日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼動画:Eurasia Naval Insight「China's 'Carrier Killer' Anti-ship Ballistic Missiles - an Overview」(2023年2月7日)。中国ASBMの概要紹介動画。DF-26、DF-21D、DF-17、YJ-21、ASBMを支えるシステムなどを紹介。


性能緒元(性能は諸説あり)
重量15〜20t前後
全長約10.7m
直径約1.4m
推進装置二段式固体燃料ロケットモーター
最大射程米側推測1,450〜1,550km/中国側情報2,000〜2,700km
誘導システム中間:慣性航法誘導+衛星位置測定システム+データリンク修正、終末:アクティブ・レーダー誘導+赤外線
命中精度CEP10〜40m
弾頭重量1,700〜2,000kg

DF-21D(東風21D。米国防総省コードCSS-5 MOD 5)は、中国第一世代のASBM(anti-ship ballistic missile:対艦弾道ミサイル)[1][2]。ASBMはソ連でも開発が試みられていたが、こちらは実用化には至らず、部隊配備にまでこぎつけたのはDF-21Dが世界初となる[1][3]。

【開発から配備まで】
1990年代の中国では、冷戦終結後の国際状況において想起する可能性のある戦争の形態は「海上における局部戦争(限定戦争)」になるだろうとの見解が示されていた。そこで用いられる戦力投射手段として海軍の役割が重要になることが考えられた[4]。この想定された「海上における局部戦争」において中核戦力となると見なされたのが、アメリカ海軍の空母戦闘群であった[5]。

この空母部隊の活動をいかにして抑え込むかは中国に求められた重要課題であり、それが可能になれば戦争決断のハードルを高めることでアメリカの介入を抑止する「戦わずしてその人を制す」ことに繋がるとされた[5]。しかし、既存の対艦ミサイルや巡航ミサイルではその射程は長いものでも400km程度であり、米海軍の空母戦闘群が有する500kmの交戦半径を考えると、防衛側の攻撃に先んじて空母戦闘群からの先制攻撃を受けることは避けられないと見なされた[5]。この問題を解消する手段の一つとして選択されたのが、有効射程2,000kmに達するASBMの開発であった[5]。

もし、これが実現できれば、空母戦闘群が戦闘を開始する前の段階で先制攻撃を実施することが可能となり、アメリカ海軍が中国近海に接近するのを抑止し得ることになる。無論、それはASBM単独では無理な話であり、捜索-追尾-攻撃-戦果判定の各工程を体系化した海洋防衛システムの一要素としてASBMを位置付けることで初めて空母戦闘群に対して有効な抑止効果を発揮し得るもので、DF-21Dの開発も上記の様な大状況を踏まえて考察する必要がある[5]。

DF-21Dの存在が初めて報じられたのは2005年のアメリカ国防省による中国の軍事力に関する年次報告の中においてだった[5][6]。2010年には、DF-21Dの配備が開始されたと見られ、同年12月には米太平洋艦隊司令官であるウィラード大将が日本の朝日新聞の取材に対して、中国のASBMが初期運用能力 initial operational capability (IOC)段階に達しているとの見解を示した[6]。

2013年1月末には、Googleマップの衛星写真においてゴビ砂漠の中に200屬糧行甲板を模した標的の存在が発見され、その標的に弾着を示す二つのクレーターが形成されているのが確認された[7][8]。これは、中国軍が初めて実施したDF-21Dを用いた米空母への模擬攻撃訓練であると報じられた。2014年に入ると、中国のネット上に退役した053H型フリゲイト(ジャンフーI型/江滬I型)の鎮江(#514)が標的艦として用いられた際の写真がアップされた[8]。この写真では、艦橋構造物が大破した上に、その直下の舷側に大きな湾曲が生じていた。これは直上から高速で突入した兵器の直撃を受けて生じた破壊であると推測され、着弾したのはASBMの可能性があるとされた[8]。

