日本の周辺国が装備する兵器のデータベース


▼動画:Eurasia Naval Insight「China's 'Carrier Killer' Anti-ship Ballistic Missiles - an Overview」(2023年2月7日)。中国ASBMの概要紹介動画。DF-26、DF-21D、DF-17、YJ-21、ASBMを支えるシステムなどを紹介。


性能緒元(性能は諸説あり)
ミサイル重量20t
全長約14m
直径約1.4m
推進装置二段式固体燃料ロケットモーター
最大射程3,000〜5,000km(諸説あり)
誘導システム中間:慣性航法誘導+「北斗」衛星位置測定システム+データリンク修正、終末:アクティブ・レーダー誘導+赤外線(推測)
命中精度CEP10m
弾頭重量1,000kg以上

DF-26(東風26/NATOコードネームCH-SS-18)は、射程4,000〜5,000km級のIRBM(intermediate range ballistic missile:中距離弾道ミサイル)にして、DF-21Dに続いて配備された中国第二のASBM(anti-ship ballistic missile:対艦弾道ミサイル)[1][2]。初公開は2015年9月3日に北京で挙行された軍事パレードで、DF-21D ASBMと共に登場し、中国が二種類のASBMを開発・配備したことが国内外に示された。中国の通常弾頭の弾道ミサイルで初めてグァム島を射程圏内に収めたため、「グァムキラー」の呼称が用いられることがある[4]。

【開発から配備まで】
1990年代の中国では、冷戦終結後の国際状況において想起する可能性のある戦争の形態は「海上における局部戦争(限定戦争)」になるだろうとの見解が示されていた。そこで用いられる戦力投射手段として海軍の役割が重要になることが考えられた[5]。この想定された「海上における局部戦争」において中核戦力となると見なされたのが、アメリカ海軍の空母戦闘群であった[9]。

この空母部隊の活動をいかにして抑え込むかは中国に求められた重要課題であり、それが可能になれば戦争決断のハードルを高めることでアメリカの介入を抑止する「戦わずしてその人を制す」ことに繋がるとされた[9]。しかし、既存の対艦ミサイルや巡航ミサイルではその射程は長いものでも400km程度であり、米海軍の空母戦闘群が有する500kmの交戦半径を考えると、防衛側の攻撃に先んじて空母戦闘群からの先制攻撃を受けることは避けられないと見なされた[9]。この問題を解消する手段の一つとして選択されたのが、有効射程が数千kmに達するASBMの開発であった[9]。ASBMが実現できれば、空母戦闘群が戦闘を開始する前の段階で先制攻撃することが可能となり、アメリカ海軍が中国近海に接近するのを抑止し得る。無論、それはASBM単独では無理な話であり、捜索-追尾-攻撃-戦果判定の各工程を体系化した海洋防衛システムの一要素として位置付けることで初めて空母戦闘群に対して有効な抑止効果を発揮し得るもので、中国のASBMの開発も上記の様な大状況を踏まえて考察する必要がある[9]。

中国はDF-21Dとそれに続くDF-26の実用化により、ASBMの配備に成功した。DF-21Dの1,500〜2,00kmという射程距離は、南シナ海から東シナ海にかけて、いわゆる「第一列島線」をカバーする射程を有していたが、DF-26はDF-21Dの倍以上となる4,000〜5,000km級の長射程を生かして、米軍基地のあるグァム島などを含む「第二列島線」をすっぽりと射程圏内に収めている。アメリカは、中国の近海防御戦略において第二列島線海域では、アメリカによる当該海域のコントロールを拒否する「領域拒否(/Area Denial))」を意図しているとみており、長射程の巡航ミサイルと並んでDF-26もそれを可能にするための兵器として機能することになる。

前述の通り、DF-26の存在が公にされたのは2015年9月3日に北京で挙行された軍事パレードであり、ロケット軍(2015年に第二砲兵から改称)所属のDF-21DとDF-26という二種類のASBMを搭載したTEL(transporter erector launcher.輸送起立発射機)車輛がパレードに参加してその存在を披露した。アメリカ国防総省によると、中国は2016年にDF-26の配備を開始したとされる[4]。

翌2017年初めには最初の運用試験が実施されたと見られ、2020年8月26日に南シナ海で実施された演習では、青海省の陣地からDF-26、浙江省の陣地からDF-21Dと、二種類のASBMが発射され、この二発のミサイルが西沙/パラセル諸島近海を航行中の標的艦に命中したと伝えられた[4][6]。

