「運動」Part3

2007/6/3「運動」Part3


出演:鈴木謙介、津田大介、森山弘之、外山恒一(ゲスト)、松本哉(ゲスト)

※以下の発言まとめは、正確な番組での発言とは異なる場合があります。

MP3その5


鈴木:さっき割と熱くなって、インテリが引っ張るの引っ張らないのってありましたけど、森山さん。

森山:僕も分からなかったんですけど、私としては一人で活動している人に敬意を表するってメールがあって、僕もそう思う。集団で何かすることに興味がない。色んな運動に誘われた、下北とか。でも集団にも運動にも興味がなくて参加しなかった。QJで政治をやったときに一番やりたかったのは、集団じゃなくて、自分で何か変えたいときに何ができるか考えたいと言うこと。一人で活動もできない、声を上げられない、集団になれない人はどうしたらいいのか。松本君の運動はその答えになるのかなと。

鈴木:俺の発言で混乱させても悪いんだけど、問いかけを投げるという意味で話すと、先月の月刊オルタって雑誌で、『論座』で「自分たちの状況が変えられないんだったら戦争を起こすしかない」って書いた赤木智弘さんと、最近はフリーター支援の活動をしている雨宮処凜さんが対談していて、その中で印象に残ったのが、高円寺素人の乱とかは楽しいけど、あれを出口だと思ってもらったら困るということ。なぜかというと、私たちは人と仲良くなってわいわいやるとかそもそもできないから、みたいな話が出てくるんですよ。これはどう扱って良いのか僕の中では決めかねているけれども、そういう好き勝手やりゃーいいじゃん、って人たちに、好き勝手なんてもうできないんだよ、って人たちにどういう言葉を投げかけますか。誰か自分の状況を変えてくれない限り私からは動けない、みたいな。

松本:例えばそう言われたとしても、世の中をうちらが変えるってわけにはいかないし、俺はただ思ってやりたいことやってるだけなんですよね。だからなんとも難しいすね。

外山:人のためにやってる訳じゃないからね。腹が立つから暴れているわけで。

森山:僕、松本君の喋りでひとつだけ気になるのが、「うちら」って言うでしょ。僕はできるだけ個人で考えたい志向どうしたいんだよね。

松本:それは一応、素人の乱って店があって人がいるからで、彼らが俺と同じ意見だとはまったく思ってないし。ただ選挙とか、そのときそのときで違うんだよね。一人で喋ってるのと違うから。

外山:僕は自分のサイトにアップした政治活動入門にも書いてるけど、自分が生きがたい理由は二つしかない。自分が悪いか社会が悪いか。両方の要素は誰でもが持っていて、自分に問題があったら生きにくいところは、自分の努力で変えていけるんだけど、社会に問題があるところは、それは自分で努力したってどうにもならない。社会や時代に原因があるということは、他にもそう言う人がいると言うことで、他人と共有可能だし、そうじゃないと解決しない。だから運動って必要だし。ただし、何かの正義感に突き動かされてやる運動はしょーもないと思う。これが生きづらいから、これを解決したいと思ってやるんだと。自分の努力でやれることはやるし、人と一緒にやらざるを得ないことは人と一緒にやるし。ただ単にそれだけなんだと思う。

鈴木:そこが分かれ目になってきていると思うのは、雨宮さんの『右翼と左翼はどう違う?』って本の中で、自分の生きづらさが社会に繋がっていることが分かれば、政治なんて右でも左でもよくって、そこが大事なんだって話がある一方で、『右翼と左翼』で浅羽さんが言ってるのは、それはセカイ系だってこと。自分の問題を世の中のせいにして、自分の状況さえ変われば世の中変わるんだみたいな公共心を欠いた運動はよくないみたいなことを言ってる。出発点としては良いんだけどね。
メール、5年ほど前、20代の女性を国政に送り込もうという運動に関わっていた。ビラを配ったり。冷静に考えると、情熱を捧げる対象が欲しかったんだと思う。エネルギーが有り余っているのに不遇な自分に我慢ができなかった。参加している人の多くは被害者意識が強く、自分で何とかできることさえ他人のせいにしていた。このような状況を見るにつけ、僕は自分のためにならないと思い、以後運動には参加しないことにした。自分にとって運動に参加したことは、自我の危機に対する一種の精神療法だった。
メール、運動というと村上龍の「69」を思い出す。69年が舞台の「69」では、主人公は社会的な動機からではなく、モテたいパワーで学校をバリケード封鎖する。そこにリアリティを感じた。どんな運動であっても、そこに「モテたい!」という動機がないわけではないと思うのですが。ゲストのお二人はモテたいと思う気持ちはあるのでしょうか。今の運動はもてますか?

