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Y-9は、老朽化したY-8輸送機を代替する目的で開発された戦術輸送機[1][2]。開発中止となったY-8F-600から発展したモデルで、当初はY-8Xと呼ばれていた[1]。2005年9月に北京で開催された国際航空博覧会においてY-9という新しい開発名称が公開された[1]。NATOコードネームは「Claw」[5]。2022年に中国航空工業集団有限公司(Aviation Industry Corporation of China:AVIC)が自社の航空機に公式愛称を命名し、Y-9は「麒鹏」と命名されている[15]。

Y-9の開発では、ウクライナのアントノフ社が技術的支援を行っていると見られていた[1]。しかし、漢和防務評論の取材によると、アントノフはY-9については直接的な技術協力は行っていないとの事[3]。アントノフは以前、Y-8F-600の開発において陝西飛機航空集団公司に対して技術支援を実施しており、大型輸送機開発に必要な風洞建設にも協力している[3]。漢和ではそこで得られた技術的成果がY-9の開発に生かされたと見ている[3]。

Y-9は中国軍以外では、ミャンマー空軍(1機)とナミビア空軍(2機)で採用されている[11][12](資料[12]だとY-9の初輸出はナミビアだとされている。)。

【性能】
Y-9の機体形状やサイズは、ベースとなったY-8F-600と大きな変化は無い。ただし、実際に試験飛行を行ったY-9は、水平尾翼に模型には無かった垂直安定板を追加しており、これによって低速飛行時の安定性が改善された[4][5]。垂直安定板の採用は、Y-8-F600をベースに開発されたKJ-200早期警戒機(空警200/高新5号)試作機の墜落事故の教訓として安定性改善のために追加されたもので、Y-9においてもこれが踏襲されている。これにより、Y-9は悪天候など複雑な条件下での飛行安定性が向上している[13]。また、Y-9を基に開発される(機外に各種装備を搭載するため安定性改善のための措置が必要となる)特殊任務機と機体構造を共通化させる狙いがあるものと想定される。

Y-8は複合材の使用範囲が少なく、アメリカのC-130輸送機と比べて自重が重く、その分だけアビオニクスの搭載量が制約されていた。Y-8-F600では、軽量化と構造強化のため複合材の使用率を増やしていたが、Y-9ではそれをさらに進めて複合材使用率を15%にまで拡大した[13]。同時に、機体設計の見直しで構造の軽量化と強度確保を図り、チタン合金や薄型アルミ合金などの新技術を積極的に導入したことで、機体強度を12%向上させつつ、構造重量の3t軽量化を達成した[13]。これによりY-9のペイロードは20tを超えるようになり、機体の運用寿命はY-8の2.5倍になる45,000時間に達し45年間の運用期間が確保された[13]。(参考までに米C-130Jは運用時間60,000時間、運用期間50年に達している[13]。)

Y-9の最大離陸重量はY-8F600と同じ65tだが、過積載状態での離陸可能重量は67t近くに達している[13]。燃料満載状態でのペイロードは、古いタイプのY-8が3tに過ぎなかったものを8tにまで増やしており、輸送機としての実用性が大きく向上している[13]。Y-9は貨物室の容積が拡大され、貨物搭載にあたってY-8よりも搭載可能な貨物の種類が増えており、運用の柔軟性向上に資している[3]。貨物室は長さ16.2m、幅3.2m、高さ2.35mでペイロードは25t、過負荷状態で30t[11]。最大132名の空挺兵の搭乗が可能[1]。胴体後部はローディングランプになっており、Y-8よりも迅速に貨物の出し入れを行う能力を有している[1][2]。

Y-9の最高速度は650km/h、巡航速度は550km/h、実用上昇限度は11,000m[5]。航続距離はフェリー5,000km[5]、最大ペイロードで1,000km[3]。

