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Z-20J輸送ヘリコプター(直昇20J)は、Z-20F対潜哨戒ヘリコプター(直昇20F)と並行して開発が進められている海軍向けの中型輸送ヘリコプター[1]。Z-20Fと同じく、陸軍航空隊向けのZ-20輸送ヘリコプターをベースとして、海軍での運用を想定した設計を施した機体であり、Z-20FとZ-20Jは基本構造の多くが共通しており、その上で任務に応じた装備が盛り込まれている[1][2][3]。

【機体構造】
Z-20JとZ-20Fは基本的設計では陸軍航空隊向けのZ-20を踏襲している部分が多いが、艦載化に伴う変更箇所が多々見られる。

艦載化に当たって、陸上基地より面積の制約の大きい艦艇での運用に適合させるため、メインローターとテイルローターにそれぞれ折り畳み機構が追加された[2][3]。折り畳み機構は電動化されており、30〜40秒と短時間での展開・収納が可能[3]。

テイルブーム自体も左側に折りたたんで全長を短縮する機能が付与され、それに合わせ、Z-20ではテイルブーム後端に配置されていた尾輪が、テイルブーム直前の胴体下部中央に配置換えされた[2][3]。これは艦載化に当たってテイルブームを左側に折りたたんで駐機中の機体長を節約するための措置で、原型のSH-60の配置を取り入れたものであった。メインローターとテイルブームを折りたたんだ状態のZ-20F/Jの全長は12.5mと、小型機であるZ-9C/Dの全長11.5mと大差ないサイズとなり、折り畳み機構の効果の高さを実証するものとなっている[2]。水平尾翼についてもZ-20F/Jでは折りたたむ際の干渉を防ぐため、後縁の中央部に凹みを付けた形が採用された[3]。尾輪配置を変更したのは艦艇で運用する上でもう一つのメリットが存在した。尾輪を前進させたことにより、主脚と尾輪の間の長さは原型のZ-20の約半分となる5.5mにまで減少[2]。これは限られた面積のヘリコプター甲板に着艦する上で無視できない利点。テイルブームの設計も見直されており、全長が短縮されると共に胴体とのつなぎ目の段差もZ-20よりなだらかにされている[2][3]。

洋上運用を前提とするZ-20Fでは、緊急時の不時着水を考慮する必要があり、着水時の水没を遅らせるため胴体下部の四箇所にエアバックを内蔵し、必要な際にはそれを展開して浮力の確保を図る[3]。テイルブーム基部下面には事故の際に用いるビーコンを搭載しており、緊急時には無線信号を発信して救助を要請する[3]。胴体下部には、艦艇への着艦を想定して、新型の着艦拘束装置を内蔵している[2]。これは艦載運用を前提とするZ-20FとZ-20Jの共通装備となっている。

【エンジン】
Z-20F/Z-20Jのエンジンについての情報は乏しく、搭載エンジンの型式名など詳細は不明。艦載ヘリコプターとして運用されることを想定するのであれば、洋上での使用を前提とした防錆・防塩対策の導入。装備増加に対応した出力強化、長距離飛行を前提としたエンジンの信頼性改善などの措置が盛り込まれると考えられる[3]。

【Z-20JとZ-20Fの相違点】
Z-20JとZ-20Fは、Z-20をベースとした艦載ヘリコプターという点では共通しているが、輸送と対潜哨戒という任務の相違から、異なる箇所も少なくない。以下では主な相違点について記述する。

外観上の識別点としては、Z-20Fが搭載していたコクピット直下の大型レドームが無くなっている点が先ず挙げられる[3]。Z-20Fでは機首レドーム直前に光学電子センサーを内蔵した丸形ターレットを配していたが、これも無くなっており、Z-20Jでは小型の丸型ターレットが機首レドームの下部に装着されている[3]。その他、対潜作戦に関わらないアビオニクスについてはZ-20Fとの共通点が多いので、本項では省略する。