DF-21Dの存在が公にされたのは2015年9月3日に北京で挙行された軍事パレードにおいてであり、ロケット軍(2015年に第二砲兵から改称)所属の16輌のDF-21DのTEL(transporter erector launcher.輸送起立発射機)車輛がパレードに参加してその存在を披露することとなった[5]。同じパレードでは対地/対艦兼用のDF-26中距離弾道ミサイル/対艦弾道ミサイル(東風26/CH-SS-18)も登場し、中国が二種類のASBMを開発したことが国内外に示された[1]。

2019年ごろから、洋上におけるASBMの発射試験が報じられるようになった。2020年8月26日に南シナ海で実施された演習では、青海省の陣地からDF-26、浙江省の陣地からDF-21Dと、二種類のASBMが発射され、この二発のミサイルが西沙/パラセル諸島近海を航行中の標的艦に命中したと伝えられた[8]。

DF-21Dは、南部戦区のロケット軍第624旅団(海南省儋州基地)、北部戦区のロケット軍第653旅団(山東省莱蕪基地)に配備されている[9]。また、DF-21Dを基にして空中投射型のYJ-21空対艦弾道ミサイル(鷹撃21/CH-AS-X-13)が開発されたと見られている。

【性能:TEL車輛】
DF-21Dの開発では、先行して開発・配備が成され2009年の軍事パレードで公開されたDF-21C MRBMと共通するところが多く、DF-21Cを基礎としてASBMとして開発されたと指摘されている[5]。

DF-21C/Dは、10輪式のWS-2500 TEL車輛にミサイル本体を収納した円筒形のミサイルランチャーを一基搭載している[10]。ミサイルランチャーは僅かに上向きになるように搭載しているが、これが水平に積むよりも車体長を短縮できるため[5]。WS-2500の最大ペイロードは28t[11]。

従来のDF-21/A/Bが12輪式のセミトレーラーにランチャーを搭載してHY473 (82式) 6X6重トラックで牽引していたのに対して、DF-21C/DはTEL車輛を用いたことで路上最高速度と野外走破性を向上させ、旋回時の展開半径も大幅に縮小される成果を得ている [5][11]。ミサイルと発射機、そして輸送車が一体化したTEL車輛は敵の索敵を避けながら持続的に攻撃を行うことが可能であり、1991年の湾岸戦争においてイラク軍のMAZ-543型TEL車輛を用いたスカッドミサイルが、制空権を多国籍軍に抑えられた状況下で高い生残性を発揮したことで証明されている[12]。中国は湾岸戦争におけるTEL車輛の有用性に強い印象を受け、旧ソ連におけるTEL車輛開発を担当していたベラルーシのミンスク自動車工場(MAZ社)からの技術移転を受ける形で開発されたTEL車輛の一種類がWS-2500である[12]。

DF-21CとDF-21Dの外観上の識別点として最も確実なのは、ミサイルランチャー底部の形状である。DF-21Cが発射時にランチャーを安定させるための油気圧ジャッキ4基を装備しているのに対して、DF-21Dのランチャー底部は外部装備がなく丸みを帯びた底板に変更されている[5]。ジャッキを廃したことでミサイルの発射に要する時間の短縮に繋がったとされる[5]。

【性能◆Д潺汽ぅ詼楝痢
DF-21C/Dは固体燃料を用いた二段式ロケットで、二段目は大気圏に再突入後に軌道変更が可能なMaRV(Maneuverable Reentry Vehicle: 終末機動弾頭)となっている[1][5]。DF-21Dの二段目の詳細な形状は不明な点が多いが、技術的な関連性の強いDF-21Cでは二段目の弾体に大気圏内での軌道修正用の制御翼が装着されていることから、DF-21DもMaRVであると考えられている[1][10]。制御翼以外にも姿勢修正用のスラスタも内蔵されていると見られている[1]。