外山:あのー

鈴木:よどんじゃったよw

外山:モテたいと思う気持ちはあるのでしょうか?あるに決まってるじゃないですか!

一同大爆笑

外山:それこそ自分が10代の頃に運動を始めたときも、反管理運動とかやったら、反逆のヒーローみたいになってモテるんじゃないか、的な、尾崎豊的なものも流行ってたし、そういう気持ちは当然ありましたよ。でも実際にモテるかっていうと、モテる時期もある。運動が盛り上がっている時期はモテるし。

鈴木:どんな女の子にモテるんですか?

外山:盛り上がってるときには良い感じの女の子が、盛り下がって自分の中でうじうじしているときには、まずーい感じの女の子が。

一同爆笑

鈴木:現在、盛り上がってると思うんですけど、モテますか?

外山:うん、都知事選以後、モテるんだけど、いまはネットアイドルだから。誰か一人のものになっちゃいけないから。

鈴木:松本さんは?

松本:モテないねえ。

鈴木:イケメンなのにー。

森山:松本君の運動、モテそうだと思ったんですよ。

松本:いや、俺もともとモテてますよ。

森山:実際モテてるかどうかはともかく、モテだと思ったからQJに採り上げたの。

津田:初めて非モテじゃない運動が。

外山:もういつも松本君を見ながらうらやましいな、うらやましいなと。

鈴木:ってみんな言ってますけど。

松本:別にモテてないですよ。

津田:モテかモテじゃないかって、その運動がスマートかそうじゃないかっていうのもすごくあって、さっきも話が出てた、旧来の左翼や市民運動をインテリが指導してたっていうのは確かにあって、そういう左翼運動の一番よくなかったことって、ノンポリとか、運動を理解しない人を馬鹿にする傾向があるじゃないですか。

外山:それは運動の不思議なところで、リーダーがかっこいいインテリだったら当然モテるわけですよ。90年代にだめ連って運動があったでしょ。あれはどこから出てくるかっていうと、早稲田の学生運動の中で、インテリで指導力があってモテるリーダーが何人かいて、それ以外の兵隊のような、リーダーについていきながら、うだうだ愚痴をこぼしている連中が結成したのが、だめ連のそもそもの始まりだったんですよね。だけど、ダメな奴らの集まりを作ると、だめ連のリーダーが今度はモテはじめるんですよね。その辺が運動の不思議なところで。アイディアとかノリとかの問題で。だめ連の人たちも、それ以前の人たちも、自分の問題意識で正直にやってるわけですよ。メールにも繋がってるけど、僕は運動は正義感でやるか、被害者意識でやるか、どっちかしかあり得ないと思っていて、普通は被害者意識は見苦しいって言われるけど、僕は正義感の方が見苦しいと思う。正義感ってのは他人事。他人事だから許せないという。被害者意識は自分のことなわけですよ。

松本:でも俺どっちでもないね。祭り好きが高じてるだけだと思う。

鈴木:ある種のポジティブな動機付けってのがあって、ネガティブな、モテないのが悔しい、貧乏なのが悔しいってのはあったのかもしれない。いまかかってるサンボマスターの山口君はモテるのかなあ。だめ連のリーダーだってモテるようになるってことで、最初の動機付けが解除されると、ガス抜きされて運動やめちゃうんじゃないか、っていうの思ったんですけど。

外山:ただモテないだけでは運動は続かなくて、それを社会のせいにしないといけないわけで。

森山:でもやっぱ、自分にとって何かを変えたいということ以外なくないですか?さっきから聴いてると、ためにする運動というか、批評のための運動に聞こえてしょうがない。そうするのが運動が嫌われる一番の理由ですよ、難しい話で、ちょっと左翼っぽい。

外山:自分が納得いかない、違和感にこだわれってことなんですよ。

鈴木:今メールでもらったのが、私の通っている大学にも、いわゆる運動をやっている人たちがいますが、彼らは生き甲斐がないから運動をやっているのであって、運動の中身自体には関心を持っていないように思えて不快なときがある。個人的には外山さんの言うことに共感できるところもあるけれど、彼らと外山さんとの間には大きな隔たりがあるんじゃないか。
それは僕も思う。違和感にこだわるのは正しいんだけど、そんなたいした違和感持ってないよなっていう。

