日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼北京郊外の坦克博物館に展示されているWZ-111(砲塔未搭載)


▼WZ-111二面図。(C)坦克装甲車両


性能緒元
重量44〜46.0トン
全長10.625m(車体長10m)
全幅3.3m
全高2.497m
エンジンターボチャージドディーゼル 750hp
最高速度50km/h
航続距離400km
渡渉深度 
武装Y174 122mmライフル砲×1(32発)
 12.7mm重機関銃×1(500発)
 7.62mm機関銃×1(3,500発)
装甲砲塔:鋳造 車体:鋳造+溶接鋼板
乗員4名

【開発経緯】
中国では朝鮮戦争勃発後、ソ連からT-34/85中戦車300両と共に、IS-2重戦車60両、ISU-15自走砲40両を調達、日本や国民政府軍からの捕獲車両中心であった旧式な装甲戦力の近代化に着手することとなった。これらの戦車や自走砲は朝鮮半島に派遣された抗美援朝義勇軍にも配備され、実戦を経験することとなり、山がちな朝鮮半島の地形において有効な戦力として機能し中国軍に装甲戦力の重要性を認識させることとなった。ソ連は、これ以降重戦車の供給を行うことは無かったが、IS-2重戦車とISU-152自走砲は、その後1980年代になるまで中国軍で運用されることになった。

1960年代に入ると、政治路線の対立から中国とソ連の関係は悪化の一途をたどり、中国はそれまでの西側陣営に加えてソ連も仮想敵国として想定しなければならない状況に陥った。これを受けて中国軍は従来の防衛戦略の見直しを行い、ソ連と国境を接する「三北」(東北、華北、西北地方)に装甲戦力の主力を配置すると共に大規模な縦深陣地を構築しソ連機甲軍の突破に備える事を決定した。そして大陸反抗を主張する台湾及びその最大の後援者であるアメリカと対峙する東南沿岸地域では、遼東半島と山東半島を後背地として長江と珠江デルタ地帯において敵軍の大規模上陸を迎え撃つこととされた。国防戦略の見直しと同時に、陸軍の装備の近代化も決定され、既存の戦車戦力を代替する新戦車開発が実施されることになった。この決定を受けて開発されたのが、69式戦車(WZ-121)132型軽戦車(WZ-132)、超軽量空挺戦車、そして本稿で取り上げる111型重戦車(WZ-111)等の各種車両である。ただし、文化大革命の混乱はこれらの車両の開発に深刻な影響を与え、結果的に69式戦車を例外として、これらの車両は試作に終わることとなった。

111型重戦車(WZ-111)は、IS-2重戦車の後継車両でありソ連の戦車部隊に対抗する新型重戦車としての実用化が期待された。WZ-111の開発は1963年に開始され、1965年には試製1号車の完成に漕ぎ着けている。

【設計の特徴とその性能】
本車の設計は、ソ連が1950年代に開発したT-10重戦車に強い影響を受けており、車体や砲塔のデザインはT-10に範を取ったものとなっている。ただし、総重量はT-10が51.5tなのに対して、WZ-111は44〜46tとやや軽量になっている。車体サイズは、従来の鉄道インフラでの輸送に支障のない様に、極力小型化が図られたとのこと。砲塔は鋳造、車体は鋳造+溶接構造となっており、T-10と同じく避弾傾始に留意した設計が取り入れられており、装甲防御能力は59式戦車(WZ-120/ZTZ-59/T-54)やアメリカのM60戦車を上回るものを実現したとされる。搭乗員は、車長、装填手、砲手、操縦手の4名。操縦手は車体前方中央に搭乗する。この形式は、操縦手が車体間隔を把握しやすい利点があり、中国軍の戦車ではIS-2に続いて採用されたが、その後30年近くたって90-II式戦車(MBT-2000/アル・ハーリド)で再び採用されるまで、中国軍では取り入れられることは無かった。操縦系統には油気圧式パワーステアリングが採用され、操縦手の疲労軽減が図られた。

エンジンは、ソ連からライセンス権を購入して国産化していたV-54ディーゼルエンジンに過給機を装備して出力を強化したもので、最高出力750馬力を達成した。これは当時の中国の戦車用エンジンでは最高の出力で、WZ-111の出力/重量比は59式戦車や69式戦車よりも良好な物となり、1980年代に開発された88式主力戦車に迫るものとなった。最高速度は時速50km。幅広の履帯を採用したこともあって、不整地での機動性も59式戦車に遜色のない水準を達成した。燃料タンクは動力部の底部に設けられており、内部燃料のみでの航続距離は400kmであるが、外部燃料タンクを装着して航続距離を延長することも可能。エンジン排気は、ラジエーターと組み合わせて内外の温度差を作り、これを利用して排出する方式を採用している。これは、エンジンの騒音を低減し動力部の構想を簡単に出来る利点があったが、ラジエーターの冷却効率が強制冷却方式に比べて劣ることから、WZ-111以外にこの方式を採用したのは63式装甲兵員輸送車に留まった。

WZ-111の主兵装は、Y-174型122mm砲をベースに開発された122mm戦車砲である。122mm戦車砲の俯仰角は油気圧式を採用しており、砲スタビライザーが装備されている。砲弾は分離装薬型と見られおり、装填補助装置が採用されている。砲弾の搭載数は、32発。アクティブ式赤外線暗視装置が標準搭載されており、夜間において1,000m以上の探知能力を有している。副武装としては、砲塔上面に対空用の12.7mm重機関銃1挺、同軸機関銃として7.62mm機関銃1挺が設けられている。

WZ-111では、核戦争化での運用を考慮してNBC防護装置を標準装備しており、核兵器や化学/生物兵器が使用された状況下でも運用が可能となった。このほか、地雷探知装置が装備され、対戦車地雷を検出する能力が付与された。これは、中国軍では初めての装備であったが、これ以降の中国戦車ではこの種の装備を採用したとの話は無いため、試作段階に留まったのでは無いかと思われる。

【開発中止とその後】
WZ-111は試製車両の完成後、実用化を目指した実用試験段階に入った。しかし、重戦車というカテゴリーが各国で姿を消しつつあり、それに代わる存在として主力戦車が登場していた状況が考慮され、戦車開発の再検討が行われた結果、WZ-111の開発は中断されることが決定された。WZ-111に代わって、中国版主力戦車として開発が行われる事になったのが122型戦車(WZ-122)である。一両だけ製作されたWZ-111の試製車両は、現在北京郊外に在る坦克博物館に展示されている。ただし、この車両は砲塔が搭載されておらず、車体のみの展示となっている。

【参考資料】
坦克装甲車両 総第240期2006年第2期「欲與天公試比高-中国研制的WZ111重型坦克」(孔凡清・将言・王麗琴/坦克装甲車両雑誌社)
戦場Volume7 「中国重型坦克作戦史」(唐毓晋/遼寧音像出版社)

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