予想されるDF-21Dの攻撃手順としては、‘手した目標の初期位置の情報に基づき、地上から発射され、J物線を描きながら上昇し、切り離された二段目が大気圏内に再突入。D名錣任△譴个修里泙淬篤擦鯢舛い胴濂爾垢襪、MaRV能力を生かして終末段階に入る前に、ぅ好薀好燭砲茲蟷兩を整え効果角度を水平に近くして(中国語では「弾頭-巡航弾道」と称されている[5])、ソ末段階ではレーダーの誘導に従い、制御翼により起動し、最終的な目標の位置に弾着する、経過をたどると考えられている[1][5]。

MaRVであることは共通であるが、地上の固定目標の打撃を行うDF-21Cと、洋上を高速で航行する空母をターゲットとするDF-21Dでは、要求される命中精度は段違いなものとなる。まず、洋上を移動する空母戦闘群の位置を特定しなければミサイルを発射すること自体が叶わず、さらに高速航行することで初期位置から大きく離れてしまう事を考慮しなければならない。DF-21Cの命中精度が、CEP(Circular Error Probability、平均誤差半径)100m未満であるのに対して、全長200m程度、全幅数十mの空母に命中させるには、必要なCEPは10m程度となり、最終段階での精密誘導を可能とする終末誘導システムとの連携が不可欠となる[5]。

【性能:誘導システム】
DF-21Dの誘導システムは、中間段階ではDF-21Cと同様に慣性航法システムとGPS/「北斗」衛星位置測定システムの併用で、データリンクを介した軌道修正を受けつつ、終末段階ではアクティブ・レーダー誘導と赤外線誘導システムのどちらか、もしくは両者を併用していると考えられている[1][5][13](19-20頁)。遠隔地で航行中の艦艇を狙うには、初期位置の情報のみならず、移動中の位置を随時探知してミサイルに送信することで軌道を修正することが求められることも指摘する必要がある[5]。

ここで問題となるのが、大気圏内に再突入する際に発生する摩擦熱の存在である。マッハ6〜10のスピードで大気圏再突入する弾頭部は高度75kmにまで降下すると、空気の抵抗と摩擦熱により表面温度は1000度以上に達し、空気は高熱によりイオン・プラズマ化して電波に影響を及ぼすようになり、外部との通信およびレーダーや赤外線センサーによる探知が困難になってしまう[5][13](20頁)[14]。このスピードでは軌道修正もままならないため、スラスタを用いた再突入速度の減速が必要となり、再突入速度を秒速4kmにすると上記の問題は抑えられると見られている[13](20頁)。ただし、あまり速度を下げ過ぎてしまうと、空母戦闘群の護衛艦艇による迎撃が容易になってしまうため、その速度をどの程度に設定するかの見積もりが重要となる[8]。

弾頭部の設計においてはこの高熱への対応が重要な課題であり、DF-21Dのセンサー収納部は高温に耐える抗湛性を備えながら、良好なレーダー波透過性能を有することが求められた[5]。そのため、これらのセンサーは最も加熱度が高い先端部ではなく弾頭側面に配置され、さらに冷却機構を組み込むことで装置の破損を防ぐとともに、赤外線センサーの使用を可能とすると推測されている[5]。

もう一つの対策が通信アンテナの保護であった[14]。高熱に耐えながら通信機能を維持することが可能で、ミサイル搭載を踏まえた軽量化も追及された[14]。中国では2010年代にこれらの要素を兼ね備えた通信アンテナの実用化に成功し、これにより高熱での飛行時においての通信が実現し、「北斗」衛星位置測定システムによる中間誘導やデータリンクを介した軌道修正などが可能となった。

DF-21Dの射程はアメリカでは1,450〜1,550kmと見積もられているが、中国側の情報では射程2,000〜2,700kmとの情報もあり確定は困難[5][10]。2,000kmを超える射程があれば、中国本土から西太平洋や南シナ海に展開する米空母戦闘群を射程に収めることが可能となり、その接近を抑止することが可能となると中国側では考えている[5]。