外山:どういう運動かなんとなく想像つくけど、自分の違和感をどうすればうまく表現できるのかっていう試行錯誤を、途中で諦めちゃって、大文字の言葉、政府がどうのこうのっていうのに飛びついちゃうとつまんない運動になるんですよ。自分の違和感とかをつきつめて、その延長で自然に繋がる分には、あまり見苦しくないんだけど。

鈴木:外山さんって、実存の強い方じゃないですか。たいていの人はそんなに不満もないし、そんな違和感はあっても、運動とか声を上げるってところまでは繋がらなくて、気持ち悪いなと思いつつも、会社の帰りに飲みにいったら忘れてしまうような違和感しか持ってないと思うんですよ。

外山:運動というのは、テーマからそうなんだけど、何か特殊なことであるかのようなイメージがついちゃってるんですよ。僕の中での初発の動機にそう言うのはない。10代の頃に、気に入らないことに気に入らないと言い始めただけだし。

津田:外山さんも松本さんも、根っこがこの状況がムカツクって言うのがあって、でもやり方は表面的には違うんだと思うんですよね。松本さんの方は面白い、外山さんの方が教養主義的っていうスマートさ。ただm権力側が「美しい国」なんてのも最近は言ってるけど、とにかく権力を笠に着た物量作戦ってのをやられたときに、普通のやり方で勝負しても勝てないじゃないですか。そこでどう戦うかっていうときに、外山さんは情報戦、松本さんはゲリラ戦をやってるのかなって。

鈴木:情報戦っていうのは?

津田:情報戦って、個々一人一人でもできると思うんですよ。SF映画みたいにハッキングするとか。森山さんが、一人でしかできないことって言ってたけど、一人でもおかしいことにはおかしいって言えるという。

外山:高円寺って仲間がいっぱいいてうらやましいんだけど、僕はかなり孤立した中でやってきて、何とか一点突破したいと思ってきた。で、とりあえず自分のサイトに、自分が何を考えているかっていうのを用意しておいて、ここで何かインパクトのあることを一点突破でやれば、読んでもらえるだろうと思ってやったのが都知事選なんです。

津田:だからスパイだし、孤高のテロリストだからゴルゴ13なんですよ。

鈴木:それで言うと松本さんは何に当たるのかな?

外山:2ちゃんねるでルパンって書かれてましたけどね。

津田:ベトコンじゃないすか。

鈴木:ゲリラね。

松本:店やってるだけなんだけどな俺w

鈴木:僕は外山さんと松本さんの対象に惹かれるところがあって、外山さんは実存の問題から一点突破していく、松本さんは自分の問題を細々とやってたら、回りが大きくなってきて政治運動化しちゃってるみたいなところだと思う。

松本:俺、外山さんと話してても、外山さんの話してることがほとんど理解できないんだけど。やっぱネガティブすぎんのね、外山さんが。みんな敵なんじゃないかとか。それが俺まったく理解できない。そもそも最初のところが少数派で、誰も理解できないみたいな感じでしょ。俺、ほとんどの人は説得できるんじゃないかって勝手に思っちゃうんですよね。だからぜんぜんその辺の感性がわからないんですよね。

鈴木:みんな説得できるっていうのは、世の中の体制とかも含めて?

松本:言論でっていうわけじゃないんだけど、

外山:ノリに巻き込んじゃえというか。

松本:俺がこんなことやってるのって、当然少数派だと思うんですけど、日本は素晴らしいとか、今の世の中はいい世の中だって言ってる人たちでも、話をしてみると不満はあるし、いつも自民党に投票している人だって、話をしてみるとこっちの味方だったりすることって、すごいいっぱいあると思うんですよ。そんな人ばかりだから、ちゃんと話をすれば世の中って変わるんじゃないのかなって。

鈴木:わかった。あれだ、今松本さんと外山さんの話を聞いてて分かった。二人はお互いが最後のラスボスになるんですよ。お互いが広がっていったときに、最後に対決するのがお互いだ。

