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rglc85tj8h 2025年03月24日(月) 19:11:02履歴




OH-58D「カイオワ ウォーリア(Kiowa Warrior)」は、1985年からアメリカ陸軍が調達を開始した軽観測ヘリコプター[1]。
【開発経緯】
その技術的淵源は、1960年代中盤にアメリカ陸軍が公募した軽観測ヘリコプター(LOH)計画にベル社が提出したモデル206にまでさかのぼる[1]。モデル206はYOH-4Aの試作機名称が付与されたが、ヒューズ社(当時)のYOH-6Aに敗れて不採用に終わった。ベル社では、モデル206を民間用機に転用して、ベル206Aジェットレンジャーとして1966年に初飛行に成功[1]。
その後、ベル206Aは、1968年にアメリカ海軍の練習用ヘリコプターTH-57Aシーレンジャーとして採用され、翌1969年には、アメリカ陸軍の新たな観測ヘリコプターOH-58Aカイオワとして採用を決めた。OH-57Aは改良を施して、OH-58Cに発展し、そのOH-58Cの大規模改良型となったのがOH-58D「カイオワ ウォーリア」である[1]。
OH-58Dは、その敏捷性と機体の小ささを生かして前線に進出し敵から身を隠しつつ偵察、索敵、目標指示などの任務を行う。その際、ローター上部に取り付けられたメインローター装着式照準器(MSS)を活用して、機体を木陰や丘などに隠してホバリングを行い、MSSのみを突き出して目標捜索を行うことが可能[1][2]。これはOH-58Dの生残性改善に寄与する。OH-58Dが収集した目標情報は、AH-64「アパッチ」攻撃ヘリコプター部隊に伝えられ、AH-64 AGM-114「ヘルファイア」対戦車ミサイルによる遠距離攻撃を行うことで、敵の反撃のリスクを減らしながら目標を打撃することが可能となる[2]。OH-58DのMMSには目標指示機能も付与されているので、後方のAH-64が発射したヘルファイアミサイルや、砲兵部隊が発射した155mm誘導砲弾「カッパーヘッド」の誘導を行うこともできる[2]。
【性能】
OH-58Dは二人乗りの小型ヘリコプター。パイロットとコパイロットは並列座席に着座する。低空飛行を行う任務上、機首やコクピット周囲には電線や仕掛けワイヤーなどによる損傷や墜落防止のためのワイヤーカッターが複数設置されている。原型のベル206は胴体後部に座席を設けることが出来たが、OH-58Dでは各種アビオニクスの搭載スペースとなっているので搭乗はできない[2]。代わりに胴体側面のハードポイントに外装式輸送キットを装着して物資や乗員輸送に用いるオプションが用意されている[3]。貨物運搬用フックは、最大2000ポンド(約907kg)の貨物運搬能力を有している。負傷者の搬送では、固定式ストレッチャー に負傷者2名を搭乗させ、特殊部隊の空輸の場合は最大6名の兵員を空輸し得る[3]。輸送任務では320kg以上の物資を作戦半径185km以上空輸する能力を有している[3]。降着装置はスキッド式。
エンジンは出力485kWのロールスロイス(アリソン) T703-AD-700A 4ターボシャフトエンジン一基を搭載し、メインローターは複合材料製の四枚ブレード[1]。排気口は上向きに配置されており、ローターのダウンウォッシュにより排熱を拡散することで赤外線誘導ミサイルからの検知のリスクを減らしている。OH-58Dでは、メインローター上部にTV/レーザー/赤外線センサーを内蔵したメインローター装着式照準器(MSS)を取り付けており、外観上の識別点となっている[1]。ギアボックスの耐久性についても前型OH-58Cよりも向上しており出力を増加するとともに、被弾などにより潤滑油が完全に失われた場合でも30分間動作し続ける能力を備えており、生残性改善に資している[1]。
OH-58Dは、C-130輸送機による空中輸送が可能で、同機の貨物室に最大二機を格納して空輸できる[3]。空輸の際には、垂直尾翼のピボット部、メインローター、水平安定板は折りたたまれ、MSS、敵味方識別装置(IFF)、機首下部のワイヤーカッターは取り外され、スキッド高を抑えることで全高を低くする[1][3]。
【武装】