前述の通り、終末段階での精密誘導段階では、アクティブ・レーダー誘導と赤外線誘導システムのどちらか、もしくは併用が成されると見られている。これは洋上の点に等しい空母への着弾を確実にするために必要な手段である。資料[13]では、航空機に搭載されるレーダーの探知範囲を参考に DF-21D のレーダーの探知範囲を 約300kmと見積もっている[1][13](20頁)。空母戦闘群の退避速力を加味しても、目標の 50km 手前から終末誘導を開始した場合、空母は同ミサイルを回避することが困難になるとの結論に達している[1]。

【性能ぁ弾頭の種類】
DF-21Dの弾頭重量に関する公式データは確認されていないが、技術的共通性の高いDF-21Cは射程を前タイプより抑える代わりに弾頭重量を最大2,000kgに増している[10]。資料[13](21-24頁)では、射程2,000〜2,200kmの場合、弾頭重量1,700kgになるとの推定値を提示している。

弾頭については通常弾頭を搭載しているが、資料[13](17-18頁)ではASBM の役割を担うには、空母の強固な構造の⾶行甲板を貫通し、重⼤な損傷を与えるように設計されている単弾頭が必要とする一方で、もう一つの可能性を示している。それは、多数の子弾を封入したクラスター弾頭である。これを用いた場合、直撃が必要な単弾頭よりも低い命中精度でも、飛行甲板上の航空機、機器や電子機器に軽微ながら広範囲にわたる被害をもたらすことで、空母の機能を制圧し得ると指摘している。

その後、ゴビ砂漠の射爆場において空母を模した標的に弾着を表す単一のクレーターを形成している衛星写真が撮影されたことで、少なくとも空母への直撃を意図したDF-21Dの単弾頭が存在することは立証されることとなった[7]。

DF-21Dの弾頭部には攻撃用弾頭以外にも、迎撃側の負担を増すために複数種類のデゴイが搭載されている可能性も指摘されている [5]。考えらえるデゴイとしては、本物の弾頭に擬装したデゴイ弾頭、レーダー妨害用のチャフ、本物の弾頭にもデゴイ弾頭と区別できなくなる擬装が施されていると見られている[5]。

弾頭の種類や構成については上記のように諸説あるので、今後の情報が待たれるところ。

【目標探知手段について】
ASBMの運用においてDF-21Dはその構成要素の一部に過ぎず、広い海洋で空母戦闘群を発見するISR(intelligence, surveillance, and reconnaissance:諜報、監視、偵察)能力の確立、複数の軍種の枠を超えた横断的運用の実現、多様なプラットフォーム・センサー群を有機的に統合して運用するためのインフラとなるデータリンク網や指揮統制システムの構築、攻撃実施後の戦果確認に至るまでの巨大な体系の構築が求められる[13](7-17頁)。

その体系の一つとして、これまで中国が営々と構築に努力して、2015年に設立した戦略支援部隊が管轄(同部隊は2024年4月19日に分割・改組されて情報支援部隊に再編[23])する人工衛星群による広域・遠距離探知能力の存在が挙げられる[15]。

ASBMは、地上の固定目標を攻撃するのとは異なり、広大な海洋を移動する空母艦隊が目標となるため。その攻撃には、空母の概略の位置情報を入手して、目標が確実に空母であるかを識別し、追尾することが必須である[1][5][13](7-17頁)。そもそも空母の位置が分からなければ、発射方向を定めることもできない[1]。つまり、ASBMのセンサーが空母を捕捉できるように発射する必要があり、そのためには、ミサイル本体とは別に ISRセンサーと情報をやり取りするデータリンクシステムを必要とする[1][5]。

