとたんに自重を感じて
その場に尻餅を付いた。
「こっちに着いたらすでにのび太君は居て
 無事に着いたなとか思ったら
 目をつぶってアホ面してボーっとしてるから
 ヤバイ、転送失敗か!って焦ってたら
 薄目開けてこっちを伺ってるから
 馬鹿にしてるのかと思ったよ。」
「ア、アイテテテ。なんだ?体が急に
 重くなった。」
「仮想空間に慣れていない方は視覚で
 状況を認識してから体感覚を思い出すので
 そう言った状態になるそうですよ〜」
「あ、謎春奈さん。あはは実物は可愛いんだねー!」
そう言いながら立ち上がった。
だいぶ感覚が慣れてきた。
「照れますよぉ。もっとも実物って
 訳じゃないんですけど〜」
画面で見た時は可愛い漫画調の絵だな、
と言ったぐらいの見方だったのだが
等身大を間近で見ると理想に近い可憐な
美少女だったのである。

「あ、あたしは人様に描かれた物ですから
 人間の理想に近い容姿をしているのは
 当たり前の事でしてぇ…」
「いやいやそれにしてもかなり…萌え〜」
のび太は品定めするように謎春奈をジロジロと
眺めた。すると銅鑼えもんに
後ろからいきなり殴られた。
「な、何するんだよ!」
まだこちらの世界に来てあまり慣れていない
ダイレクトな痛みという感覚にたじろいでいると
「そんな事してる場合じゃないだろ!?
 急がないと手遅れになっちゃうんだぞ!」
「そうだ。急がなくちゃ!」

しかし銅鑼えもんは自らの怒りに
不思議な感覚を覚えた。
確かに急がなくちゃいけないのは事実だが
それよりものび太の行動に腹が立ったのだ。
何か大事な物を汚されているような。
ひょっとして、漏れ謎春奈に恋しちゃったのか?
そんなヴァカな。でものび太じゃないけど
謎春奈…萌え。

「で、これからどうするの?具体的に。」
「謎春奈に道案内を頼むしか無いなぁ」
「わかりました。お任せ下さい!
 …ですが、本来ならお二方ともすでに
 データ化が済んでいるので同じHDD内でしたら
 瞬時に移動が出来るはずなのですが
 まだこの世界の理に
 慣れていらっしゃらないでしょうし
 しばらく歩きながら身体感覚に慣れて頂いて
 ついでに色々説明しますから
 ゆっくり行きましょう。
 慣れてしまえば目的地まではすぐでしょうし
 そんなに焦る必要もありませんよ。」
「そうか、じゃあ頼むよ。」
「しかし…広いねぇ」
のび太は周りを見渡して言った。
何もない空間が地平の彼方まで広がり
所々に建造物なのかただの起伏なのか分からない
物がポツポツと見受けられる。
「150GBありますからねぇ」
「とりあえず最初はどこに向かうの?」
「Windowsって建物の中にTCP/IPセンターが
 ありますのでそこに行きましょう。」

「そのTCP/IPセンターってのは何?」
「私たちは今高レイヤーに居るので
 このままではネットワークに乗って
 他のマシンに移動することが出来ないんですよ。
 だからTCP/IPセンターに行って
 もっと下層に乗れるような
 データ化をして貰うんです。」
「???」
「逝って見りゃわかるさ。」
「イヤな言い方するなって。」
「さっきは量子転送だったから
 まだ良かったかも知れないけど
 今度はノイマン型で原始的な電気波形にまで
 変換されるから、もっと涅槃を味わえるよ。
 まさに逝って良し!」
「???…まぁいいや。
 そ、それにしても広いねー」
「謎春奈がこまめにデフラグをしてくれているから
 ここまで整地されているけど
 放置してあるHDDなんて歩けたモンじゃないんだろうね。」
「そうでしょうねぇ。スキャンディスクもマメに
 やってますから不良クラスタも心配ないですよ。」