松本:外山さんが政権取ったら俺なんか真っ先に虐殺されますよ。一揆とか駅前で音楽かけたり。

外山:松本君とはよく会ってるから話すんだけど、当面やりたいことはかなり似てるんですよ。最終目標と言うところではまったく相容れないと思うけど。でも松本君が何かの間違いで政権を取ったりしたら。。。

松本:俺、権力者になんかならないよ。

鈴木:権力者にならない松本さんが政権を取るというのは、権力者がいない社会ができるってことなんですよ。そこでそれに耐えられないファシスト、外山恒一が出てくる。

松本:ファシストはとんでもないですよね。

一同笑い

松本:勝手に何を上り詰めようとしてんだコノヤローみたいな。

外山:多分、当面は現状の息苦しい状況に対して騒ぎを起こして攪乱してっていうのは一致していて。

松本:騒ぎを起こすの大好きだからね。

鈴木:外山さんがさんざん息苦しいって言ってるんですけど、松本さんは別に息苦しくないですよね。

松本:そう!そこなんだよ。そこがそもそも理解できない。息苦しくないんですよね。権力が少数派を弾圧しているとかも思わない。だって俺こんだけのびのびやらせてもらってるし。殺されてないし。

鈴木:僕も完全にそうで、息苦しくもなんともない。なんでさっきインテリの話したかっていうと、そっちいったら間違いだって俺からは見えるのに、そうじゃないと思ってる人がいるから、ちょっとちょっとって言ってるだけで、本人たちが分かっててそっちに倒れていく分には、まあ行けばいいんじゃない?俺は息苦しくないし、とかしか考えないんですよね。外山さんや、雨宮さん、赤木さんのネガティブさは、エヴァンゲリオン的な、90年代だなあと思うけど、00年代になって盛り上がってる運動って、ポジティブな、息苦しくないんだけど、楽しいことやったら面白いじゃんって、わーっと人が集まってきて。Lifeもそうなんですけど、自分が楽しいことをやって、それに人が集まってきたら、誰かをぶったおそうとかじゃなくて、自分たちが面白いと思ってる世界を、この人にも分けていこうってことで、どんどんハッピーが広がってきて。そっちの方がいいと思う。昔は僕も外山さんみたいな人だったんだけど、どっかで切り替わったんですよね。

外山:僕、逆なんだよね。昔はそういう、、、僕の場合は逮捕経験が大きいんだよね。松本君も逮捕されてるけど。

松本:俺、捕まって楽しかったもんね。

外山:松本君の場合は、わかりやすい政治犯だから。

松本:大学の学長が悪い奴だったからペンキぶつけたら捕まったんですよ。

外山:だから支援してくれる人とかいたし。僕はまったく孤立無援の中で捕まって、2年間、まったく外と連絡を取れないまま過ごしたって言うのが大きいと思うんだけど。入獄以前は、楽天的でしたよね。

鈴木:その辺がいまの若い世代の運動を考えるときの、最後の対決点だと思う。上がなくなったときに、内ゲバやり出すんじゃないかって空気はすごい感じてて。その話も本当はしたいんですけど、読み足りてないメールの話をしましょう。最後は僕の選んだ曲で、外山さんや松本さんのやってることをよく表している短い曲なんですけど。

外山:僕もブルーハーツをかけてくれと言われたら、これをプッシュしようと思ってた。

鈴木:というわけで「ブルーハーツより愛を込めて」。


MP3その6


鈴木:今日はメールをたくさんもらって、みんな真剣に考えてるんだなと思った。というわけでメール、私は運動に好意的な立場。個人でも集団でも、なにがしかの変化を起こしたいということ、受け手に違和感や共感などの何かの感情を喚起させるということが大事。サウンドデモは反戦運動として注目すべきだと思うけど、個人的にはミニコミとかフリーペーパー。松本さんはフリーペーパーも出しているけど、ネット以外に紙媒体を出す意義は感じておられますか。また既存のミニコミに対してどう思いますか。森山さんの意見も聞きたいです。
メール、今回のテーマの運動ですが、少し熱くなるだけでさめてしまうので生理的に受け付けない。ただ、ホテル・ルワンダの上映問題、廃館になった早稲田松竹の復活とか、結果が出るものなら良いと思います。そういうのってネットとか技術の進化で可能になった部分が多いと思うのです。それ以上に、複数の専門分野を持ちつつ、対話可能性を備え、分野感を架橋することで、運動の目的に合致した最適なメンバーをリクルートできることが大きいのでは。
ふたつのメールに共通しているのは、メディアってことですよね。ミニコミ、ネット。松本さんは自分でいろいろやられてますけど。