広域探知能力の高い人工衛星としては、空母の電波を探知して概略位置を提供するエリント衛星、全天候性能を有する合成開口レーダー(SAR)衛星、SAR衛星より鮮明な画像を撮影可能な光学画像衛星などが活用される[1][13](9-16頁)。地上配置レーダーとしては覆域1,000〜4,000kmのOTH-Bが活用されるとみられるが、こちらは空母と他の艦艇の識別や情報の補正が難しいという特性があり、衛星など他のISRセンサーとの連携が必須となる[1][7][13](7-9,34-37頁)。

戦略支援部隊(現 情報支援部隊)のISRセンサーに加えて、空軍が保有するWZ-8無人偵察機も詳細な目標情報の収集に活用され、探知情報の確定に生かされる [1][8][16]。WZ-8はロケット推進による高速飛行が可能な無人偵察機であり、H-6N爆撃機に搭載されて、外洋まで進出後に母機と切り離されて偵察任務に従事する[8]。

海軍が保有する艦艇や艦載ヘリコプターの目標探知距離は、艦載ヘリで200〜300kmまで、一部の艦艇が搭載するOHTレーダーを用いても理論上は300〜400km、実際には200km程度に留まっており、ASBMの長大な射程を生かすには他の広域探知能力の活用が不可欠となる[1][13](14-17頁)[16]。それを担うのが、戦略支援部隊(現 情報支援部隊)が管轄する人工衛星群や地上配置のOHTレーダー網、空軍の無人偵察機の存在となる[7]。これらのISRセンサー群の存在により、ASBMの射撃と目標への命中が保証され、その長射程と高い打撃能力を最大限に発揮することが可能となる[13](17頁)。このほかに、自己位置の測定に用いる「北斗」衛星位置測定システム、通信衛星による広域データリンクシステムなどもASBMの能力発揮において重要な役割を果たす。

これらのIRSセンサー群はそれぞれ長所と短所があるので、それを組み合わせてそれぞれの特性を生かして活用することで初めて遠洋の空母戦闘群を持続的に監視・追跡することが可能となる[7]。そのためには何系統もあるISRセンサー群を適材適所に配置し、効率的に運用できる一元的指揮機構の存在が不可欠となる[7]。それを担当するのは2015年の軍制改革で登場した戦略支援部隊である[22]。戦略支援部隊(現 情報支援部隊)は中国中央軍事委員会の直属機構として、中国の宇宙ISRセンサー群とネットワーク作戦における情報収集と分析を担当する統一組織として設立され、ロケット軍を支える情報インフラとしての機能を果たすことになる[22]。これらのハード面とソフト面の蓄積により、南シナ海を含む中国近海では平時においてアメリカ空母打撃群の動向を常時・継続的に探知可能な能力を有すると判断されている[17]。ロケット軍のDF-21D(1,500km以上)やDF-26(射程3,000〜4,000km)といったASBMの存在を考慮すると、米軍基地のあるグァム島周辺海域までを含む西太平洋までを探知圏内に含めることが出来ていると判断されている。

【DF-21D配備の意義】
DF-21Dを配備するミサイル旅団は、12〜17輌のTEL車輛を配備している[7]。中国本土から2,000km離れた海域に約15分間でミサイルを着弾させる能力を有しているが、これは航空機や巡航ミサイルといった他の手段では達成困難な迅速な打撃速度であり、長射程と即応性という弾道ミサイルを用いる上での利点を浮き彫りにしている[7]。