航空機の性能改善に直結するのがエンジン性能の向上である。Y-8F-600が米国プラット&ポイットニー社の子会社であるプラット&ポイットニー カナダ社製のPW150Bターボプロップエンジン(5071ehp[6])を搭載しているのに対して、Y-9は中国国産のWJ-6Cに変更されている[5]。これはY-8のWJ-6、WJ-6Aのさらなる改良型。プラット&ポイットニー カナダ社製エンジンの場合、軍用機への搭載はアメリカ政府の輸出停止措置を受ける可能性があるが、国産エンジンであればその懸念はなく、輸出に際してもアメリカの影響を受けない利点がある。WJ-6Cは新技術の採用によりエンジンの寸法・重量を増やすことなく性能向上が図られており、最大出力はWJ-6Aの3,300kW(4,500馬力)から4,200kW(5,700馬力)と高出力化が達成されている[13]。燃焼室の設計見直し、タービンブレードの効率化と冷却技術の改良によりエンジン寿命と整備間隔を延伸しつつ、燃費の改善と運用コストの低減を両立した。エンジン制御は完全デジタル化され、制御が精密かつ操作性を簡易化することに成功。

プロペラは複合素材製のJL-4型6翔プロペラ[5]。エンジンの出力向上と効率のよい複合材性6枚プロペラの組み合わせにより,Y-8のWJ-6+金属製4枚プロペラと比較して20%の推力増強が達成され[13]、Y-8と比較すると、高高度飛行性能を改善し、過酷な環境である高原地帯や高温地域での性能の低下を抑えることに成功[5]。これにより、Y-9はチベットや新疆といった高地が多い地域で支障なく活動できるようになった[13]。

複合材性6枚プロペラは、重量軽減と飛行性能改善を達成しつつ、Y-8で問題となっていた振動と騒音についても15〜35%の低減に成功した。振動と騒音の軽減は、大量の精密機器を搭載し、長時間の飛行任務をこなす早期警戒管制機にとって、アビオニクスと乗員双方に良い影響をもたらし、特に乗員の疲労軽減と任務に集中できる環境作りに大きく寄与したとのこと[13]。発電能力についても、新型の35kW発電機を四つ搭載したことで、100kWを超える発電能力が確保され、以前のタイプと比較して発電能力が60%近く向上している[13]。

Y-9では航続距離の延伸も重要な課題の一つであった。機体重量を増やさず、機体構造や寸法に大きな影響を与えることなく燃料搭載量を増やすため、Y-8のソフト燃料タンクを、主翼構造と一体化したインテグラルタンクに変更[13]。これにより、燃料搭載量は2.5t増え、エンジンの燃費改善と相まって、Y-9の軽荷状態での最大航続距離は7,000km、連続滞空時間は14時間を超える性能が確保[13]。なお、貨物20t搭載時の航続距離は3,000km、10tでは5,000kmとなっている[13]。

Y-9では主翼の基本構造はY-8F600の物を踏襲しつつ、設計に手を加えて空気抵抗の低減を図ったことで、空気力学的な効率を10%近く改善したとされる。操縦性と離着陸性能改善のため、フラップとエルロンを大型化することで、低速性能と操縦性が大きく向上している[13]。

主翼設計で重要なのは、KJ-200試作機で発生した墜落事故の原因となった、主翼の着氷問題の解決策も講じられた点である[13]。Y-8には電気加熱式融氷装置が装備されていたが、これは、結氷を防ぐため事前に作動させておくことはできず、凍結後に搭乗員が手動で起動するしかないという問題があった。加えて、この装置では主翼の60%しかカバーしておらず、翼端部分の凍結には対処できなかった[13]。Y-9では、主翼と尾翼の前縁部に高効率の炭素繊維加熱膜を装着。これは軽量で機体重量を軽減しつつ、主翼の9割をカバーしており、3mmの氷層を20秒以下で解凍する能力を有している[13]。凍結検知器の採用により、パイロットは翼の氷層発生を即座に検知可能となった。氷層の厚みが0.5mmを超えると告知が行われ、2mmを超えると自動で解凍作業が開始され、3mmを超えると警報が作動し、当該空域からの離脱を要請する[13]。この解凍システムにより、Y-9は真の全天候性能を手に入れたと評価された[13]。