DF-26は、南部戦区のロケット軍第625旅団(雲南省建水基地)と第262旅団(広東省清遠基地)、西部戦区の第646基地(新疆ウイグル自治区銀川基地)、北部戦区の第 653基地(山東省菜蕪)と第666基地(河南省信陽基地)に配備されている[7]。各地に配備されTEL車輛により迅速に展開可能なDF-26は、インド洋から西太平洋に至る広大な海域を射程に収めることを可能としており、中国を仮想敵とするこれらの地域の海軍がその存在を無視できない脅威となっている。

【性能:TEL車輛】
DF-26は、12輪式の泰安HTF5680 TEL車輛にミサイル本体を収納した円筒形のミサイルランチャーを搭載している[8]。ミサイルランチャー底部はつるんとした丸みを帯びた底板となっている。これは同じASBMであるDF-21Dと共通した設計であり、ランチャーを支えるジャッキなしでの発射を可能とすることで打ち上げまでの時間短縮を図るものだとされる[9]。

ミサイルと発射機、そして輸送車が一体化したTEL車輛は敵の索敵を避けながら持続的に攻撃を行うことが可能であり、1991年の湾岸戦争においてイラク軍のMAZ-543型TEL車輛を用いたスカッドミサイルが、制空権を多国籍軍に抑えられた状況下で高い生残性を発揮したことで証明されている[12]。中国は湾岸戦争におけるTEL車輛の有用性に強い印象を受け、旧ソ連におけるTEL車輛開発を担当していたベラルーシのミンスク自動車工場(MAZ社)からの技術移転を受ける形で開発されたTEL車輛の一種類がWS-2500である[12]。

【性能◆Д潺汽ぅ詼楝痢
DF-26は全長約14m、直径約1.4m、重量20tの固体燃料式二段式ロケットで、射程はソースによって差異があるが短いもので3,000km台、多くは4,000〜5,000kmに達するとされる[1][2][6]。

一段目ロケットは大推力ロケットモーターの力を使って高速飛翔を行い、アメリカのミサイル警戒システムの一環である赤外線警戒レーダーに発見される時間を局限する[10]。二段目に当たる弾頭部は大気圏に再突入後に軌道変更が可能なMaRV(Maneuverable Reentry Vehicle: 終末機動弾頭)となっている[1]。テレビで公開されたDF-26の弾頭部は、角度の異なる円錐形をしており、尾部には大気圏内での軌道修正用の制御翼が装着されている[1]。DF-26は、高い機動性により、空母のような移動目標に対する攻撃も容易であるとされる[1]。

DF-26の攻撃手順としては、先行して配備されたDF-21Dのものと共通するところが多いと思われる。その攻撃手順としては、‘手した目標の初期位置の情報に基づき、地上から発射され、J物線を描きながら上昇し、切り離された二段目が大気圏内に再突入。C羇嵌行段階でチャフなどの欺瞞装備を展開することでミサイル防衛システムの突破可能性を高める。つ名錣涼篤札潺汽ぅ襪任△譴个修里泙淬篤擦鯢舛い胴濂爾垢襪、MaRV能力を生かして終末段階に入る前に、ぅ好薀好燭砲茲蟷兩を整え効果角度を水平に近くして(中国語では「弾頭-巡航弾道」と称されている[9])、ソ末段階ではレーダーの誘導に従い、制御翼により起動し、最終的な目標の位置に弾着する、経過をたどると考えられている[1][9][10]。

ASBMであるDF-21Dと異なり、DF-26は対艦攻撃と地上攻撃のいずれも可能であり、モジュール設計を導入したことで、任務に合わせて現場で通常弾頭と核弾頭を迅速に換装することが出来る[4]。生産途中のタイプからミサイルランチャー先端部に開閉用のヒンジが付属するようになり、これも弾頭換装作業を容易にするためのものであると推測されている[4][2]。

アメリカや台湾の情報では、DF-26はMaRVに搭載される弾頭の違いにより核弾頭搭載用(DF-26A)と対艦攻撃用(DF-26B)、そして通常弾頭型と思われるDF-26Cが存在するとの情報があるが、中国ではそれらの型式名を用いず、登場時の報道では「核/通常弾頭兼備ミサイル」と呼ばれていた[1][4][10]。この理由については、型式名の違いがないのが本当だとするとモジュール概念の導入により弾頭を容易に換装し得るため型式区別を行う必要がないためではないかと推測し得るので、今後のさらなる情報が待たれる所。