DF-21Dが中国近海への米空母戦闘群の接近を抑止する効果として見込まれるのは、戦争決断へのハードルを上げることのみならず、より遠距離からの艦載機発艦を強いることで、航空機の出動ペースに制約を加える点も指摘されている[18]。DF-21Dの射程1,500〜2,000km台という射程は、南シナ海から台湾を経て東シナ海に至る第一列島線を完全にカバーし、さらにその外側に位置する第二列島線の西側までが射程に入っている。仮に、中国の弾道ミサイルや巡航ミサイル攻撃により米軍の前線基地が破壊され、空母戦闘群がDF-21Dの射程外となるグァム島近海から作戦を遂行した場合、作戦半径は2250海里となり、作戦機の一日あたりの出撃回数は1.79回に制限される。これは作戦半径500kmの場合の3.94回よりも大幅に出撃回数が減少しているのを示している[18]。前線基地が破壊されるということは、空中給油機やAEW&C機の運用にも支障を来すことに繋がり、戦力発揮において大きな足かせとなり得る[18]。

アメリカでは、中国の海上戦略である近海防御戦略について、南/東シナ海を中心とする中国沿岸から太平洋までの第一列島線内での接近阻止、マリアナ諸島からカロリン諸島を連ねる第二列島線の海域での領域阻止を目ざすA2/AD戦略を採っているとする[4]。DF-21Dの射程は、この戦略によく適応したものであり、弾道ミサイル特有の長射程と高速性を生かした打撃手段として機能することとなる。

海軍や空軍力のみならず、従来戦略任務部隊であった第二砲兵(ロケット軍)も対艦攻撃任務に就くことについては、着目すべき二つの点が存在する。

一つは、圧倒的な米空母戦闘群に対する非対称戦の手段としてのASBMである。中国海軍では長期計画として空母艦隊の建設を進めているが、これは数十年間に渡る時間と巨額の投資を必要とする計画であり、2010〜20年代の間にアメリカとパリティとなる空母戦力を構築するのは不可能であるのは言を俟たない。故に、中国は、陸上基地で運用される航空機、潜水艦や水上艦艇など各種プラットフォームから投射される対艦ミサイルや巡航ミサイルなどを用いて米海軍に対する重層的な攻撃手段を構築しており、ここにASBMが加われば、この重層的対艦攻撃手段をさらに強固なものにし得る。

長射程と高速性を兼ね備えた弾道ミサイルは、軍事的に優勢な敵に対しても、制空権や制海権が確保できない状況下においても相手に打撃を与え得る存在であり、巡航ミサイルなど他手段との連携により防衛側にかける負荷を極大化することが狙い得る。費用の面での非対称性も無視できない要素であり、DF-21Dのミサイル一発当たりの単価は一億ドルとされ、艦載機を含めれば200億ドルを超える航空母艦とは比較にならない費用の差が存在する[7]。

もう一つの着目点は、弾道ミサイルという兵器が中国において持つ意味である。中国にとって弾道ミサイルは、1950年代以来、核兵器と共に国防の重要項目として、乏しい国防資源を集中投下して作り上げてきた自力更生の兵器であり、自国の保有する兵器システムとして活用可能な存在であった。さらに、ソ連との中距離核戦力全廃条約(2019年に失効)の履行後にMRBMを全廃したアメリカに対して、中国はMRBMの改良を継続していたことから、アメリカには存在せず中国のみが保有するという点でも非対称性を有する兵器であった。

第一・第二列島におけるアメリカの介入を抑止・阻止する近海防御戦略において、非対称戦の投射手段の一角を構成する兵器として中国はASBMを実用化した。さらに、艦艇に搭載されたミサイル防衛システムに対する突破能力を高めるため、弾道の機動予測が困難なうえに迎撃までの時間がさらに少なくなる極超音速兵器の開発も進めており、2020年にはDF-17極超音速ミサイル(射程1,800〜2,500km)の実戦配備に漕ぎつけている[19]。

これに対し、アメリカは中国のA2/AD戦略に対抗するため、艦隊の分散化により攻撃対象を絞り難くする、空母艦隊に対する索敵-通信の一連のキルチェーンの連なりを破壊することで探知そのものを妨害する、ミサイル防衛システムの能力向上やレーザー兵器システムの開発といった直接的防御能力の向上などの措置を講じつつある。

