当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2016年7月7日放映のアメトーークを見た。テーマは、「渡部大好き芸人」である。

 このタイトルの通り、渡部を褒めちぎるのであれば「ホメ回」になってしまって笑いが起きない。
 ただ、ひとつ前の回での予告篇では、出演している面子として土田・有吉・ザキヤマ・おぎやはぎなどが見て取れた。すなわち、普段渡部をバカにしている面々ばかりが出ていたのである。このメンバーであれば、「渡部のことが大好きだ」と表面では言っておきながら、実際にはケチョンケチョンにこき下ろして笑いをとってくるという内容が期待された。そこに渡部がキレて喧嘩が始まれば、それもまた笑いになる。

 といったような感じで期待して見始めたら、案の定の展開だった。
 まず入場からして、益体もない「ホメ回」との違いを見せつけられた。ザキヤマが、ひな壇に座らずに、MCの横に座ったのである。ザキヤマはその理由を、「僕は渡部さんのことが好きじゃないからひな壇には座れない」と説明する。もう、この一言で今回の流れは決まったようなものである。
 番組が進んでいくと、渡部の仕事ぶりや私生活が紹介されていく。ひな壇の面子は、渡部の弟分と紹介されたいけだてつやも含めて、褒めているようなフリをしながら言葉を尽くして渡部をバカにする。時間が経つにつれて、だんだんとこの「褒めているようなフリ」もしなくなり、あけっぴろげに渡部をバカにするようになる。そこに渡部が「隠しきれてない」「いっそのこと直接言え」などという趣旨のツッコミを入れて、笑いが生まれる。「ケナシ回」の理想的な展開である。

 特に今回のように、一人の芸人にスポットを当ててそいつを貶す回では、ザキヤマや有吉のパフォーマンスは誇張なしに八面六臂である。彼らの適当なボケや、ボケのフリも次々と拾われて連鎖的に笑いが広がっていく。渡部の現在の彼女は誰だという話題になったときに、「佐々木健介」や「佐々木蔵之介」という適当な(もっと分かりやすく言えば、クオリティの低い)ボケでも笑いに変えられるのは、あの二人がずっとそういうことをやっていたからというのもあるが、ほとんど間をおかずにノータイムであっけらかんとボケることができているからである。並の芸人なら「こんなクオリティの低いボケを出していいのかな…」と逡巡してしまうような局面で、そういうものでもポンポンと(しかも数多く)出していく強引さは、是非とも後世に継承されていってほしい技術である。
 そこには、宮迫がツッコミで使ったたとえを借りれば、「学校の休み時間」のような楽しさがある。生放送ではないのだから、とりあえずボケを出せしておけばあとはいくらでも編集ができる。編集の材料をたくさん用意するために、クオリティをあまり気にせずにポンポンとボケを出していくのが大事なのである。シュートを打たなければ、絶対に点は入らない。

 さて、この手の笑い(さんま的な笑い、と言ってもいい)を「ワイワイ騒いでいるだけでちっとも前に進まない」などと言って嫌う人もいるが、その指摘はお門違いだと思う。少なくとも筆者は、笑いがズレから生まれるものである以上、横道に逸れて騒いでなんぼだと思っている。この人たちの「ちっとも前に進まない」という批判を真に受けると、本題を前に進めるために「本流」に戻る必要がある。ところが今回の場合、この本流とは「渡部を褒める」ことでしかないのである。ここに戻っても、それが笑いを生むものではないというのは冒頭に記した通りである。笑いを生むのであれば、横道に入ってズラしていかなければならない。そういう意味では却ってザキヤマや有吉がフザけている様子こそが本流である。にもかかわらず「さっさと本題に入らずにグダグダしている」と文句を言う人は、渡部が褒められるのを見たい人なのだろう。まあ、看板に偽りありなのはその通りだが、渡部を貶すために作られた番組で渡部が褒められるわけはないだろう。寿司屋に、ピザは置いていないのである。ピザを食べたければ、ピザ屋に行ってもらうしかない。

 というわけで、今回のオンエアは見ていて十分楽しかった。
 今回のように芸人一人にフィーチャーした回で思い出されるのは「ブラマヨ吉田を支持する会」(2015年7月23日放送)である。この回も、構造的には今回と同じく、「タイトルの段階ではその芸人を褒めることが想起される」ものだった。ただ「ブラマヨ吉田を支持する会」では、本当に吉田が擁護・支持される内容から入っており、吉田を貶す流れは後半に分かりにくい感じで持ち上がっただけであった。今回は、最初から「実際にはタイトルを無視して渡部を貶しまくる」という意図が明確だったために、見ている方も分かりやすく笑えた点が素直に評価できる。

 欲を言えば、分かりやすすぎたのが難点である。最初は、もう少し貶す意図を隠す努力をしても良かったのではないだろうか。そこに渡部が「お前本当はバカにしてるだろ」というツッコミを入れて、有吉や矢作が「いや全然」とポーカーフェイスで答えれば、「バレバレなウソをついている」という(「渡部は本当はダサい」という今回のメインテーマとは)種類の違うズレが生まれ、アクセントになる(この笑いにおいては、ボケは渡部ではなく、バレバレなウソをついている有吉や矢作の方である)。このくだりを繰り返して更に渡部から追及れた面々が、苦しい言い訳を言えばそれも別のズレになる。今回は最初から渡部をバカにするということが明確に打ち出され、そのズレ一本で1時間走り抜けたので、笑いが若干一本調子だった。ここに書いたようなアクセントも盛り込めれば、完璧である。

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