「ありがたいよ。一家に一台謎春奈だね。」
「そんなに誉めないでください〜」
「銅鑼えもんならともかく
 謎春奈さんに『一台』とは失礼だぞ。」
「オイオイ、漏れには失礼じゃないのか?」
「あたしは銅鑼えもんさんみたいに
 本当にAIではないんですよ。
 ただ膨大なデータベースから受け答えを
 しているだけなんです。
 だから一台でも良いんですよぉ」
「えー?だって銅鑼えもんより頼りになるじゃない。」
「君、圧縮分割偽装かけてネッタクにUPして
 二度と元に戻せないようにしてあげようか?」

「さて、そろそろ体の感覚に慣れてきましたか?」
「うん。でもこれだけ歩いているのに
 全然疲れないんだけど?」
「良い所に気が付きましたね、のび太さん。
 では、ちょっとイメージしてください。
 今まで歩いた距離と自分の体力。
 現実世界ではどうなっていますか?」
のび太はヘトヘトに疲れていて足が棒になり
「もう歩けないよ〜」などと弱音を吐いている自分を
想像した。その途端、体が重くなり
足がガクガクしだし、前に進めなくなった。

「もう歩けないよ〜」
「それがこの世界のルールです。
 何よりものび太さん自身の観念、イメージが
 のび太さん自身を形作り、存在させています。
 さぁ、今度は全然疲れていない自分を
 想像してください。」
のび太は一生懸命想像してみた。
全然歩いてない。全然疲れてない。
「…ダメみたい。」
「思いこみ強いからな。
 その上根に持つタイプだし。
 物忘れは激しいのに発揮できないかー」
「銅鑼えもん、こっちに来てから口悪いなぁ」
「そう?データ化のせいでより率直になっているかも。」
「しょうがないですね。ではあたしがのび太さんの
 疲れを癒してあげますぅ」
謎春奈はのび太の足の上に手をかざして
目を閉じて念じて見せた。
「ホントだ!もう全然疲れてないよ!」
のび太は立ち上がり駆け回って見せた。
「あたしは何もしてませんよ。
 暗示を掛けただけですぅ」
謎春奈が笑いながら言うとのび太は急に立ち止まり
ぐずり始めた。
「もう歩けないよ〜」
「氏ね!」

「とにかくここは観念の世界なので
 確固としたイメージさえ出来上がれば
 空も飛べますし瞬間移動も出来ます。
 私たちプログラムには最初からその観念が
 植え付けてありますけど
 マスターユーザーであるあなた方には
 訓練が必要です。
 常識や感覚にとらわれない強いイメージがあれば
 私たちプログラムを凌ぐ強い力を
 発揮できるはずです。」
「そんなこと言われてもなぁ」
「銅鑼えもんさんはもう出来ますよね?」
「え?うん、試してみるよ。」
銅鑼えもんが目を閉じ何かを念じると
スーッと宙に浮いた。
「わ!尊師?」
「銅鑼えもんさんはもちろんプログラムですから
 楽なはずです。でも実際に体を制御している
 ドライバ類も組み込んであるので
 体感覚的に心配でしたが、流石ですねぇ」
「いやいや、タケコプターをイメージしただけだよ。」

「そうだ!タケコプター出してよ。
 そうすれば無理なくイメージ湧くし
 楽に飛べるはずだよ!」
「ええ?そんな事しなくても飛べるだろ?
 普段使っている時のことを思い出せば
 良いんだから。五感の記憶だよ。
 ほら、イメージして!
 空を飛ぶぞ!空を飛ぶぞ!
 空を飛ぶぞ!空を飛ぶぞ!」
「そ、尊師!?」
「想像力のないやつだなぁ。
 ロボットに想像力で負けてたら
 お終いだぞ?」
「僕は常識的なんだよ!」
「しょうがないなぁ…ハイ!タケコプ…あれ?
 あれあれあれ?」
「どうしたの?」
「ポケットが、四次元ポケットがない!」
「ええー!?」
「あのー、ここはさっきも説明した通り観念の世界なので
 ポケットの中身、成り立ち、機構、全てを
 把握した上でイメージできないと
 自信の体以外の物は具現化できませんよ?」
「えー?そうなん?」

