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逆転裁判123成歩堂セレクション

 クラシックスカタログに追加されたので、プレミアム代の元を取るために何度もやっている本作を敢えてやりました。「トロフィーも割りと短時間で取得できるよ」と自分に言い聞かせながらやりました。

 リアルタイムで原作のGBA版をやっていた時は最後の最後で全てのシナリオがひとつにつながる秀逸なストーリーに舌を巻いていたものですが、今やるとやっぱり粗の方が目立ちますね。私が本物の弁護士業を経験してしまったので、現代日本の司法制度と比較した時のおかしさを指摘しだすとキリがありません。警察・検察の捜査や見立てはトコトン杜撰ですし、声のでかい者に尻尾を振ってばかりの風見鶏裁判長は、ずっと見ていると反吐が出てきます。ただ、私が折に触れて言っていることですが、「専門家が見て初めて気付ける粗」は無視していいのです。専門家は、この手のフィクショナルなお話のセールスという観点で言うと、無視してもほとんど影響のない圧倒的な少数派に過ぎないからです。私も、「現代日本の司法制度と本作におけるフィクショナルな司法制度は寸分違わず同じである必要は全くない」と自分で自分を勇気付けながら、頑張って無視された少数派の立場で本作を最後までやり遂げました。

 とはいえそういった専門家視点を抜きにしても、改めて納得しがたいトリックや設定はやはりまだまだ散見されました。色々なところで指摘されているので、全てはここには記しませんが、私が言いたいことだけ言っておきます。
▼私がミステリーを「摂取」している中で最も興醒めしてしまうもののひとつに、「ピタゴラスイッチトリック」があります。代表的なものは金田一耕助シリーズ第一作の「本陣殺人事件」や名探偵コナン13巻の「イラストレーター殺人事件」で見られるのですが、要は身の回りにある道具を複雑に組み合わせてある程度自動化された状態で何か(殺人やら、証拠隠蔽やら)を行うトリックです。なぜ興醒めするかといえば、非現実的なうえに読者側の推理が難しいからです。本物のピタゴラ装置は、何度も実験と試行を重ねながら完成させていくそうですよ。犯人が現場で咄嗟に考えて作ったピタゴラ装置が一発でうまくいくなんてのはほとんど起こり得ない奇跡だと思います。いくら文章や絵で説明をされても納得はできません。その装置を動かしている実写映像をノーカットで見せて欲しいです。
 本作においても、2の3話や3の5話でピタゴラスイッチトリックが使われています。こういうのは、できるだけなくして欲しいですね。どうしても登場させたければ、犯人が何度もピタゴラ装置の試行・実験を重ねたという様子をきちんと描写してください。
▼本作では、依頼人(=被告人)が事件当時の状況について多くを語ら(れ)ないために謎の解明が進展しないパターンが結構あります。行方不明だとか気絶しているとかちゃんとした理由があって「語れない」ならまだいいのですが、留置所に行けば会えるのにちゃんとした話をしてくれない場合は、こちらから情報を聞きたいのに聞くこともできないので、イライラします。一番ひどいのが、1の4話の御剣でしょう。1の5話の宝月巴被告人は、ちゃんと語らない理由がハッキリしているのでまだいいのですが、御剣の場合は口を閉ざす強い理由がありません。「DL6号事件における罪の意識があるために口を閉ざしている」という仮説は立ちますが、成歩堂が御剣と留置場で最初に会った段階ではまだ両事件の関連性は(当事者である彼らにも)うっすらとしか分かっていないので、御剣が口を閉ざす理由としては弱いです。4話の事件当日に何があったかを御剣がしっかり語ってくれれば、弁護士側の調査は大幅に進展します。それができないので、プレイヤーとしてはイライラが増していくばかりなのです。御剣に、もっとちゃんとした黙秘の理由を付けてやるべきだったと言えます。