松本:「貧乏人新聞」ってのを作ったりとか。あとは「週刊素人の乱」っていうお店のフリーペーパーを作ってるんですけど、紙はもう、絶対あったほうがいいと思います。なんか、俺むしろネットが嫌いであまりやりたくないんですけど、それで世の中動いちゃってるからしぶしぶやってるって感じなんですよ、宣伝のために。実際一番力になるのは、持って歩けるもの、他人に「これ読んだ方がいいよ」って勧められる。武器だから。

鈴木:紙そのものだからっていうことより、それを渡すってことが大事?

松本:直接人と人とが会わないと見られないものじゃないですか、紙を渡すってことで。その辺が良いかなというのがあって。直接会うのが一番だけど、その次が紙っていう。ネットはその次。

鈴木:渡した人のことを考えながら紙を読んでもらえる。

松本:俺も直接話すのがいいと思ってるんだけど、飲んで話すくらいやんないといけないから、全員と話すって訳にはいかないし、そうすると限られた人数になっちゃう。紙にはそれに準ずるものだと思う。

外山:運動って人とやるものだから、人と会って話さないとダメだし。

森山:今回の選挙のときもいろいろあったって言ってたよね。なかなか意見が合わなくて、組織を組まないと選挙運動できないわけじゃない。その辺の意思疎通の問題をどういう風に運動として結実していったのかって話が面白かったな。もっとちゃんとやろうって人がいたり。

鈴木:それはどうやって束ねていったんですか?

松本:盛り上がってくると勝手にまとまっていっただけだと思うんですけど。束ねるって意味ではやったことなくて。どんどん車の準備を始めたり、こんな面白いことがあったよって勝手に始めちゃったり。

森山:それは幸福なんだけど、やっぱり組織することで先鋭化していったりとか、逆の危険性も孕む訳じゃない。だから松本君がやったことは、組織化することで思わぬ方向に行かなかったけど。

松本:そんなんだったら俺逃げてたと思う。

森山:今回は逃げ切れると思ってた?

松本:自分がつまんないと思ったらやらないですからね、多分。

津田:つまんない方向に行きそうになったことはあったんですか?

松本:今回の選挙ではそこまでの感じはなかったですけどね。

津田:僕が聴きたかったのは、そんなにネットに重きを置いてないっていうのは、2ちゃんとかブログとかmixiとか、あるいはWinnyみたいなファイル交換ソフトとかも、既存のメディアとか権力をあざ笑ったり、批判的な意見があって、オルタナティブとして、ちょっとガス抜き装置みたいになっちゃってるところがあると思うんですよね。なんかそういうところで不満を書いたら終わりみたいな。

外山:ネットの内部で何かやろうと思ったって何もできないということですよ。ネットを要素の一部にする分には良いけど。

津田:つまりそれは、ネットもリアルと結びついてるものじゃないとダメだという立場?

外山:だってリアルを変えようとしているんだから。今回、都知事選でああいうことをやれば注目されるとは思ってたけど、ネットのことをよく知らなかったから、いきなりYouTubeで流れるとは思っていなかった。たまたま見たい人が検索して、僕が事前に用意した文章を読んでくれるだろうくらいの意識だった。だからネットを含めた全体的な構想を持って考える分にはOKなんだけど、あまり過剰な期待はしていないですね。

津田:メールで16歳の匿名の子が、マスコミが真実を伝えてくれない、ネットも弾圧されるっていうのがあったけど、じゃあそこでどうすればいいんですかっていう質問にはどう答えます?

外山:うーん。僕は、いまやりたいことがあるんだったら、いまやらないとと思う。

津田:それはネットででもいいんですか?それともリアルと結びついた方が良い?

