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第三十三景 悪童 (あくどう)

あらすじ

七日ぶりに掛川に帰還した牛股は、竹竿を打ち付けられた門の前で全てを悟った。かじきを地面に落とし、竹竿を両手で握る牛股。青竹の堅さは人骨とほぼ同じであるが、まるで藁のごとくひしゃげた。師虎眼はもうこの世にいない。牛股の嗚咽は、人間の声からは程遠いものであった。閉門中の出入りは厳禁、門下生なき道場は寂として声無く、三百石から七十石に減棒された岩本家に居残った奉行人は数名のみ。当主の血痕が残る縁側には、何事かを秘めた美しき三重。虎眼の死に際し乱心していた士道不覚悟により、蟄居を命じられた源之助は、兄弟子の慟哭を耳にすると虎眼の死後初めて涙を流した。

十数年前、掛川領粟本村。この村の子供たちが最も恐れていたのは、藤木源之介である。悪童の口癖はこの百姓めら。この源之介の父、右京太夫は元は千石の家老職だったが、ある時勤め方不行き届きとして、領地没収のうえ家老職を解かれ、五十石の捨て扶持を再配され粟本村への逼塞を命じられた。悪童はこの鬱憤を農民の子にぶつけていたと見て間違いない。たえは柿を取ってこいと命令され、尻に小枝を刺されるなどひどい目に合わされた。しかし農民の子は士の子に平身低頭して許しを請うよりほかない。粟本村にはもう一人、源之助という童がいた。この源之助は、笑うなどの感情を表さないので、親は愚鈍の子と思い、兄たちに劣る食事を与えていた。この源之助は悪童の格好の標的となった。士に会えば頭を下げるが、許しを請うといったへつらいが見当たらない。それが悪童をいらだたせた。この日悪童源之介は、もう一人の源之助に馬糞を詰めると柔を用いて二十数回失神させた。動かなくなると悪童はその場に放置し立ち去った。源之助が目覚めた時すでに夜、自分の勤めとして山菜を籠に戻し、帰路についた。霧の中で虎の幻影に会い、農民の子を家に戻さなかった。その行き先は、、、
翌朝、石垣に頭を打ち付けられて、悪童源之介が事切れていた。この日三次という丁稚が、ずた袋を振り回す童の姿を目撃しているが、それが人間であったと知ったのは後のこと。それを見たとき母むぎは頓狂の呻きを発した。愚鈍の子が持ち帰ったものは、頭皮と思しき肉片のついた士の髷であったからだ。何も答えぬ愚鈍の子を父孫兵衛は吊し上げた。士の一族に無礼討ちされるのを免れたい一心である。そこに藩庁の役人と思わしき人影。これが藤木右京太夫が一子をし果たした童かと役人。父と母は恐怖のあまり震えるばかり。役人が縄を見事切断して源之助を抱くと、この童いらぬなら貰うぞと連れ去った。
掛川藩武芸師範、岩本虎眼は悪童源之介の死を事故として処理させ、跡目なき藤木家に金子を与えて養子縁組を承知させた。その養子は愚鈍源之助、そうしておいて岩本家に迎え入れたのである。一礼する源之助に笑顔の虎眼、貧農の三男が藤木源之助という士に生まれ変わった。

源之助は過去を思い出し、虎眼先生と涙した。
舞台
岩本虎眼屋敷?粟本村?
道具
竹竿??漬物石?馬糞?山菜?石垣?ずた袋??日本刀?金子?
主要単語
閉門、門下生、奉行人、士道不覚悟、蟄居、慟哭、侍、家老職、藩主、知行地、支配村、年貢、捨て扶持、逼塞、
悪童、柔、事切れ、丁稚、無礼討ち、役人、武芸師範、養子縁組
詳細

掲載ページコマ文字
チャンピオンRED 2006年6月号
単行本7巻
36ページ126コマ文字

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最終15巻

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