OH-58Dは偵察・観測・目標指示任務を主とするが、自らも武装して地上目標や空中目標との交戦を行う能力を有している[1][2][3]。小型機であることから機体への固定武装は無く、全ての武装は胴体両側面に装着するユニバーサルウエポンパイロン(UWP)に搭載される[5]。UWPは左右で交換可能な設計で、空輸時には折りたたむことができる[5]。UWPは各一箇所の兵装搭載ステーションがあり、機関銃を搭載したガンポッド(XM296ガンポッドは左側のみ搭載可能[5])、各種ミサイルランチャー、無誘導ロケットを収納したロケット発射機などで武装する。
【電子装備】
OH-58Dのコクピットは多機能表示装置および暗視装置対応型計器装備コクピットであり、コクピットには二枚の大型多機能表示装置×2基を設けている[1]。作戦機能、航法、通信、システム及び整備機能は完全に統合化され、各機器はMIL-STD-1553データパスで結ばれて制御される[3]。
前述の通り、OH-58Dはローター頂部にメインローター装着式照準器(MSS)を装備している。MMSは、高解像度テレビカメラ、航法システム、赤外線暗視装置、レーザー測遠/指示装置、および飛行中のセンサー調整を行う照準アセンブリを含む一連のセンサーにより構成されている[1][2]。レーザー測遠/指示装置は、自機の搭載兵器の誘導に用いるに留まらず、取得した目標諸元を攻撃ヘリコプター部隊や砲兵部隊などに送信する自動目標捕捉伝送システム(ATHS)を介して伝達・共有される[2]。攻撃ヘリ部隊や砲兵部隊はこれらの諸元を基に目標への攻撃を実施することする。それだけでなく、前線に展開中のOH-58D自身が、これらの部隊が発射した「ヘルファイア」対戦車ミサイルや、155mmレーザー誘導砲弾「カッパ―ヘッド」の目標指示/誘導を肩代わりして行うこともできる[2]。MMSは全天候性能を有しており、悪天候下においても戦場の画像や目標捕捉データを収集する優れた探知能力を有している[3][4]。ただし、高速回転による振動が常時発生するローター頂部に設置されている都合上、システム自体が常に振動に晒されるため、複雑な構造である同軸回転装置を使用し、メインローターの振動を相殺している[2]。しかしその配置位置に起因する空気抵抗の増大は如何ともしがたく、ローターの振動の影響を完全に排除することは不可能なため、システムの信頼性低下を招きやすく、稼働率を維持するためには綿密な整備と交換機器の円滑な供給が不可欠となる[2]。そのため、MMSは軍用ヘリコプターで広く用いられる主流のセンサーにはなれなかったとされる[2]。なお、OH-58Dでは、MMSのバックアップ装備としてコックピット右座席上部に簡便な昼間用光学照準器を装備している[2]。
台湾陸軍のOH-58Dは、生存性を高めるため、AN/ALQ-144 赤外線対抗装置、AN/APR-39(V)1 および AN/APR-44(V)3 レーダー警報受信機、AN/AVR-2A(V)1 レーザー探知装置を搭載しているが、米軍のOH-58Dに搭載されたAN/ALE-47 自己防御ディスペンサーを備えたAN/AAR-57 共通ミサイル警報システム)は装備されていない[2][4]。
総じて、OH-58Dは1980年代中頃の基準では、世界的に見ても最も電子的に進歩し、洗練され、完成度の高い軍用ヘリコプターであったと評価されている[2]。
【台湾陸軍におけるOH-58D】
台湾陸軍では、1991年8月に「陸鵬専案」の計画名称で陸軍航空隊の近代化に着手[5]。1992年2月には、12 機の OH-58D (オプションで14 機の追加購入権利付き) と、18 機のAH-1W「スーパーコブラ」の調達契約を締結[2][4][5]。その後、14機のオプション購入も行なわれ、合計26機のOH-58Dが1993年10月から調達を開始[5]。
1997年、台湾陸軍はさらに13機のOH-58Dの追加調達を要求し、1998年6月24日に契約締結[5]。この13機の OH-58D は台湾の漢翔航空工業股彬有限公司 (AIDC) によってノックダウン生産が行われ、その後ベル社に返送されて飛行試験が行われた[5]。AIDC は1999年11月9日の式典で最初のOH-58Dのロールアウトを行い、2001年までに全機納入された[5]。
2024年時点で台湾陸軍では37機のOH-58Dが就役中で、陸航601旅、602旅、そして飛行訓練部の三部隊に配備されている[6]。OH-58Dは陸軍航空隊のヘリコプター部隊において、AH-1W「スーパーコブラ」およびAH-64E攻撃ヘリコプター「アパッチ・ガーディアン」から編制される突撃ヘリコプター作戦隊(突擊直升機作戰隊)を支援する戦闘・捜索ヘリコプター作戦隊(戰搜直升機作戰隊)で、主に偵察・観測・目標指示任務を遂行する[8]。
【長期的な運用体制の構築について】