外山:ネットで解決できることならそうした方が良いし、ネットで解決できないという感覚があるんであれば、リアルも含めてやるべきだし。そのときに、受験があるから、とか言うと、今度は就職があるから、とか言い始めて、終わらないわけですよ。老後があるからとか言い出すわけで。僕はそう思ったから高校は途中でやめちゃったし。このままそういうことをやってると卒業できないからって言ってると、やりたいことを先延ばしにするだけの人生になると思って。

松本:それは俺もそう。一刻も早く自分をストレスのない状態に持って行くのが大事だと思うから、受験があるからっていうなら、一刻も早く受験をやめた方がいいんじゃないかなー。でも食ってかなきゃいけないからバイトとかして、そこで面白いことやっていくとかね。

津田:食っていくってのが一番のリアルですよね。

外山:僕はたまたま時期がよかったのかもしれないけど、本は出したもののそれで食えるほどの収入はなかったから、どうしようと思ってたらストリートミュージシャンで食えたりとかして、ようするにやりたいことやってれば、自ずとね。。。

松本:いやーでもそうもいかないでしょ。食ってくって意味では、なかなか、みんながやりたいことやってっていうのはね。

外山:みんなは無理だけど、とりあえず自分がっていう意味ではね。だってみんなはやらないじゃん。ストリートミュージシャンで食えるよって言っても。いないからねそんなには。だからなんとかなるんですよ。

松本:死なないって意味ではなんとかなると思う。刑務所はいれば食っていけるんだし。

外山:刑期も終えてみれば全然たいしたことないよね。

鈴木:最近は刑務所の待遇も悪いって本も出てたりするけれど、食っていくって問題と、自分の不満の源泉とを、どう、、、

外山:運動の世界に入っていくと、人生を棒に振るってイメージがあるけど、棒に振って良いんですよ。なんとかそれなりの人生というのは開けていくから。本人が途中で変にぐれたりしなければね。

鈴木:僕は逆だと思っていて、今の若い人たちの中で、例えば運動的なものに興味を持ってる子たちが一番最初に反感を持つのは、お前らプロ運動家で既得権化してやがるじゃねーかってことなんだと思うんですよ。

津田:ぜんぜん食えてないけどね。

外山:実際、僕はストリートミュージシャンやりたくないのにやらないといけないから。

鈴木:食えてないと。

外山:食える時期もあったりしたけど、それはおまけみたいなもんで。とりあえず自分がむかつくことに文句言ってるだけでしょ。それをただやっていけばいいんであって。なんとか貧乏なりにやっていこうと思ってヒッチハイクを発明したりしたし。

津田:日曜大工とかみたいなカジュアル感覚で参加できる運動じゃダメなんですかね。人生を棒に振るって言われたのが気になって。

松本:俺リサイクルショップやってますけど、それ自体運動だと思ってるし。

外山:日曜大工のつもりでやってたら、いつの間にかはまっちゃってっていうのはあるけど。

鈴木:僕、運動っていうより、社会に対する鬱屈と食う食わないって問題に関しては、それぞれの答えしかないからなんとも言えないけど、僕はむしろ受験しろ派なんですよね。いま変えたいっていうのはそうなんだけど、いま変えたものが、やっぱ違うなってなって、もう一回変えるって話にできるかどうかっていうの、地力っていうか、若いときに付けた力のような気がするんですよ。頭とか基礎体力とか。

外山:生き方の問題で、いまやりたくてしょうがないってことがあったときに、受験や就職を言い訳にするようではいつまでたってもできないし、逆にドロップアウトしたからといって人生は終わらずに、それなりの人生が続いていくし。たまに何年か捕まったりするけど。

鈴木:たまに捕まらないよ!

外山:捕まったとしても取り返しの付かないことじゃないし。

鈴木:運動そのものとか動機付けに関しては、外山さんがネガティブ派で松本さんがポジティブ派なんだけど、人生そのものについては外山さんかなりポジティブ派で、松本さんの方が、んなこともなくねー?とか言いながらなんとかやってると。少なくともお二人は選挙の供託金に関しては回収したという話がありましたけど、やっぱりカネの問題じゃないですか。金の話をしたときに僕は最後に問われるのが人間の意志だと思っていて。で、僕、その意志ない奴なんですよ。お金かやりたいことかって言われたら、最高、ぬるく両立できるところを目指すけど、どっちかっつったらお金かな、とかって簡単に主義主張を曲げちゃう。それが世の中の大半だと思うし。

外山:状況によるでしょう。自分が好きなもの、守りたいものというのもあるけど、生活を犠牲にするほどのものじゃないこともあれば、生活を犠牲にしてまで守らなきゃいけないものもあるし。