【アビオニクス・操縦システム】
Y-9の固有の乗員は4名。コクピットはグラス化されており、6枚のカラーMDFと電子飛行計器システムを備えている[5]。Y-9は全天候性能を可能とするため、先進的な通信・航法システム、レーダー、光学/赤外線監視装置、対地接近警告装置、衝突回避システムを備えている[5]。機首と尾部に気象レーダーや各種アビオニクスを収納するレドームを配置、機首レドーム下部には光学/赤外線センサーを搭載したターレットを装備している[5]。後部胴体下部には自己防衛用にチャフ/フレアランチャーが装備されている[5]。2025年3月に公開された写真によると、少なくとも1機のY-9が主翼直後の機体上部に衛星通信アンテナを内蔵したフェアリングを追加する改修を受けていることが明らかになっている[5]。

制御系統は、機械式とデジタル式の併用であり、機械式操縦系統にはパワーアシスト機能が付与され、操縦性の改善が図られている[13]。グラスコクピットと赤外線暗視装置により、Y-9は全天候性能をさらに高めており、パイロットの長時間飛行における負担が大幅に軽減されている[13]。

【Y-9の立ち位置について】
Y-9は、Y-8をベースに開発された機体であり、Y-8用の整備インフラを使用することが出来るため導入に掛かる新規費用を節約する事が出来た。設計の合理化により、機体の維持や整備に掛かるコストが低減されており、機体寿命も延長されている。しかしPW150Bを装備したY-8F-600と比べて、Y-9は搭載燃料を5t増やしているにもかかわらず、最大ペイロードでの航続距離はY-8F-600の半分に過ぎない[3]。WJ-6Cエンジンは出力こそPW150Bと同等だが、燃費の面ではかなりの差をつけられていると見られる。性能面での問題は存在するが、エンジンをはじめとして国産コンポーネントを幅広く使用する事で、生産コストを抑え自給率を高める事が目指されたとされている[2]。

Y-9は、アメリカのC-130J輸送機と同等の性能を目指したとされる[1]。特に、貨物室の容積拡大は、C-130Jを念頭に置いたものと見られている[3]。ただし、最大ペイロードや貨物室容積以外の性能では、まだ遜色があることは否めない。特に戦術輸送機として重要な短距離離陸性能では、Y-9の場合1,350mを必要とするのに対しC-130Jは953mと大きな差をつけられている[3]。

【開発の長期化と配備開始後の状況】
Y-9は2007年の実用化を目指していたが、開発は順調には進まず、2007年には一旦停止状態となった[5]。陝西飛機工業公司は、Y-9の開発と前後してY-8Cやその派生型(高進シリーズ)の開発、そして次期大形輸送機(Y-20)の開発に着手しており、開発陣、資金、機体製造設備等の開発リソースの限界に達していた事もY-9の開発の一時中断をもたらした要因であると見られる[5][7]。

2008年末から改めて開発が再開されたが[5]、2010年1月時点では中国空軍や外国ユーザーによる発注を得るには至っておらず、開発作業は再び停止状態となった。開発計画に通じた情報筋によると、発注が得られれば2010年の年末から2011年にかけてY-9試作機の初飛行を実施することが可能であるとしているが、実際に試作機の製造に着手できるか否かは、発注の有無に掛かっているとされた[7]。その後、最終的に開発再開が決定された模様で、2012年にはY-9試作機の飛行シーンが撮影されるに至った[4]。(初飛行は2010年11月5日に実施されたとの情報も[5])。2012年には、中国空軍での運用が開始され、2025年までに50機以上が生産されている[13]。2016年12月24日には、陸軍航空隊でもY-9の引渡しが開始され、2020年からは海軍航空隊向けのY-9Hの存在も確認されている[5][10]。