対潜哨戒任務につくZ-20Fでは胴体側面ドアは胴体右側のみとされ、サイズも小型化されたが、物資や人員輸送を主任務とするZ-20Jでは機体両側面に大型スライドドアを配する陸軍航空隊向けZ-20と同じ設計が踏襲された[3]。Z-20を参照すると、Z-20Jも最大16名の兵員を搭載できるものと考えられる[3]。Z-20Fでは胴体左側面にソノブイ収納区画があるが、こちらもZ-20Jでは存在せず、胴体下部の吊下式ソナーについてもZ-20Jでは搭載されていない[3]。Z-20Fでは胴体後部に魚雷搭載用パイロンを設けていたが、これもZ-20Jでは存在せず、前部胴体に着脱式で装着する短翼のみがZ-20FとZ-20Jで共通する兵装ステーションとして残された[3]。

【兵装】
Z-20Jは、艦艇での物資輸送や人員の空輸といった輸送任務と、海軍陸戦隊の兵員を登場させて着上陸作戦における空中強襲任務に従事することが想定されている[2]。そのため、空中強襲作戦に際して相応の地上攻撃能力が付与されている。

Z-20Jは、前述の通り胴体前部に装着可能な短翼に各一基ある四連装ランチャーに各種ミサイルやロケット弾ポッド、機関砲ポッドといった兵装を搭載可能[3]。ネットで紹介された写真では、AKD-10もしくはAKD-9と見られる空対地ミサイル八発を搭載した状態のZ-20Jが映っていた[1][2]。AKD-10はZ-10攻撃ヘリコプター用に開発された対戦車用の空対地ミサイルで最大射程は7km。AKD-9はAKD-10の派生型でありZ-10より小型のZ-19攻撃ヘリコプターへの搭載を想定して小型軽量化を図ったもの。

Z-20Jは着上陸作戦における空中強襲任務において、兵員輸送と合わせてこれらの兵装を用いて火力支援任務も遂行することになる[2]。

【今後の見通し】
Z-20Jは2023年6月現在で4機の試作機の製造が確認されており、075型強襲揚陸艦(ユーシェン型/玉神型)055型駆逐艦(レンハイ型)といった艦艇を用いての運用試験が行われている[1]。

Z-20Jは、その搭載能力と多用途任務を遂行できるポテンシャルを生かして、海軍で必要とされる様々な任務に対応する多用途艦載ヘリコプターとして配備が進むものと考えられており、これは米海軍がMH-60S艦載ヘリコプターに想定している任務に近いものとなるだろうと指摘されている[2]。

平時においては、物資輸送、人員輸送、領海警備任務、哨戒任務、災害時の救難支援活動といった任務が想定される[2]。戦時においては、物資・兵員輸送に留まらず、揚陸作戦における空中強襲作戦に従事したり、搭載兵装を活用した攻撃任務、特殊部隊を用いた各種作戦と、こちらにおいても様々な活用が想定されている[2]。

Z-20Jは、Z-20Fよりも大量生産される可能性が高く、それゆえに各種センサーが簡素化され調達コストの低減が図られていると観測されている[2]。この観測が正しければ、Z-20Jは今後長年にわたって中国海軍の輸送ヘリ部隊の中核的存在となることを意味しており、今後の展開が注目される。

【参考資料】
[1]Chinese Military Aviation「Z-20F/J」http://chinese-military-aviation.blogspot.com/p/he...
[2]银河「鹏翼万里-进入20时代的中国海军舰载直升机」『舰载武器』2020.04/No.335(中国船舶重工集团有限公司)16〜33頁
[3]天一 (製図)「鹏翼万里-进入20时代的中国海军舰载直升机图示」『舰载武器』2020.04/No.335(中国船舶重工集团有限公司)5〜8頁

【関連事項】
S-70C-2汎用ヘリコプター(中国)
Z-20F対潜哨戒ヘリコプター(直昇20F)
Z-20輸送ヘリコプター(直昇20/神雕-20)(陸軍)
Z-20K輸送ヘリコプター(直昇20K)(空軍)
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