米軍では、2014年からOH-58Dとその改良型OH-58Fの退役が開始され、2017年には全機が現役を退いた[6][8]。台湾陸軍では今後もOH-58Dの運用を継続するため、2017年に15億1200万新台湾ドル以上の資金を費やして、亜洲航空公司に8年間のメンテナンス業務を委託した[6][8]。同社は2018年に部品供給問題を解決するため、4億9000万新台湾ドル以上を投じて12年分のスペアパーツを購入し、メーカーからの部品供給停止に備えた[6][8]。
しかし、陸軍航空隊のOH-58Dは、2018年から2020年の間に3回の墜落事故を起こす。特に3回目のハードランディング事故では第601旅団所属のパイロット2名が死亡し、外部からOH-58Dの実用性に対する疑問が提示されるに至った[6][[8]。2024年5月、台湾陸軍は亜洲航空公司との契約の期限切れが迫る中、新たなメンテナンス事業計画の入札を開始した。陸軍はOH-58Dの長期的な運用を可能とするため、同機の寿命延長措置を施すことも決めている[6][8]。
■性能緒元[1][2][3]
最大離陸重量 | 2,041kg |
全長 | 12.85m |
全幅 | 10.67m(ローター直径) |
全高 | 3.93m(MPHL折り畳み時は2.73m) |
エンジン | ロールスロイス(アリソン) T703-AD-700A 4ターボシャフトエンジン(485kW) ×1 |
最大速度 | 231km/h |
航続距離 | 556km |
実用上昇限度 | 4,875m |
武装 | XM296 12.7mm重機関銃ガンポッド×1(463発) |
AGM-114 「ヘルファイア」対戦車ミサイル×4 | |
BGM-71 TOW 対戦車ミサイル×4 | |
AIM-92 「スティンガー」赤外線誘導空対空ミサイル連装発射機(ATAS)×1 | |
M260 2.75in 7連装ロケット弾ポッド×2 | |
ハイドラ70 2.75in 空対地ロケット弾 | |
乗員 | 2名 |
【参考資料】
[1]青木謙知『戦闘機年鑑 2023-2024』(イカロス出版/2023年5月25日)255〜256ページ「OH-58D カイオワウォリア」
[2]MDC軍武狂人夢「OH-58D/F奇歐瓦斥候直昇機」http://mdc.idv.tw/mdc/army/OH58D.htm(2025年3月24日閲覧)
[3]Army Technology「OH-58D Kiowa Warrior Armed Reconnaissance Helicopter」(2000年6月11日)https://www.army-technology.com/projects/kiowa/?cf... (2025年3月24日閲覧)
[4]The Aviationist「The Role of Taiwanese OH-58D Kiowa Warrior Scout Helicopters in a War Against China」(Parth Satam/2024年6月24日)https://theaviationist.com/2024/06/27/the-role-of-... (2025年3月245日閲覧)
[5]TaiwanAirPower.org「Bell Textron Canada TH-67A Creek」https://taiwanairpower.org/army/th67a.html (2025年3月24日閲覧)
[6]自由時報電子報「顧OH-58D直升機命脈 陸軍19.18億續維陸航「奇奧瓦戰士」8年後勤」(陳治程/2024年7月10日)https://def.ltn.com.tw/article/breakingnews/473231... (2025年3月24日閲覧)
[7]自由時報電子報「神出鬼沒!OH-58D戰搜直升機作戰隊成軍」(羅添斌/2018年1月7日)https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews... (2025年3月24日閲覧)
[8]自由時報電子報「8年後勤商維將屆 陸軍斥資20.85億招商為OH-58D直升機續命」(陳治程/2024年5月4日)https://def.ltn.com.tw/article/breakingnews/466354... (2025年3月24日閲覧)
67 Creek」https://www.navair.navy.mil/product/UH-72-Lakota-T... (2025年3月23日閲覧)
台湾陸軍