当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2024年のR-1です。

1.真輝志
 天の声として聞こえてくるナレーションがボケであり、それに本人がツッコミを入れていくスタイルでした。機械にボケを託しているという意味では陣内のネタと構造が同じです。
 ツッコミの演技力は、必要な水準に達していると思います。ボケとツッコミの1ユニットをひたすら並べて尺を埋めただけの「足し算」のネタにもなっておらず、前のボケをフリにもして後のボケに活かしていく構成も見事でした。
 最後のオチは笑いのオチではありませんでしたが、最後に笑いをとるのは難しいので、ああいう締め方もありだと思います。
 トップバッターだったのが不運でしたね。

 全体的な風貌は「きれいなアンガールズ山根」といったところだと思います。

2.ルシファー吉岡
 おもしろかったですねえ。
 いかにも婚活してそうでなおかつ貧乏くじばかり引いてそうな自分の風貌を存分に活かしたコントであり、設定にとても説得力がありました。演技力にも確かなものがあり、ネタの区切りで鳴るチャイムの音もきちんとオチをつけてくれるので、設定がそのまま演出の手助けになっていました。見事です。
 もう少し変化があっても良かった気もしますが、延々話が前に進まないのがこのネタのおもしろさの秘訣なので、ヘタな変化は付けない方がいいかもしれないですね。「話が前に進まない」なりに必要な範囲での変化は付けていたと思います。

3.街裏ぴんく
 テレビで見るのはいつだかのガキの使いの新年会依頼ですが、あの時から芸風が変わっていません。いかにも本当にあったこと風のエピソードトークを始めて、割りと早い段階で真っ赤な嘘だと分かる、というスタイルです。
 今回のエピソードトークの中に登場したのは石川啄木・正岡子規・キュリー夫人でしたが、3人の浅い部分の情報しか知らない感じを受けました。名前のおもしろさだけで笑いをとろうという下心が透けて見えます。歴史上の人物を取り扱うからには、ちゃんと深いところまで潜ったうえでネタを作って欲しいというのが個人的な希望です。

4.kento fukaya
 以前はもう少しフリップ芸らしいフリップ芸をやっていたと思いますが、今回は電子モニターを使ったフリップ芸になっていました。
 とはいえネタの本質は「マッチングアプリにこんな男がいたら嫌だ」という大喜利でした。一応ボケ回答を並べて尺を埋めただけの「足し算」のネタではなく、前のボケをフリにして後に活かす展開はあったのですが、全体的に大喜利のレベルが「おもしろい中学生」くらいに止まっていたので、そこを改善しないと上に行けないと思います。
 でも、山崎人人が最初に動き出したところは好きでしたよ。

5.寺田寛明
 YouTubeのコメント欄みたいなものが国語辞典にあったら、という設定のネタでした。このネタのフォーマットに最初に気付けたのは本人の才覚あってこそだと思います。ただ、なんとなく、ネットの業界が生み出した独自のおもしろさを利用している感じがして、若干ずるく感じしまった面はあります(テレビでネットミームの話を出しておもしろがっている感じが若干するということです)。
 その感じが出てしまうのは、本人の演技力がまだまだ足りないから、という理由もあると思います。去年よりは堂々とできてはいたと思いますが、ただただ国語の時間に先生に言われて教科書を音読させられている小学生の感じが抜けておらず、どうにも「おもしろいことができるやつ」というより「おもしろいサイトを見つけてきたやつ」に見えてしまうのです(サイトの中身も本人が考えているので本人がおもしろいことを考えられないわけはないのですが、そう見えてしまうというだけの話です)。
 まあでも、コメント欄のおもしろさを発信できたのは本人の功績なので、そこは素直に褒めるべきでしょう。ネタのおもしろさの限界も、コメント欄という文化そのもののおもしろさに引っ張られて、なかなかその上限を突破しづらくなる問題もあるとは思いますが。

6.サツマカワRPG
 ギャグのイメージが強いですが、しっかりとした一人コントでした。
 冒頭のシーンで感じる「ものすごいヤベーやつ出てきた」というわくわく感はすごいのですが、実はそれがフィクションの劇中劇だったということが明らかになり、ヤバさが目減りしてしまったのが残念です。
 終盤に見られた伏線回収(没収した防犯ブザーの利用)も鮮やかでしたが、別に笑えるわけではないのと、話相手の子どもの台詞をサツマカワ本人がそのまま言っている演出が説明的すぎて、興醒めしました。
 カツラをとってせいじみたいな地の髪型を見せてまでやりたかったのがこのネタかと思うと少し残念ではありますが、本人が良かったのならいいじゃないでしょうか。