【性能:誘導システム】
DF-26は、空母任務部隊に対する攻撃に加えて、「グァムキラー」の異名の通り、グァム島にある飛行場、港湾施設、米軍基地といった重要目標に対する精密打撃能力を発揮することが想定されている[10]。それを可能とするのが、高精度かつ動目標にも対処可能な誘導システムの存在である。

DF-26の誘導システムは、中間段階ではDF-21Dと同様に慣性航法システムとGPS/「北斗」衛星位置測定システムの併用で、データリンクを介した軌道修正を受けつつ、終末段階ではアクティブ・レーダー誘導と赤外線誘導システムのどちらか、もしくは両者を併用していると考えられている[1][9][11](19-20頁)。

弾頭部の設計においては大気圏再突入時に発生する高熱への対応が重要な課題であり、DF-26のセンサー収納部DF-21Dと同じく高温に耐える抗湛性を備えながら、良好なレーダー波透過性能を有することが求められる[9]。そのため、これらのセンサーは最も加熱度が高い先端部ではなく弾頭側面に配置され、さらに冷却機構を組み込むことで装置の破損を防ぐとともに、赤外線センサーの使用を可能とすると推測されている[9]。

もう一つの対策が通信アンテナの保護であった[12]。高熱に耐えながら通信機能を維持することが可能で、ミサイル搭載を踏まえた軽量化も追及された[12]。これらの要素を兼ね備えた通信アンテナの実用化により、飛行中のデータリンク通信が実現し、「北斗」衛星位置測定システムによる中間誘導やデータリンクを介した軌道修正などが可能となった。

【性能ぁ弾頭の種類】
DF-21Dの弾頭重量については、少なくとも1,000kg以上[10]、資料[4]では1,200〜1,800kg との数字を挙げている。

対艦攻撃に際しては空母の強固な構造の⾶行甲板を貫通し、重⼤な損傷を与えるように設計されている単弾頭、飛行甲板上の航空機、機器や電子機器に軽微ながら広範囲にわたる被害をもたらすクラスター弾頭のいずれかが考えられる[11]。その後、その後、ゴビ砂漠の射爆場において空母を模した標的に弾着を表す単一のクレーターを形成している衛星写真が撮影されたことで、少なくとも空母への直撃を意図したDF-21Dの単弾頭が存在することは立証されることとなり、DF-26についても同様の単弾頭が存在すると見て良いだろう[6][13]。

DF-26の通常弾頭による地上攻撃については、飛行場や港湾施設、燃料貯蔵施設など広範囲にわたると目標を面制圧するのに適したクラスター弾頭と、司令部、停泊中の艦艇、レーダーサイトといった点目標への直撃を狙った単弾頭の両者が存在すると考えられている[10]。前者の場合は命中精度はCEP(Circular Error Probability:平均誤差半径)30m以下、後者の場合はCEP10mというASBMと同程度の高精度が求められる[10]。

この高精度は核弾頭搭載時においても有効に機能するとされる[10]。高い精度で目標に命中すれば、それだけ核弾頭の威力を抑えつつ目標を制圧できる可能性が高くなるので、複数の小型核弾頭を搭載して、ミサイル防空網突破の可能性を高めることに繋がる[10]。核兵器によるピンポイント打撃能力は、特に防御力が高い地下の強化陣地に対して有効な打撃を与えることが目指されている[10]。

DF-26やDF-21Dの弾頭部には攻撃用弾頭以外にも、迎撃側の負担を増すために複数種類のデゴイが搭載されている可能性が高い[9][10]。考えらえるデゴイとしては、本物の弾頭に擬装したデゴイ弾頭、レーダー妨害用のチャフ、本物の弾頭にもデゴイ弾頭と区別できなくなる擬装が施されていると見られている[9]。

【目標探知手段について】
ASBMの運用においてDF-21DやDF-26といったミサイルは構成要素の一部に過ぎず、広い海洋で空母戦闘群を発見するISR(intelligence, surveillance, and reconnaissance:諜報、監視、偵察)能力の確立、複数の軍種の枠を超えた横断的運用の実現、多様なプラットフォーム・センサー群を有機的に統合して運用するためのインフラとなるデータリンク網や指揮統制システムの構築、攻撃実施後の戦果確認に至るまでの巨大な体系の構築が求められる[11](7-17頁)。

その体系の一つとして、これまで中国が営々と構築に努力して、現在では情報支援部隊(2015年に設立した戦略支援部隊を2024年4月19日に分割・改組して設立)が管轄する人工衛星群による広域・遠距離探知能力の存在が挙げられる[14][22]。