▼「DL6号事件で綾里舞子が行った霊媒で犯人と名指しされた人物(灰根)が、その後の裁判で無罪になってしまった結果、霊媒の権威が地に落ちた」という設定があるのですが、霊媒で呼び出された(であろう)御剣パパがどういうことを語ったか、その後の裁判がどういう内容だったか、の2点が全く具体的に分からないので、この設定にいまいち説得力がありません。事件当時のあの状況であれば御剣パパも何が起きたかを正確に把握するのは難しいと思われるため、呼び出されたときに間違ったことをしゃべったとしても無理からぬことと思われます。そもそも本人が弁護士であるため、「私を撃ったのは灰根だ!」というような断定的な物言いは避けて、もっと慎重な言い方に終始するような気がします。いずれにせよ、警察・検察には霊媒の結果を踏まえたうえでのもっと慎重な捜査・公判活動が求められるはずであるため、霊媒師が責任を一手に引き受けるような事態にはなりづらいと考えられます。
 また、その後の裁判ではどうも心神喪失で無罪になったようなのですが、心神喪失が理由なのであれば「灰根が撃った」という事実自体に間違いはない(とその裁判では判断されたことになる)ため、霊媒師に過ちはなかったことになります。
 いずれにしても、責められるべきは見立ての甘かった警察・検察か、不正確なことを言った御剣パパということになります。警察・検察が自らのポカを糊塗するために霊媒師をスケープゴートにしたのではないか、というフォローはできるのですが、何にせよこの設定に説得力を持たせるための描写が不足しています。
▼1の5話は、進めていくと「同じ被害者が別の場所で同時に殺されていた」という驚愕の事実が明らかになりますが、これは蓋を開けてみれば「第一事件の発生時刻に、(第一事件とは別の場所である)警察の証拠保管庫に謎の男がいたが、その男は第一事件の被害者のIDカードを使ってその証拠保管庫に入っていたので、傍目には両者が同一人物に見える」というだけの話でしかありません。それだけのことなのに、わざと「同じ被害者が別の場所で同時に殺されていた」という分かりにくい言い方をしているだけなのです(そもそも証拠保管庫でその謎の男に対する殺害行為があった、と言えるほどの証拠はほとんどなく、せめて「殺された被害者が同じ時刻に別の場所にいた」という言い方に止めるべきです)。ミステリー小説等の地の文でこの手のミスリードをするなら叙述トリック的なものとしてまだ許容できるのでしょうが、本作には地の文というものは基本的にはなく、ほとんど全てがキャラクターの台詞で表現されます。プレイヤーサイドのキャラクターまでこういう分かりにくい言い方を敢えてするのは、単純に不自然です。ゆえに、無理やりミステリー感を増すための無理やりな演出であり、不誠実だと言えます。露骨な説明台詞を聞かされた時のような不快感が生じます。
▼霊媒については、否定的な意見が出るのは分かりますが、私は肯定的に捉えています。本作における霊媒の「ルール」(生者は呼び出せない・すでに誰かに呼び出されている霊を別の霊媒師が二重で呼び出すことはできない・呼び出すと霊媒師は霊の生前の姿になる、等)がハッキリしており、そのルールという制約の下で使える一つの捜査手段として捉えることができるからです。そういう意味で、私個人は霊媒をルミノール試薬や指紋採取といった科学捜査と同じようなものと捉えることができている、ということです。例えば科学捜査が進展して死者たちの脳から生前彼らが見た景色を映像化できる技術が発明されたとしたら、本作における霊媒と似たような情報収集ができると思いませんか(そういえば6で似たようなことをやっていましたね)。私の霊媒に対する評価は、そんな感じです。
 ただ、どの事件でも「被害者を呼んで話を聞けば解決するじゃん」というツッコミどころが生まれてしまうのだけはいただけないですね。実際、DL6号事件ではそれをやっているわけですからね。本作は話が進むにつれてどんどんカジュアルに霊を呼び出すようになっていくので、そのツッコミどころも存在感を増していきます。もっと「どういう霊を呼び出せて、呼び出すにはどういった儀式が必要なのか」というあたりのルールもハッキリさせておいた方が良かったと思います。

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