鈴木:で、その生活を犠牲にしてまで守らなきゃならないほどの危機なんて、普通に生きていれば訪れないわけですよ。何が普通かってのも分からないけど。でも市民運動もそうだし、いまの「新しい・新しい社会運動」にしても、すごい少数派で、見捨てられた裏通りから声を上げるようなものだから、すごい爆発力を持つこともある。けれどそれが少数派じゃなくなったら、その爆発力を持ってられるかっていうとそうはならない。多数派はその爆発を見ながら、元気な人たちだねえ、みたいな。

外山:多数派が寛容であれば全然構わないわけですよ。少数派が時々お祭りをやってるなっていうのなら健全だし。でも僕が問題だと思うのは、そういう状況じゃなくなってきてるってことなんだよね。この辺松本君とずれるんだけれども。

鈴木:そういう状況じゃなくなってきてるっていうのに賛成できるかどうか。メール、世の中には運動してる人が多いんだなとびっくり。私は運動に参加しようとは思わない。割に合わない。満足している訳じゃないけど、せめて自分だけは楽しく生きていきたい。

外山:でも楽しいんだよな。

松本:割に合うよね。

津田:運動することによって得られた高揚感っていうのを端的に。

外山:ひどいときには、こんなひどい目に遭わないだろうってくらいひどい目に遭う。僕の場合一番でかいのは投獄体験だけど、自分が全然悪いと思っていないことで2年くらい閉じこめられることもあれば、絶対仲間が見つからないと思っていたようなところで仲間を見つけたりすると、すごい高揚感ですよね。都知事選にしても、ああいうことを思いついたときのしてやったり感といえば。

津田:思った以上の反応はあったわけだしね。

外山:反応が大きいと嬉しいけど、あれはテレビ局であの政見放送を録画した段階で「してやったり」と思いましたよね。

鈴木:「勝った!」と。僕もあの中指立ててるのを見て、この人そう思ってるだろうなってのはありました。みんなが喝采を送ったのも、その高揚感が伝わったからだと思います。それは松本さんの運動だと思うんですよ。高揚感みたいなのが伝染していくっていうか。

松本:高揚感って言うのもあるけど、盛り上がってる時って言うのは、タダじゃないですか。経費とかはもちろんかかるけど。フジロックみたいに間抜けなイベントに何万も出して行くよりも、自分たちでやったっていうのがいいじゃないですか。テンションの高さってのがすごい面白い。

外山:お互いサブカル嫌いなんだよね。

鈴木:自分たちで作っていく。まあフジロックだってもともとは自分たちでやろうってのがあったわけだし。でもネットの方がむしろ自分たちでやっていこうってのが多い。ホテル・ルワンダも、最後は現実を動かしていくんだけど、それはネットで繋がれたからですよね。今日聞いてて一番思ったのは、松本さんなんかが近いなーと思ったのは2ちゃんねる管理人のひろゆき君で。彼は自分が面白いと思ったものはどんどん出していって、それに回りが乗っかってくる。でも本人は、いやー自分が面白いと思ったものをやってるだけなんですけどっていう。

外山:ポジティブに言えば、面白いものをやってるだけ。ネガティブに言えば、むかつくことをむかつくと言っているだけ。あまり損得は意識してないでしょ松本君も?

松本:損得っていうか、自分の方が面白い生き方をしているという意味では得してると思ってるから。

鈴木:今日の話でふたつのことがあって、ひとつは僕、運動できない派として、どこに行ったらいいんだろう。僕は世の中で言えば少数派な人だから、運動するきっかけはあるはずなんですよ。

外山:いや、そうじゃなくて、自分がどこへ向かっていったら良いんだろうっていうのを、一人で考えるんじゃなくて、一致するかどうかはともかく、何人かで考えること自体が運動。

鈴木:そういう意味ではLifeは運動って言ってよくて、色んなところで言ってるけど、やりたくないことをやらないで済むために、色んなところに筋を通していくのがLifeのやり方。それはとりあえずここまでは広がってきたって感触はある。じゃあ例えば今日は運動ってテーマをやりましたと。それに反応ってのがあって、「もっとAV女優の話とかしてくれよ」って人と、「世界にはもっと貧困の問題だってあるはずだ」という人がいて、このいっぱいある要求にどこまで耐えられるんだろうってのはあるんですよね。