ASBMは、地上の固定目標を攻撃するのとは異なり、広大な海洋を移動する空母艦隊が目標となるため。その攻撃には、空母の概略の位置情報を入手して、目標が確実に空母であるかを識別し、追尾することが必須である[1][9][11](7-17頁)。そもそも空母の位置が分からなければ、発射方向を定めることもできない[1]。つまり、ASBMのセンサーが空母を捕捉できるように発射する必要があり、そのためには、ミサイル本体とは別に ISRセンサーと情報をやり取りするデータリンクシステムを必要とする[1][9]。

広域探知能力の高い人工衛星としては、空母の電波を探知して概略位置を提供するエリント衛星、全天候性能を有する合成開口レーダー(SAR)衛星、SAR衛星より鮮明な画像を撮影可能な光学画像衛星などが活用される[1][11](9-16頁)。地上配置レーダーとしては覆域1,000〜4,000kmのOTH-Bが活用されるとみられるが、こちらは空母と他の艦艇の識別や情報の補正が難しいという特性があり、衛星など他のISRセンサーとの連携が必須となる[1][13][11](7-9,34-37頁)。

情報支援部隊のISRセンサーに加えて、空軍が保有するWZ-8無人偵察機も詳細な目標情報の収集に活用され、探知情報の確定に生かされる [1][6][15]。WZ-8はロケット推進による高速飛行が可能な無人偵察機であり、H-6N爆撃機に搭載されて、外洋まで進出後に母機と切り離されて偵察任務に従事する[6]。

海軍が保有する艦艇や艦載ヘリコプターの目標探知距離は、艦載ヘリで200〜300kmまで、一部の艦艇が搭載するOHTレーダーを用いても理論上は300〜400km、実際には200km程度に留まっており、ASBMの長大な射程を生かすには他の広域探知能力の活用が不可欠となる[1][11](14-17頁)[15]。それを担うのが、情報支援部隊が管轄する人工衛星群や地上配置のOHTレーダー網、空軍の無人偵察機の存在となる[13]。これらのISRセンサー群の存在により、ASBMの射撃と目標への命中が保証され、その長射程と高い打撃能力を最大限に発揮することが可能となる[11](17頁)。このほかに、自己位置の測定に用いる「北斗」衛星位置測定システム、通信衛星による広域データリンクシステムなどもASBMの能力発揮において重要な役割を果たす。

これらのIRSセンサー群は南シナ海を含む中国近海では平時においてアメリカ空母打撃群の動向を常時・継続的に探知可能な能力を有すると判断されている[16]。ロケット軍のDF-21D(1,500km以上)やDF-26(射程3,000〜4,000km)といったASBMの存在を考慮すると、米軍基地のあるグァム島周辺海域までを含む西太平洋までを探知圏内に含めることが出来ていると判断されている。

【DF-21D配備の意義】
DF-26を配備するミサイル旅団は、12〜18輌のTEL車輛を配備していると見られ、2020年段階で80〜100輌のDF-26のTEL車輛が存在していると見られている[4]。DF-26は、中国本土から4,000〜5,000kmも離れた海域に短時間でミサイルを着弾させる能力を有しているが、これは航空機や巡航ミサイルといった他の手段では達成困難な迅速な打撃速度であり、長射程と即応性という弾道ミサイルを用いる上での利点を浮き彫りにしている[13]。

DF-21DとDF-26が中国近海への米空母戦闘群の接近を抑止する効果として見込まれるのは、戦争決断へのハードルを上げることのみならず、より遠距離からの艦載機発艦を強いることで、航空機の出動ペースに制約を加える点も指摘されている[17]。DF-21Dは、南シナ海から台湾を経て東シナ海に至る第一列島線を完全にカバーする1,500〜2,000kmの射程を有するが、DF-26は、4,000〜5,000kmという長射程を生かして、第一列島線の外側に位置する第二列島線から、インド洋東側に至る広大な領域を射程圏内に納めている[16]。

DF-26はこれらの海域に展開する空母戦闘群と共に、米軍のアジア戦略の重要拠点であるグァム島の米軍基地に対する打撃手段としても重要な役割を果たすことになる。DF-26や巡航ミサイルといった長射程兵器によりグァム島の米空軍や米海軍の基地が使用困難な状況に陥った場合、太平洋地域におけるアメリカ軍の活動に大きな制約を来す可能性が高く、アメリカ軍の戦力発揮において大きな足かせとなり得る[17]。また、DF-26はインド洋のかなりの部分を射程圏内に納めており、発射地点によっては米軍基地のあるディエゴガルシア島に到達することもあり得るので、インド洋における米軍の展開についても影響を及ぼし得ることも考慮に入れる必要が出て来るであろう。