「じゃあ僕の服は?最初から着ていたけど。」
「それはのび太さんがイメージしたんですよ。
 普段から着ているから簡単にイメージでき…!
 勘弁してください〜(;´Д`)」
謎春奈が説明している途中でのび太は
素っ裸になってしまったのだ。
そんなのび太を無視して銅鑼えもんは
「さすがに全ての秘密道具を観念化するのは
 無理だけど使ったことがある道具なら
 具現化できるかな?」
「普段使い慣れている道具でしたら
 出来ると思いますよ。
 もっとも具現化の必要もない筈なんですが。」
「このままじゃ空を飛ぶことどころか
 あの思いこみの強いヴァカの裸を
 見続けなければいけないから
 服とタケコプターだけ具現化してみるよ。」

「文字通り想像力のないあたしには
 具現化は無理なのでお願いしますぅ」
銅鑼えもんが念じると空中にのび太の服と
タケコプターが出現した。
「ありがとー!…あれ?何だよこのダサイ服は?」
「はぁ?いつもの君の服ジャンか!」
「シャツのボタンの数が違うし黄色も薄いよ!」
「氏ね!」
謎春奈はのび太のメガネが消えてしまわないことに
疑問を抱いたが言うと面倒なことになるので
黙って置いた。
(でも、なんか、のび太さんの…
 ネット巡ってて見ちゃった男の人のアレと
 ちょっと違うんだな。イメージしきれてないのかな?
 でもこれも面倒な事になりそうだから黙っておこう。)

一行は飛行感覚に慣れるために
しばらく空中を移動する事にした。
銅鑼えもんは、途中で黙って
のび太のタケコプターを消したが
のび太は気が付かず飛び続けたので安心した。
(アレだな、自転車の練習と一緒だな)
しばらく飛び続けると、いくつかの建物が見えてきた。

地上に降り立つとそこは丸の内のオフィス街の様に
幾つかの大きな建物が建ち並んでいた。
ただ、既存のオフィス街と決定的に違うのは
建物と建物の間隔が異様に広い事と
その建物の周りに人の気配がまるで感じられない所だ。
「このビル、大きいなぁ」
「これはフォトショップですね。大きいですよ。」
「隣は?」
「一部分繋がっていますよね。イラストレーターです。」
「中には誰もいないの?」
「居ますけどわかりやすく言えば寝ている状態ですね。
 起動すると作業にも因りますけど
 フル稼働し始めますよ。」
「誰かが作業を始めるって事?」
「本当は違うのですけど、PC革命は馴染みやすいように
 作業工程を擬人化して見せてくれるみたいですね。」
「へー見てみたいなー」
「実はこことは別の場所に工場区域の様な作業場が
 あるんですけど、そこは凄いですよー」
「メモリの事かな?」
「さすが銅鑼えもんさん!その通りですぅ」
「見てみたいけど急がないとね。」
「そうですね、TCP/IPセンターへ行きましょう。」

のび太達はまた空を飛んでTCP/IPセンターを目指した。
この世界にすっかり慣れたようでタケコプターが
無くてものび太は楽に空に飛び立った。
「でもさー。こうやって行動してても
 全然体に危険を感じないんだけど
 本当にこのソフトは危険なの?」
「こうやって移動しているだけでも
 かなり危険な事をしていると思った方が良いよ。」
「ええ!?どうして?」
「HDD内の移動は物理的な移動ではなく概念的に
 電気信号を移動させているわけですが
 それでもシンクロが狂えばマスターかコピーが
 壊れる恐れもあるわけでしてぇ
 お二人のような大きなデータを例え
 内部GUI的にだとしても移動させれば
 HDDのクラッシュやメモリのリブート
 CPUの熱暴走は避けられない問題だと
 銅鑼えもんさんは言いたいのですよね?」
「何言ってるかさっぱり分からないんだけど。」
「つまり僕らはデータの一部分とはいえ
 頻繁にカットアンドペーストを
 繰り返しているんだよ。
 C&Pって言っても内部的にはコピーな事に
 変わりはないわけで、一瞬前の自分は
 絶えず消去されているのさ。」

「ふーん。でもそれって
 現実の世界と変わらないじゃない。」
「どうして?」
「過ぎ去った時間は元に戻せないって
 事でしょ?」
「う。それはそうだけど…」
銅鑼えもんは未来の価値観、ロボットの価値観では
のび太の時代の人間の精神的逞しさを
計り知れないと感じた。
もしかしたらこんなヤツが何も気が付かずに
歴史を動かしているのかも知れない。


銅鑼-8-

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