外山:その分裂で言うと、僕は社会運動をやっている意識はあるけど、社会問題に取り組んでいるって意識は全然ないわけですよ。

鈴木:さっきネットの話をしたけど、アップルのCEO、ジョブスの話をすると、自分のやりたいことをビジネスでやっていって、一緒に理念も広げて、著作権保護のかかった音楽ファイルは売らないようにしようぜ、ってことになっていく。そういうのも含めて本当は運動。今日の話の中で、運動って言うのが政府に不満を訴えるってものばっかりになってたけど。

外山:結論から言うと、やっぱり政府が悪いなってなるんだけど、それは結論としてであって、やっぱり自分の違和感にこだわるってことを徹底的に突き詰めるってことじゃないかな。

鈴木:それは狭い意味での運動に限られないし、そのやり方もひとつではなくて、仲間をどうやって見つけていくかっていうのが、きっかけであり、最後の課題になるんだと思うんですよ。仲間の見つけ方という点では、僕も津田さんと同じでネットってでかいと思うし、これからリアルで盛り上がるのは高揚感はあるけど。

外山:ネットで読む価値のあるサイトやブログを作っても。。。や、でも今は色々やり方あるのかな。

津田:でもリアルで会っていくべきですよね。俺は絶対そう思うよ。

鈴木:ネットがきっかけで、も含めて?

津田:僕もネットは道具のひとつだとしか思ってないし、繋がるための機会を増大させたときに、行動を起こすべきだと思う。例えば去年、電気用品安全法っていう変な法律があって、あれもなんで政治が変わったのかっていうと、mixiでその話が盛り上がって、その一人が、この問題に関心を持ってくれそうなインフルエンサーってことで、坂本龍一さんにメールを送ったんですよ。それで坂本さんが問題だって思って、記者会見までやって。そこで、実際に送っちゃおうっていうのが大事だと思うんですよ。

松本:あのとき俺もデモやったんですよね。

鈴木:僕らも公開放送とかやったわけでリアルで繋がっていこうというのはその通り。ちょっとPSEに関して言うと、僕はその評価っていうのは、わーって下から盛り上がってきたものっていうのが、坂本さんのような影響力のあるところにいって、世の中を動かしてってものだと思うんですけど、僕は一部のところしか見てないけど、逆の印象を持って。よくわかんないけどネットで政府気にくわねえっていってる奴もいて、そういうのを分かってる人たちが、すごく悪い言い方をあえてすると、利用した感じに見えたんですよ。

津田:それは戦略だと思うんだよ。やる側がスマートにやれば。そこに違和感を感じる人もいるかもしれないけど、状況を変えたいというのが優先にあるんだったら、まあそういう分かってない人が参加したっていいじゃんというのにシンパシーがある。

外山:変えることが目的だからね。

津田:それはほんと、外山さんが言ってる、芸術家は表現することが目的で、政治活動は変えることが目的っていうのははっきりしてる。

鈴木:で、なんで俺今日難しい話してるかっていうと、そこで誰かが変えてくれるんだから、俺はお祭り要因ね、みたいになっちゃだめだと思うんですよ。

外山:お祭り要因的な立場になりたくないんだったら、

津田:勉強しろと。

森山:一言だけいい?やっぱりね、外山さんや松本君のようにできる人って少ないんですよ。僕は最近結論が出たことがあって、アーサー・ビナードっていうアメリカの詩人がいるんですけど、その人が言ってたのは、自分は、個人商店が潰れて欲しくないから、豆腐屋で豆腐を買うと。そういうひとつひとつが政治、それだって運動。選挙に一票を投じるとか。ひとつひとつにその問題意識を持ってれば、なんとかなるんじゃないかっていう。

鈴木:実存としての政治ですよね。

津田:森山さんの話にかぶせて言うと、やっぱりたぶん今日出た外山さんと松本さんって、これからの運動がどうあるべきかっていうモデルケースを示していると思うんですよ。だから確かにこういう風になれる人は少ないって言うけど、変わってきている。やっぱり敷居は低くなってきてるし、違和感を感じながらシュプレヒコールに参加しなくても、リアルに現実が変わるって言うのができるようになるといいなと。

森山:僕は、豆腐屋で豆腐を買うことが運動だぞっていうことを言いたいだけですよ。

鈴木:その運動が客観的にどういう意味を持つのかっていうことを知るために、僕は勉強が必要だ派っていうのは最後にもう一回言わせてください。さて次回は若者文化がテーマ。


「運動」Part4
2007年07月26日(木) 09:50:43 Modified by life_wiki




スマートフォン版で見る