アメリカでは、中国の海上戦略である近海防御戦略について、南/東シナ海を中心とする中国沿岸から太平洋までの第一列島線内での接近阻止、マリアナ諸島からカロリン諸島を連ねる第二列島線の海域での領域阻止を目ざすA2/AD戦略を採っているとする[5]。DF-21DとDF-26の射程は、この戦略によく適応したものであり、弾道ミサイル特有の長射程と高速性を生かした打撃手段として機能することとなる。

第一・第二列島におけるアメリカの介入を抑止・阻止する近海防御戦略において、非対称戦の投射手段の一角を構成する兵器として中国はASBMを実用化した。さらに、艦艇に搭載されたミサイル防衛システムに対する突破能力を高めるため、弾道の機動予測が困難なうえに迎撃までの時間がさらに少なくなる極超音速兵器の開発も進めており、2020年にはDF-17極超音速ミサイル(射程1,800〜2,500km)の実戦配備に漕ぎつけている[18]。

これに対し、アメリカは中国のA2/AD戦略に対抗するため、艦隊の分散化により攻撃対象を絞り難くする、空母艦隊に対する索敵-通信の一連のキルチェーンの連なりを破壊することで探知そのものを妨害する、ミサイル防衛システムの能力向上やレーザー兵器システムの開発といった直接的防御能力の向上などの措置を講じつつある。

【近海防衛・遠海護衛戦略におけるASBMの立ち位置】
ASBMを実用化するにあたっては、ロケット軍・海軍・空軍・情報支援部隊といった軍種を超えた統合運用の実現、空母を発見するためのISRセンサー網の存在、多数の衛星による探知とデータリンク網の構築、各種兵器システムとの連携といった、いくつもの前提を乗り越える必要がある。これを構築するには長い時間を要したが、それが実現されたことで近海防御戦略を実施するための諸インフラが整えられた意義は大きなものがある。

中国では、21世紀になると中国の近海における接近阻止戦略である近海防御戦略に加えて、シーレーンの護衛や平時におけるプレゼンスの手段として海軍戦力の遠距離投射能力の向上を意図した「近海防衛・遠海護衛戦略」を追求するようになる。

これはいわば「非対称戦」から「対称戦」への戦略の展開というべきものである。対称戦を戦い得る戦力の構築には非常に長い時間を要するが、それが構築されれば目に見える形で有効な抑止力となり、国家のプレゼンス発揮においても重要な手段となる[19]。その象徴となるのが戦力投射プラットフォームとして高い能力を備えた空母艦隊の整備であった[20]。2030年代半ばには原子力空母をローテーションで常時投入するだけの戦力を構築できるとの見通しもなされているが、様々な過程が順調に進んだとしてもそれは一朝一夕に達成できる目標ではなく、膨大な時間と投資と経験の蓄積が必要なのは確かである[20]。

この「対称戦」戦力の構築までの時間を確保する「非対称戦」戦力の一角として機能するのがASBMとなる。第一世代のDF-21Dは、第一列島線から第二列島線の一部を対象としてそこへの接近を抑止する兵器として実用化された。DF-21Dに続いて登場したDF-26は第二列島線を広範にカバーし、米軍基地のあるグァム島からアメリカとの関係の深いオーストラリア北端、インド洋に至る海域を射程圏内に収めるに至った。DF-21DとDF-26が近海防御戦略の縦深防御の外縁を担う存在であるとするなら、空中投射型のYJ-21空対艦弾道ミサイル(鷹撃21/CH-AS-X-13)や艦艇発射型のYJ-21艦対艦弾道ミサイル(鷹撃21)は、近海防御の枠からはみ出して海域を選ばず投射することが出来る対艦弾道ミサイルへの道を切り開き始めたものと考えることが出来るだろう。

DF-21D、DF-26といった第一世代のASBMに続いて、DF-17極超音速ミサイルが登場している。この極超音速滑空体(Hypersonic glide vehicle:HGV)がDF-21DやDF-26と統合された可能性も指摘されており、
DF-27(CH-SS-X-24)の名称も取りざたされている[18][21]。これが実現すれば両ASBMの遠距離打撃能力はさらに向上することになり、今後の動向が注目される。