7.吉住
 デモをする人を笑うネタです。
 こういう左翼的なものを小馬鹿にするのは実に松本人志的なのですが、デモをする人を笑う形にするのではなく、デモ云々関係なくヤバい奴だというのをもう少し分かりやすく出して欲しかったというのが個人的な意見ではあります。デモを馬鹿にするのは、今のヤバい政権を変える動きを、封じ込める力として働くからです。もう一度言いますが、あくまで個人的な意見です。笑いの題材は、何でもありであるべきです。
 こういう部分の議論を抜きにしても、題材としてあんまり新鮮味はありませんでした。デモもそれを嘲笑する文化も昔からこの国にあるからです。ちなみにそれは、権力者を小馬鹿にする左翼的な笑いにも言えることです。もっと色々な題材を探してください。

8.トンツカタン お抹茶
 一言で済ませるとしたら、「全国ネットのゴールデンでやりたいことができたら良かったんじゃないでしょうか」ということです。
 一応色々と大喜利を展開させてはいましたが、全てのスタートになっているのは「かりんとうの車」というボケです。この、4コマ漫画ならボツになりそうなボケを飲み込まないとこのネタを楽しめないので、それが一番のネックです。私は、楽しめませんでした。
 あとネタ中にずっと流れている歌の声が若干聞き取りづらいのは結構致命的だと思います。私はド頭の「かりんとうの車〜」という歌詞が「かりんとうも車〜」に聞こえて、かなり戸惑いました。

9.どくさいスイッチ企画
 アマチュアの方らしいですが、演技力は非常にちゃんとしていました。
 ネタは全体的に「ツチノコ発見者に待っている未来とは」という大喜利を延々やっているだけでした。本人が本当にツチノコを発見した人みたいな顔だったので、自分の風貌に合ったネタをできているのは良いと思います。ただ、大喜利ひとつひとつの中身は、一応完全な足し算ではなかったものの、前のボケが後のフリになっているという展開は数としては少なかったと思います。それと最後にネッシーを見つけるという大オチは嘘くさいと思ってしまいました。
 あといちいち「ツチノコ発見から○日後」というブリッジを自分で言っており、それがとても説明的に見えてしまいました。舞台上に大きなモニターみたいなものを置いて、経過日数を表示していく形でも良かったと思います。

<FINAL STAGE>
1.吉住
 鑑識の吉住が、泥棒に入られた彼氏の会社に捜査に来るという設定のコントです。上司の警部がいる時の吉住、彼氏と2人きりの時の吉住、彼氏の浮気が発覚した後の吉住という3キャラの切り替わりに面白味を見出す必要がありますが、なんかあんまりキャラの違いがハッキリしていませんでした。この手のコントは本職の役者にやらせた方が良さが出ると思ってしまいましたね。
 あと、キャラの切り替わりが大事なので、もっと頻繁に切り替える機会を作った方が良かったと思います。若干古典的にはなりますが、警部にもっと頻繁に出入りして欲しかったです。

2.街裏ぴんく
 1本目とフォーマットは丸々同じでした。
 2本目を見たうえで思いましたが、嘘なので、見る方としては求めるおもしろさ(ボケのクオリティ)のハードルは一段上がるわけです。そこを満足できていない気がします。意外と、鬼気迫るテンションと表情で誤魔化していないでしょうか。
 あとせっかくモーニング娘。を題材にしているので、彼女らが全盛期だった時代のフレーバーをもっとネタに入れた方がいいのではないかと思いました。まあ、それをちゃんとやりすぎるとネタとして綺麗になりすぎるので、本人のテンションとそりが合わなくなってはきます。

3.ルシファー吉岡
 一人芝居をやるために黒子みたいにコソコソと移動している瞬間が一番おもしろかったです。
 ピン芸ではどうしても強いられる一人芝居という手法そのものの不自然さを、劇中劇にしてしまうことで克服した画期的なネタだと思います。一本目のに対する講評でザコシが言っていたことですが、ルシファー本人の変態性を直接的な下ネタに頼らずに出せていたことも良かったと思います。

<総評>
 私は、ルシファーが優勝だと思いました。
 全体的なレベルはここ数年より明らかに上がっていましたね。芸歴制限を撤廃して裾野を広げたからでしょう。

管理人/副管理人のみ編集できます