【近海防衛・遠海護衛戦略におけるASBMの立ち位置】
ASBMを実用化するにあたっては、ロケット軍・海軍・空軍・戦略支援部隊といった軍種を超えた統合運用の実現、空母を発見するためのISRセンサー網の存在、多数の衛星による探知とデータリンク網の構築、各種兵器システムとの連携といった、いくつもの前提を乗り越える必要がある。これを構築するには長い時間を要したが、それが実現されたことで近海防御戦略を実施するための諸インフラが整えられた意義は大きなものがある。

中国では、21世紀になると中国の近海における接近阻止戦略である近海防御戦略に加えて、シーレーンの護衛や平時におけるプレゼンスの手段として海軍戦力の遠距離投射能力の向上を意図した「近海防衛・遠海護衛戦略」を追求するようになる。

これはいわば「非対称戦」から「対称戦」への戦略の展開というべきものである。対称戦を戦い得る戦力の構築には非常に長い時間を要するが、それが構築されれば目に見える形で有効な抑止力となり、国家のプレゼンス発揮においても重要な手段となる[20]。その象徴となるのが戦力投射プラットフォームとして高い能力を備えた空母艦隊の整備であった[21]。2030年代半ばには原子力空母をローテーションで常時投入するだけの戦力を構築できるとの見通しもなされているが、様々な過程が順調に進んだとしてもそれは一朝一夕に達成できる目標ではなく、膨大な時間と投資と経験の蓄積が必要なのは確かである[21]。

この「対称戦」戦力の構築までの時間を確保する「非対称戦」戦力の一角として機能するのがASBMとなる。第一世代のDF-21Dは、第一列島線から第二列島線の一部を対象としてそこへの接近を抑止する兵器として実用化された。DF-21Dに続いて登場したDF-26は第二列島線を広範にカバーし、米軍基地のあるグァム島からアメリカとの関係の深いオーストラリア北端、インド洋に至る海域を射程圏内に収めるに至った。DF-21DとDF-26が近海防御戦略の縦深防御の外縁を担う存在であるとするなら、空中投射型のYJ-21空対艦弾道ミサイル(鷹撃21/CH-AS-X-13)や艦艇発射型のYJ-21艦対艦弾道ミサイル(鷹撃21)は、近海防御の枠からはみ出して海域を選ばず投射することが出来る対艦弾道ミサイルへの道を切り開き始めたものと考えることが出来るだろう。

DF-21D、DF-26といった第一世代のASBMに続いて、DF-17極超音速ミサイルが登場している。この極超音速滑空体(Hypersonic glide vehicle:HGV)がDF-21DやDF-26と統合される可能性も指摘されており、これが実現すれば両ASBMの遠距離打撃能力はさらに向上することになり、今後の動向が注目される[19]。