Y-9は輸送機として使用されるだけでなく、同機をベースとした特殊任務機開発が積極的に進められている。この点から、Y-9は輸送機としてよりもむしろY-8に替わる特殊任務機のベースとしての位置付けのほうが大きいとの分析もなされている[5]。
【Y-9派生型】[5][8]
Y-9輸送機型。2010年初飛行。2012年から中国空軍への配備開始
Y-9H海軍航空隊で運用される輸送機型。2020年以降に確認されている[5]
Y-9E輸出型。ミャンマーとナミビアで採用
Y-9JBELINT(電子情報収集)型。中国空軍で2機の運用が確認されている
KJ-500早期警戒管制型。AESAレーダーを搭載した円盤型レドームを装備。中国空軍と海軍航空隊が配備
Y-9G特殊任務機としてはGX-11(高進11型)の名称もあり。EW(電子戦任務)型
Y-9FQ対潜哨戒機。2023年から配備開始
Y-9LG電子妨害/電子偵察機。2022年から配備開始
Y-9Z総合電子戦機と称される多用途EW電(電子戦任務)型。当初はY-9DZの名称で呼ばれた[11]。2017年には初確認、2022年頃から運用開始
KJ-7002023年に海軍航空隊への配備が確認された機体。早期警戒管制もしくは監視任務機、双方を兼ねた多用途機などの可能性が指摘されている

2014年10月に開催された珠海航空ショーでは、Y-9の後継と目される次世代中型輸送機Y-30(Y-15の名称も)の存在が公開されている[5][14]。Y-30/Y-15は2025年12月に初飛行が報じられたが、実用化には相応の時間を要すると見られるので、それまでのストップギャップとしてY-9の量産も当面は続くであろう。

性能緒元
重量65t(最大離陸重量)/67t(過積載状態)
全長36m
翼幅40m
全高11.3m
エンジン哈爾浜 渦奬6C/FWJ-6Cターボプロップエンジン(4,200kW/5,700馬力)×4
最大速度650km/h
巡航速度550km/h
航続距離1,000km(ペイロード20t)/2,200km(ペイロード15t)/5,000km(フェリー[5]、[3]だと7,800km)
上昇限度10,100m
離着陸距離共に1,350m
ペイロード25t
乗員4名+106名

▼飛行試験中のY-9

▼Y-9三面図と貨物室のサイズ


【参考資料】
[1]Chinese Defence Today「Yun-9 Multipurpose Transport Aircraft」
http://www.sinodefence.com/airforce/airlift/y9.asp
[2]Kojii.net「今週の軍事関連ニュース (2005/12/23)〜完全中華輸送機」(元ソースはJDW, 2005/12/14付けの記事)
[3]Y・Sidov著、平可夫改稿「Y9運輸機研製完成?」(『漢和防務評論』2013年1月号)22〜23ページ
[4]China Defense Blog「Could this be the first Y-9 in-flight photo」(2012年5月14日)
http://china-defense.blogspot.jp/2012/03/could-thi...
[5]Chinese Military Aviation「Y-9/9H/E Claw」
https://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/t...
[6]プラット&ホイットニー カナダ公式サイト「PW150A」
http://www.pwc.ca/en/engines/pw150a
[7]Flightglobal「Shaanxi's Y9 still waiting on Chinese military to commit」(2010年1月29日)
http://www.flightglobal.com/news/articles/shaanxis...
[8]AIR Recognition.com「Focus - New Chinese EW/ECM Aircraft GX-11 / Y-9G」(2015年1月5日)
http://www.airrecognition.com/index.php?option=com...
[9]「中国空降兵的装備重型化」(『漢和防務評論』2017年4月号)31ページ
[10]空軍世界「运−9运输机交付陆军,载力仍非理想」(2016年12月24日)http://www.airforceworld.com/a/20161224/3258.html
[11]Military-Today.com「Shaanxi Y-9 Tactical Transport Aircraft」http://www.military-today.com/aircraft/y9.htm
[12]Military Watch Magazine「China Makes First Foreign Delivery of Y-9 Medium Transports」(Military Watch Magazine Editorial Staff/2024年12月28日)https://militarywatchmagazine.com/article/china-fi...
[13]银河「王者归来—从“新大预”的出现看中国预警机的发展与技术选代(中部)」『舰载武器』2025.12/No.471(中国船舶集团有限公司)16〜31ページ
[14]Chinese Military Aviation「Y-15」
https://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/t...
[15]知乎「现役军机“花名”大全官宣:歼-11叫做应龙、轰-6也不全都叫做战神」(墨刃/2022年7月3日)https://zhuanlan.zhihu.com/p/536817215

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