【参考資料】
[1]山下奈々「【研究ノート】中国の ASBM の開発動向― DF-21D を中心に ―」『海幹校戦略研究特別号』(通巻第 19 号) (海上自衛隊幹部学校 [編] /2020年4月/116-135頁 https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/ssg20... ,116-118頁参照
[2]The National Interest「DF-26: The Missile That Could Sink a U.S. Navy Aircraft Carrier」(Maya Carlin/2024年2月3日)https://nationalinterest.org/blog/buzz/df-26-missi...
[3]Missile Threat「DF-21 (CSS-5)」 https://missilethreat.csis.org/missile/df-21/
[4]Missile Threat「DF-26」https://missilethreat.csis.org/missile/dong-feng-2...
[5]山内俊秀「中国海軍の発展と課題」(村井友秀・阿部純一・浅野亮・安田淳 編著『中国をめぐる安全保障』ミネルヴァ書房/2007年/172-195頁)181-182頁参照
[6]MDC軍武狂人夢「中國反艦彈道導彈/鄰近空間高超聲速反艦導彈」http://www.mdc.idv.tw/mdc/navy/china/china-asbm.ht...
[7]『現代中国人民解放軍総覧』(アルゴノーツ社/2023年9月28日発行)229-233頁
[8] ArmyRecognition.com「DF-21C medium-range road-mobile ballistic missile DF-21D ASBM anti-ship ballistic missile」(2018 年 9 月 29 日)
[9]「战略打击模块-第二方队—东风-21D反舰弹道弹」(『兵工科技 2015年甦典藏版:1945-2015纪念中国人民抗日战争暨世界反法西斯战争胜利70周年大阅兵』兵工科技杂志社/79-83頁)
[10]「战略打击模块-第三方队—东风-26核常兼备导弹方队」(『兵工科技 2019年甦:中华人民共和国成立七十周年国庆大阅兵』兵工科技杂志社/132-133頁)
[11]S. Chandrashekar, R. N. Ganesh, C. R. Raghunath, Rajaram Nagappa, N.Ramani and Lalitha Sundaresan「China’s Anti-Ship Ballistic Missile: GameChanger in the Pacific Ocean」『National Institute of Advanced Studies』(2011年11月)http://isssp.in/wp-content/uploads/2013/01/2011-no...
[12]李燄「短时高温工作的透波隔热天线罩设计」(参考网/2018年2月5日)https://m.fx361.com/news/2018/0205/2839909.html
[13]河津幸英『図説 徹底検証アメリカ海軍の全貌-対中国作戦と新型軍艦』(アリアドネ企画/2016年5月10日)122-148頁参照
[14]凤凰网「解放军罕见曝光“鹰击-21”高超反舰导弹性能参数!还透露一个重要消息」(李岩/2023年2月3日)https://news.ifeng.com/c/8N8YKAR9ZfY
[15]捜狐「全程6倍音速、末段10倍!中国YJ-21型高超音速反舰导弹首次公开」(军武次位面/2023年2月1日)https://www.sohu.com/a/636126438_120542825
[16]山形大介「実戦配備進む中国の極超音速兵器」『軍事研究2022年月号別冊−現代の戦略攻撃兵器』(Japan Military Review)44〜51頁
[17]天鹰「游荡的守卫者--远程巡航飞弹在反介入战场的重要作用(上)」『舰载武器−军事评论』2024.03B/No.430 (中国船舶集团有限公司/31-36頁)
[18]山形大介「実戦配備進む中国の極超音速兵器-アメリカに先行する極超音速滑空体/対艦弾道ミサイルと空中発射弾道ミサイル」『軍事研究2022年7月号別冊「現代の戦略攻撃兵器」』(Japan Military Review/44-51頁)
[19]林富士夫「戦闘機開発から分析!中国空軍の近代化構想-戦闘機への資源配分を最優先!最終目標は日米航空戦力を駆逐」『軍事研究』2015年2月号(Japan Military Review/28-39頁)
[20]天鹰「更深的蓝—从战略需求看中国海军航母装备未来发展」『舰载武器』2024.03/No.429 (中国船舶集团有限公司/43-49頁)
[21]IISS「Intelligence leak reveals China’s successful test of a new hypersonic missile」(
Zuzanna Gwadera/2023年5月18日)https://www.iiss.org/online-analysis/online-analys...
[22]時事ドットコム「情報支援部隊が発足 習氏、現代化加速を指示―中国軍」(共同通信/2024年04月19日)https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041901283&g=...

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