【参考資料】
[1]山下奈々「【研究ノート】中国の ASBM の開発動向― DF-21D を中心に ―」『海幹校戦略研究特別号』(通巻第 19 号) (海上自衛隊幹部学校 [編] /2020年4月/116-135頁 https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/ssg20... ,116-118頁参照
[2]Missile Threat「DF-21 (CSS-5)」 https://missilethreat.csis.org/missile/df-21/
[3]兰顺正「红海惊魂-重回焦点的反舰道导弹」『舰载武器-军事评论』2024.02B(中国船舶重工集团有限公司/42-47頁)
[4]山内俊秀「中国海軍の発展と課題」(村井友秀・阿部純一・浅野亮・安田淳 編著『中国をめぐる安全保障』ミネルヴァ書房/2007年/172-195頁)181-182頁参照
[5]「战略打击模块-第二方队—东风-21D反舰弹道弹」(『兵工科技 2015年甦典藏版:1945-2015纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利70周年大阅兵』兵工科技杂志社/79-83頁)
[6]河村雅美「中国の対艦弾道ミサイル開発に関する最近の報道について」(益財団法人水交会-Newsletter 005/最新アップデート2023年1月.25日)
https://suikoukai-jp.com/suikoukai/wp-content/uplo...
[7]河津幸英『図説 徹底検証アメリカ海軍の全貌-対中国作戦と新型軍艦』(アリアドネ企画/2016年5月10日)122-148頁参照
[8]MDC軍武狂人夢「中國反艦彈道導彈/鄰近空間高超聲速反艦導彈」http://www.mdc.idv.tw/mdc/navy/china/china-asbm.ht...
[9]荒木雅也「中国空軍総覧」(『現代中国人民解放軍 総覧』(アルゴノーツ社/2023年9月28日/215-240頁)229-233頁参照
[10] ArmyRecognition.com「DF-21C medium-range road-mobile ballistic missile DF-21D ASBM anti-ship ballistic missile」(2018 年 9 月 29 日)
[11]ArmyRecognition.com「DF-21 / DF-21A (CSS-5) / DF-21B medium-range road-mobile ballistic missile」(2018 年 9 月 29 日) https://armyrecognition.com/china_chinese_army_mis...
[12]驱动视界「98年白俄与我国合作重型卡车,打破西方封锁,加速东风导弹崛起」(2022年4月3日) http://www.qdsj.net.cn/view/5-2433-1.shtml
[13]S. Chandrashekar, R. N. Ganesh, C. R. Raghunath, Rajaram Nagappa, N.Ramani and Lalitha Sundaresan「China’s Anti-Ship Ballistic Missile: GameChanger in the Pacific Ocean」『National Institute of Advanced Studies』(2011年11月)http://isssp.in/wp-content/uploads/2013/01/2011-no...
[14]李燄「短时高温工作的透波隔热天线罩设计」(参考网/2018年2月5日)https://m.fx361.com/news/2018/0205/2839909.html,易网「全球仅中国掌握,高超音速导弹天线罩,美国花费10年也没造出来」(胖福的小木屋/2024年3月21日)https://m.163.com/dy/article/ITREQQV0053299CD.html...お砂糖wsnbn@sugar_wsnbn 2024年3月15日のツイートhttps://twitter.com/sugar_wsnbn/status/17684245473...
[15]凤凰网「解放军罕见曝光“鹰击-21”高超反舰导弹性能参数!还透露一个重要消息」(李岩/2023年2月3日)
[16]捜狐「全程6倍音速、末段10倍!中国YJ-21型高超音速反舰导弹首次公开」(军武次位面/2023年2月1日)https://www.sohu.com/a/636126438_120542825
[17]山形大介「実戦配備進む中国の極超音速兵器」『軍事研究2022年月号別冊−現代の戦略攻撃兵器』(Japan Military Review)44〜51頁
[18]天鹰「游荡的守卫者--远程巡航飞弹在反介入战场的重要作用(上)」『舰载武器−军事评论』2024.03B/No.430 (中国船舶集团有限公司/31-36頁)
[19]山形大介「実戦配備進む中国の極超音速兵器-アメリカに先行する極超音速滑空体/対艦弾道ミサイルと空中発射弾道ミサイル」『軍事研究2022年7月号別冊「現代の戦略攻撃兵器」』(Japan Military Review/44-51頁)
[20]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想-戦闘機への資源配分を最優先!最終目標は日米航空戦力を駆逐」『軍事研究』2015年2月号(Japan Military Review/28-39頁)
[21]天鹰「更深的蓝—从战略需求看中国海军航母装备未来发展」『舰载武器』2024.03/No.429 (中国船舶集团有限公司/43-49頁)
[22]「從火箭軍陣地看導彈旅改革」(『漢和防務評論』2029年7月號/KANWA DEFENSE REVIEW)58〜61頁
[23]時事ドットコム「情報支援部隊が発足 習氏、現代化加速を指示―中国軍」(共同通信/2024年04月19日)https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041901283&g=...

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